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最終話 エピローグ

 7月初旬、期末試験も終わり、後は夏休みを待つばかり。

 僕の名前は神屋 優(かみや ゆう)。何処にでもいる健全な高校三年の男子。


 あの日、僕が『セカンドアース』にログインしてから一年が経過していた。


 結局2ヶ月近く休学してしていた結果になったけど、僕はなんとか進級して三年生になる事が出来た。

 と言っても『セカンドアース』ログアウト後に2ヶ月近くの遅れを取り戻す為に地獄の補習と宿題があったのだから良かったというか悪かったというか……少なくとも二度とやりたくない。


「何よ優、厳めしい顔をして。そんな所でぼーっとしてると遅れるわよ?」


 そう言いつつ僕の顔をのぞき込んでくるショートヘアの女の子が1人。

 彼女の名前は元 摩耶(はじめ まや)

 摩耶はクラスメイトで一応幼馴染みという間柄になる。


 『セカンドアース』で僕を見つけてくれた子であり、更に言えばクランを勧めてくれたりと保護者みたいなポジションに居た子だ。そのせいか最近リアルでも更に過保護になって少し困っているけど。


「わかってるよ。学校も終わった事だし、急ごうっ!」

「一端家に戻って着替えたりしないの?」

「時間もないし必要ないでしょ? 気軽な感じだって言ってたし」

「そう、なら私もこのままでいいわ」


 そう言う摩耶と一緒に僕達は駆け出した。実際時間が余りないのだ。



 

 僕達がやってきたのは駅前の大きなホテル。ここでとあるイベントが開かれていた。

 そのイベントの名前は『セカンドアース1周年記念パーティー』。


 そう、今日は『セカンドアース』一周年なのだ。

 僕とアリスがログアウト出来た事で一時中止する案も出たそうだけど、アリスがお祖父さんを説得して継続という事になったらしい。

 その時池田さんが「継続しながらでもアップデートして同じ事故が起こらないようにしますから」と言った事も大きかったと思うけど。


 あとその時聞いた話だと『セカンドアース』を識っているプレイヤーの方がもし将来『転生』を望む時親和性が高まる、というのも『セカンドアース』を続ける理由の1つなのだとか。


 そんなこんなで紆余曲折あったとはいえ無事1周年を迎えた『セカンドアース』のパーティー、それにクランランキングの高いクランや活躍している特定プレイヤーにパーティーの招待状が配られたのだ。そして僕と摩耶もその招待状を受け取っていた。


 摩耶はあまり興味なさそうだったけど、僕は行ってみたかった。逢えるなら逢いたい人も多いし。

 でも『セカンドアース』とは皆外見が違うかもしれないし、あまりに急で待ち合わせをしている訳じゃないから逢えないかもしれないけど……まぁそれならそれで構わない。

 リアルでも皆と同じ場所に居られるというのがちょっと嬉しい。


 そう思いつつ受付で招待状を渡してワクワクしながら会場に足を踏み入れる。


 と、そこは別世界だった。赤い絨毯、煌びやかなシャンデリア、テーブルにはキラキラ輝く料理が並び、まるで『セカンドアース』の王城で見た舞踏会の会場のようだ。

 そして招待客らしき人達は皆スーツやドレスを着た大人ばかりで、談笑しているのが見える。学生っぽい子もちらほら居るけど、少なくとも学生服を着てるのは僕達だけだった。


「こ、これは……場違いだったかもしれない」

「だから言ったじゃない」

「もっと強く言ってよっ! せめて服装をどうにかしてきたのにっ」

「私は気にしないわよ?」

 スカートの裾を持ってくるりと回る摩耶。このアイアンハートだけは見習いたいけど僕には無理だ。

「や、やっぱり一度出直した方が……」


「ユウ様っ! ユウ様ですよねっ!」

 帰ろうかと思った時、聞き覚えのある声が僕を呼んだ。

 其方を見ると背の高いがっしりした体格の良い笑顔のスーツの男性が僕の方へとやってくる。

「ごきげんようっ! いや、初めまして、ですかな?」

 そう言って男性は爽やかに笑う。


「もしかして……アンクルさん?」

「はいっ! 貴方の騎士、アンクル・ウォルターですっ!」

「うわっ、うわっ! アンクルさん、は、はじめましゅてっ、ゆ、ユウですっ!」

「はっはっは、一目で分かりましたよ」


 一目でって、それはすごいんじゃなかろうか? 基本的な顔立ちは変わらないけど瞳の色も髪の色も違うし、服装も違うのによく分かったもんだ。

 それにどうやら『セカンドアース』のアバターは『固有スキル』のせいで印象がかなり違うっぽいのに。


「まぁユウちゃんはわかりやすいしね~」

 いつの間にか近くに来ていた真っ赤なドレスの美女がそう言って微笑んだ。

 僕の名前を知っているという事は知り合いの筈だけど心当たりがありすぎる。けど……その笑顔は見覚えがあって……

「あ、サラサラさん、こんにちわ。素敵なドレスですね」

「こんにちわマヤ。マヤの制服も可愛いわよ~」

「さ、サラサラさんっ!」


 そうだ、この顔、笑顔、サラサラさんだっ!

「ん? なぁに、ユウちゃん、私の事分からなかったの~? 寂しいわ~」

 そう言って泣き真似をするサラサラさん。

「す、すみません、どうしてもアバターのイメージが強くて、混乱しちゃって。その、凄く綺麗で、びっくりして」

「まぁ、お世辞が上手ね~。お姉さん本気になっちゃうかも~」

 そう言って微笑むサラサラさん。そういう発言はやっぱりサラサラさんだった。


「そうですな、あとユウ様のお知り合いというと……クロノ殿も来てますよ」

「え! 何処!?」

「ええっと……はて、何処に行ったのやら……さっきまでは居たのですが……」


 そう言って辺りを見回すアンクルさん。僕も周りを見るけどそれらしい人は見えない。……と言っても僕じゃ見てても気付かないだけかもしれないけど。


「あ、始まるみたいよ」

 マヤの言葉にステージを見ると壇上の女性にスポットライトが当たり、挨拶を始めた。

「皆様、今日はこの目出度い日にお集まり頂き、本当にありがとうございます。今日という――」

 青と白の綺麗なドレスを着て挨拶を続けるその元気な姿に、僕は本当に良かったと胸を撫で下ろす。


 壇上でスポットライトを浴びている人こそ『アリス』だった。


 あの日、僕がログアウトした日、彼女も又ログアウトした。

 移送されていた僕は彼女と同じ病院に居て、すぐに彼女と逢う事が出来たのだ。


 長期入院患者であった事は聞かされていたし、だからこそ僕で力になれる事があるならがんばろう。そう胸に決めていた。

 でもその事は呆気なく解決していた。

 彼女の長いログイン生活の間に彼女の病気の治療法は確立され、彼女はこの一年で日本に旅行にやってくるまでに元気になったのだ。


 勿論『セカンドアース』内やメールでは今でもやり取りしてるし、その回復についても聞いていたけど、こうして自分の足で立っている姿を見るのは又格別の想いだ。


「――それでは皆様、ごゆるりとお楽しみ下さい」


 そう言って締め括るアリス。その瞬間、彼女が僕の方を見て微笑んだように感じた。




 それは気のせいじゃなかった。

 挨拶が終わったアリスはその足で即僕の所まで飛んできた。


「ユウお兄ちゃん~。逢いたかった、逢いたかったよぉ~」

 そう言って抱きついてきてすり寄るアリス。それはいいんだけど……。

「あ、あの、さすがに20歳のアリス……さん? が僕を『お兄ちゃん』というのは無理があるような」


 そう、アリスさんは今20歳なのだ。

 『セカンドアース』でのアバターは何故か幼い年齢になってしまっていて、更にログイン状態が何年も続いている間に身体の方は20歳を迎えたという事らしい。

 そういえば僕のアバターも少し幼かったし、何かそういう仕様だったんだろうか?


「やーよ。ユウお兄ちゃんは私にとってたった1人の『お兄ちゃん』なんだから、こればっかりは譲れませんっ! それに私に『さん』なんて要らないよ?」

 頬をぷくーっと膨らましてイヤイヤするアリス。壇上の格好いい姿は何だったんだという感じだ。


「わ、わかったから、その、せめてもう少し離れて……」

「……ユウお兄ちゃん、私が嫌い?」

 そう言って見つめてくるアリス。


 嫌いじゃないけど……正直困る。だって現実のアリスはナイスバディの金髪美人なのだ

 つまり抱きしめられると胸とか太股とか当たってしまうのだ。健全な高校生男子にこれは……毒だ。

 ここでこの天国を満喫してしまったら、多分明日から僕は変態のレッテルを受けて生きていけない恐怖の毒だ。だからと言って抗う事も難しい。


「いい加減に離れたらどう? お・ば・さ・ん?」

 見かねた摩耶がアリスに声をかけた。

「あら……誰かと思ったらお邪魔虫がこんな所にも居たのね。貴女は要らないから帰っていいわよ?」

「私がユウを置いて帰る訳ないでしょ? 耄碌しちゃったのかしら?」

「何言ってるのかわからないわ。私、ユウの為に日本語は必死で勉強したけど、虫の言葉は分からないからー」


 僕の頭の上で飛び散る火花。こ、これじゃさっきの方がマシだったかもしれない。

「ふ、2人とも落ち着いて。折角のパーティーなんだから、喧嘩は駄目だよ?」

「はいっ! ユウお兄ちゃん♪」

「ふんっ!」


 笑顔のアリスと舌打ちする摩耶。でも……何とか喧嘩にならなくて良かった……のかな? あとで『セカンドアース』内で2人がPVP(プレイヤーバトル)始めちゃいそうだけど、あっちなら少し位構わないし。


「あ、そだ。今日の特別発表って何なの?」

 話題を変える為にも『セカンドアース』で思い出した事をアリスに尋ねてみる。


「えっと……秘密なんだけど、もう発表だしもういっか。『最終アップデート』が終了して、ついに『天空城』へのルートの情報がゲーム内に出回るんだって!」

「っ! 本当に!?」

「うんっ! ユウお兄ちゃんに嘘なんて言わないよぉ」


 そう言って嬉しそうに微笑むアリス。そういう表情は『セカンドアース』の中と変わらない。

 アリスも嬉しいんだろう。だって彼処はアリスには辛い場所だったかも知れないけど、それでも大事な友達が居る場所なんだから。


「それでいつ頃出回るの?」

「それは…………もう出てるかも?」

 指折り数えてアリスが答えた。


「っ! じゃあすぐログインしようっ!」

「あ、じゃあこのホテルの別室にVRマシンルーム用意してあるからユウお兄ちゃんもそこに行く?」

「行くよっ! 皆も行こうっ!」

 そう言って摩耶達を誘って駆け出した。


 『セカンドアース』に出逢ってから一年。大変な事も苦い記憶もあったけど、楽しい事も嬉しい事も一杯あって、沢山の人達と出逢えて、そうして今日を迎える事が出来た。

 それはかけがえのない大事な物で、これからも大切にしたいと本当に思える物だった。


 だから、色々変わった事も、変わらない事もあるけれど、それでも僕は次はどんな冒険をしようか、思いを馳せていた。







これにて『ボクだけがデスゲーム!?』完結です。

一年間ありがとうございました。


後書き的な物は活動報告にて。

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