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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
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第160話 事件の終わり。

 ジェットコースターのように夜空を滑空して駆け抜けるヴァイスは、でも地面に降り立つ時はふわりと優しく停止して降り立った。


 そんな芸当が出来るなら滑空も優しくして欲しいと思ったけど、鬣にしがみついていた僕が一瞬見たヴァイスの表情はもっと僕がしがみつくようにわざとしてたように感じられた。


 正直ちょっと釈然としない。しないんだけど……。


「炎の中まで来てくれて、外まで運んでくれて、ありがとう」

 と、ヴァイスから降りて首を撫でながら御礼を言った。

 見上げると未だ物凄い勢いで燃えている洋館が目の前にあるだけに、ヴァイスがどれ位の耐火能力や飛行能力があるかわからないけど、危険を顧みず飛び込んでくれた事は事実だし。……その後ちょっとひどかったけど。


「ヒヒン」

 そう言ってヴァイスも僕に頭をすり寄せてきた。

 ……ヴァイスにも心配かけちゃっただろうか? なんだかやたらと強く頭をすり寄せて来てちょっと押し倒されそうな勢いだ。


「はい、そこまでよ。牝馬は本当に油断も隙もない」

 突然マヤに手を引かれてヴァイスと引きはがされた。

 マヤとヴァイスが何だか睨み合ってるように見えるけど……正直ちょっと助かった。


「ユウっ!」

 そんな一触即発なマヤ達を見ていると、突然懐かしい声が聞こえて来た。

 振り返ると、予想通り視線の先にホノカちゃん……と、その隣にサラサラさんやコテツさん、ノワールさんやルルイエさんも居た。

 ノワールさん達も無事脱出してたようだ。良かった。


 こっそり胸を撫で下ろしていると、ホノカちゃんは大股で僕の前まで詰め寄ってきて、僕の両肩を掴む。

「大丈夫っ!? 怪我してないっ?! 酷い事されてないっ!?」

 僕を前後にガクガク振りながらしきりに僕の身体を見て回るホノカちゃん。


「だ、大丈夫だよっ! 何ともないからっ! ちょっと火に囲まれたけど、ヴァイスに飛んで貰って脱出できたしっ!」

 慌てて無事を伝えると、それでも暫く僕を振り回していたホノカちゃんは大きく息を吐いた。


「良かったぁ…………………ぁ………………あ、アレよ!? ただ普通にクランメンバーを心配しただけだからねっ!? それだけよっ!?」


 やっと止まった筈だったのに再び突然ホノカちゃんが僕を前後に揺さぶりながら何やら大きな声で叫ぶ。


「う、うん、わかってる。僕もクランメンバーが居なくなったら心配すると思うし、ごめん」

「わかってないわよっ!!」


 何故か真っ赤な顔をしたホノカちゃんに怒られてしまった。

 そんな真っ赤になる程激昂するような事言っちゃっただろうか……でも行方不明になるとか怒られて当然か……。


「まぁ無事で何よりだなっ!」

 僕とホノカちゃんのやり取りを眺めてコテツさんが笑っていた。




 その後も続々と人が集まってきた。

 『露天会』のアイバさんや『まおまお』のマオちゃん、『悠久』のクロノさん、グラスさん、シャーリーさん、『スターダスター』のテルさんまで居たのは驚いた。

 テルさんってヴァイスを捕まえようとしたりしてたし、悪い人じゃないとは思うけど……どちらかというとこういう作戦には参加しそうにない印象なのに。


 でも皆が皆、戦った後のように装備が汚れたり傷ついたりしている姿にがんばってくれた事がわかって、皆もこの国の人達の為にがんばってくれたんだと、嬉しくて、1人1人改めて御礼を言い、慌てて皆に『治癒(ヒール)』をかけて回った。


 でも一番困ったのは『白薔薇騎士団』のリリンさんだった。

 『白薔薇騎士団』が来てくれてた事は多分アンクルさんとかに聞けば「当然です」とか言いそうだけど、その中でもリリンさんが酷かった。


 僕を見るなり一目散に僕に飛びかかってきたのだ。


「申じ訳ありまぜん、私がっわだぢがっ、ユウざまを、お守りでぎなかったばっがりにぃ……」

 僕の腰に抱きついて、リリンさんは大きな声を上げて泣きながら謝り続けるリリンさん。


 どうしていいのか分からず周りを見ても、アンクルさんも苦笑して頷いているだけだった。


「えっと、僕は大丈夫だから、それに元はといえば僕のせいだし、リリンさんは悪くないよ」

 そう言うも、リリンさんは物凄い勢いで首を振る。

「いいえっ! わたぢがいげないんでずっ! わだぢのミズでユウ様のっ! ユウざまの純潔がぁっ!」


「純潔って何っ!? 大丈夫だよっ!? そもそも何の事か分からないけど、少なくともこの一週間でそんな事欠片もなかったよっ!?」

 泣きやまないリリンさんに慌てて訂正を入れる。

 もしかして僕って無理矢理そんな事されたような噂が流れたりしてるのっ!?


「あー、うん。そうだね。ユウは私が責任を持って保護したから、そういう事にはならなかったよ」


 僕が顔面蒼白になりながらシルフィードさんを見ると、咳払いをしてシルフィードさんもフォローしてくれた。

 これで皆わかってくれると良いんだけど……。


 そう思っていると、クロノさんが苦笑しながら頭を掻き、

「まぁそういう事なら良かったけど……でも、逆に言えば保護されず危なくなっていた可能性もあったんだろ?」

 と、僕に尋ねた。

「う、うん。それは……そうだと思う」

 実際ソフィアさん達や、その前に誘拐された人達は……多分そういう事をされてると思う。

 それを考えると……もっと上手く出来なかったのかと思う……。


「ああっ! いや、ユウちゃんを落ち込ませようとして言った訳じゃなくてさっ!」

 俯く僕に、クロノさんが慌てたように手をばたばた振りながら大きな声を出した。

 訳が分からず少し首を傾げながらクロノさんを見上げた。


「ユウちゃんも女の子ならもっと自分の魅力を自覚して、危ない事しちゃダメだぜ?」

 と、僕の頭を撫でながらクロノさんが言った。


「あ、えっと……あり……がとう?」

 クロノさんが僕を元気づけてくれている事はわかったから取りあえず御礼を言う。

 けど……どうしても気になる事がさっきのクロノさんの言葉の中に1つだけあった。


 ……もしかして、もしかして……クロノさん、まさかと思うけど……。


「えっと、クロノさん、その、1つだけ、確認したいんだけど……」

「ん? なんだい?」

 にっこり満面の笑顔で答えるクロノさん。


「その………………僕、男だって、わかってる……よね?」

「は?」


 何故か固まるクロノさん。……どころか周囲の何人かも固まってるような気がするのは気のせい……だよね?


「僕、男だよ?」

 そんな「カラスは黒い」みたいな事を何故わざわざ宣言しなきゃいけないのかと思うけど、フリーズしたクロノさんにもう一度伝える。

「あ、あー、ユウちゃん、何故そんなジョウダンをトツゼン?」

 ロボットみたいにカクカクしながら問うクロノさん。顔も笑顔のまま固まっている。


「冗談じゃないよっ!? どう見ても僕は男じゃん!」

「いや、むしろ何処を見たら男なんだよっ!? どう見ても女の子だろっ!」

「むしろ何処を見てくれてるのさ!? 女の子だって言う方が無理あるよねっ!?」

「いや無理がなさ過ぎるだろっ!?」

 僕の叫びに即座にクロノさんも大声で叫び返す。

 そりゃ確かに少し中性的な顔立ちな気がするとは自分でも思うけど、高校生男子としてこれだけは絶対に譲れないっ!


「そこまで言うなら確認するっ!? 胸も無いし下もちゃんと付いてるよっ!?」

「女の子がそんな事言っちゃダメだっ!!」

「僕は男だぁぁぁーーーーーーっっ!!!!」


 僕の絶叫が星空の下に響き渡った。


 その後も何故か頑なに信じてくれなかったクロノさんには、ルルイエさんの『鑑定』スキルで僕のステータスを見せ、リアルの知り合いであるマヤや何人かの証言を聞かせた。……んだけど、その結果クロノさんはそのまま倒れてしまった。

 正直……そこまで認めて貰えないと僕も辛くて泣きたくなった。




 クロノさんも気絶しちゃったし夜も遅いから取りあえず帰ろうという話になり、僕達は正面門に向かって進むとそこには沢山の衛兵さんと、沢山の捕縛された人達が見えた。

 その前でガラム将軍が大きな声で指示を出している。

 やっぱりガラム将軍はかっこいいなぁ……。


 そう思っているとガラム将軍も僕達に気付いたのか大股で近寄ってきた。

「やぁ、そっちは片付いたかい?」

 手を上げてガラム将軍に話しかけるシルフィードさん。


「はい。無事全員を捕縛、影共が資料もしっかり押さえてくれましたから、コレで王国の膿は出し尽くせますな」

 とニカっと笑った。が、すぐに険しい顔になり、

「しかし、今回は上手く行ったから良かったような物のこのような真似は控えて頂きたいですな。御自ら動くのはあまりに危険過ぎます」

「ああ、わかったよ。迷惑かけたね」

 苦笑しながらガラム将軍を手で制するシルフィードさん。僕から見ても反省してるようには見えない。

 その様にガラム将軍は大きくため息をついた。


「大体アニー、お前が付いていながら何だ。殿下を危険から守るだけでなく、危険を予防する事もお前の努めであろう」

 シルフィードさんの態度にガラム将軍は矛先を変えてアニーさんに小言を言った。

「し、しかし父上、殿下は今回の件を憂いてですねっ」

「それでもお止めするのが親衛隊長の努めだ! そして職場では将軍と呼べと言っておるだろうっ!」


 叫ぶガラム将軍はそのまま右手の拳骨をアニーさんの脳天へと打ち下ろした。

 その衝撃に頭を押さえてその場にへたり込むアニーさん。

 ……僕だったらあのパンチで死んでる気がして血の気が引いた。


 でも……アニーさんとガラム将軍って親子だったんだ……確かに髪の色は同じだけど……に、似てないなぁ……。


 そう思って2人を見ているとガラム将軍と目が合う。

「……ユウ様も、今回は殿下に助力頂き本当にありがとうございました。お陰で我等も動きやすくなり、助かりました」

 そう言って笑った。

「あ、いえ。こちらこそ、シルフィードさんに助けて頂いて、あ、ありがとうございます」 


 慌てて頭を下げる僕。なんだか初対面の時の怖そうなイメージと違ってもしかして優しい人なんだろうか?

 いや、さっきアニーさんに物凄い拳骨喰らわしてたし……裏表が激しいんだろうか?


 そう考えているとシルフィードさんが頭を押さえて呻いていたアニーさんを引き上げる。

「まぁ……これで事件は解決した訳だし、私達も城に帰るとするよ。君達もゆっくり休むといい。……今回はこの極秘作戦に協力して貰い、テラン王国第一王子、シルフィード・テランの名に於いて心から感謝する。ありがとう」


 そう言って僕達に微笑んだ。


「シルフィードさん、ガラム将軍、アニーさん、僕の方こそ、本当にありがとうございましたっ!」

 僕も一歩前に出てシルフィードさんに頭を下げる。


 次に振り返り、皆を見る。


「そして……マヤ、ヴァイス、サラサラさん、コテツさん、ノワールさん、ルルイエさん、ホノカちゃん、アンクルさん、リリンさん、ダムさん、白薔薇騎士団の皆さん、アイバさん、マオちゃん、テルさん、グラスさん、クロノさん、シャーリーさん、……皆も、ありがとう。僕だけじゃきっと事件解決なんて出来なかったし、最悪帰って来れなかったかもしれない。

 僕だけじゃなくて、誘拐された全ての人と、これから誘拐されるかもしれなかった全ての人を助けてくれて、本当にありがとう」


 精一杯の感謝を込めて僕は笑顔で皆にも頭を下げた。


「そう思うならユウももう少し自重するようにねっ!」

 ホノカちゃんが怒ったように叫び、僕は笑顔のままで「ごめんなさい」と謝る。



 ――こうしてこの日、王国の闇に隠れた1つの事件は幕を下ろした。







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