第17話 表と裏の事後処理。
「ユウ、大丈夫だった!? 怪我してない!? こんなボロボロになってっ! あの下種、私のユウになんて事をっ!!」
落ち着けマヤ、お前は僕のお母さんかっ!!
「大丈夫だから」
と言いながら自分でも改めて状態を確認する。HPは70%程減っていたが外傷らしき物もなく、ローブにも損傷はなさそうだ。そりゃそうか、ダメージって鬼斬丸で攻撃を受け止めた時の衝撃とかだし。
問題なし、と思った時ふと視界の隅の数字が目に止まる。
「あ」
「何!? やっぱり何処か怪我が? ポーション使う?! それとも急いで神殿に行って治療をっ!!」
「大丈夫だから! そういう事じゃないからっ!!」
マヤを落ち着かせながら何度も確認するが数字は変わらない、うん。
「レベルが4になってる」
一体何時の間に……レベル3になった瞬間も記憶にない。
「そりゃマヤも結構な数の狂化状態の熊を倒してっからなぁ。パーティ組んでたユウだって同じだけの経験値入るしそりゃ上がるだろ」
当たり前だろうとコテツさんが笑う。
うん、そうか……そうなんだろうけど……なんだろうこの気持ち。
昨日からずっとゼリースライムと格闘して1レベル上がった身としては、ほんの1時間程で2レベル上がってるのは、なんというか……。
いや、そのお陰でさっきも男Aの攻撃を何とか躱せた訳だし、意味のない狩りじゃなかったのはわかってるんだけれどもっ!!
なんだか、なんだかなー!!
そして能力値を確認すると上がったのは魔力+2。
うん、そうだと思ってた。……これから! これからだから!!
僕はステータスと装備を確認し、問題がないのを把握して最後に問題のある部分を手に取った。
「コテツさん! その……ごめんなさい、せっかく貰ったのに……」
僕の手の中には途中で折れてしまった木の棒が1つ。
「んー? あぁ、そりゃ仕方ないだろ。ただの木の棒がむしろ頑張ったんじゃねーの? って、泣くなユウ! な?」
あたふたして僕を宥めようとするコテツさん。
な、泣いてなんかないよ!? ちょっと申し訳なくて目頭が熱くなっただけで、零れてないからセーフだし!!
「あぁもう! わかったから! 明日までに新しい武器用意すっから、だから元気だせ!」
「ぇ……でも、そんな、折角用意して貰ったこの子もダメにしちゃったのに次もとか……」
さすがに申し訳なさ過ぎる。
「気にするな! つーか今度はちゃんとあたしが作る武器を用意するっつってんだから、代金は貰う! 代金を貰う以上商売なんだからあたしだって利益になるんだよ」
そこまで言うなら……確かに今後もコテツさんの武器を買わせて貰うって約束だったし。
「たしか昨日酒場で稼いでたろ?あの儲けをガッツリいただくから覚悟してな?」
僕の頭を撫でながらコテツさんがニヤリと笑った。
釣られて僕も笑顔にさせられてしまった。
「ありがとうございますっ!」
「財布を狙われて礼を言う奴があるかよ」
強めに頭を撫でられたけど、コテツさんも満更じゃなさそうな顔をしていた。
その後、少し休んで自分と皆に治癒をかけてから、4人揃って王都に戻った。
預かっていた籠と薬草をタニアちゃんに返したら、又物凄い勢いでお礼を言われて困ったけど。
ついでに巨大熊のドロップアイテムの『熊肉』と『熊皮』、『熊爪』の分配もした。
僕は見てただけだし、大半はコテツさんが倒したモノだからと一旦は断ったのだけど、
「マヤと連携したから楽に戦えたし、ユウの支援があったから安心して戦えた。これはパーティ戦だ。なら獲得アイテムはちゃんと分配するべきだろ?」
と押し切られてしまった。
マヤもコテツさんの意見に同意したので有り難く受け取った。
一応、タニアちゃんに今回の顛末を説明して貰う証人になって貰うのに冒険者ギルドまで同行して貰いう。
少し早い時間に戻ったせいか、未だ狂化時間でプレイヤー達はモンスター狩りに勤しんでいるのか、珍しく内部に殆ど人は居なかった。
「おかえりなさい、ユウさん、マヤさん。あら、コテツさんも一緒で……」
「お姉ちゃん!!」
いつも通り優しい笑顔で迎えてくれたソニアさんに尻尾を振ってタニアちゃんが飛びついていく。
ん? 『お姉ちゃん?』
「あら、タニアどうしたの? 仕事場に遊びに来ちゃダメだって言ったでしょ?」
「あ、遊びじゃないよ! えと、しょーにんになりに来たんだよ!」
「???」
タニアちゃんの説明に要領を得ず、タニアちゃんと僕達を交互に見るソニアさん。
「私が説明しますね、実はさっき――」
マヤが掻い摘んで説明してくれた。
モンスター『巨大熊』を故意に集め、その集団を使って王国民であるタニアちゃんと自分達を殺そうと画策した流民の冒険者男性3名が居た事。
自分たち3名と、何よりタニアちゃんがその証人である事。
話を聞いたソニアさんは即座にプロの顔になり、処理を始める。
3名の名前等については今朝の騒動を覚えていたギルド職員からすぐ判明し、一応手続きとして僕達全員は本当に『真偽看破』のスキルのチェックを受け、その内容に虚偽はないと判断され、
憐れなプレイヤー3人は賞金首となり、王国騎士団や衛兵、同じプレイヤーに追われる事が確定した。
すぐさま掲示板に討伐クエストとして張りだされる。
でもリアルなら当たり前の事だけどセカンドアースってゲームなのに犯罪には厳しいんだなぁ……。
ゲームだと思っていい加減な事をして失敗したプレイヤーも多いんじゃないだろうか?
マヤに聞いてみると、
「サービス開始前のテスト期間には居たそうよ?でもそういう馬鹿はすぐ賞金首になるからWIKIや掲示板のトップには必ず、『NPCは1人の人間として接しないとデメリットが大きい』って情報が周知されたから今はそんなでもないと思う。
あの下種もそれを逆手にとった作戦のつもりだったようだし、詰めがあますぎたけど」
との事だった。
わかった上でタニアちゃんを殺そうとしたんだから自業自得か。同情の余地無しだな。
「ユウちゃん、マヤさん、コテツさん」
僕が他人のふり見て我が振り直そうと心に決めていると、ソニアさんに呼ばれて振り返る。
カウンターから出て、タニアちゃんの肩に手をおいているソニアさんが居た。
「タニアからも話を聞いたの。一度ならず二度、三度と妹を助けてくれて、本当にありがとう。」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げるソニアさん。一緒に頭をさげるタニアちゃん。
「あ、いえ、気にしないでっ! たまたま出逢っただけで、自分がしたいようにしただけで。そんなお礼を言われる程の事じゃないですよっ」
それに大人の女性に頭を下げられるとか慣れてなさ過ぎてこっちが辛い。
「それでも妹の命が助かったのはユウちゃん達のお陰だから」
「そうそう、ユウってば私が止めても無理してタニアちゃん助けようと突っ込んじゃうし冷や冷やしたわよ」
マヤ、お前はどっちの味方だよ!いや、僕の味方じゃない事は確かだな、うん、そういう奴だった。
でも困った、結局助けたのはマヤとコテツさんのお陰で僕は何もしてないに等しいのに、頭を下げられ理と逆にこっちが申し訳ない。
そ、そうだ! さっき同じような事があったじゃないかっ!
「えっと、じゃあ、これは貸しなので、いつか返してください!!」
「貸し?」
「はい! それでお礼とかは終わりで! どうでしょう?」
コテツさんを真似て悪戯っぽく笑いかける。
そんな僕を見てソニアさんは一瞬きょとんとしながらも、
「はい、では必ず」
と微笑んでくれた。作戦大成功。うん、やっぱりソニアさんは笑顔が良いなぁ。
ソニアさんに肩を抱かれていたタニアちゃんも何やらやる気満々という顔をしてるのは何だろう?
「あ」
と、その時ピコンと視界の隅にメッセージが流れた。
・『ユウ』、『マヤ』はイベント『モンスターに襲われた王国民少女の救出』クリア。経験値2500点を獲得。
・『ユウ』はレベルアップした。Lv5になった。
無言でマヤと目が合う。
マヤにも同じメッセージが届いたんだと思う。……これが3つの経験値獲得方法の最後『イベント』か……。
それにしても……
「ん?どうしたユウ?なんか不機嫌な顔して、何かあったか?」
僕とマヤの微妙な空気を感じてコテツさんが僕の顔を覗き込んできた。
「えっと……実はさっき、イベントクリアのメッセージがあって、経験値を貰って、レベルが上がって……」
「へぇ良かったじゃん。イベントって狙って起こせるモノでもないらしいし。で、レベルまで上がってなんでそんなに不機嫌なんだ?」
う……理由はなんだか子供っぽい気がして言いにくい。けど……ここまで言ったら説明しないとダメか……。うぅ、失敗した……。
「その……タニアちゃんを助けたのは、ただ助けたかっただけなのに、『イベント』だとか『報酬』だとか言われちゃうと、何か全部を否定されたような気がして……」
ダメだ、うまく言葉に出来ない上に、これって言っててすごく恥ずかしい内容じゃないか!?
意識したらどんどん顔が赤くなる、やばい、もうコテツさんの顔がみれない。たぶん呆れられてるに違いない……。
ローブの袖を握りながらうつむいていると、コテツさんがしゃがみこんで正面から僕を見つめてきた。
その顔はものすごく真剣で、綺麗だった。
「ユウ、あんたは当たり前の事をしたつもりかも知れないし、プレイヤー次第じゃNPC相手にって馬鹿にするヤツも居るかもしれない。
でも、今日のユウは格好良かったし、あたしは間違ってないと思う。……だから、イベントだ、経験値だって事に振り回されずに、ユウはユウらしく前を向いとけ?」
同じ目線でコテツさんに頭を優しく撫でられた。
大人の女性ってずるいなぁ……男として、もっとがんばらなきゃって気持ちになっちゃうや。
「それでも元気でないようなら、さっき言ったようにあたしの身体でも見るかい?」
ニヤリと笑うコテツさん。
大人の女性はずるいな、うん。
もちろん冗談だとわかっているので血涙を流しながら辞退した。残念だ……残念だ……。
「じゃ、ユウの元気が出た事だし、私はゲーム外であの下種の処理をしておくね!」
と、目がまったく笑ってない笑顔でマヤがホームに帰ってログアウトすると言う。
指名手配以外にも何かするのだろうか?
「勿論、それだけで足りる訳ないでしょ。運営に連絡してアカウント停止要請! 再アカウント取得の禁止要請!撮影したSSやログを掲示板なんかに貼り付けての公開処刑! やらなきゃいけない事は山積みよ!!」
指を鳴らしながら低い笑い声をもらすマヤ。
うん、マヤを怒らすのはやめとこう。わかってた事だけど肝に銘じよう。
後日、マヤは晴れやかな笑顔で「上手く行ったわ」とだけ言った。




