第169話 パーティ作成。
シルフィードさんは夕食も一緒に、って言ってくれたけど突然の呼び出しで皆の夕食の準備もしてないし、結局マヤとシルフィードさん、ついでにアニーさんにまでとっかえひっかえ抱きつかれて精神的に疲れたから夕方前に帰る事になった。
高校生男子としては女性に抱きつかれるというのは嬉しい悲鳴なんだろうけど、金属鎧を着たマヤやアニーさん、サラシがガッチガチに固めてるシルフィードさんに抱きつかれても残念な上に、皆が引っ張り合った結果本当の悲鳴を上げる事になった。
おかげで今回も『治癒』が大活躍してしまった。
せめて鎧やサラシが無かったら……と思うけど、それだと僕の制止が遅れて本当に天国の中で死んでいたかもしれないと思うと恐ろしい。
とりあえず今日の夕食はビーフカレーに各種トッピングを用意し、デザートのフルーツヨーグルトもいつもの3割増しで皆のご機嫌を伺う。
と、夕食のテーブルに『銀の翼』のクランメンバー全員勢揃いし、3割増しだった筈のカレーもデザートも綺麗に平らげられてしまった。
残ったら明日は2日目のカレーを楽しむつもりだったんだけど……喜んで貰えたみたいだし、それはいい……のかな?
ともあれ喜んで貰えたのなら何よりだし、さっそく食後のお茶の時間に作戦に移る事にする。
「あ、えっと……その、みんな、ちょっといいかな?」
心の中でBECOOLと唱えながら皆を見る。
「何よ、いつもは食後にすぐキッチンに行っちゃうユウが珍しい」
僕の声に最初に答えたのはホノカちゃんだった。
確かにいつもは洗い物をしなきゃいけないからすぐキッチンに行くけど……あ、今日はカレーだったし早めに洗いたい……って、ダメだ。今は目の前の事に集中しなきゃ。
ちゃんと浸け置きしてあるからそこまで汚れも酷くないだろう。
「うん。実はちょっとみんなにお願いがあって……」
「ん? ユウっちのお願いってホンマ珍しいね。何なん?」
『お願い』の部分に反応してルルイエさんも楽しそうに笑いながら僕を見た。他の皆も僕を注目してくれている。
マヤはもう内容がわかっているから僕の言葉を聞きながらのんびりお茶を飲んでいた。
「実は今日、新しいダンジョンに入る『鍵』を貰ったんだけど……12人で入らなきゃ行けない場所らしくて、マヤは一緒に来てくれるって言ってくれたんだけど、もし皆も都合が良ければ一緒に行って貰えないかなぁ……って」
「いいわよ」
あっさりホノカちゃんが首を縦に振った。
「いいの?」
「OK」
続いてノワールさんも了承してくれる。
「新しいダンジョンか、楽しみだなっ!」
「そうね~、そのダンジョンの名前とか情報ってわかってるの?」
コテツさんがニカっと笑い、サラサラさんが首を傾げる。
「あ、うん。『神のダンジョン』って言うそうで、コレが中に入る為の鍵なんだって」
サラサラさんの質問にアイテムウィンドウから王様に貰った鍵を取り出して机の上に置く。
それを手に取ったサラサラさんが鍵を眺めながら、
「確かに『神のダンジョン』って聞いた事ないわね~。ルルイエは聞いた事ある~?」
と、ルルイエさんを見た。
が、ルルイエさんは答えず、サラサラさんの手の中の鍵を見つめたままだった。
「ルルイエ?」
首を傾げてルルイエさんを見るノワールさん。
「へ? ……あ、うん、そやね。『神のダンジョン』なんて掲示板とかWIKIでも見た事ないと思うわ。新ダンジョンなのは間違いないんちゃう?」
ノワールさんに突かれて慌てて答えるルルイエさん。
どうしたんだろう?
「じゃあ情報は何もないかしら……それはそれで楽しいけど……」
顎に手を当てて思案するサラサラさんに、王様の言葉を思い出した。
「えっと、一応、鍵をくれた人からいくつかの情報は教えて貰いましたっ!」
と言って王様から聞いた事を改めて皆に伝える。100層の階層がある事、それぞれにボスモンスタークラスが配置されている戦闘型ダンジョンである事、アイテムウィンドウが使用禁止である事、脱出は出来るけど1人1回しか挑戦できない事。クリアすると神様? に1つお願いを聞いて貰える事。
その一つ一つの説明に皆真剣な顔で聞いてくれた。
「その、それで1人1回しか挑戦出来ないから、もしもっと後に取っておきたいとかだったら――」
と言った時、僕の頭にマヤのチョップが落ちた。
危なく舌を噛みそうになる。
が、マヤに文句を言う前にホノカちゃんが真っ赤にして怒った顔で僕の目の前に立っていた。
「そんな事する訳ないでしょっ! 『神様』とやらに会えばユウのログアウトの方法だって分かるかも知れないんだし、協力するわよっ!」
涙目の僕にホノカちゃんが言い放つ。
「そもそも『鍵』の入手がレアなんだろうし、次のチャンスなんて待ってる方がまだるっこしいしなっ!」
そう笑うコテツさんと、隣で頷いているノワールさん。
それを見てサラサラさんが微笑む。
「それじゃあ……攻略には時間もかかりそうだし、ダンジョン挑戦は5日後、今週末の土日って事で良いかしら?」
サラサラさんが見渡しながら尋ねると皆が頷いた。
が、1人だけばつが悪そうに手をあげる。
「ごめん、ウチは不参加って事で、ええかな?」
ルルイエさんだった。
本当に申し訳なさそうな顔をしていて、こっちが申し訳なくなった。
「あ、いや、僕の方こそ突然こんな事言ってごめんなさいっ!」
「ユウちゃん、ホンマごめんな」
頭を下げる僕にルルイエさんも両手を合わせていた。
「ダンジョンやレアアイテムが大好きなルルイエが珍しいな。今週末忙しいのか?」
そんなルルイエさんに不思議そうに尋ねるコテツさん。他の皆も首を傾げていた。
そういえば確かにルルイエさんってダンジョン攻略とかレアアイテムとか大好きだし、この手のイベントって好きそうで、いつもは率先してこの手の事ってやりたがるのに、そう考えると不思議かも……。
「週末は……そ、そう、パーティーの準備せなアカンねん。ウチがホスト側で、お迎えせなアカンくって」
しどろもどろに答えるルルイエさん。
「そ、そういう事なら日にちをずらしても……」
「それはアカンっ!!」
僕の言葉を食い気味に断るルルイエさん。
その声の大きさにびっくりしてしまった。
「あ、えーっと……こ、これってユウっちがログアウトの情報を入手出来るかも知れへん大事な事なんやろ? ウチのために先延ばしにしたらアカンて。それにトラップ系のダンジョンでないなら斥候系のウチより戦闘系の職の人を多くした方がええし」
「それはそうね。出来るだけ早いほうが良いというのは私も賛成だし、今回は残念だけどルルイエにはお休みして貰いましょう」
ルルイエさんの言葉にサラサラさんが頷いた。
僕も残念だけど……これは仕方ない事なんだろう。
「でも、それじゃあこれで6人だけど、あと残り6人はどうするの?」
ホノカちゃんが今参加が決定した6人を見渡しながら僕に尋ねた。
「う、うん……あとは……アンクルさんとかに頼もうかと思うけど……」
「確かにアイツは何があっても来そうね」
僕の答えに頷くマヤ。
アンクルさんだってリアルの事もあるだろうし『何があっても』とかはないと思うけど……でも、確かにアンクルさんもこういうイベント好きそうかもしれない。
本当はクロノさん達にも頼みたかったけど、なんだかずっと怒っててまだちゃんと謝れてないから頼みにくいし、お願い出来そうな知り合いだとアンクルさん位しか居なかった。
「じゃあ残り6枠は『白薔薇騎士団』に頼むって事か」
コテツさんの言葉にサラサラさんが少し首を傾げた。
「それもいいけど……『白薔薇騎士団』って集団戦闘に特化したクランだし、もっとダンジョン特化の人を増やした方が良いかもしれないわね。ユウちゃんの今後がかかった大事なダンジョン攻略だし出来る限り最善の構成で行くべきだわ」
指で自分の顎に添えながらサラサラさんがそう提案する。
「えっと……それだと、どうしたら良いんだろう?」
ダンジョン探索ってそんなに詳しくないし、誰を入れて誰を入れないとか僕に選べないし、鸚鵡返しでサラサラさんに尋ねた。
「それは勿論スペシャリストに頼むのが一番だわ」
「スペシャリスト?」
首を傾げる僕にサラサラさんがにっこり笑う。
「クランランキング一位の『悠久』の事よ」
サラサラさんのそれしかない、という笑顔に僕は返す言葉が見つけられなかった。




