第198話 天空城への道標。
「まず最初に、この『天空城』自体は確かにデータは存在する最終ダンジョンの1つなんだが……今このタイミングでやってきたのは我々運営のした事ではない。かといって自動でやってきて自動でゴーレムを排出している訳でもない。
これは明らかに誰かが操作した結果だ」
表示された『天空城』と排出されるゴーレム軍団を見ながら池田さんが説明をする。
「それが……アリスちゃん?」
「その可能性がある。という話だよ。ダンジョンのボスモンスター、それも高レベルダンジョンなら知能の高いボスモンスターも多いからそう言った固体でダンジョンの管理権限を持つボスモンスターなら可能なんだけど、彼等にはソレをする理由がないから、誰かがその後ろに居ないと辻褄が合わないんだ」
確かに『火口ダンジョン』や『神のダンジョン』に居たボスモンスターは普通に喋ってたし、ああいうタイプならあの『天空城』を操作出来るのかな?
でも理由って……
「王国征服とかじゃないんですか?」
悪のモンスター軍団が攻めてくるなら定番はそういう感じだと思うけど。
「『セカンドアース』はそこに住む人達の為の世界だ。モンスターは居るし、戦えば命を落とすけど、わざわざモンスターが安全な王国に攻めて来るような設計はされていないよ。制作者は『第二の人生を幸せに送って貰いたい』と思って『セカンドアース』を作ったからね。
その証拠にいくら結界があるからと言ってゴーレムは一体たりとも外壁部まで近づいてきてないだろ?」
言われてみれば……ここ数日はプレイヤーの人数は減っている筈なのに別に外壁側に到達したって話は聞かないような……てっきり結界のお陰だと思ってたけど。
「あれ? じゃあ何で『天空城』はやってきて、ゴーレムを送ってきてるんだろう?」
王国征服が出来る訳でもないなら、それこそわざわざプレイヤーに素材を提供してくれてるだけになっちゃう?
「それは張本人に聞かないとわからないが……結果的に問題の方は発生している」
「……接続不良が関係してるって事?」
池田さんの言葉にマヤが続いた。それを聞いて池田さんはにっこり頷く。
「その通りだ」
「え? でも、『天空城』やゴーレムが来ただけでプレイヤーがログイン出来なくなるんですか?」
だとしたら大問題だけど、そういう事ならもっと大量のプレイヤーがログイン出来なくなる筈だ。ゴーレム討伐はかなりの人数のプレイヤーが参加してるし。
「いや、どちらも直接的な原因じゃないよ。……そうだね、ログイン出来なくなったプレイヤー達の特徴ってわかるかい?」
特徴? ログイン出来なくなった人……コテツさん、テルさんのクランメンバーさん、ノワールさん、ホノカちゃん、『白薔薇騎士団』でも何人か、何か特徴あるんだろうか?
前衛後衛関係ないっぽいし職業や性別もバラバラだし、レベルが低いとか? はないか。コテツさんとかガンガン突っ込んでいって経験値稼いでただろうし。
「あ、もしかしてデスペナルティ?」
マヤが思い出したように手を叩いて呟く。その答えに池田さんが頷く。
「正解。死亡率の高いプレイヤーが接続不良を起こしてるんだ」
「そういえばノワールさんやホノカちゃんも結構死んでたっけ」
「ゴーレムの範囲攻撃に巻き込まれる事が多かったから、HPが低い2人は避けるのが難しかったわ。一番先頭で突っ込んでいったコテツさんは言うに及ばずね」
うん、確かにコテツさんが一番『大神殿』に戻ってきては再突撃してた。
「でもデスペナでログイン出来なくなるなんて聞いた事ないわよ?」
そう言って池田さんを睨め付けるマヤ。
『ログイン出来なくなる』って確かにペナルティとしてあまりに重いし、それを周知してないって更に大問題だから当然だろう。
「勿論通常はありえない特殊な事例なんだ。通常『プレイヤー』が死んだ場合、大神殿に戻されるからすぐに戦場復帰は出来ない。それが今回はわざわざ『ダンジョン』からやってきた結果それがクリアされてしまった。
そして大量のプレイヤーによる短時間の大量死の繰り返しが長期間行われた。ソレをシステムは『何かしらの危険』と判定して調整に入った。その準備段階として特定のゾンビアタックの激しいプレイヤーの接続制限状態になったという訳だ」
「つまり多数のプレイヤーによる同時ゾンビアタックが図らずもサーバ攻撃みたいな感じになっちゃったって事?」
なるほど……確かに『セカンドアース』でゾンビアタックみたいな狩り方って特殊だったみたいだし、そんな事を延々繰り返してたんだから不具合が出ちゃう事もあるのかな?
でもとなると原因って半分は『プレイヤー』の方な気もしてくる。
「イメージ的には近いかな。『天空城』を動かした『誰か』がどういう意図でゴーレムを差し向けたかはわからないが、結果としてプレイヤーを排除している形になっている」
「じゃあ……この接続不良は直らないんですか?」
「幾つか対処法はあるけど……まずプレイヤー全員がゾンビアタックをやめれば直るだろうね」
「それは無理よ」
マヤが即座に否定する。
確かに『接続不良』自体は運営の不手際だと捉えられているし、その原因が『ゾンビアタックだからやめるように』と言っても逆に不満が膨らむ可能性も高い。
そもそも接続不良で対抗プレイヤーが減ったお陰でドロップを独占出来ると喜んでいる層も居る位だから逆にプレイヤー同士のMPKが増える可能性すらある。
それ程ゴーレム産の素材は美味しいのだ。
勿論もっとログイン出来る人が減ってくれば変わってくるかもしれないけど、現状そこまで行ってる気はしないし。
「私もマヤ君と同意見だ。他には『天空城』のダンジョンをクリアしてしまう。というのもあるが……これも不可能だろう」
「ゴーレム軍団が強いからですか?」
実際未だ『天空城』に侵入したプレイヤーの話は聞いた事がない。確か掲示板とかでも偽情報以外でそういう話はないってルルイエさんとかも言ってた気がする、
「いや、そもそも『天空城』の高さまで飛べるスキルやアイテムを持つプレイヤーもNPCも現時点で居ないからね。私達『白の使徒』の転移なら行けなくはないが、まだその条件を満たしては居ないし。
かといって他の入り口は『天空城』と対になったゲートポータルが何処かにある筈なんだけど、その情報も公開されていない」
「池田さんも知らないんですか?」
「制作者はそういうのが好きな人だったんだよ」
だから今私達が苦労してるんだが、と池田さんが大きくため息をつく。
「それじゃあこのまま、どんどんプレイヤーがログイン出来なくなって行っちゃうしかないんですか?」
本丸を落とす所かそもそも入る事すら出来ない。プレイヤーを啓蒙しててもその間に被害者はどんどん増えちゃう。
今までマヤやサラサラさんも少なからずゴーレムと戦闘して死んでるし、『銀の翼』に誰も居なくなる事も考えられる。クロノさんやテルさんだっていつログイン出来なくなるかわからない。
「あー、いや。勿論そういう事にはならない。現状は明らかにシステムの異常だ。故にもう暫くしたら私達『白の使徒』の仕事が発令されるんだ」
泣きそうになっていた僕に、いや、別に泣いてないけど、少し目に涙を浮かべていた僕に慌てたように池田さんが言う。
「仕事……ですか?」
「ああ。ユウ君は見ただろう? システム上の問題因子の排除。ソレが『プレイヤー』であれ、『NPC』であれ『モンスター」であれ、『セカンドアース』に害なるとシステムが判定した場合、私達は問答無用でその力を行使する」
池田さんの説明に燃える洋館で消えてしまったソイル君の事を思い出した。あれが『問題因子の排除』なんだろう。
「なら安心ね。私達はただ待てば良いだけだし」
そう言うマヤに池田さんが苦笑する。
「まぁそうなんだけど……今まで動かなかった『天空城』が突然動き、『プレイヤー』を狙うような動きを見せ、しかも首謀者が『そのダンジョンに侵入した方法がわからない』、となると私達としては犯人が行方不明の『アリス』の可能性を疑っているんだ」
「あ、それで『アリスちゃんが見つかった可能性』って言ってたんだ」
手を叩く僕に池田さんが頷く。
「でもダンジョンの中に出現したりするものなの?」
「正直わからない。ただアリスが『誰にも見つかりたくない』と願ってログインしたのだとしたら可能性はある。ユウ君も最初にログインした場所がフィールドだったしね。それも通常はありえない事だった」
言われてみれば確かに僕が目が覚めた場所は森の中だった。その場所がもう少しずれていてオークダンジョンの転移地点の上とかだったら、僕が最初に目覚めた場所もダンジョンだった可能性もある。
ならアリスちゃんがそこに居る可能性もあるのかな?
「あれ? でもアリスちゃんの場合、その……『白の使徒』さんの『仕事』はどうなるの?」
「相手が誰であれ、『白の使徒』のやる事は変わらないよ。機械的に判定して、機械的に処理される。余計な事を言う猶予すらない」
「イヤよっ、そんなのっ!!」
今まで黙って聞いていたテレスさんが突然大きな声を上げた。
「落ち着けテレス。私だってしたくない。だからユウ君を呼んだんだろ?」
「え? 僕?」
そういえばなんで僕が呼ばれたのか忘れてた。
「ああ、私達と話が出来てこうして説明が出来るユウ君に私達から『探索クエスト』をお願いしたいんだ」
「探索って」
「勿論『天空城』をだよ。『白の使徒』に出動がかかる前に『天空城』内で首謀者を見つけて、もし首謀者が『アリス』なら説得をして欲しい」
「駄目よ。あのゴーレムが居るダンジョンに行くなんて危険だわ」
僕が答える前にマヤがNOを突きつける。
「大丈夫。ダンジョン内のゴーレムは全て地上に降りてきているから強襲すれば問題ない筈だ」
「その『首謀者』に襲われた場合は?」
「『アリス』でないのなら逃げて構わない。『アリス』ならそんな子じゃなかったよ。勿論変わってる可能性はなくないが、それに相手がゴーレム軍団のような物量で来ないのならマヤ君も居れば大丈夫だろう?」
池田さんに持ち上げられたマヤが苦虫を噛み潰したような顔になる。
「ユウ君、頼む、アリスを助けてくれっ!」
まだアリスちゃんだと決まった訳ではないと思うんだけど必死の形相でテレスさんが僕に訴えかけて来る。
「あ、あの、そりゃ僕もアリスちゃんを助けられるなら助けたいですし、それで皆がログイン出来るようになるのなら願ったり叶ったりだけど、そもそもどうやって『天空城』に行くんですか?」
ついさっき池田さん自身が行く方法がないと言ったばかりなのに。
なのに僕の発言に池田さんとテレスさん、更にまマヤまで驚いたように僕を見つめる。
え? ぼ、僕間違ってない……よね?
「さっきも言った通り他の誰にも無理だが……ユウ君だけは『天空城』に行く方法があるだろう?」
「? 僕も空を飛ぶスキルもアイテムも持ってないし……」
そう言いながら自分のアイテムを見返して1つに目が留まった。
思い出される満天の星空と眼下の街の灯。その中を走り抜けた――
「ヴァイスっ!」
僕の答えに池田さんがにっこり頷いた。




