第18話 新しい相棒。
昨日大変だったし僕の愛刀鬼切丸も無くなったから、今日はモンスター狩りはお休みという事になった。
マヤは昨日の事後処理も含めて忙しいとの事でログインしていない。ログアウトする直前に、
「絶対に町の外にでちゃダメだからね? 絶対だからね?!」
と、念をこれでもかと押された。どれだけ僕はマヤに信用がないんだろうか?
さすがに僕だって武器なしで外に出るような事はしないよ。せめて体術系のスキルか攻撃魔法があればなぁ……。
かといって何もしないからとホテルに閉じこもってるのもアレだし、ブランチのついでに街に出て、そのままなんとなく冒険者ギルドに足を向ける。
べ、べつにクエストを受けようとか、レベル5になったんだしゼリースライム位ならなんとかなるんじゃないかとか思ってる訳じゃないんだからねっ!?
「ユウさん!いらっしゃいませっ!!」
冒険者ギルドに入って来た僕に、笑顔でトテトテと近づいてくる僕より小さな少女が一人。
「おはよう、タニアちゃん。こんにちはかな? 今日はソニアさんにお使いか何か?」
「いえ!マヤさんに今日はユウさん一日お休みだそうなので、一緒に居てほしいと言われました!!」
マヤはどこまで僕を信用してないんだっ!? というかこんな子供にそんな事を頼むとか用意周到すぎじゃなかろうか?
いや待て、そもそも僕が今日冒険者ギルドに来たのはたまたまな筈なのに何でマヤにバレてるんだっ!? エスパーか!?
「えと…ごめんなさい、迷惑……だったですか?」
フリーズした僕を心配そうに見上げて、目をうるうるさせたタニアちゃんが呟いた。耳と尻尾がぺたんと垂れてしまっている。
いけない、悪いのはマヤなのにこんな可愛いタニアちゃんの表情を曇らせるとか、高校生男子のやる事じゃない!!
「大丈夫だよ。マヤから聞いてなかったからびっくりしただけ。タニアちゃんみたいな可愛い子と一緒に居られるなら大歓迎!」
にこっと微笑みかけながら伝えると、物凄い勢いで振られる尻尾。耳もぱたぱたして先刻までのションボリが嘘のようだ。
うん、やっぱりタニアちゃんは笑顔の方が可愛いな!
ソニアさんと姉妹なんだから当然笑顔も似てるんだけど、ソニアさんが見ていて癒される笑顔なのにタニアちゃんは見てて元気を貰える笑顔だ。
僕はロリコンじゃないけどタニアちゃんが可愛いのは間違いないっ!
その後、一応クエスト掲示板を確認するも、昨日と代わり映えのしない内容だった。代わり映えしてたらソレはソレで困るんだけど。
あ、あの三人組の手配書にチェック済みのマークが入ってる。もう捕まったかどうにかなったのかな?
セカンドアースって変にリアルというか、信賞必罰というか、PKがダメっていうよりPKをする人の責任が問われるゲームなんだろうな。
システムでPKを禁止してるんじゃなくて、行動の結果にペナルティがある訳だし。
ボクも気をつけよう、うん。
クエスト掲示板に目新しい情報もなく、冒険者ギルド自体にも特に用事はなかったのでそのまま昼食に行く事にした。
と言っても特定のお店に入るのではなく、露天をぶらぶらしながら目に付いた物を食べるスタイル。
ふっふっふ、数日前にはマヤにお金を借りて食べていた僕とは違う。……今も借金はまったく減ってないけど……そういえばアレって利子ついてるんだろうか?確認してないのが怖い。
それはさておき、今は酒場での歌唱代は勿論、この二日、討伐クエストで貯めた150Eがある!!
これだけあれば二人分の昼食代はなんとかなるはず!!
とりあえず初日にも食べた肉串を2本注文し、一本づつ食べる。
最初タニアちゃんは遠慮してたけど拝み倒したら受け取ってもらえた。今は嬉しそうに頬張っている。
「タニアちゃん、美味しい?」
「はふぃ!!」
「あぁ、無理に声に出さなくてもいいから、ゆっくり食べて」
モガモガと必死に答えようとしたタニアちゃんを制して、その様を眺める。子供がご飯を美味しそうに食べる姿は良いなぁ。
僕も一口……うん、おいひぃ……。
二人並んで肉串を堪能していたら店主のおっちゃんが今日も2本オマケしてくれた。買った本数と同じだけど良いんだろうか?
こんなオマケばかりしてて、このお店の経営状況が心配だ。気に入ってるから潰れて貰っちゃ困るんだけどなぁ……。
その後もたこ焼き、クレープ、ベーコンエピ、たい焼き、フライドチキン、アイスココア、と堪能し、350E程消えてなくなった。
タニアちゃんの小さなお腹のどこに収まっているのか謎だ。これが獣人の底力なのか? そういえばパーティーの時ソニアさんも結構食べてたかもしれない。
コテツさんの飲みっぷりと絡み上戸に押されて良く覚えてないけど。
しかし予定より出費が増えてるのはいただけない。
可愛い女の子にご馳走しただけだから使った事自体に悔いは無いけど、それとこれとは別問題。なんとかしないと……あ、そうだ!!
「生産者ギルドに行きたいんだけど、タニアちゃん一緒に来てくれるかな?昨日採れた素材を売っちゃいたいんだけど……」
「んぐ……ごくん……っはい! わかりました!! こっちです!」
僕の手を握り引っ張ってくれるタニアちゃん。
そういえばタニアちゃんは生産者ギルドで素材採取クエストとかやってるんだっけ。街の事も当然僕より詳しいし、ある意味街を散策するのに一番のパートナーだったのかもしれない。
場所はすぐにわかった。ソニアさんに教えて貰っていた通り、冒険者ギルドの向かいに槌と穂のマークの看板が出ている。
ちなみに冒険者ギルドは剣のマーク、商人ギルドはEの文字が入った袋のマーク。わかりやすい。
「おじさん、こんにちわー!!」
元気良く生産者ギルドに入っていくタニアちゃん。と引っ張られていく僕。
「よう! タニアちゃん、もう薬草集めてきてくれたのかい? ……と、そちらの別嬪さんは?」
カウンターに暇そうに座ってたごっついスキンヘッドのオッサンがタニアちゃんを見て相好を崩し、気さくに応える。
というか、別嬪さんて。誰の事だ、誰のっ!!
しかし冒険者ギルドの受付はきれいなお姉さんだったのに、生産者ギルドはオッサンなんだなぁ。それに一人しか居ないし。
無骨といえば聞こえが良いんだろうか?普通の人が見たら逃げ出しそうな外見だ。例えるなら歴戦の巨大熊だ。
「今日はお客さんを連れてきたんだよ! 素材の買取をお願いしたいんだって!!」
そう言ってタニアちゃんにカウンターの前に押し出されてしまった。
「あ、えっと…ハジメマシテ、ユウとモウシマス」
「シドだ、よろしくな」
緊張してカタコトになってしまった。
だってこのオッサン顔怖いし。
なんで生産職だろうオッサンがこんなムキムキでゴツくて怖いんだっ!!
……そういえばコテツさんもそうだった。この世界の生産職ってみんなそうなんだろうか?
「買取……てぇ事はお前ぇさんは冒険者なのかい?」
「ハイ、ソウデス」
タニアちゃんを見る時とは違う値踏みするような目で上から下まで見られる。
だから怖いんだよオッサン! ……とは言えない。言ったら殺されそう。
「もうっ! おじさん、そんな睨んじゃダメでしょ!! ユウさんびっくりしてるじゃないっ!!」
頬をぷっくり膨らませてタニアが僕とオッサンの間に割って入った。
「おお、すまんすまん。流民にも冒険者にも見えなんだから、つい睨んじまった。ユウだったか?許してくれや。」
と笑ってオッサンが頭を掻く。
「で、素材の買取だったな。何を持ってきたんだ?」
そしてやっと本題に入ってくれた。助かった……主に僕の命が。ありがとうタニアちゃん、なんとなく誘っただけだったけど一緒に来て貰って本当に良かった。
「あ、はい、えっと、これです」
アイテムウィンドウから『巨大熊の毛皮』を5個と『巨大熊の爪』12個を取り出す。
『スライムゼラチン』と『巨大熊の肉』は何かに使えそうなので残してある。
カウンターに並べられたそれ等を一瞥して、オッサンは一際厳しい目線になり、
「こりゃお前が殺ったのか?」
と睨まれた。うん、このオッサン絶対視線で人を殺せるよねっ! 正面に居るだけでHPがモリモリ減ってる気がするよ!?
「はい、あ、いえ! その、自分というか、パーティで狩って、僕はその、おこぼれというか、です!」
あぁ情けない。「貰った物です」とか恥ずかしい。
いやこの恐ろしいオッサンだと「自分で狩った訳じゃないだと」とか拳骨貰いそうだ。
……このオッサンの拳骨受けたら一発で死ぬよね!? やばい! どうしよう!? マヤの言った通りちゃんと街中に居るのに突然発生デスフラグっ!?
「私が巨大熊に襲われた所をユウさん達が助けてくれたんだよ!」
「へぇ……そんな事が……」
自慢げに語るタニアちゃんの話を聞きながらオッサンは顎に手を当て、視線が素材と僕とタニアちゃんの上を行き来する。
うん、助けたのはコテツさんとマヤなんだよね、僕は一緒に居ただけで……。
これはもう謝っちゃった方が良いのか!?この状態でこれ以上居たら僕の精神が耐えられないっ!!
「ごっ、ごめ――」
「やるな、ユウ!! 腕の良い冒険者は大歓迎だ!! この素材、どれも一撃で倒してて質も良い。割増で買い取らせて貰うぜ!!」
「へ?」
謝ろうとした矢先、オッサンが嬉しそうに改めて素材を一つ一つ検品し、値段をつけていく。
「えっと……それ、僕が倒した訳じゃないんですが……」
「お前のパーティが倒したんだろ?なら一緒じゃねーか。それにタニアちゃんを助けてくれたんなら尚更だ。ありがとうよ。」
逆に頭を下げられてしまった。そんな一回り以上も年長者に頭を下げられるとか困るよ!?
「いえ! 大丈夫です! 当然の事をしただけですからっ!!」
「そうか! ユウはそういう奴か!!」
そういう奴?
僕がきょとんとしてたのに気づいたのかオッサンは言葉を続ける。
「流民ってのはどうも国民を下に見てるっつーか、同じ人間と見てない奴も少なくないからな。金払いは良いが、お互い微妙に距離があるのが実情なのさ」
あぁー……どうしてもNPCって感覚で接しちゃうプレイヤーが多いって事か……こればっかりはどうしようもないのかなぁ……。
「でもユウさんは違うよ! ユウさんも、パーティの皆さんもすごく私にも優しくしてくれたのっ!!」
自分の事のように嬉しそうにタニアはそう言った。
「そうだな、ユウ、これからもよろしく頼む! ……それで、買取金額だが……毛皮一枚千Eが五枚、爪が一個300Eが12個、合計8千6百Eだが……おまけして9千Eで良いか?」
願っても無い!! 熊すごい! 熊美味しい!!
「ありがとうございますっ!!」
商談が成立し、満面の笑みでお金を受け取った。
なぜかタニアちゃんも物凄く嬉しそうにしていた。
お腹も満たされ、財布も満たされ、隣には妹のように可愛いタニアちゃんが一緒で言う事なしな休日。
その最後を飾るべく、僕は約束の場所に向かう。
「おう! ユウ、来たか! 待ってたぜ」
赤いウルフヘアにはちきれんばかりのタンクトップにカットジーンズが目印、コテツさんの露店だ。
「遅くなってすみません、あちこち行ってて」
「いいって、ユウはまだ初めて間もないんだし、街中の探索も楽しいよな!!」
ニカっと笑うコテツさん。
うん、コテツさんは怖くない。むしろずっと見ていたい。
「それで、お願いしてた武器ですけど……」
「おう! 色々考えたんだけど、やっぱこういうのがユウには一番だと思うんだ」
コテツさんは一本の先端に装飾の付いた1メートル程の棒をアイテムウィンドウから取り出して僕に渡す。
手にとった瞬間、『Lv17治癒の杖』メッセージウィンドウにアイテム名が表示された。
「杖?」
「あぁ、支援効果を高めるタイプの武器だ。が、コレは打撃武器としても使える。魔法師杖よりも耐久力が高めてあるんだ。これまでみたいな打撃武器的な使い方も出来ると思う。」
言われて振り回してみると確かに棍棒というか木刀というか、これまでの使い方でも問題なさそうだ。
本当は鬼切丸二号が欲しかったけど……コテツさんがこっちの方が僕に合ってるというのなら、そうなのかな。なら――
「ありがとうございます!大事に使います!!」
「そっか! 良かった!!」
安心したようにコテツさんが微笑んだ。
武器には問題ないけど最後の懸案事項……
「それで、代金だけど……」
「おお、つい気合入れてレベル17まで鍛えちまったから……まけて3万Eでどうだ?」
「は、はひ! よろしくおねがいしましゅ……」
代金を払いながら心の中で冷や汗が止まらなかった。
良かった! 先に生産者ギルドでアイテム売却しておいて本当に良かった!! 危なかった!!
ともあれ今日は一日タニアちゃんのお陰でリフレッシュ出来たし、コテツさんのお陰で新たな武器を手に入れた!! お金も無くなった!
明日から心機一転、僕の新たな冒険が始まるんだっ!
でもそれは明日からなので今日はタニアちゃんと残りの時間をしっかり楽しんだ。
夕食もタニアちゃんは結構お食べになった。やっぱり獣人はすごいんだろうか?
明日からはがんばらないと……いやマジで、マジで。




