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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
153/211

第148話 西塔の上で。

 休憩室に入ってきたシルフィードさんは険しい目で室内を見回す。

 と、無関係な人達がトラブルを避ける為か室内から出て行き、結果として僕と座り込んでる縦ロールさんと他2人が残される事となった。


 より一層眉間に皺を寄せたシルフィードさんと視線が合う。


 ど、どうしよう、折角貸してくれたドレスを汚しただけでなく破いちゃった……シルフィードさんのお母さんの形見なのに……。直せるだろうか、これ……あ、でも、まず謝らなくちゃ。


「あ、あの、シル――」

「お父様っ!」


 僕がシルフィードさんに謝ろうとした瞬間、座り込んでいた縦ロールさんが飛び上がり、シルフィードさん……の後ろに居た人に飛び込んで行った。

 でっぷりとしたお腹で縦ロールさんを受け止める男性。……ロリコ伯爵さん……だっけ?

 て事は縦ロールさんはロリコ伯爵の娘さん?


「おお、どうしたんだ愛しい娘よ、ドレスを汚して、一体なにがあったんだ」

「それが、あの者のあまりに無礼な振る舞いに注意をしたら、突然暴力を振るわれて」

「なんだとっ! どういう事だっ!」

「殿下に対してっ……失礼な事を仰るのでっ……注意、したら、こんなっ……」


 そう行ってしくしく泣き出す縦ロールさん。

 えっ……さっきのってそういう事になるの!?

 確かに僕が突き飛ばしちゃった形になっちゃったし、女の子に暴力なんてダメだと僕も思うけど、でも……アレって縦ロールさんの方から……。


「伯爵家の娘に向かってそのような振る舞い、覚悟は出来ておろうなっ!」

 未だ両手で顔を覆って泣いている縦ロールさんの言葉に顔を真っ赤にして僕を睨むロリコ伯爵。


「……それは本当か、ユウ?」

 ロリコ伯爵と対照的に物凄く冷たい声で僕に問うシルフィードさん。

 感情の籠もってない声に身体が震えて声が出なくなる。


「本当ですわ! この方が殿下への失礼な物言いを注意したら突然突き飛ばしてきたんですわ」

「ですわですわ!」

 縦ロールさんを慰めていた2人も口々にそう告げる。


「……そうなのか?」

「そ、それは……そうだけど、でもっ!」

 事故とはいえ突き飛ばしてしまったのは事実だ。怪我はないと思うけど、女の子にとって尻餅とか嫌に決まってる。

 でも、ちゃんと説明しようとした時、シルフィードさんはくるりと背中を向け、大きくため息をつく。


「……もうよい。少しばかり外見が可愛いから良いペットになるかと思えば増長して噛みつく……所詮平民か」


 ? シルフィードさん、何を言ってるんだろう?


「立場も弁えぬ愚かなペットなど要らぬ。もう五日楽しんだ……愛でた花を踏みにじるのも又一興か。もう一度、誰ともしらぬ者に売られるが良い」


 売られる……又僕が売られるって事なんだろうか?

 背中を向けたままそう言うシルフィードさんは肩が震えて、手が痛い程握られてるように見える。


 もしかしてそんな震える程シルフィードさん本気で怒ってる?

 そ、それはそうか。お母さんの形見を汚して破って……怒られても当然だけど……謝っても許されるような事じゃないかもしれないけど……。

 でもだからってシルフィードさん、奴隷売買を摘発して皆を救うって言ってくれてたのに、そんなどうして……。


「……う、嘘、だよ……ね?」

「信じぬのなら、それでも良い。売られるその日まで夢を見ているが良い。……誰か、この者を――西塔に幽閉しておくようにっ!」


 呆然としている僕を2人の近衛兵が両側から抱えて引きずるように引っ張っていく。

 遠ざかる視界には、ニヤニヤと笑う縦ロールさんとロリコ伯爵、あとシルフィードさんの後ろ姿だけが見えた。




 王城のにあるいくつかの塔のうち、西側にある低い塔の階段を上りきった一番上にある小部屋が僕の幽閉先だった。

 突然の展開とシルフィードさんの変貌に呆然として流されるように連れてこられてしまったけど、お陰で暴力とか振るわれなかったのは不幸中の幸いだっただろうか?

 結局ちゃんとシルフィードさんに謝れなかったのが悔やまれるけど……。


 そう思いつつもやっと少し落ち着いてきた僕は部屋を見渡す。

 石造りの六畳間程度の広さで簡素な机と椅子、あとベッドがあった。

 元々何に使う部屋なのかわからないけど、窓には鉄格子が嵌められていてその隙間から星空が見える。……低いとはいえ塔自体は何階建てかわからない高さだから仮にこの格子が無くてもここから出る事は難しそうだ。

 当然扉も外側から鍵がかけられて開かなくなっていた。


 開くのならすぐにでもシルフィードさんの所に行って謝りたいけど……でも、あんなに怒ってたんだし此処に居ろと言われたのを抜け出して謝りに行っても逆に怒らせちゃうかもしれない。


「でも……だからって、どうしよう……」


 コン……コン……


「ん?」

 自分以外居ない部屋から何か変な音がしたような?


 コン……コン……


 幻聴じゃ無さそうなので音の出てる場所を探す……と、それが窓からだとすぐに判明した。

 鉄格子の嵌った小さな窓で外側にベランダとかある訳じゃないのに……ホラーな話じゃないよね?


 未だコンコンと定期的に聞こえる音に、恐る恐る窓を開けて、格子の隙間から外を確認する。

「……良かった。気付いてくれましたか」

「影さんっ!?」

「はい」


 窓の外、鉄格子の向こう側には夜の闇に紛れた影さんがそこに居た。

「って、なんでこんな所に!? あ、あぶないよっ!? 早く中にっ、って鉄格子外れないっ、どどど、どうしようっ!? そ、そうだ、シルフィードさんを呼んでっ」


 よく見ると鉄格子に片手で捕まって宙ぶらりんの影さんに慌てて助けようとするが、当然鉄格子の隙間から人が通れる距離な訳もなく、慌てて救助法を考える。

「落ち着いてください。大丈夫ですよ。此処にも登ってきただけですから、帰りも普通に降りれます」


 ちょっと階段を登っただけ、みたいな風に言う影さん。

 勿論この塔の外壁にそんな物があった記憶はない。……ロッククライミングみたいな感じだろうか? さすがに王子様を守る影さんってすごいんだなぁ……。


「それではまず……こちらに殿下は来られません」

「う、うん」

 それはそうだろう。シルフィードさんすごく怒ってたみたいだし。


「ですので殿下から伝言を預かって参りました。『ユウ、すまなかった』」

 突然影さんの口からシルフィードさんの声が聞こえてきて、びっくりしながら見直すと、やっぱり窓の外で張り付いているのは影さんだった。


「……続きを言っていいですか?」

 目を白黒させている僕に影さんが再び影さんの声で問いかけてくる。

「う、うん」

「それでは……『ユウ、すまなかった。作戦とはいえ、ユウに酷い事を言ってしまった。許される事じゃないとは思うけど……謝らせて欲しい。本当にすまない。そして……許して貰えるのなら、作戦を継続して貰えるのなら、この後の事については影から詳細を聞いて欲しい』……との事です」


 やはり何度聞いてもシルフィードさんにしか聞こえない声が影さんから聞こえてくるのがすごい。

 こんな事も出来るって本当に影さんってすごい人だ。

 でも、それよりも……。


「よかったぁ……」


 僕は心の底から安堵していた。

 シルフィードさんは怒ってなかった。それにやっぱり奴隷売買をちゃんと摘発して、捕まった子達を助けようとがんばってくれてた。

 一瞬でも疑ってしまった自分が情けない。


「でも……そういう事なら先に教えてくれれば良かったのに」

 そしたら僕だってもっと上手に立ち回ったのに。

「殿下はそうする御積もりだったが、それは私がお止めした」

 僕の少し口を尖らせていると、影さんが当然のように答えた。


「え? なんで?」

「この五日間、ユウ様を拝見していて、貴方には演技は無理だと判断しました。もし前もってこの事を知っていれば貴方の行動が相手に違和感を与える可能性があった為、あえて伏せさせて頂いた」

「なんだか凄く失礼な事を言われた気がするんだけど!?」

「事実だ。実際あの場で呆然と連行されるユウ様の表情は演技では難しかったと言える。あの表情は素晴らしかった」


 そ、そう言われると反論出来ないかもしれない。

 それに褒められるとちょっと嬉しい……褒められたんだろうか?


「だがイレギュラーもあった。本来なら此方で用意した者と諍いを起こす予定だったが、その前にあの令嬢達とトラブルになってしまった。少ないとはいえ危険に晒した事、申し訳ない」

 そう言って本当に申し訳なさそうに、鉄格子に掴まりながら器用に頭を下げる影さん。


「僕こそ、その……ドレス、こんなにしちゃって、ごめんなさい」

「その事については殿下も気にしては居ない。……むしろ、あの状況にシルフィード様が怒り、危なく計画が破綻しかけていた。危ない所だった」


 気にしてないって言いながら、やっぱりドレスを破られてシルフィードさんそんなに怒ってたって……やっぱり後でちゃんと本人に謝りたいな。

「えっと、それじゃ、この後の『計画』って?」


 それ次第でいつ謝れるのかがわかるし、さっきの伝言で影さんに聞けって言ってたよね。


「……おそらく数日中にユウ様の再オークションが開かれる。失礼な言い方だが本来誰かの購入後の奴隷は価値を減じる物だろうが、今回は少々違う。殿下が一度購入した奴隷である事、殿下とのコネクションが出来るような情報を流布している事、又今日の舞踏会でユウ様をアピールする事も十分出来た。

 当日は恐らく裏オークションに参加した事のある殆どの人間が集まる。そこを捕らえる」 

 

 ……という事は、数日中にソフィアさん達は助け出せて、シルフィードさんに謝れるって事か!

 これは頑張らないとっ!


「じゃあ僕は何をすればいいのかな?」

「何も」

「え?」


 何も……って何もしなくて言いの?

「数日中にユウ様はオークション会場に移送され、オークション当日を迎える筈ですので、それまでやってきた人間の言われるままに移動して下されば十分です。『商品の価値を保つ為』に乱暴される事もありません」


 うーん……皆ががんばってるのに、僕だけ何もしない。というのは気が引けるけど……でも、これも大事な仕事なんだよね。うん、がんばって言われるままに移動しなきゃダメなんだ。

 よし、ちゃんと世を儚んだ奴隷を装って行動しよう、うん!


「……あと、殿下から預かって来た物があります」

 そう言って影さんは器用に格子の隙間からネックレスと指輪を僕に手渡した。

 小さな紫色の石が嵌ったネックレスと、虹色の輝きをした不思議な指輪だった。

 どっちも綺麗だけど……何なんだろう?


「えっと……これは?」

「ネックレスは『解呪の首飾り』と言い、装備解除不可装備を解除できます。ネックレスの石の部分を手で触り魔力を込めると発動します。危ない時はすぐに首輪を解除するようにとの事です」


 なるほど、これで『隷属の首輪』を解除出来るんだ。

 ……危ないからって下手なタイミングで解除しちゃうと作戦がバレちゃうし慎重に使わないとダメな気がする。


「えっと……じゃあこっちは?」

 『解呪の首飾り』を確認して、もう片方の指輪を眺める。光の関係なのかゆらゆらと小さな宝石の中の輝きが綺麗に揺らめく。

「そちらは……『生命の指輪』と言います。病気や老衰以外の『死』を一度だけキャンセルする事が出来ます」


 影さんの説明を聞いて指輪を落としそうになって慌てて両手で握りしめた。

「そ、それって物凄く高価なんじゃ……?」

 死ななくなるアイテムなんて聞いた事ないよ?!

「王族に伝わるレアアイテムです」

「なんでそんなすごい物渡すの!? 借りれないよっ!?」

「いいえ、貸与ではなく贈呈です。そしてこれは殿下の決定ですので、私が口を挟む権限はございません。価値がおわかりでしたら、使う事がないようご自愛下されば良いと思います」


 そう言われると影さんにどうこう言っても仕方ないし……後でシルフィードさんに直接返そう、うん。

「……ありがとうございます」


 僕はそう言って『解呪の首飾り』と『生命の指輪』、ついでに破れていたドレスを脱いでいつもの『純白のローブ』を装備した。ドレスはとりあえずアイテムウィンドウに入れて、あとで染み抜きがんばる事にする。


「それでは私は失礼します」

「うん、本当にありがとう」

「…………私は感謝される事はしておりません」


 頭を下げると、影さんはそう言い残して掴んでいた手を離し闇の中に落ちていった。

 あわてて鉄格子の隙間から下を覗いてもそこに人影はなく、綺麗な星空が広がっているだけだった。







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