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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
最終章 誰が為の世界。
196/211

第190話 事の始まり。

「まず……改めて、ユウ君が『セカンドアース』に囚われてしまった事は我々のせいだ。本当に申し訳ない」

 池田さんはそう言って深く頭を下げる。


「まぁ、そうでしょうね」

 当然のように頷くマヤ。

「マヤは知ってたの?」

 あまりにマヤが平然としていたので不思議になって尋ねる。知ってたんなら教えてくれたって良かったのに。


「知らないわよ。でも推測は立つでしょ? ログアウト不能に痛覚の発生、そんなのMMOで部外者がおいそれと出来る物じゃないわ。それでも部外者がしているのだとしたら、私が運営に報告した時点で何かしらのリアクションがなければおかしいし、そういうのも一切無かった。

 更におじさまとおばさまが『セカンドアース』を調べると仰った直後にアメリカの『セカンドアース』本社に向かった事。おばさま達は何も説明もしてくれなかったけど、何かあったと思うのが普通じゃない?」


 た、確かにそうなのかな? 父さん達が渡米した事は聞いていたけど、そういう事だったんだ。


「それで、そもそもログアウト不能だけじゃなく何でユウが行方不明になったかも説明してくれるんでしょう?」

「ああ、勿論だ。このVRマシン自体がそもそもウチの会社が開発した物なんだが……」

 マヤの問いに答えながら池田さんが空間に手を添えると、その手の上にVRマシンが飛び出してくる。僕にとっては何ヶ月か前に一度だけ見たあの懐かしいVRマシンだ。


「これにはあるセキュリティが仕込まれていてね。脳波を測定してプレイヤーが昏睡した場合、すぐにウチの病院に連絡が行くようになっているんだ。それでユウ君のVRマシンからの信号を受けてウチのスタッフが急遽向かい、入院する運びとなった」


 ? それだと僕はむしろ池田さん達に助けて貰ったように聞こえるけど……


「『入院』がどうして『行方不明』になるのかしら? そもそも当時ユウの家はユウしか居なかった筈なのにどうやって侵入したの?」

「勿論最悪のケースを想定して、かなり無茶をしているよ。それこそ警察に厄介になるような事もね。もっとも、上の方で警察とは話が付いてるからすぐどうこうという事はないけど……っと、話がズレたね。

 『行方不明』の原因は一言でいえば、こいつのせいだ」


 そう言ってテレスさんの首根っこを掴んで前に出す池田さん。

「勿論本来はすぐにご両親に連絡して、話をするべき所をテレスが情報を隠匿して独自調査をしていたせいでこっちまで情報が来るのが遅れたんだ」

「い、いや、しかし『本物』かどうかの確認をしなければ意味が無かろう!? 過去に何人も『違った』訳だしひぃっ!?」


 テレスさんが何か必死で弁解してる所にマヤが一歩踏み出し、その殺気に当てられてテレスさんが言葉を失う。

「そう、貴女がユウを連れ去った主犯なんだ。……簡単に死ねると思わないでね」

「ちょっ!? ゲーム内とはいえ、そ、そんな、は、話し合おうじゃなひぎゃっ!」


 震えながらマヤに弁明するテレスさんの頭上に拳骨が落ちる。

 殴ったのはマヤではなく池田さんだった。


「まぁこいつの言う通りゲーム内でどれだけ殴った所で本体にダメージがある訳じゃないですし、こいつへの折檻はリアルで逢った時にしてください」

「……それもそうね。まだ聞く事もあるしね」

「それってむしろ状況悪化してない!? 私の生命のピンチだよ!?」

「ユウ君とそのご両親、そしてマヤ君や学友達が感じたであろう不安や心配はそれ以上だったでしょう。自業自得です」

「そんなっ! 私はまだ死ねないのにっ!」

「まぁ、その女への制裁は後日にするとして、……『行方不明』が彼女の独断だとしても、それ以外の部分は貴方達も無関係じゃないんでしょ?」

 騒ぐテレスさんを無視するようにマヤは池田さんを睨んで言う。


「察しが良くて助かります」

 池田さんはそんなマヤに笑みを浮かべて答えた。

「手際が良すぎるのよ。そもそも昏倒する事を折り込み済みで作られているとしか思えないVRマシンと救護システムにしか聞こえないわ」

「その通りです。と言っても今のところ発生率は約50万分の2と言った所ですから交通事故の方が可能性が高いでしょうが」


 そう言った所でマヤが剣を抜いて池田さんの眼前に突きつけた。

「だからユウが昏倒したのは仕方ない、とでも言う気? 全部貴方達の都合でしょう! 交通事故より少ないからと危険を放置して良い理由にならないわっ!」

「ま、マヤっ、落ち着いてっ!」


 慌ててマヤを抑える。僕なんかの力でマヤを本気で止められる訳はないのだけど、正直見た目普通の日本の事務室みたいな場所で長剣突きつけるとか怖すぎる。

 そもそもそんな部屋で鎧やローブを着てる時点で少しコスプレっぽい部分はあるのだけど。


「いやユウ君、彼女の言う通りだよ。全てこちらの都合でユウ君を巻き込んでしまったんだ。申し訳ない。……それでも話を聞いて貰えないだろうか?」


 ちらりとマヤを見る、とマヤも暫し逡巡した後、長剣を鞘に収める。

「ありがとう」

 そう言って池田さんは再び頭を下げた。




「そもそもVRマシンと『セカンドアース』は長期入院患者や運動が出来ない人達の為に作った物なんだ」

 僕達が一端落ち着いた頃に池田さんはそう語り始めた。


「医療用……という事ですか?」

「そうだね、どちらかといえば精神的なケアが主目的だけど。もう一度野を駆け回りたい、一度で良いから身体の事を気にせず動き回りたい、そういう患者達の心を救うシステムを作ったんだ」


 そっか……確かにVRマシンって脳波を読み取って動かしてる訳で、実際に手足が必要尾な訳じゃないし、身体に不調があってもゲームの中でならそういう事も可能なのかも知れない。


 僕は入院した事がないから本当の所は分からないけど、でももし一生もう運動できないとか、歩けないって事になったらどれ位辛い事なんだろう。そして一度無理だと言われた事がこのゲームで出来るようになるのなら、ソレって本当にすごい事な気がする。


「池田さん、すごいですっ!」

「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」

 僕の賞賛の声に笑顔で頭をかく池田さん。


「でも1人の天才が更に一歩推し進めた計画を立ち上げた。それが『セカンドアース』計画だったんだ」

「セカンドアース計画?」

 名前からしてこのゲームの事だと思うけど……今の話でも十分すごいと思ったのに更に進めるってなんだろう?


「その天才は、VRマシンの世界で元気に走り回る患者達が、それでも現実の病気で弱って、そして死んでいく事実が許せなかったんだ。バーチャル世界では元気に走り回っているのに、現実ではもうベッドから起き上がる事も出来ず、そして死んでいく人達。

 それを見送る事が出来ない自分の無力さに、病気を治す事が出来ない自分に何か出来ないかと考えた」


 それも……わかる気がする。

 僕も『セカンドアース』に来て何人もの人と知り合って、仲良くなったりしたけど……その人達が実際にどういう人なのかを全て知っている訳じゃない。

 もし親しくしてくれた人達が大病を患っていたら、ある日突然ログイン出来なくなったら、やっぱり心配するし昨日まで笑っていた筈なのに今日亡くなったと聞かされたら、自分には何も出来なかったんじゃないかと、もっと出来た事はあったんじゃないかと落ち込む気がする。


 その人は、「そんな事ない」って、「普段通りに居てくれたから嬉しかった」って言ってくれるかもしれないけど、それでももっとやり方があったんじゃないかと思ってしまう。

 勿論そんな事に答えなんて無いけど、大事な人だからこそ考えてしまうと思う。


 それを何人も、何十人も見送っていたら、僕だったら耐えられるかわからない。


「彼は考えた。未練を残し死んでいく者達にもう一度『人生』をプレゼントする事は出来ないか? 新しい世界で、元気な身体で、0からの生活をやり直させる事はできないか?

 そうして完成したのが『セカンドアース』という訳なんだ」


 その天才さんの考えには共感していたけど、池田さんの説明が突然とんでもない所に言って一瞬思考が停止した。え? もう一度人生をやりなおす? 『セカンドアース』で?


「って、それってつまり転生って事ですかっ!?」

「そうとも言えるね」

「それも『セカンドアース』にって事は異世界に転生!?」

「うーん……そうとも言えるけど……」

 僕の問いに肯定しながらも何やら考え込む池田さん。


 いやでもソレってすごい事どころじゃないんじゃないか!?

 あれ? って事はもしかしてソニアさんやタニアちゃん、シルフィードさんって異世界の人?!


「ユウ、そんな与太話を簡単に信じてどうするのよ。異世界も転生も本当にあるのならこんなゲーム1つの中だけの話じゃなくもっと大きな話になってる筈よ」

 興奮して立ち上がった僕に池田さんではなくマヤがバッサリと否定した。

「マヤは夢がなさ過ぎるよっ!?」

「ユウが夢を見すぎているのよ。もっと現実を見なさい」

 そう言われて再び椅子に座り直す。


 でもマヤに言われて考えてみれば確かにそうだ。本当に異世界があって、そこに転生出来るのならゲームの中で済む話じゃない気がする。

 話があまりに漫画や小説みたいだったから少し興奮してしまった。

 ちらりと池田さんを見ると苦笑を浮かべていた。ちょっと恥ずかしい。


「マヤ君の言う方も近いかな。でもユウ君の言ってる事も間違っていない。これは解釈次第でどちらにも取れる話だからなんだ。

 だからユウ君に聞きたい。そもそも転生……『生きている』って何だろう?」


 マヤのお陰で少し落ち着き冷静に自分が見えて赤くなっていた僕に、池田さんが哲学的な問いかけをしてきた。


 





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