第187話 舞い踊り歌い叫び戦う。
爪、牙、尾が波のようにその場に居たコテツさん、アンクルさん、リリンさん、サラサラさん、マヤを襲い、吹き飛ばす。流石にアンクルさんでも面制圧のように襲って来た攻撃は回避出来ず、盾を持っても防ぎきれなかったようだ。
一瞬早く気付いたクロノさんだけが攻撃を弾いて飛び退く。
「み、みんなっ! 広域高位|治癒《ヒー……」
「ユウさんっ! 『防護印』っ!」
僕が『治癒』を唱えようとした瞬間、グラスさんの指示が飛んだ。
同時にクロノさんに向かって最古真龍の鱗が射出される。
「っ! 高位防護印っ!」
「うおおおっっっっ!?」
体勢を崩していたクロノさんに射出された鱗は『防護印』に弾かれるも、その衝撃でクロノさん自身も地面に転がる。
他の皆にも改めて『広域高位治癒』を唱える。皆満身創痍だったけど、なんとか誰も死ぬ事はなかった。
「っぶねー。そんな攻撃もあるのかよ」
だが何とかダメージ自体は無かったようですぐクロノさんもすぐ起き上がった。
全員助かったとはいえ、変えざるを得なかった。
あの鱗攻撃が後衛に飛んできたら僕達じゃ『防護印』がかかっていても即死しかねない。
だからマヤとサラサラさん、リリンさんが中距離に下がって僕達の防御に付き、前衛がクロノさん、コテツさん、アンクルさんのみとなった。
当然前衛の防御力が下がるし、又あの回転攻撃を受けたら危ないから、どうしても攻撃を当てにくくなってるけどそれはもう仕方ない。
もう少しで倒せると思った所残念だけどグラスさんは持久戦を選択した。
「シャーリーさんっ! 『舞』をお願いしますっ!」
と、そこでグラスさんがシャーリーさんに声をかけた。
……舞?
「そーねぇ? それじゃ……やっちゃいましょうかっ!」
そう言いつつシャーリーさんは服を着崩し始めた。
「って、っシャーリーさんっ、何してるのっ!?」
「あら、ユウちゃんはもっと見たいの?」
「み、見るじゃなくて、戦闘中にっ!」
いや、見たいけど。高校生男子として目の前で綺麗なお姉さんが胸も太股もギリギリまで晒してる姿は扇情的だけどもっ!
そう思っているとシャーリーさんは蠱惑的に微笑んで、そのまま最初はゆっくりと、そしてどんどん激しく、踊り始めた。
足踏みがタップのようにリズムを刻み、キレのある動作で動き、止まり、全身をバネのようにして飛び上がる。
その度に汗が反射して輝き、健康的であり、蠱惑的な踊りは更に深度を深めていく。
シャーリーさんが一体何を始めたのか、それはすぐに結果として表れた。
「よっしゃぁっ! キタキター!」
「これは……なるほど」
「すげーな、こりゃっ! ユウの神聖魔法受けた時に並ぶんじゃねーか?」
同時にクロノさん、アンクルさん、コテツさんが驚きの声を上げる。
見ると3人の動きが目に見えて速くなり、又力強くなっていたのだ。
激しく舞い踊るシャーリーさん、それに合わせてクロノさんもアンクルさんもコテツさんも激しく動き、最古真龍の攻撃を回避し、有効打を与えている。
「えっと……これってもしかして……」
「はい、シャーリーさんの『舞』の力です」
グラスさんがほっとしたような顔をして呟いた。
確かに3人で前衛を支えるのが苦しそうだったのにシャーリーさんが踊り出してから拮抗し、むしろ押してる場面すら出てきた。これがシャーリーさんの力なら本当にすごいスキルだ。
「けど……ここまで一度も使ってなかったような?」
何だかんだで60層から10層おきのボス層は結構大変だったし、魔神戦なんて使ってくれたらもっと楽に戦えたような気がする。
……出し惜しみとかしてたんだろうか?
「あぁ、それは…………あの『舞』はスキルですが、プレイヤー自身の精神状態と、アバター操作によって効果を発揮する難易度の高いスキルで……」
「という事はただアーツみたいに使えないの?」
「使えなくはないのですが、効果が激しく落ちるんですよ。今回みたいな必殺の威力にするには、条件があるんです」
「条件?」
鸚鵡返しに尋ねると、グラスさんは大きくため息をついた。
「『絶体絶命のピンチ』に、『シャーリーさんがノリノリである』事。……でないとあの効果が出ないんですよ」
本当に困ったと言う風に呟くグラスさん。
あの着衣を着崩すのも、ノリでやってるだけで本来はスキルの効果に関係ないらしい。
「イェーイッ! もっとイくわよぉーっっ!」
「おおおーっっっ!」
さらに激しさを増すシャーリーさんの踊りにクロノさんの雄叫びが答える。
確かにグラスさんの苦労もわかる気がした。
「グルァアアアアアッッ」
その瞬間、最古真龍が大きな口をあけてクロノさんに襲いかかった。
「イヤァァァァホォォォッッッッッ!!!」
しかしクロノさんは大剣でその牙を受け止める。……なんだかクロノさんまでノリノリなような。
「しかもあの『舞』は近接戦闘能力を引き上げる代わりに、ちょっと『高揚』してしまうんですよね。それで隙が大きくなったりする訳ではないんですが」
確かになんだかクロノさんがなんだか狂戦士みたいだった。
まぁ雄叫びや表情以前に、ドラゴンの巨大な顎を大剣で受け止める時点で十分人間超えてる気がするけど。
と、牙を止められた最古真龍の口が赤く輝き出す。
「っ! 又ブレス!? 広域高位霊護印っ!!」
「大口開けてんなよなっ!!」
ファイアブレスが噴き出される前にクロノさんはくるりと回転し、その勢いに乗せて大剣が最古真龍の鼻先を叩き付け、顎を閉じさせた。
同時に最古真龍の口内で爆発が起こる。
「さあっ! まだまだ踊る輪よっ! ユウちゃんっ! コーラスお願いっ!」
「こ、コーラス!?」
汗を煌めかせながら色っぽい笑顔でシャーリーさんが声をかけてきた。
「コーラスって、何をすれば」
「そんなのリズムに合わせてノリで適当で良いからっ! ハリハリーっ!」
踊りながら手を叩くシャーリーさん。
ちらりとグラスさんを見ると困ったような顔で頷いた。
ノリって何を歌えば良いのかな?
シャーリーさんのリズム……タンタンタッ、タンタンタッ………
思いつくのが1つしかなかった。ちょっとテンポが早いけど……出来るかな?
シャーリーさんの踊りに合わせて歌い始める。クロノさんやアンクルさんが負けないように、立ち上がれるように、応援する歌を歌う。
突然歌い出した僕にクロノさん達は少しびっくりしたように見えたけど、でもすぐに戦闘に集中していく。よかった、邪魔になっている訳じゃないっぽい。
最古真龍の攻撃も激しさを増し、牙で、爪で、更に尾や鱗でまで攻撃をしてくるけどクロノさん達は避け、攻撃を加える。
「こんな乗せられちゃ、格好悪い所は見せられないからねぇっ!」
そう言いつつ斧を振り回し右後ろ足を斬り付けるコテツさん。
「ユウ様が見ていらしてっ! 応援歌まで歌っていただいてっ! 無様な真似など見せられませんっ!!」
そう言って鱗の隙間にフランベルジュを突き刺しては離れるアンクルさん。
「ドーッ! ラーッ! ゴーッッ! ンーーーッっっ!!」
もう完全狂戦士状態で雄叫びを上げながら最古真龍の顎と激突するクロノさん。
「「「ロックユーッッッ!!!」」」
全員の叫びが重なり、クロノさんが最古真龍の一際大きな牙をへし折った時、最古真龍は膝をついた。
「一気に決めますっ! ホノカさん! 大爆火球をっ!」
「え? 火でいいの?」
「よろしくお願いしますっ!」
グラスさんの指示に一瞬戸惑うも直ぐに頷いて魔法アーツを唱える。
「大爆火球っっ!!」
発動と同時に距離を取るクロノさん達。同時に最古真龍がホノカちゃんが撃ち出した業火に包まれた。
その威力は折り紙付きとはいえ、『大爆火球』が消えた後も最古真龍は健在でこちらを睨んでいる。
やはり炎自体を吐き出す最古真龍は火に耐性が高いのだろうか?
「勿論織り込み済みです。大爆氷球!」
火球が収まったタイミングで今度はグラスさんが魔法を撃ち出す。
「ギ、ギグルアァァアアアアアアアッッ!?」
その瞬間最古真龍がこれまでにないレベルの絶叫を上げた。
さっきも『大爆氷球』でダメージを与えていたとはいえ、桁違いだ。それに今回は『大爆雷球』も使ってないのに。
見ると最古真龍の全身が黒く染まり、所々ひび割れている。
「ご自慢の鱗は随分硬いようでしたし、上手く行ったようですね。これで貴方を守る鎧は無くなりました。……一気に畳み掛けてくださいっ!」
グラスさんの指示で皆一気に動く。
テルさんとノワールさんの矢が降り注ぎ、その隙間を縫ってグラスさん達が斬り付ける。
最古真龍も身を守る鱗がボロボロになり、両足を傷つけられて動けなくても
爪や牙で応戦し、火花が散る。
「その翼は、邪魔です」
足を止められてその場から動けない最古真龍の身体を駆け上り、爪をかいくぐって背中に辿り着いたアンクルさんは既にボロボロになっている両翼を完全に切り裂いた。
「ガアアアアッッ!!」
反射的に最古真龍は身体を揺すりアンクルさんを振り落とそうとするが、その前にアンクルさんは飛び退く。
「良くやったっ!コレで狙えるぜっ! 「「一点突破っ!」」
テルさんの叫びと同時にノワールさんもアーツを撃ち込み、最古真龍の両目に2人の矢が突き刺さる。
「ギャアアアアアアッッ!」
視界を奪われて大きく尾を振る最古真龍。
「まだまだぁっ! デカブツ殺るのは斧職の仕事っ! ってねっ!! 大戦嵐っっ!」
コテツさんが嵐のように斧を振り回し、暴れる最古真龍の尾に何度も叩き付けて切り落とす。
「ギャグオオオオオオォォォォォォォォッッッッ!!」
「これで終わりだっ!ゼロ距離っ! 闘気突撃ぃぃぃぃっっっっっっ!!!」
最後の気力を振り絞ってクロノさんに牙を剥く最古真龍とクロノさんのオーラが激突して一際大きな閃光が走る。
クロノさんの大剣によって最古真龍の顎が割れ、喉元にその巨大な刃が突き刺さった。
何を歌っていたかは秘密です。




