第23話 ひとりでできるもん。
コテツさんと別れ、再びフードで顔を覆ってから一人東門を目指し歩く。
結局コテツさんに慰められてしまった。
逃げてる所を見られて、泣いてる所を見られて、慰められて、涙を舐められて……おかしい、なんだか男女の立場が逆な気がする。
それはそれで嫌な感じがしてないんだからコテツさんのイケメン度が果てしない。
くそう、僕だってもう少し経験を重ねたらかっこよく……なれるんだろうか?
いや、落ち着けユウ。その為に一人で飛び出したんじゃないか。ネガティブ思考はやめよう!
論理的思考と適切な行動で出来ない事はない!
目指せカッコイイ前衛として皆を守り、戦い、癒す戦神官!!
ならば現状の把握と今後の計画、これが第一だっ!! 天才策士ユウの第二章開幕の時!!
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ユウ 人族/男 16歳 侍祭Lv7
HP76/AP144
筋力:1(0)
体力:1(0)
速力:1(0)
器用:1(0)
知力:4(+5)
魔力:8(+10)
<通常スキル>
・神聖魔法(初級) ・調理(初級) ・歌唱(中級)
<固有スキル>
・美女神の祝福 ・愛天使の微笑 ・妖精女王の囁き ・精霊后の芳香
・聖獣姫の柔肌 ・魔皇女の雫
<装備>
・Lv17治癒の杖
・Lv5純白のローブ
・猫耳フード
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とりあえず歩きながらステータス画面を開く。
システムウィンドウは全て半透明だからこういう時便利だ。文字を追いすぎて色んな物にぶつかりそうになる事もあるけど、ぎりぎり回避出来るし。
マヤのお陰でLv7になり、HPもAPも大幅に増えた。武器もコテツさんのお陰でLv17という自分のレベルより高い逸品を入手した。
待機スキルは結局一個も手に入らなかったけど……それでもこの一週間で目覚ましい成長のはずだ。
何せLv7という事は森狼より高レベル、あの巨大熊と同じレベルなのだ。
つまりレベル的には僕は一人であの巨大熊を倒せるはずなのだ!!
うん、無理。どうやって倒すのか僕自身想像もつかない。殺される想像はいろいろ出来るのに……。
そもそも7レベルまでに上がった能力値って知力+1と魔力+5だしね。
熊はやめとこう。あの戦闘の時は必死だったから大丈夫だったけど後から冷静に考えたら足が震えたし。そもそも熊なんて人間が戦う相手じゃない。だって熊だもん。
かといって森狼も怖い。
森狼は確かにレベル的には僕の方が上だけど、なんでも森狼は基本群れを形成し、少しでもダメージを受けたら近くに居る仲間を喚ぶ習性があるらしい。
初日に僕が襲われた時はたまたま最初に出会ったのが一匹で、その後僕が1ダメージも与える事が出来なかったから仲間を喚ばなかっただけらしい。
今の僕ならダメージを与える事は出来るはず!!
そして攻撃力不足な僕じゃ多分仲間を喚ばれまくってピンチになる事間違いない!!
柴犬だって結構怖いのに相手は大型犬より大きな狼だし。うぅ、あの日の恐怖が蘇る。
やっぱり狼なんて人間が相手して良い生き物じゃないよね、うんうん。
人間石橋を叩いて調査して確認して安全宣言が出てから渡るべきだよね。
赤鴉は論外。そもそも攻撃が届かないからどうしようもない。
せめて攻撃魔法があればなぁ……。
そう思いつつタップして自分のアーツ一覧を見る。
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・神聖魔法(初級) :神の加護により様々な回復、補助、破魔のアーツを使用出来る。
<魔法一覧>
・治癒(AP5) ・祝福(AP10) ・加速(AP5)
・聖水(AP5)・防護印(AP5) ・結界(AP30%)
・聖光(AP1~5)
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何度見てもアーツの種類も増えていない。魔法アーツは基本あまり増えないらしいから当然だけど。
逆に剣術スキルとかは初期アーツが少ない代わりに熟練度で増えたりするらしい。
僕も戦闘系スキルが待機状態になればなぁ……ぐぬぬ。
無い物ねだりをしても仕方ない。策士とは今ある手札で最大限の効果を出す物だっ!!
今ある手札で……ん?
「もしかして……」
自分のアーツを眺めていて1つのアイデアが浮かび、僕は東門へと走った。
東門を出てすぐの平原を暫く歩くとすぐに目標のモンスターは見つかった。
僕の目の前に居並ぶ3体の狸、皆、総毛立って戦闘態勢だ。
いや、本当は3体ではない。この中で本物は1体だけ……
幻影狸。
その名の通り、幻影の分身体を生み出して実体をわからなくして襲ってきたり逃げたりするモンスター。
前に戦った時もそれで攻撃が当たらず、結局逃げられるのを繰り返した。
ふっふっふ、でも今日は違う。
我が秘策の前にひれ伏すといい!! 成長する人間様の知力は狸を超えるのだ!!
僕は杖を持っていない左手を幻影狸にかざし、叫んだ。
「聖光ぉぉ!!」
APを調整して閃光は一瞬だけ、しかし幻影である幻影狸の分身体は……
「…………あれ? 変化無い?」
幻影だから強い光で照らせば消えるか変化が見えると思ったんだけど……いや、発光した瞬間は変わったように見えた気もしたけど、僕自身眩しくてよく見えなかったからなぁ……。
サングラス……はこの世界にはないか……あっても高そうだし。
「「……………」」
光に一瞬怯えていた幻影狸と目が合い、それが合図となって戦闘は再開された。
「な……なんとか……帰ってこれた…………」
杖を杖がわりにして……いや、杖だからこれが正しい使用法か?……なんとか王都に帰ってこれた。
あの後、3匹に分身している幻影狸の攻撃を避ける事なんて出来ず、かといってこっちの攻撃は3回に1回しか当たらず、それでもなんとか戦うもHPが減ってきたら逃げられる……。
を繰り返す事十数回。僕の全身はボロボロになるも、一匹の討伐もする事は出来なかった。
HPはヒールで回復したから大丈夫だけど心が折れそう……。
「こんな時はお風呂に入って早めに休もう……」
明日出来る事は明日から! 休む事も大事だからねっ!!
重い足取りでホテルまで歩いて行く。もう一週間も此所から通ってるから勝手知ったる我が家のようなものだ。
「申し訳ございません、お客様。お客様は今朝方チェックアウトされております。改めてお部屋のご用意は出来ますが如何なさいますか?」
よく訓練された一分の隙もない笑顔でフロントの女性が答えた。
そういえばこのホテルって一週間分でしか借りてなかったんだった。しかも一泊5万Eだっけ……。
あの時はマヤが払ってくれたし……勿論僕の借金だけど……このゲームの金銭感覚がわからなかったからそんなものなのかなぁと思ったけど、それって凄くお高いよね。
勿論今の僕に支払える訳もない。画面の隅に見える所持金のウィンドウには燦然と『3680E』の文字が輝いている。
昨日フードを買ってさえ居なければ……いなくても一泊も出来ないけども。
だから僕の返事は決まっている。
「イエケッコウデス。」
「畏まりました。又のご利用、よろしくお願いします。」
これまたよく訓練された綺麗なお辞儀を受けて、僕は一週間住み慣れたホテルを後にした。
フードを被っているからでも、気分的にでもなく、外に出るともう外はかなり薄暗くなってきていて、窓から漏れる明かりが見える。
露天も多くが店仕舞いを始めているし、逆に酒場なんかは気の早い酒飲み達が集まって賑わってる声が聞こえる。
いいなぁ……僕もあそこで……。
ふらふらと行ってしまいそうになってはたと気付いた。
今日は1Eも稼いでいない、しかもホテルも追い出されて、残金は3千Eちょっと。
酒場でご飯なんて食べてる場合じゃない!?
「落ち着けユウ、まずは拠点の確保だ。しかる後に食料の確保だ。そもそも3千Eで泊まれる宿ってあるんだろうか?」
一週間前のマヤの言葉を思い出す。
確か初心者プレイヤー用の宿というのがあると言っていた気がする。3千Eだって初日のプレイヤーにはそれなりの金額の筈だから、きっと大丈夫な筈。
問題は……空き部屋がある事かなぁ……確か一週間前もマヤは「満杯だろうから」って言ってたし。
僕だって安い宿があるのにわざわざ高い所に移ったりしないだろうし。
「考えても仕方ない! どうせ駄目なら野宿すればいいんだし、駄目元で聞いてみればいいんだっ!!」
気を取り直して心機一転、宿屋に向かって走り出した。
「…………そういえば宿屋って何処にあるんだろ?」
走るのはやめた。お腹すいたし。
おかしいな……プロットの段階ではユウが華麗にソロで幻影狸を撃破して、新しい宿屋を確保する所までのはずだったのに。




