第24話 マヤ語り。 その2
なんという幸福な日々だろう……私、マヤは幸せの絶頂に居た。
『セカンドアース』の中でユウを見つけてから一週間が経った。
最初の内はユウも慣れず、おっかなびっくりという感じだったけど、すぐにゲーム世界に慣れたようだった。
何処にでも馴染めるのはユウの長所だ。出会ったその日に誰とでも仲良くなっている。
そのせいで小学生の頃からお持ち帰りされそうになっていた訳でもあるのだけど。
とりあえず見つけたその日ログアウトした私はその足でユウの両親に無事である事を告げた。
とりあえず安堵し、『セカンドアース』の運営や警察に相談して現実世界での対処を行うと言っていた。
ユウがログアウト不能な事は伝えたけど、デスゲームであるかどうかはあえて伏せた。やっと見つかったユウの事で、不確かな情報の現状でこれ以上心配をかけるのも悪い。
本来はシステム上ログアウト出来ないからゲーム内で死んだら本当に死ぬとかありえない訳だし。
でもユウの痛がり方はリアルだったし、もし死ななかったとしても本当に死ぬのと同じ痛みを受けるのだとしたら、人はそんな事に耐えられるのかもわからない。
大丈夫かもしれないけど、最悪の想定をして動いた方が良い。
そう思っていた翌日、クズがユウにちょっかいをかけていた。
初日の変態騎士とは違い、正真正銘のクズ、クズオブクズ、底辺中の底辺、『セカンドアース』に居るはずのない程のドクズが。
ユウは可愛くて可愛くて、しかも『セカンドアース』内では更に可愛くて、いやでも現実のユウも可愛さでは負けてないけど、でも可愛いの方向性が少し違う。
『セカンドアース』のユウがお姫様のように可愛いのなら、現実の優は王子様のように可愛い。
しかもどちらのユウも性格まで可愛い。食べてしまいたい。
話がズレてしまった。そんな可愛い可愛いユウが誰かに狙われてしまうのは昔からよくあり、ある意味仕方ない事かもしれないが、そんなクズに狙われ、あまつさえ実害を被る所だった。
何かの間違いで本当にユウが死んでいたのかもしれないのに。
許せる訳がない。
『ログアウト出来ないプレイヤー』についての確認のメールと同時に、運営にクズの処罰についてのメールを送った。
平行して各種『セカンドアース』の掲示板にクズプレイヤーにつていの情報、SS、動画を貼り付け、煽り、個人情報を調べ、炎上させた。
結果クズは『セカンドアース』でも現実でもしっかり罰を与える事が出来た。
少なくとも二度と『セカンドアース』に関わる事が出来ないクズ共がユウに危害を加える可能性は無くなった。
テストサーバー時代から、ゲーム内で悪意あるプレイヤーに厳格な対応をしていた『セカンドアース』運営はプレイヤーの多くから信頼を得ている。
今回の件も賞賛の意見の方が圧倒的だ。私が掲示板でそう誘導した節もあるけど。でもそれだけじゃないと思う。
なにせ『セカンドアースに舞い降りた白き薔薇の巫女姫を襲った不埒な悪漢』である。
多くのプレイヤーが一丸となってクズを叩きのめしていた。
ちなみに『白き薔薇の巫女姫』はどうやらあの変態騎士が広めたっぽい。……まぁいいけど。
そんなこんなで一週間、勿論ユウの方も何もしてない訳ではない。むしろがんばっていた。
最初に約束したように、現実世界に帰る為の情報収集と、死なない為のレベルと熟練度上げ。
おかげで私はユウのレベル上げの間ずっと毎日朝から晩までユウを視姦し続ける事が出来るのだ。
必死で戦うユウ、真剣な顔のユウ、運動し紅潮した肌のユウ、反撃を受け苦痛に歪むユウ、切羽詰まった声で私に助けを求めるユウ、見てるだけの私に絶望した顔をするユウ、なんとか勝利して汗をぬぐうユウ、治癒を唱えて一息つくユウ。
こんなにじっくりたっぷりしっとりねっとりユウを視姦できたのは何時ぶりだろう?
しかも現実世界ではあまり見る事ができない色々なユウの表情を。
中学に入った頃からユウは自分の時間を持ちたがるようになっていたし。
ユウが居なくなった時は神様を呪ったけど、こんな幸せな日々が始まるなんて、神様ありがとう! ありがとう神様っ!!
そんな夢の日々はすぐに終わりを告げた。
「あ、マヤっち、やあっと見つけたわぁ!」
そう言って、冒険者ギルドで私に近づいてきた2人の女性。それは新手の勧誘ではなく見知った顔だった。
同じクランに所属する斥候のルルイエと弓手のノワール。
彼女たちの用件はすぐ察しが付いた。
クランでのパーティ狩りの誘いだ。
それは当然の事だ。この一週間、私はずっとユウと一緒に過ごしていたのだから。
当然クランリーダーには休む旨は伝えてはあるが、それでクランの狩りが滞るのもわかっていた。
基本的に攻撃職の多いクランで、メインタンクである私が抜ける事は戦線の維持に致命的である事はわかっている。
わかっていたけどついついユウとの時間を優先してしまっていた。
クランにはずっとお世話になっているし、何よりメンバーの皆がいい人ばかりで居心地のよい場所だった。
だから迷惑をかけている事は申し訳なかった。
なんとかユウに狩りお休みの日を作って貰い、その日にクラン狩りに参加する方向でどうにか調整しようか、そう思った矢先、突然それが目に入った。
純白のローブに純白のフード、フードを目深に被っているから顔は見えないけど、耳がぴくぴく動いている。
結構レアな筈のユウと同じ装備で背格好も同じ、でも耳が動いてる辺り獣人の子供だろうか?と思った時、その人物が口を開いた。
「……マヤ」
聞き間違える筈のない声。
間違いなくユウの声。
一体いつから居たのか? 私達の話を聞いていたのか? どこまで聞いていたのか?
ユウの性格はわかってる、こういう時どういう事を考えるかも。
どうしよう、どうしよう……
考えがまとまらなかった、なんとかちゃんと説明しないと。
「ん?君が噂の初心者君?」
でもその前にルルイエが動き出していた。
彼女にとってはユウが現状の原因なのだから例えこれからも暫くクラン狩りに参加出来ないのだとしても、ちゃんと言っておきたかったのだろう。
でも今はタイミングが悪すぎる。
私をクラン狩りに連れて行きたいというルルイエの言葉を聞いたユウの返事は想像した通りだった。
「僕も、マヤが自分のゲームを楽しんで欲しい。」
「この一週間マヤが教えてくれたお陰でレベルも上がったから、暫くは一人でがんばってみようと思う。」
ユウは何を言ってるんだろう? 想像した通りの言葉なのに、耳に入ってこない。
そんな別れの言葉みたいなのは聞きたくない。
なんとか理解して言葉にしようと思って必死に口を開こうとした時、私の幸福は私とのパーティを脱退し、飛び出して行ってしまった。
呆然とそれを見送った私を、何故かノワールが慰めてくれた。
ルルイエは何かを察したのかばつの悪そうな顔で謝ってくれた。
別に彼女たちが悪い訳ではないのに。悪いのは私なのに。
でも、2人のせいでユウは又居なくなってしまった。
結局クラン狩りに参加して、古寺院を探索した。
でもいつものように動けなくて、酷い有様だった。集中出来ず、皆に迷惑をかけて、ユウにも見捨てられて、私はどうしたらいいのか……。
気持ちが限界になった時、コテツさんに頭を叩かれた。
「ユウなら大丈夫だから、マヤもちょっと落ち着け。そんで次にユウに逢うまでに更に成長してユウを驚かせてやろうぜ」
ニカっと笑って斧を振り回すコテツさん。
そっか、もっと強くなってユウを守らなきゃいけなかったんだ。
それなのに私は何をしてたんだろう……?
自分の快楽を優先して、一週間も。
それじゃユウを守れない。
ユウを救えない。
「…………ありがとうございます、コテツさん!」
改めて目の前のモンスターに意識を集中する。
もう迷惑はかけない、私は守る者だから。クランの皆の事も、ユウの事も、大事な全てを。
ならば私のやるべき事は決まっている。
不本意だが手早く『彼』にメッセージを飛ばし、用件を伝えてから私は駆け出した。
ユウに再開した時、圧倒的レベル差を知ってユウがしょんぼりする顔を想像しながら。
最後の方に少し書き足し。




