第194話 マヤ語り。 その6
最古真龍の全方位攻撃から何とかユウを守りきったのは良かったがHPがゼロになってしまった。
パーティウィンドウと周りの状況を確認しても生きているのはユウ以外いないようだ。
「……しくったわね。いえ、流石200レベルって事かしら」
不幸中の幸いなのは最古真龍の方も両目両足翼に顎と全身砕かれて満身創痍な事だろうか。
それでもまだ生きている最古真龍の驚異の生命力とも言うかもしれないが。
「って、マヤっ! 大丈夫っ! 早く治癒をっ」
「大きな声をださないっ!」
今にも倒れそうになる視界に心配そうな顔のユウが見えた。
ユウなら『蘇生』で私達の誰かを生き返らせる事が出来る。そうすれば恐らく今の最古真龍なら倒せるだろう。
でも、『蘇生』の詠唱時間を稼ぐ前衛が居ない以上魔法に反応した最古真龍の攻撃を受ければユウも死ぬ。
正直そんなリスクを犯す訳にはいかない。
「最古真龍は……目を潰してあるから、直ぐには気付かない筈。今の、うちに……転移門で……逃げな……さい」
同じリスクならユウが生き残る方に賭ける。
ユウさえ生き残れば私達はロストしてもいずれ復帰出来るのだから。
そこまで言って限界だった私の身体が崩れ落ちる。
その瞬間見えたユウの私を見つめる瞳が見えた。怯えていて、不安そうで、でもその奥に強い意志を秘めたユウの瞳。
これは……言う事を聞いて貰えないかな。
と感じた。
そして予想通りやっぱりユウは私の言う事を聞いてくれなかった。
しかも『蘇生』を使っただけでなくそれを全員分同時に使用したのだ。
たった1人に使っただけでふらついていたのに。
まるで夢のようなモヤのかかった死亡待機状態から一気に視界が晴れて身体が動くようになる。
飛び起きる私が見たのは、倒れ行くユウだった。
同時に動き出す私達。
一番近くに居た私がユウを抱き留め、同時に背中で爆音と方向が響いた。
皆が最古真龍を倒したんだろう。でもそんな事はどうでもいい。
「ユウっ! ユウっ! 大丈夫っ!? どこか……」
そこで気付く。ユウの透き通るような真っ白な肌が、いつもは上記した桃色の頬が血の気を引いていた。
パーティウィンドウを見るとユウのHPが0になっている。
ユウが……死んだ?
「よっしゃー! 倒したぜっ! コレでクリアだなっ!」
クロノが歓声を上げている。
「ユウ様は大丈夫ですか? 倒れてらしたように見えましたが……」
アンクルが近づいてくる。
「ユウちゃん、これって、もしかしてっ……」
サラサラさんが心配そうに声をかける。
「マヤ、ユウは……」
言いづらそうにノワールが呟く。
「……ユウ、死んじゃった……」
流れ落ちる涙を止める事も出来ず、私はユウを見つめて言った。
その時パキリと何かが割れる音がした。私の心が壊れてしまった音だろうか?
「……おいおい、そりゃ確かに全員クリアは出来なかったけどよ、最古真龍は倒したんだし、報酬を後で分け合えば良くねぇか? 泣く程の事かよ」
テルが訝しげに私を見た。
反射的にテルを殺す勢いで睨み付けた。
ユウが死んだ事が『泣く程の事』って!
「マヤ、無理だと思うけど落ち着きなさい」
サラサラさんが私の肩に手を当てて宥めてくれた。もし私の手の中にユウが居なければとっくに暴れていたと思う。
「私も理由知りたいです。ユウ様が何か事情があるのは感じてますが、我々にも教えて貰う事は出来ないだろうか?」
アンクルの問いに一瞬サラサラさんと目が合い、私は小さく頷いた。
「分かったわ。でもこれは現状と私達の推測を総合した話だけど……」
そう言ってサラサラさんがユウの事を説明する。
行方不明になった事、ログアウト出来ない事、通常以上に痛覚を感じている事、死んだ場合復活出来るかわからない事。
テル辺りは最初冗談を言ってるんだろうという空気だったけど私達の真剣な表情に押し黙る。
そして説明が終わり、重苦しい空気がドームを包んだ。
私達を生き返らせる為に無茶をしたユウ。なのに私達にはユウを助ける術が無い。
「本当に……馬鹿なんだから……」
ぽつりと呟きながら私の涙で濡れたユウの頬を撫でた。
「ん? と、すみません、ちょっと失礼します」
と、そこでグラスが突然ユウの手を取った。
何度も確認して頷き、ふと下を見て床に落ちている何かを拾う。
「おい、遺体をそんな触るのは……」
見かねてクロノがグラスに声をかけた。
「あ、いえ。よく見て下さい。ユウさん、生きてますよ。ほら」
「「っ!?」」
言われてユウを凝視すると真っ青だった頬も少しづつ赤味を増し、かすかに胸が上下していた。呼吸している。慌ててパーティウィンドウを見るとHPが1になっていた。
「な、なんで……?」
確かにさっき見た時は0だったのに。
「多分『コレ』のお陰でしょう。壊れてしまっているから確実ではありませんが……『死亡回避』系の装備品だと思います。ゲームでは定番ですが『セカンドアース』にもあるという噂は聞いていました。
現物を見たのは初めてですが、まさかユウさんが持っていたなんて」
グラスの解説にどっと力が抜けた。
よかった……生きてた。でもそんなアイテム何時の間に手に入れてたんだろう、知ってたらもっと安心出来たのにっ!
「まったく! ユウはこれだからっ!」
「んっ! んんっ……」
すっかり血の気の戻ったユウが周りの音に気付いたのか目覚めようとしていた。
慌てて立ち上がり涙を拭く。
「……むしろその顔を見せた方がユウは反省するんじゃないか?」
コテツさんが苦笑しながら言った。
「いえ、私はユウを守らなきゃいけないから。ユウに弱い所なんて見せられません」
「そういうもんかねぇ……」
呆れるように呟くコテツさん。
「そういう関係なんです」
私は笑顔で応えた。
その向こうでユウが目を覚まし、私達も慌ててユウの元へと駆け寄った。
皆にお説教を受けたユウは、やっぱりユウで、やっぱり私が守らなきゃいけないと強く感じた。
だから前もってサラサラさん達にお願いしていた事を頷き合い、扉を開いて先に進む。
と、すぐに周りに誰も居ない事に気付いた。
ゲームではよくある事だが1人づつ別々に報酬を渡すようになっているのだろう。
それでも『もしかして』があるからユウと分断された事に私は駆け足で階段を走り抜ける。
そうしてすぐに小部屋に到達した私の前に『白の使徒』が待ちかまえていた。
「勇者様、よくぞ此処まで来ました。貴方の望みはなんですか?」
この声は……100層に居た『白の使徒』と同じ声に聞こえる。
でもそんな事はどうでもいい。
「勿論よ、ダンジョンに入る前から決めてあるから」
「そうか。しかし我等にも叶えられる望みに限りがある。望みを言うと良い」
本当ならここで『ユウの絶対安全』を望みたい所だけど、死者の蘇生も出来ないレベルではそんな事はおそらく無理だろう。
でも、なら話は簡単だ。私がユウを守りに行けば良い。
「私の望みは、何時どんな時でもユウの側に行けるようにして頂戴。出来る?」
私の宣言に一瞬『白の使徒』が止まったように感じた。
「…………可能だ。が、それでよいのか? この願いは1人一度きりだが……」
「それ以上の事なんてないわ。それとも特定のプレイヤーを絶対に死なない安全な状態の保証とかでも出来るかしら?」
「そっちは無理だ」
「なら最初の願いで良いわ」
「了解した。では『願い人に会いに行く』アーツを『マヤ』に」
『白の使徒』がそう呟くと同時に『白の使徒』の手の平から現れた光がゆっくりと私の中に入っていった。
ステータスを開くと、確かにアーツが1つ増えている。
「ありがとう。じゃ、行くわ。『ユウの元へ』っ!」
「なっ! ちょっ、待てっ、まだ、今はっ! ああっ!?」
何か後ろで『白の使徒』が矢鱈と人間くさく慌ててる声が聞こえたがもう用はない。
『転移門』に飛び乗る時のような一瞬の浮遊感を感じる。
これで、私はいつでもユウを守れる。もう2度とさっきのような失敗はしない。絶対にユウを守って見せる。
その誓いを胸に私はユウの元へと飛び立った。
200話突破してしまいました。
お付き合い頂きありがとうございます。あともう少しで終わる予定です。




