第183話 白使徒語り。
『神のダンジョン』の『鍵』がプレイヤーに渡されたという情報に、ウチら『白の使徒』は少なくない衝撃を与えてた。
それも当然で『神のダンジョン』なんてデータはあってもまだまだプレイヤーが行ける場所やのうて、『鍵』なんて王様が守っとる激レアアイテム。
そんなんぽっと出の冒険者のプレイヤーと接点がある訳もなく、ましてや入手できる訳もない。
やのにユウっちと来たら、ちょいと行方不明になって帰って来たら王様と仲良うなって、最終ダンジョンの侵入フラグ立てるとかどないやの。
そういえばユウっちの行方不明時も苦労したなぁ……肉体にもバイタルデータにも異変はなかったよって、何かのイベントに首突っ込んでるだけとはわかっとったけど、そんなん言える訳もなし。
何処にいるかわからへんのはウチらも同じやから表に裏に必死に探し回って、そしたら王城でドレス着ててどないやねんと。
シルフィード殿下に助けられたっちゅう事やったらしいし、確かにシルフィード殿下とユウっちは転職祭で仲良うしてたんは知ってた訳やけど、「王城で王子の奴隷になってドレス着てました」なんてマヤっちに言おうもんなら誤解して王族とプレイヤーの戦争にまで発展しかねんかったし、どう説明したもんかと頭悩ましてたら、シルフィード殿下の方から上手い事説明してくれて助かったんやったなぁ……。
あん時も徹夜続きで辛かった……ほんま辛かった……。
まぁそれはともかく、やっとユウっちが帰ってきて、ウチものんびり出来ると思ったら次は『神のダンジョン』にプレイヤーが挑戦とか。
そら『神のダンジョン』は『白の使徒』の仕事に最初から含まれとるけど、そんなんいきなり来ると思わんやん?
しかもいくら元々決められた難易度設定値の中からモンスター群選択するだけ言うても、イベント階層以外の設定全部ウチに丸投げするし。
ウチとしたらそらユウっちにはクリアして貰いたいけど、設定値自体は弄れへんから如何にユウっち達が良い感じに攻略出来て、かつ先輩のOK貰うんは苦労した。
『銀の翼』や『悠久』が参加してなかったら「絶対行かん方がええ」と縛り付けてでも止めてたかも知れんけど。
やからウチの会心の調整したダンジョンにユウっち達が挑むんは苦労が実る瞬間やから、それはそれで楽しみやった。
そう思う時期がウチにもありました。
アレやね。『悠久』や『銀の翼』、あと『白薔薇騎士団』もついでに『スターダスター』も。あいつ等全員チートやね。
なんなん!? ウチが必死に考えたモンスターの配置をっ! ただただスキルとアーツでゴリ押しって!!
いや、ウチかて別に全滅させる気はないよ!? せやけどせっかく作った巨大迷路を壁を壊して真っ直ぐスタートからゴールまで進んでいくようなプレイはどうなん!? 制作者の気持ち汲んでくれてないんちゃうっ!?
ああっ! 火山狼、森狼、湖狼、岩石狼、砂漠狼の狼戦隊ウルフンジャーマップをそんな適当にっ!
ドキ! 丸ごとモンスターだらけの植物天国に至っては入った段階から大火球で燃やし尽くしてるしっ!
ユウっちのスキルの事忘れてたウチが悪いんやろうけど、いくら何でも酷すぎる。
『神のダンジョン』はアイテムウィンドウの使用不可で力押ししてたら、AP枯渇して後が辛くなるんが基本調整やのに、そこをユウっちのスキルでクリアしたからてそんなご無体な。
まぁ、制作者としては忸怩たる思いはあるけど、無事に済むならそれが一番エエんかなぁ。どうせ一度設定してプレイヤーが挑戦した後は設定変えたり出来へんし。……制作者としては忸怩たる思いがあるけど。
そう思いつつ画面を眺めてたら先輩がやってきた。
「そろそろ『ユウ』君が60層に到達するんだろ? 『白の使徒』エリアの準備は大丈夫か?」
「モチのロンですよ! ふはははは、矮小なる人間共に我等の力をミセツケマショー」
「……気持ちはわかるが『白の使徒』は魔王じゃなくて神の使いって設定だぞ?」
「勿論わかってマスよ?」
疑わしそうな目線の先輩を無視してウチは『神の使徒』として60層へと向かった。
「ようこそ! 勇者の皆様! 60層到達おめでとうございますっ! これより先の階層の説明をお聞きになりますか?」
スポットライトを浴びて呆然とするユウっち達の前で説明を済ますウチ。
さっきは「もうデータ弄れへん」と言うたけど、ここからは少し違う。
正確には60層から10層毎に『白の使徒』エリアというまだモンスターデータが決まっていないエリアが存在してる。
ここに挑戦者が到達した時点で、これまでの戦績から自動で選出された一覧からモンスターを『白の使徒』が選んで、難易度を調整する事になる。
勿論折角『プレイヤー』の前に出られる数少ないチャンス。それも罰則とかやなくてイベントでルール説明とはいえ会話出来るなんて貴重な事やから勿論ウチも参加させて貰ろた。
ユウっち達に説明と注意をしながら、ウィンドウでどのモンスターを呼ぶか悩む。
流石に『神のダンジョン』の60層、リストには聖獣、精霊、魔神、天使、魔竜と難易度の高いモンスターが並ぶ。
出来れば誰も死なずにクリアして欲しいし、前もって作ったデータならまだしも、目の前でウチが選択したモンスターのせいで脱落者が出る言うんも後味が悪い。
……そんな事言うてたら『白の使徒』なんて出来へんのやろうし、そんなん先輩にバレたらどやされるんやろうけど、こればかりは仕方ない。
そうして頭を悩ませていたら、最後に何故か『大量のスライム』という意味不明な項目があった。
説明を読むと……ウチにピッタリやった。
結果は大成功。つーか60層で消耗品を破壊するモンスタートラップって何なんやろね。作った人は性格わるいわー。
ユウっち等やからHPAP回復アイテム無くすだけやったけど、普通の挑戦者が長い時間かけて到達した60層で消耗品無くしたら、空腹的に詰むんちゃうかな?
でもユウっちのパンがダメになっていくんが勿体なくて捨てられていく食糧が辛いのは誤算やった。お腹と背中がくっつきながら『食べ物粗末にするな』と大合唱やよ。
後で拾って食べれへんかなぁ……アカンやろなぁ……。
70層担当の『白の使徒』はドッペルゲンガーを選んでた。
レベルは50やけど、プレイヤーとまんま同じ性能になるから下手なモンスターより強い。っちゅーかPVPに慣れてへんと結構辛い。
対モンスターと対人やと結構勝手がちゃうしね。
観戦してて面白かったんはドッペルユウっちがキスしまくってた事やろねぇ。そら戦闘中に『魔皇女の雫』を有効活用しよ思たらそうなるんやろけど。
お陰で皆慌ててるしマヤっち切れるし、違う意味でどきどきやったね。
録画しといてホンマよかった。
「……もしかして、アンタ、アレを見越してドッペルゲンガー選んだん?」
ちょっと気になったら隣の席に聞いてみた。
「…………そんな訳ないだろ。普通のドッペルゲンガーはあんな事しない」
ごもっともやった。
80層は魔神軍団。
全員『物理無効』な上に怪力無双、最強武技、竜鱗最硬、超速移動、魔法吸収、遠距離攻撃吸収、状態異常付与と面倒なんが揃っとった筈やけど、そこも何とかクリアしとった。
さすがに1人脱落しそうになったけどユウっちの『蘇生』で何とかなってたし。やっぱ『蘇生』は強いなぁ。
しっかしこの調子やとホンマにユウっち等クリアするかもしれんなぁ……。
ウチも仕事が無ければ一緒に参加しとったらクリア報酬貰えたのに、皆ええなぁ……。今からでも合流できへんやろか?
まぁ無理やけど。
80層ですら崩れる事のないユウっち達の活躍に安心したように茶しばきながら画面を見てると、90層でとんでもない事が起こってしもた。
慌てて先輩のデスクへ飛んでいく。
「せ、先輩っ! 90層でっ!」
「ああ、こっちでも確認した。……上級モンスターは当然だが知性があり、会話可能だからこういうケースも無くはないんだが……失敗だったな。どうしたもんか」
先輩も心底困った顔をしていた。
ウチはもっとやろう。もしコレの結果が最悪のケースになった場合……。
「動きがあったぞ」
同僚の声にウチは最悪の想像を打ち消して慌てて90層を映し出している画面へと走った。




