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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第八章 神様の迷宮
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第172話 黒騎士語り。 その4 前編。

「はぁ……」

 俺は大きくため息をついた。

 『セカンドアース』クランランキング一位であるクラン『悠久』の一応クランリーダーである俺、クロノは人生最大の問題に直面しているのだ。




 それは……好きになった子が『男』だったのだ。




 そもそもゲームの中の相手に恋をするという俺がズレていたとも言えるし、俺だっていくつかのネットゲームを遊んできたからネカマとかが居るのはわかっている。

 いっそユウちゃんがネカマだったのなら、騙されたと絶叫して忘れる事も出来たと思う。


 だがユウちゃんは自分が女の子にしか見えないという自覚がない、まさに無自覚ネカマだったのだ。

 そう言われて思い返せばユウちゃんが自分の事を『女の子』だと言った事等一度もなかった。……まぁ『自分は女の子です』なんてわざわざ宣言する子は少数だとは思うが。

 ユウちゃんはむしろ男の子っぽい事をやろうとして、それが微笑ましいとすら俺は思っていた。


 まさか男の子っぽいのではなく、男の子だったなんて誰が思うだろう?

 立っているだけで世界が煌めき、座れば花が咲き乱れ、歩く姿は小動物なユウちゃんを男だと思う奴が居たら見てみたい。


 そんなだから、俺はあの事件以降ユウちゃんとの接し方が分からずに戸惑っていた。

 一度お詫びの挨拶にとやってきた時も逃げだした。


 ユウちゃんは悪くないし、そもそも俺だって告白とかした訳じゃない。なら今まで通り……いや、男友達として接すれば良いとは頭ではわかっている。

 でも、ユウちゃんを見ると胸がドキドキして顔が赤くなる。ノーマルな筈の俺が、男相手にそんなリアクションをしてしまう。それは認められなかった。


「はぁ……」


 全くどうしたらいいのか……。『セカンドアース』を辞めるか? でも今の宙ぶらりんの気持ちのままやめちまうのもなぁ……。

 そう思っていると、グラスが物凄く嫌そうな顔で俺を見ている事に気付いた。


「なんだよ、グラス」

「何でもないですよ。朝から延々ため息を聞かされて気分が悪いだけですから」

「……悪かったな」

「悪いと思うなら自重してください。我慢出来ないのなら『冒険者ギルド』で何か討伐クエでも受注して来たらどうですか?」


 冷たい声でバッサリ言い切るグラス。こいつ傷心の俺になんて事を。

 しかし討伐クエストか……最近あんま狩り行ってなかったし、気分転換に行ってみるか。


 そう思って俺は勢いをつけて立ち上がる。

「んじゃ、ちょっと行ってくるわ!」

「はい、いってらっしゃい」


 やれやれと今度はグラスがため息をついていたが無視して玄関へ向かう。

 どんなモンスターを狩るか? やはり此処はスッキリするように数の多いモンスターが良いなっ!

 そう思って玄関を開けた時、目の前に居た小さい何かにつんのめった。


「へ?」

「あ、えっと…………こ、こんにちわ?」


 俺の目の前にはユウちゃんが困ったような笑顔を浮かべて俺を見上げていた。


 


 逃げだした俺は、すぐにグラスに捕まり、ユウちゃんの『話を聞く』為にソファーに向かい合って座る事になった。

 ユウちゃんはいつも俺やシャーリ姉ぇが寝てるソファーの真ん中にちょこんと縮こまって座っている。

 こうしてちらちらと覗き見ていると本当に小動物みたいで可愛い。


 やはり男には見えない……やはり女の子なんじゃないだろうか? という気持ちになってくる。


「あ、あの、クロノさん!」

 そうして覗き見ているとユウちゃんが突然俺の名を呼んだ。


「なんだよ」

 嬉しくて飛び上がりそうになる気持ちと、何、男に呼ばれて喜んでんだという気持ちがせめぎ合って結果つっけんどんな口調になってしまう。


「あ、改めて、あの日助けてくれてありがとう」

 しかし、俺の態度を気にしてないのか、ユウちゃんはそう言って深々と頭を下げた。

「……別に俺だけがやった訳じゃねーし」

 それでもユウちゃんに感謝されると悪い気はしない。というかやはり嬉しい物は嬉しい。


「それでも、ありがとうございます。それで、その後なんだかギクシャクしちゃって、上手く話せてなかったから。あの……僕に悪い所があったら直せるようがんばるから……その、又、仲良くして貰えない……でしょうか?」

 縋るように見つめるユウちゃん。


 反射的に抱きしめたくなったが、落ち着け俺っ! ユウちゃんは男だっ! 男が男に抱きついてどうするっ!?

 ああっ! ユウちゃんもそんな切ない表情で見上げるなよっ!


 口を開くと何か危険な事を口走りそうになって全力で自分を律する。

 と、そんな俺を見てユウちゃんは更に近づき、


「何でもするからっ、お願いっ!」


 と懇願してきた。


 何でも、なんでも、NANDEMO。

 俺の理性が限界を迎えた時、


「お茶を淹れてる少し時間、目を離していたら何クロノ君はユウさんを襲ってるんですか?」


 と、冷たい声が聞こえた。

 振り向くとそこにはグラスがトレイを持って立っていた。


「お、襲ってねーよっ!」


 と叫びつつ、内心ナイスタイミングのグラスに感謝する。

 登場があと少し遅ければ本当に危なかったかもしれない……。


 ……いや、グラスの奴もしかして覗いててタイミングを計っていたのか? 奴ならやりかねない……本当に色んな意味で危なかった。


「は、はい! 襲われてないですっ! 仲直りして欲しいってお願いしてただけでっ!」

 ユウちゃんも俺に続いてフォローしてくれた。

 ここでユウちゃんに「襲われてました」と言われたら俺の人生は終わっていた。冷静に考えたらさっきの俺は襲いかかろうとしていたと言われても完全否定出来る自信が少しない。

 いや、勿論ユウちゃんはそんな事言う子じゃないのはわかっているが。


 そんな俺とユウちゃんの言葉を聞いて、グラスは再び俺を馬鹿にしたような顔で見る。


「仲直り……って、クロノ君はまだヘソを曲げてたんですか?」

「……まげてねーよ」


 曲がらねーから困ってんだよ。


「そ、そうです、僕が悪いからっ」

「悪くねーよっ!」


 何故か自分を責めるユウちゃんについ声を荒げて否定した。

 悪いのは俺の態度であってユウちゃんに悪い所はいっこもない。いや、その格好には若干問題がある気がするが。


「それじゃ2人は仲直り。という事で良いですよね?」

 そう言ってグラスはニヤリと俺を見た。

 こいつ……わざとだな。


 グラスの言葉にユウちゃんも縋るように俺を見上げる。

 その不安そうな瞳に俺の顔が写っている。


「…………それでいいよ」

「ありがとうっ! クロノさんっ!!」


 俺の言葉に不安そうだったユウちゃんの瞳がぱっと輝き、全身に花を背負ってユウちゃんは飛び出してきて俺の手を握って微笑んだ。


「っ! だ、だから、ユウちゃ……ユウはそういうのをやめろってんだっ!!」


 どうしようもない俺は絶叫するしかなかった。




 なんとか落ち着いた俺にユウちゃんが話した内容はこの前の事件イベントの報酬で新発見の高難度ダンジョンに行く事になり、パーティメンバーを募集する、という事だった。

 そういう事なら俺も興味がある話だ。グラスも言っていたが是が非でも参加したい内容だ。


 デメリットとして1人一度しか挑戦できないタイプのダンジョンという事だが、未だ誰も挑戦した事のないダンジョンに最初に挑戦出来る、しかもやり直し不可。コレで燃えなきゃ男じゃない。


 細かい話を詰めている所でグラスは残りのパーティ枠の調整役を願い出ていた。

 確かに人数が限られているダンジョンだとどの職業を呼ぶかで難易度は大きく変わるだろうし、グラス(こいつ)はそういうのが大好きだからなぁ……。


 と思っていてふと思いついた。一石二鳥のアイデア。

 本当はこっちからお願いしてでも参加したいが、ここはぐっと堪えてユウちゃんに条件を突きつける。


「えっと……『条件』って……何だろう?」

 不安そうに首を傾げるユウちゃん。

 そこで俺は言いはなった。


「ユウちゃ……ユウのその格好! そのローブからもっとダンジョン用な男っぽい装備にする事だっ! これが絶対条件だっ! そもそもそのローブがいけなかったんだよっ!」


 そう、ユウちゃんの服装が可愛すぎるのも問題なのだ。アレがもっと普通の服なら俺だってここまでときめかなかったに違いない!


 かといって『純白のローブ』がレアアイテムなのは俺だって知っている。だからこそ、もっと男らしいデザインで、かつ『純白のローブ』を超える防御力の装備に着替えて貰う事を条件にすればいい!

 ユウちゃんだって男らしさ云々と言ってた筈だからコレに乗って来ない訳がない。


 そう思っていたが、ユウちゃんは一瞬喜んだ顔をした直後、すぐに目に見えてしゅんとしてしまった。


「あ、あの……僕、この前皆に迷惑をかけたり、助けて貰ったりしたでしょ? その御礼で……色んな人にお詫びを持って行って回ったから、お財布に殆ど残金なくて……」


 つまり新装備を買う金がないらしい。

 確かに前にウチにお詫びに来た時に持ってきたアイテムもそれなりに手が込んでいたし、何でもアレを関係クランや捜索協力してくれた全クランに配ったらしいから、かなりの額になるだろう。

 『純白のローブ』クラスの装備となると確かに安くはないし無理だったか。


 そう思っているとグラスがニヤリと人の悪い笑みを一瞬浮かべた。


「成る程、そういう事なら簡単ですよ。装備を変えろと言ってるのはクロノ君なんだから、クロノ君が責任を持って明日一緒に買いに行って、ユウさんの為に新しい防具をプレゼントしてあげれば良いんです」

「なっ!?」


 突然何を言い出すこの眼鏡野郎っ!

 それってつまりデートじゃねーかっ!? しかも服を買ってあげるとか、なんだよそのデートプランはっ!! ユウちゃんは男っ! 俺達は男同士なんだぞっ!?


「そ、そんなの悪いですっ! 僕の事なんだから、僕自身がどうにかしますからっ!」


 ユウちゃんも慌ててグラスに言う。

 俺とデートをしたくない、というより俺に迷惑をかけたくないというのがひしひしと伝わって来る。ユウちゃんは人にアイテムを買って貰って喜ぶタイプじゃないんだろう。そういういじらしい姿を見ると余計買ってしまいたくなるが、多分ユウちゃんは重く感じちゃうだろうなぁ。


「でもクロノ君のセンスを聞いて選んだ方がお互い良い結果になると思いますよ?」


 俺にだけ見えるようにニヤニヤと笑いながらユウちゃんを説得するグラス。

 こいつ、絶対面白がってるな。


 だがグラスの真意に気付かないユウちゃんは真面目な顔でグラスの言葉を検討してるようで、しばし悩んだ後、申し訳なさそうに上目遣いで俺を見た。


「あ、えっと……クロノさん、そういう事なら、そのちゃんと自分のお金で買うから、明日……お願いできない……かな?」


 ユウちゃんのその表情はあまりに強烈すぎて俺にはもう逆らう事が出来なかった。


「…………わ、わーったよ! あ、明日12時からならっ、構わないっ!」

「ありがとうっ!」


 俺に抱きつきそうな勢いで前のめりになって、本当に嬉しそうに笑うユウちゃん。

 男同士でデートってなんだよと内心思いつつ、そんなユウちゃんの笑顔に楽しみになっている俺が居る事を否定出来なかった。


 が、それを見てニヤニヤ笑ってるグラスは後でどつこうと心に決めた。







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