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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
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第156話 燃える洋館からの脱出。

「僕達は楽しんでなんか無いよ! ソイル君を捕まえる為に戦っただけだ」

 僕の言葉にソイル君の手が止まった。

「あの戦いでも楽しめないなんて、ユウさんって結構ハードル高いんですねぇ……これは困ったなぁ……もっと強いモンスターを召喚するべきかな?」

 そう言って首を傾げるソイル君。


 正直今、次の情欲の魔神(アスモデウス)と同レベルのモンスターを出されたらきつい。HPは常に回復させてたけど、APももう殆ど残ってない。それはマヤやシルフィードさんも同じだと思う。


「ソレは無理だろう。さっきの情欲の魔神(アスモデウス)でお前のモンスターは品切れだろう? あるのなら倒される前に同時に出した方が確実だからな」

 レイピアに付いた黒い血を振り払い、未だ燃えている情欲の魔神(アスモデウス)をそのレイピアで指してシルフィードさんがソイル君に確認する。


「そうですね。本当はもっと沢山あったんだけど……この屋敷を包囲してる騎士団とかの相手に殆ど使っちゃったから、今のが最後の『召喚玉』です」

 ソイル君は楽しそうに手を広げて答えた。良かった、アレで終わりだったんだ。

 さすがに連戦はきつい。


 でも……外から聞こえていた沢山の戦闘音って外でもモンスターが暴れてた音なんだ。

 外には『銀の翼』や『白薔薇騎士団』も参加してる筈だけど……皆も怪我をしてなければいいな……。


「なら大人しく縛に付け。お前には聞きたい事が山程あるからな」

 普段と変わりないソイル君の態度に眉を潜めながらシルフィードさんが詰め寄る。が、それをソイル君は手で制した。


「いえ、僕にはまだやる事があるのでそれはできません」

「やる事、とは?」

 黒い炎を一足飛びで飛び越えてソイル君を捕縛出来ないかタイミングを見極めているシルフィードさんは、しかし未だ余裕の態度を崩さないソイル君に会話を続ける。


「それは勿論、ユウさん達を楽しませる事ですよ!」

 これしかないという笑顔で語るソイル君にシルフィードさんの眉間に皺が寄る。


「……ユウを楽しませる方法が、こんな悪趣味な奴隷売買の主という訳か?」

「それだけじゃありません。他にも色々考えてますよ? 盗賊ギルドの創設、貴族同士の宮廷闘争、王国の内乱、小さい所だと『召喚玉』による無差別テロなんてのも良いですよね」


 指折り数えながら説明するソイル君。その1つ1つにシルフィードさんの全身から怒りが溢れた。

 正直どれも僕は全く喜ばないんだけど……。


「話にならないな。どれ1つ看過する事は出来ないし、ユウがソレで喜ぶ訳もない。何故そう思ったのかもわからないがソイル、お前の野望は此処で潰えさせて貰う」

「お断りします」


 シルフィードさんが飛びかかろうとした瞬間、ソイル君がシルフィードさんによく見えるように自分の右手の甲を見せた。

 その不可思議な動作に一瞬止まるシルフィードさん。


 ソイル君の右手の甲は緑色の指輪が1個嵌っているだけで別段特別な事は……。

「っ!」

 が、シルフィードさんは目に見えて顔色が変わった事に、特別な事なんだとわかる。

「気付きましたね。王族御用達、『転移の指輪』です。コレで僕は退散させて頂きます。……ユウさん、次はもっと楽しめるようにがんばりますから、又遊んで下さいね」


 そうソイル君が言うと同時に、緑色の指輪が輝いた。




 最初、僕はソレ(・・)が『転移の指輪』の効果なのかと思った。

 ずっとソイル君を見つめていて、視線を外したりしていないのに、気付いたらソレ(・・)は居たのだ。


「な、なんだっ!?」

 慌てて周りを見回すソイル君。

 その姿に『転移の指輪』の効果ではなくイレギュラーなのだと気付く。


 ソレ(・・)は本当に何の前触れもなく、まるで映像を途中から付け足したように現れた。


 それは一言で言うと『真っ白』だった。

 真っ白なローブに、つばのない真っ白なとんがり帽子。帽子が大きくて顔まではわからないけど髪も真っ白で、色の付いた装飾品とかは1つも付けてないように見える。


 そんな人達がソイル君の周囲2m程を囲うように正方形の四隅に4人立っていた。

 なんだか何処かで見たような気がするんだけど……どこだっけ……?


「『白の使徒』……」

 突然現れた謎の集団を見て、飛びかかろうとしていたシルフィードさんも呻くように小さく呟く。

 シルフィードさんの顔はさっきまでの険しい表情と一転、少し青ざめているようにすら見えた。


 『白の使徒』って何? と尋ねようとした時、その使徒さんが動き出した。


『……禁則条項04番に該当を確認』

『……禁則条項20番に該当を確認』

『……要注意項目07番に該当を確認』


 4人の内、3人が順々にそう呟く。その言葉は男性と女性の中間のような中性的で感情のない声で、しいて言えば機械音のように聞こえた。


 慌ててソイル君は指輪の付けた手を何度も振っているが何ら変わる事もなく、既に指輪からの輝きが消えている辺りもしかしたら効果自体が消えているのかもしれない。


『……処罰対象、ソイル・テラン。02番を求刑』


 最後の1人が少し大きな声で宣言する。と同時にソイル君に右手を翳し、その手が輝き出す。

「ひっ!?」

『……了承』

『……了承』

『……了承』


 順番に手を翳す『白の使徒』さん。全員の手が輝いてソイル君を包み込んでいく。


「い、嫌だっ! そんなっ! た、助けてよっ! に、兄様っ! ユウさんっ!!」


 ソイル君は自分を包み込む球体から逃げだそうとするが、外に出る事すら出来ないようだった。

 その球体の中で、ソイル君自身が少しづつ光になって消え始める。


「ああっ! そんなっ……なんでっ! 僕だけっ……嫌……だっ……もう……死にたく……ないよ……いやだ……あぁぁ……」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにして僕達に助けを求めるソイル君。

 反射的にその手を掴もうと前に動いた僕の手をマヤが掴む。


「ま、マヤ……?」

「ダメよ。よくわからないけど、アレはあいつの自業自得。シルフィードが動かないなら私達がとやかく言える話じゃないと思う」


 そう言われて僕は未だ動かないシルフィードさんを見る。

 さっきまでの怒りでも、かといって悲しみでもなく、ただ消えていくソイル君を見つめるシルフィードさん。その表情から心中を推し量る事は出来なかった。


「っ…………!……」


 そうしている間に球体の中で藻掻いていたソイル君は完全に光となって消えさり、同時に球体が解除されて『白の使徒』は呟いた。


『……審判完了』

 その言葉と同時に1人、また1人と、出てきた時と同じようにコマ落ちするように『白の使徒』も消えていった。

 そこにはもうソイル君が居た痕跡すら残っていなかった。




 そして最後に1人残る『白の使徒』。

 その1人が……こっちを見た。


「……?」

 というか僕を見てる気がする。無茶苦茶見られてる気がする。

 もしかして僕もその『審判』されちゃうんだろうか? 正直身に覚えは全くないけど……人間どこで恨み買ったりしてるか分からないし、ちょっと怖い。


 とりあえず思い出せ。自分で気付いてないだけかもしれない。そう思いつつ、何処かで会った事あったっけ? と首を傾げる。

 こんな特徴的な外見の人を見かけたらまず忘れないような……。


「あ!」


 そこでやっと思い出した。

 ジェルミナさんに掴まる前に街ですれ違った人が同じ格好してた筈だっ!

 うん、僕の灰色の脳細胞はしっかり覚えている!


 顔が見えないからその人と同じ人かわからないけど、多分間違いないっ! あの時も突然消えたから見間違いか何かかと思ったけど、アレって夢じゃなかったんだっ!


 そう思って見ると、間違いなくあの時見た人? だった。


「……ギグ……ゆ、ユウ……早9……『神のダンジョ……』……来……』


 ガタガタを震えながら聞き取りづらい声で、でもさっきまでとは違ってまだ人間らしい声音で喋る『白の使徒』はそれだけ言うと消えてしまった。


 取り残される僕達。とりあえず僕が『審判』される事は無かった。

 でも……一体何だったんだろう?


 結局ソイル君は『白の使徒』の手で光になって消えちゃったし、あの消え方は死ぬ時の感じに見えた

 ソイル君は『NPCノンプレイヤーキャラクター』なんだから死んだら復活とか無い筈なのに。


「シルフィードさん、今のって一体何だったんですか?」


 正体を知っていたっぽいシルフィードさんに尋ねた。

「……あ、ああ。アレは……『白の使徒』だよ。この国……いやこの世界の神様の遣いって所かな」

「神様の遣い……って事は」

「ああ。ソイルは神の怒りを買って裁きを受けたって事だ。流民のユウ達は……いや、王族や一部の人間以外にはあまり知られていないけど、そういう事は度々あるんだ」


 シルフィードさんの説明にやっぱりソイル君が死んだ事を実感した。

 そりゃ悪い事をしたのはソイル君だけど、でも……。


「……っ!ユウ、危ないっ!」

「わぷっ!?」


 もうちょっと方法が無かったのかと思案していると、突然物凄い勢いでマヤに手を引かれて、マヤの胸に向かって飛び込む形になってしまった。

 まぁ金属鎧(プレートメイル)を着込んだマヤの胸は硬いから別に楽しい訳じゃないけど。


 その直後に天井が抜けて僕が今まで居た場所に巨大な岩が落ちてくる。


「あ、ありがとう、マヤ」

「考えるのは後にして脱出しましょ」

「う、うん」


 マヤの提案に一も二もなく頷いた。確かにもう此処にいる意味もないしさっさと逃げないと本当にこのまま洋館と一緒に焼け死んじゃいそうだ。


「私も賛成だが…………アレはどうしようか」


 同意するシルフィードさんが困ったように後ろを見る。

 釣られて僕もそっちに目をやると、さっき崩れた天井が出入り口の扉を完全に塞いでしまっていた。

 かといって見渡しても他に扉らしきものもない。


 ソイル君が自分用の脱出路を造ってるかもと思ったけど、転移で脱出するつもりだったようだし……。

「あ、そうだ! 僕の転移門(ポータル)なら簡単に……って、聖水使い切ってたっ!?」


 仕方なかったとはいえ、まさか戦闘で聖水を大量に使うなんて思ってなかったからあんまり作り置きしてなかった。

 当然礼拝堂内にも聖水を入れる瓶も、ましてや聖水を作る水も見あたらない。

 どうしよう……マヤの突撃ならあの岩を吹き飛ばして突破口を開けるだろうか? そこから『霊護印(エレメンタルガード)』して火の中を突っ切ればなんとか脱出出来るかも……。


 いや、そもそも天井が抜けてるんだから、がんばれば上から脱出……いや、無理か、肩車しても到底届きそうもない。

 上に人が居ればロープとか垂らして貰えるかも知れないけど、そもそも上に見えるのは火の海だけだ。

 やっぱり強行突撃で……。


「そういえばユウ、アレ持ってなかったっけ?」


 脱出作戦を練っていると突然マヤが僕に声をかけた。

「アレ?」

「ヴァイスを呼ぶ笛よ」

「ああ、あるけど……」


 そう言ってアイテムウィンドウから『一角獣(ユニコーン)召喚の笛』を取り出す僕。持ち歩かないとヴァイスが五月蠅いのだ。

 アイテムウィンドウに入れてあるだけだから別に場所を取る訳じゃないし良いんだけど。


「じゃあヴァイスを呼んで帰りましょ」

 事も無げに言うマヤ。

「って、ヴァイスだってこんな火の海に呼び出しても来れないと思うよっ!?」

「何言ってるのよ、ヴァイスはああ見えて『神獣』よ? こんな只の火事で来れない程ヤワじゃないわよ」


 そ、そうなの? 『神獣』ってそんなすごいの!?

 ちらりとシルフィードさんを見る。

「ん? あ、ああ。『ヴァイス』というのが誰の事かはわからないけど『神獣』だというのなら、大丈夫なんじゃないか? ダメでも喚び出しに応じないだけだろう」


 頷くシルフィードさんに、確かにダメ元だし、そういう事なら……と半信半疑のまま笛を吹き始めた。

 言われてみればこの笛を吹くのは初めてな気がする。


 『一角獣(ユニコーン)召喚の笛』から軽やかな音色が流れ、切迫した状況なのに心地よい空気が礼拝堂に流れる。


 1コーラス吹き終わる頃、不意に物凄い突風が吹き荒れ、周りの火が風に煽られて揺らめいた。

 突風に煽られて口から笛が離れてしまう。


「ヒヒーンッッ!」


 物凄い嬉しそうな嘶きと、突然僕にぶつかるような衝撃、そして頬を舐める暖かい感触。

「ヴァイス?」

「ヒヒヒーン!」


 もう一度嘶いて僕に頬ずりしてくる姿は間違いなく『一角獣(ユニコーン)』のヴァイスだった。


「君がヴァイス君か。初めまして、シルフィードです。宜しく」

「ヒヒン?」

 シルフィードさんが一礼すると、首を傾げてシルフィードさんを見つめるヴァイス。


「じゃ、さっさとヴァイスに乗って帰りましょうか」

「フヒヒィン」

 が、マヤの言葉にヴァイスは物凄く嫌そうな顔をして首を振った。


「ごめん、ヴァイス。みんなでここから出たいんだ。3人も乗ると大変だと思うけど……お願い出来ないかな?」

「ヒヒン!」

 大きく頷くヴァイス。後ろでマヤが舌打ちしてるけど、さすがに今ヴァイスにヘソを曲げられると困る。


 マヤが装備を自分のアイテムウィンドウに仕舞ってなんとか3人で乗る事が出来たのは小柄な僕と女の子2人だからだろうか? それでもかなり狭くて密着した状態だけど。


「えっと……『霊護印(エレメンタルガード)』はかけるけど……火の中に入るかもしれないけど大丈夫?」

 一番前に乗る僕はヴァイスの首を撫でながら尋ねる。

「ヒヒヒン!」

 問題ないと言いたげに一声鳴いたヴァイスの様子に僕も全員に『高位(ハイ)霊護印(エレメンタルガード)』をかけた。


「ヒヒーンッッッ!」


 それを合図にヴァイスの周りから風が巻き起こり、それに乗ってヴァイスが駆け抜ける。

 空中に道があるように宙を駆けるヴァイス、そのまま1階どころか建物の上空まで一気に駆け上がった。

 既に建物全体が激しく燃えていたけど、その炎もヴァイスの周りに巻き起こる風が切り裂き、防いでいるようで『霊護印(エレメンタルガード)』の必要性すらなかったように見える。


 駆け上がったヴァイスがそのまま建物の上空で足踏みをして停滞した。


「わぁ……」


 初めての飛行、夜空に満天の星が煌めき、眼下の街の灯りも星空とは違う輝きを見せている。

 不謹慎だけど、燃え上がる洋館はキャンプファイアーのようにも見えた。


「これがユウが守ってくれた世界だな。……今回は王族の不始末に手を貸してくれて本当にありがとう、ユウ」

 シルフィードさんも町並みを見下ろしながら、僕に感謝の言葉を述べた。

「そ、そんな事ないよ。僕の方こそいっぱい助けて貰ったし」

 慌てて僕も頭を下げる。

 実際助けてもらったのは僕の方が多いし、結局僕の囮が役に立ったのかよくわからなかったし。


「……そんな事はどうでもいいから早く降りましょ? 下でサラサラさん達が待ってるわよ?」

「ヒヒン!」

「うひゃあっ!?」

 ジト目のマヤに僕が返事をする前にヴァイスは駆け上がった時の倍以上のスピードで地面に向かって駆け出した。


 油断していた僕はそのスピードに煽られて慌ててヴァイスのたてがみにしがみつく事になった。

 


 




どうでもいい設定/

『召喚玉』について


・破壊すると封印してあるモンスター一体を召喚出来る。

・召喚モンスターはテイムモンスターと同じ扱いで、モンスター侵入不可結界も通れる。

・召喚モンスターに経験値、アイテムドロップはない。

・召喚モンスターを召喚した主が死ぬ、もしくは送還を命じれば消える。

・使い捨て。

・作中で言われてるようにテロに使えるので王国法で禁忌扱い。

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