第180話 神のダンジョン八十層目。
70層を突破した後、僕達は再び破竹の進撃を続けた。
クロノさん達が再びスキルやアーツを連打して戦っていたからだと思う。
そんな事してAPは大丈夫なのかな? と不安になるけど、AP切れを起こしてるようにも見えないし多分大丈夫なんだろう。APが切れたからとキスを迫られたらどうしようと最初は内心少し怯えていたけど、そんな事も無いようだし。
多分70層のドッペルゲンガー戦で結構ピンチだったから出し惜しみするよりはAP切れになっても連打した方が良いという作戦に切り替えたんだと思う。
実際そのお陰で僕達は割合すぐに80層に到達する事が出来た。
お馴染みとなったドーム状の室内の中央に立つ『白の使徒』さん。
「ようこそ勇者様方。80層の試練、お受けになりますか?」
僕達を確認して、ゆったりした声で尋ねる『白の使徒』さん。見た目だと分かり難いけどやはり60層、70層の人とは違う人っぽい。
「勿論だぜっ!」
応えたのはクロノさん。
その声に頷いて『白の使徒』さんは手をすっと横に振った。
「勇者様方の参加意思を確認。80層の封印解除。無理せず頑張るといい。」
その言葉と共に『白の使徒』さんの前に7つの黒い炎が灯る。何処かで見た事があるような炎がゆっくり大きくなって人型に姿を変えて行く。
炎が形になっていくのと対照的に『白の使徒』さんは姿を消した。
・レベル80憤怒の魔神とエンカウントしました。
・レベル80傲慢の魔神とエンカウントしました。
・レベル80情欲の魔神とエンカウントしました。
・レベル80嫉妬の魔神とエンカウントしました。
・レベル80怠惰の魔神とエンカウントしました。
・レベル80強欲の魔神とエンカウントしました。
・レベル80暴食の魔神とエンカウントしました。
見覚えのある炎が何か分かると同時にウィンドウに流れるメッセージ。
竜の鱗に覆われた龍人のような姿の憤怒の魔神。
逆にライオンの顔に筋骨隆々な身体の傲慢の魔神。
見覚えのある人、牛、山羊の三つの顔が付いている情欲の魔神。今回は目隠しや槍を装備していない。
下半身が蛇でラミアみたいな女性の姿の嫉妬の魔神。
ずんぐりむっくりな熊と人の間みたいな姿の怠惰の魔神。この人が一番大きい。
逆に一番小さくて見た目黒い丸が浮いてるような状態の強欲の魔神。
普通の人の姿に虫のような触覚や羽根が付いていて、細身の剣を構えた、見た目的には一番まともな暴食の魔神。
それはソイル君と戦った時に現れた魔神だった。
それも1体ではなく7体。……後で聞いた事だけど、僕が見た1体以外の他の6体は洋館の外に出現して、クロノさんやコテツさんが他の皆と連携して戦っていたそうだ。
僕達も3対1で何とか倒した魔神が同時に7体というだけでも脅威なのは間違いない。
それによく見ると傷だらけで目隠しまでされていた情欲の魔神が今回はそんな事もなく、又レベルもあの時より高くなっている。
情欲の魔神が舌なめずりしながら僕に視線を僕に送っていて、正直少し怖い。
『ひゃっははっ! なんだ、今回は美味そうなのが多いなっ!』
『下らんな。人間なぞ我等の相手にもなるまい』
『僕は食べられれば何でも良いさ』
『…………面倒くさい』
僕達を見つめていた魔神達はまるで世間話をするように僕達を品評している。
というか魔神って喋れたんだ……そういえば爆炎の精霊も喋ってたし、喋れるモンスターって結構居るのかな?
『どうでもいいっ! 敵は倒すっ!』
しかし世間話に興味がないようで憤怒の魔神はそう叫んで飛び出して来た。
「はっ! 望む所だっ!!」
それに応えてクロノさんがオーラを吹き出して飛び出し、2人の激突で戦端は開かれた。
戦況は……かなり妙な事になっていた。
魔神が『物理無効』なのは前の戦いで分かっていたし、僕はまずクロノさん達に『聖剣』をかけて、それで前回よりはずっと戦いやすくなった筈なんだけど……。
憤怒の魔神と傲慢の魔神が真っ直ぐ突撃してきて、クロノさんとコテツさんが相手をしてくれている。そこを矢で攻撃しようとすると強欲の魔神が、魔法で攻撃すると暴食の魔神が吸収してしまって攻撃が届かないのだ。
暴食の魔神に至っては吸収した魔法を撃ち出すから無闇に大魔法を使う事も出来なかった。
とまぁ、ここまでは普通の戦いなのだけど、情欲の魔神と嫉妬の魔神の動きがおかしいのだ。
明らかに他をガン無視して僕だけに狙いを絞っている。
情欲の魔神は涎を垂らして今にも食いつきそうな顔で、嫉妬の魔神は逆に今すぐにでも消し去りたいのかという位苛烈に僕を襲ってくる。
いや、まぁ後衛から狙うというのは戦闘のセオリーかもしれないけど……アンクルさん達が守ってくれていて、そう簡単に後衛まで到達できない筈なのに、そんな事お構いなしに襲ってくるのだ。
『一舐めだぁっ! 一舐めだけさせてくれぇぇっっ』
『きぃぃぃっっ! その肌艶っ! 髪のなめらかさっ! 許せナイぃぃっっっっ!』
その鬼気迫る勢いに……何だかすごく怖い。
怠惰の魔神に至っては奥で丸まって眠っている。
やる気がないんだろうか?
結局7体の魔神というか、実質4体の魔神と2体の魔神と1体の魔神という意味の分からない状態になっていた。
それでも拮抗した戦いになっている事が正直恐ろしい。
もし魔神2体とサボリ1体が本気で戦いに参加し、連携し始めたら一気にピンチになるという事だからだ。
そう考えると今の状況の方が良かったんだろうか?
『ペーロペロ! ペーロペロォォッ!』
『可愛い振りしてぇっ! 若い方が良いって言うのぉぉぉっ!?』
……良かったんだろうか?
しかし半分冗談のような情欲の魔神と嫉妬の魔神だけどアンクルさん達は迎撃に苦労していた。
情欲の魔神の超スピードで反対側から僕に襲いかかるのをアンクルさんが動きを読んで迎撃してくれるのだけど、そのタイミングで嫉妬の魔神が物凄い水流を吐き出して襲ってきたりするのだ。
ソレ自体はリリンさんが受け止めてくれるのだけど、吐き出された水流に足下を取られて動きが鈍り、そこを情欲の魔神に襲われるという状況が繰り返されていた。
「ゆ、ユウ! 今行くわっ!」
その状態に慌てたようにマヤが前線からこっちに駆け出す。
『いいえ、行かせませんよ』
が、ひらりとマヤの前に降り立つ暴食の魔神。
「どきなさいっ!」
『お断りします。聖剣……我等魔神にとって此程厄介な武器はないでしょうが、その術者から倒すのはセオリーでしょう。』
そう言って暴食の魔神はちらりと情欲の魔神と嫉妬の魔神を見る。
『まぁ……適役かどうかは別にして。やる気はあるようですから、彼等があの司祭を倒すまでは付き合って貰いますよ』
「ええいっ! うるさいっ!」
無理矢理突撃をするマヤの剣を暴食の魔神は持っていた電撃を纏った剣ではじき返す。
それでいて攻め入ろうとはせず、明らかに時間を稼いでいるようだ。
『いいぜぇヴヴ! その女も後で抱くから暫く頼わぁっ! まずは極上の方を頂かないとなぁっ!!』
援軍が来ない事を確認して、嬉しそうに飛びかかってくる情欲の魔神。
「ユウ様が極上である事は同意するが、魔神如きが触れて良い相手ではないな」
『ちぃっ! 手前は邪魔なんだよっ! 男に用はねぇっっ!!』
飛びかかる情欲の魔神のスピードを利用してカウンターで首を切り落とそうとするアンクルさん。が、情欲の魔神はソレに気付いてあり得ない方向に身体を曲げて回避し、悪態をつく。
ん? 男に用はない……って、僕も男なんだけど……あれ?
一方反対側でも嫉妬の魔神が絶叫を上げる。
『ええいっ! どきなさいっっ!!』
「どきませんよっ! 今度こそ、私の命に替えてもユウ様はお守りしますっ!」
『貴女も許さないけど、まずはあの司祭の小娘よっ!? 何、自分は清楚ですとでも言いたいのっ!? 聖職者なんて全部性殖者よっ! 私より可愛いくて若い女の子なんて消えてなくなればいいんだわぁっっっ!!』
リリンさんに邪魔をされて怒りの声を上げる嫉妬の魔神。
って、小娘って……。
「あ、あの……嫉妬の魔神……さん?」
『何よ小娘っ!!』
リリンさんに防がれながらも、今にも殺しそうな勢いで僕を睨む嫉妬の魔神。
「その……僕、男なんだけど……」
とりあえず誤解を解くためにも一番大事な事を伝える。
その言葉を聞いて動きが止まる嫉妬の魔神……とついでに情欲の魔神。
その瞬間に攻撃を加えなかったアンクルさんとリリンさんは騎士道なんだろうか?
『お……』
「お?」
暫く呆然と僕を凝視した嫉妬の魔神と情欲の魔神。
『お、お前みたいな男が居るかぁぁぁっっっっ!!』
『お。男の癖に私より美しいなんて万死に値するわっ! 死になさいっ! 死んでわびなさいっっ!!』
動き出した2体の魔神は更に狂ったように僕に向かって突撃を開始した。
あ、あれぇ……?
どうでもいい設定/
過去に出た魔神は『召喚玉』による劣化バージョン。今回が完全体。
能力的には当然完全体の方が強いが、自由に動く分統制は取りにくい。




