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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
最終章 誰が為の世界。
199/211

第193話 そしてダンジョンからの帰宅。

「それじゃ、他の皆ももう報酬を受け取ってるだろうから、帰ると良い」


 そう言って立ち上がる池田さん。入り口のドアの方に歩いて行って突然立ち止まる。

「ああ、そういえばユウ君は今回の報酬で『白の使徒』と対話する権利を得た訳だけど、それは今後も有効だし、もし何かあったら彼女に言うと良い」

「彼女?」


 ちらりとテレスさんを見る。

 目があったテレスさんが首を振った。

「ユウ君達も知り合いの方が話がしやすいだろ?」


 知り合いって? と聞こうとするより早く、何か操作する池田さん。

 と同時に新たに1人の『白の使徒』さんが空間から飛び出してきた。しかもその人もフードを被っておらず素顔が見えている。


「痛っつぅ……ちょ、先輩、いきなり召喚はやめてーっていっつも言うてるやないですか……って……」


 飛び出した拍子に何処かを打ったのか腰の辺りを抑えながら立ち上がる『白の使徒』さんと目が合う。

 それは確かに『彼女』であり、『知り合い』だった。


「あ、あー……は、ハロー?」

「ルルイエさんっ!?」

「チガウ、ウチルルイエチガウ、シロノシト」

「ルル、お前フードも取れてるぞ」

「マジっ!? ホンマやん!」


 池田さんの冷たい声にルルイエさんは自分の頭の辺りを探して絶叫し、何処からか取り出したフードを被る。

「やぁ! 勇者諸君試練を突破したんやね! おめでとう!」

「いや、今更だよルルイエさん」

「ユウっちノリ悪いー」

 ルルイエさんが涙目で人差し指をいじいじしながら恨みがましい声を上げる。


「まぁ、ご覧の通り彼女も『白の使徒』だ。帰り道すがら詳しい事を聞くといい」

 そう言う池田さんにマヤが頷いた。

「そうね……今までずっと黙ってたようだしくわしく(・・・・)聞きたいわ」

「ひっ! 先輩っ! 助けてっ! マヤっちは加減知らんねんっ!!」

「がんばっておいで~」

「行くわよ、ユウ」

「ひぃぃぃぃぃっっ!?」

「う、うん……」


 マヤに首根っこを掴まれてずるずると連れて行かれるルルイエさんと一緒に、僕達は『白い部屋』を後にした。




 来る時と同じような真っ白な上り階段。違うのは行きが1人だったのに帰りは3人という所だろうか?

 マヤの冷たい視線に、ルルイエさんは視線を逸らして音の鳴らない口笛を吹いている。


「その……僕の事、ずっと知ってたの?」

 仕方なく僕がルルイエさんに尋ねる。と、ルルイエさんは物凄くばつが悪いような顔をした。


「ゴメンなユウっち。で、でも仕方ないねんっ! 先輩も言うてたと思うけど『セカンドアース』はこの世界自体を守る為のプログラムで『知ってる人間』は『伝える内容』を激しく制限されてて、おいそれと言えへんねん。下手な言い方しても弾かれて最悪二度とログイン出来へんようになるだけやし……」


 マヤに睨まれて慌てて弁明するルルイエさん。

「別に良いですよ。仕方ないっていうのはわかりましたし」

「ホンマに!? ありがとうユウっち! 本当にゴメンな? ホンマはウチも言いたかったんよ? その方が話は早かった訳やし」

「確かにそうね。さっきの話を総合すればユウの認識が変わればそれで解決、でなくてもある程度の時間が経過すれば自然と解決する問題だったみたいだし」

「そ、そうやねん! ユウっちが現実逃避から『セカンドアース』に来てるんなら少し話違うけど、ユウっちそういうのと無縁そうやし」

「そうね、ユウはねぇ……」


 マヤの発言に首を何度も縦に振りながら同意するルルイエさん。

 あれ? これもしかして僕が脳天気とかお馬鹿みたいに言われてる気がする?

「気のせいよ」

「気のせいやって」

「そ、そっか」


 何故か心を読まれた!? 前から少し思ってたけどもしかして僕って結構顔にでやすいんだろうか?

 ポーカーフェイスとか格好いいと思って結構練習してるのに。


「ま、まぁいいや。ルルイエさんが運営側の人なら聞きたい事があったんだけど……」

「ん? 何やろ? ウチのスリーサイズとかも今のユウっちになら教えるんも吝かやないけど」

「いや、聞かないよっ!?」

 しなを作るルルイエさんに慌てて否定する。

「ちょ、そんな全力で断れると凹むんやけど……」

「あ、いや、そういう意味じゃないけど」

「じゃあどういう意味なん?」

「……ル・ル・イ・エ?」


 僕に対して胸を強調したポーズを取っていたルルイエさんがひっと小さな悲鳴をあげた。

「あー、ゆ、ユウっち、ソレで聞きたい事って何やろか?」

 ルルイエさんが背筋を正して僕に改めて尋ねてくれた。

「あ、うん。えっと……僕の両親とも話をしてた、みたいな事を言ってたと思うんだけど、どうしてるのかなぁ……って思って」


 完全に自分のせいではないとはいえ2ヶ月近く家を空けていた訳だし、父さんや母さんがどうしてるのか流石に少し気になった。


「お2人ともお元気やよ。実際に話をしたんはウチの会長やけど、それからずっとユウっちの眠ってる病院の近くのこっちが手配したホテルに滞在して貰ってるね。

 本当は2人ともログインして実際にユウっちに逢いたい、って事やったんやけどソレは遠慮して貰ってる所かな」

「え? ルルイエさん達が止めてたの?」

「会長が説明する時にご両親も『知って』しもてるからね、変に情報があるのを我慢して貰うんは肉親の人には難しいんちゃうかって。

 あと『ログアウトしたい』と思わせるんには肉親が『セカンドアース』内に居らん方がええんちゃうかって話になってね。暫く様子を見て欲しいってお願いしてたんよ」


 なるほど、確かに僕が『セカンドアース』から離れたいと思えばログアウト出来るみたいな話を聞いたし、もしセカンドアース内に現実の全てがあったら、ログアウトしなくていいかなって思っちゃったかもしれない。


「まぁ、そういう事やから、全部先輩が悪いねんで? ウチみたいな下っ端は無理矢理したくもない事をよよよ」

 そう言って泣き崩れるルルイエさん。

「その割に60層では楽しそうだったわよね」

「そうやねん。ユウっち達を傷つけたないし、どうやって楽しませようかと思ったら、ちょうどスライム軍団が居ってね、これやっ! って、ひぃごめんなさい」


 マヤの問いに嬉しそうに語り出したルルイエさんがマヤの拳骨に頭を抑えて謝る。

 というか60層の『白の使徒』さんってルルイエさんだったんだ。……言われてみればしゃべり方はまんまルルイエさんだったなぁ。あそこで食糧を全て破棄させられて本当に苦労した。


「あ、そろそろ出口やね。ほなウチはドロンさせて貰うから、ユウっちもマヤっちもお疲れ様! 今までの事はホンマごめんな。でも、ウチの事は嫌いになっても『セカンドアース』の事は嫌いにならんといてなっ!」


 出口っぽい光が見えてきた所で、ルルイエさんはそう言って手を振りながら消えていく。

 何故か今回はゆっくりと透明になっていった。


「嫌いになんかなりませんよ」

 その様に苦笑しながら応える。

 と、ルルイエさんが口の形だけで「ありがとう」と言って消えて行った。


「……嫌いにならないの?」

 不思議そうに尋ねるマヤ。

「ならないよ? なんで?」

「完全にあっちの都合でユウは振り回されただけじゃない。しかも結果的に無事だったとはいえ怒っても、嫌ってもおかしくないわ」


 言われてみると……そう、なのかな?

「うーん……でも、そのお陰で『セカンドアース』のNPCノンプレイヤーキャラクターの皆と仲良くなれた気がするし、悪い事ばかりじゃなかったと思う」


 それにNPCノンプレイヤーキャラクターの皆が元々同じ地球人だったと知ったら、その気持ちは一層強くなった気がするし、教えて貰えて良かったと思う。


「そう……ユウが良いならいいわ」


 それでマヤは納得したのか、再び階段を上り始めた。僕も急いでそれに続く。

 そうして輝く出口から飛び出し、僕の視界は一瞬真っ白に埋め尽くされた。




「おかえりユウっ! 遅かったなっ!」

 視界が元に戻った時、最初に声をかけてきたのはクロノさんだった。

 周りを見渡すと他の皆ももう揃っている。場所は最初にダンジョンに突入した『扉』のあった小部屋だった。


「うん、遅くなってごめん」

「いやいいけどよっ! 報酬に悩んでたのか?」

 テンション高めなクロノさんの問いかけに首を振った。

「そういう訳じゃなくて、ちょっと『白の使徒』さんに『セカンドアース』の――」


 その瞬間、世界の色が無くなったような、ノイズが走る感覚を覚えた。


「……?」

「すまん、ユウ、よく聞こえなかった」

「あ、うん。えっと、ごめん、悩んで時間かかっちゃった」

「そっか、そうだよなぁ! 俺もスゲー悩んだしなぁ」

 そう言って笑うクロノさん。


 多分『今』のが池田さんやルルイエさんが言っていた『言えない事』の制限で、それでも無理に言おうとすると弾かれちゃう状態だったんだと思う。

 ちらりと横を見るとマヤが物凄く怖い顔で僕を睨んでた。

 その視線が『喋る内容に気をつけろ』と物語っている。

 『今のはうっかりで、今後はちゃんと気をつけるよ!』と視線で応えるが、疑わしそうな目で見られた。心外だ。


「俺は固有スキル3つを統合して貰ったんだ。『無双(オーバーオーラ)』って新スキルになったぜ。単体性能でも前の3つより強化されてるようだし、スキル枠も2つ空いたし、ついでに特別にって事で『固有スキル』のマイナスポイントまで帰ってきて最高だっ! ありがとうよ、ユウ!」


 な、なんと!? 僕がただ池田さんの話を聞いている間にクロノさんはそんな凄いスキルをっ!?


「おいおい、それじゃ今までと大差ねーんじゃないか? 俺が貰ったのはコレよっ!」

 そう言ってテルさんが取り出したのは真っ赤な弓だった。全体的に淡く魔法の輝きで包まれている。

「へぇ、武器か」

「おうよ! 今までの3倍以上の攻撃力に命中ボーナス、アーツボーナス、しかも通常矢なら無限装填で弓自体も破壊不可だぜ?」


 嬉しそうに性能を語るテルさん。

 て、テルさんはそんなすごい武器を貰ったの?


 ちらりとアンクルさんを見ると、

「私も固有スキルを頂きました。『先見(プレコグ)』の上位スキル『神眼(ゴッドアイ)』をいただきました」

 とやはり嬉しそうに言っていた。

 他の皆もスキルや装備を貰っている。


 ぼ、僕は結局何も貰ってないのに……。

 や、やり直しってできないんだろうか?


 そう思っていると物凄い勢いで階段を駆け下りる足音が聞こえた。

 階段の方を見るとシルフィードさんが飛び出してきた。


「ユウっ! 帰ってきたのかっ!」

 転がるように僕の所に飛び出してくる。

「あ、うん、シルフィードさん、なんとか戻って来れたよ」

「怪我はっ!? 無事かい!?」

「も、勿論。全員無事だよ」


 両手を広げてぴょんぴょん跳ねて無事をアピールすると、シルフィードさんが大きく息を吐いた。

「よかった……」


 高難度のダンジョンって話だったし実際何度も危なかった。随分と心配をかけてしまったようだ。

 シルフィードさんも元は同じ地球人で、その時どんな人だったのかとかはわからないけど、今はこの国の王女様で、なのに僕なんかを気にかけてくれている。


 縁は異なものって言うけど、ちょっと不思議な感じだ。

 でも、それを知る事が出来たんだから、すごいスキルや装備が貰えなかったけど、やっぱり良かった……のかな?


「ん? なんだいユウ、私の顔を見つめて」

 僕の視線に気付いたシルフィードさんがちょっと首を傾げて僕を見た。

「あ、な、なんでもないよ! ……ただいま、シルフィードさん」

「ああ、おかえりユウ」

 そう言ってシルフィードさんが微笑む。


「はい、そこまでよ」

 と、突然マヤに引っ張られてシルフィードさんと離されてしまった。

 一瞬マヤとシルフィードさんの間で火花が飛んだような錯覚を覚える。


「……まぁいいか。どうやらまだ皆元気があるようだし、ユウ達のダンジョンクリアを祝って食事の準備をしてあるんだ。皆、食べて行ってほしい」

「ぃやったー! さっすが王子様っ! わかってる!」

 歓声を上げるテルさん。他の皆も嬉しそうにしている。


「ありがとうございますっ! シルフィードさん」

「このダンジョンをクリアした者はこの国では特別だからね、これ位は当然さ。さぁ行こう」


 そう言って僕の手を引くシルフィードさんに連れられて僕達は小部屋を後にした。




 通された部屋にはご馳走が並び、テルさんとクロノさんが我先にと料理に飛びつく。

 アンクルさんが苦言を呈していたけど、シルフィードさんが「城内とはいえ、身内だけの食事だから」と言った事から一気に宴会へと加速していった。

 お酒をガンガン飲むコテツさんとサラサラさん、料理を空にしていくノワールさんとグラスさん、スイーツを物色するホノカちゃんとリリンさん。マヤは何故か常時僕の隣に居た。

 更に酔いが回って踊り出すシャーリーさん。僕も歌ったり、シルフィードさんが演奏を始めたりと盛り上がる。

 盛り上がりすぎてアニーさんやマージャさん、更にはいつの間にかルルイエさんまで居て、更にルルイエさんが連れて来たというソニアさんやタニアちゃんまで居て大盛り上がりになっていた。


 食べて、飲んで、歌って、踊って、まだお昼過ぎでダンジョンをクリアした直後なのに皆全力で楽しみ、日が沈んでも僕達の宴会は続く。


 その中で『プレイヤー』も『NPCノンプレイヤーキャラクター』も変わりなく笑っていて、その楽しそうな姿を見つめながら、僕は気持ちよく睡魔に身を任せて目を瞑った。







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