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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
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第147話 踊る人と踊れない人。

 ソイル君は今、確かに『プレイヤー』と言った。

 一ヶ月以上『セカンドアース』に居て、王都テランに居て、プレイヤー以外の人が僕達の事を『プレイヤー』と呼んでいるのを聞いた事はなかった。

 それは街のおじさん達も、ギルドの皆さんも、衛兵やお城の人達もだ。

 それってつまり……。


「ソイル君も、プレイヤーなの?」


 驚きを隠せないまま、僕はソイル君に尋ねた。

 するとソイル君は今にも噴き出しそうになりながらも、でも僕のように踊りがズレたり躓きそうになったりはせずに答えた。

「違いますよ。僕は歴とした『NPCノンプレイヤーキャラクター』ですから」

「えっとじゃあ……どうして……」

「そう思った理由はいくつかありますよ」


 ソイル君はそこで一端僕を観察するように見つめた。

 その理由が分からず首を傾げると、何故か苦笑されてしまう。


「1つは、その外見です。ユウさんの姿、声、あと匂いとか、こうして触れている手の感触とか、何かしらの固有スキル、それも複数ないと説明が付かないと思います。

 それだけでもユウさんが『プレイヤー』である可能性は高いと思いました。」


 確かに僕は6つも固有スキルを持ってるけど……といっても殆ど何の役に立つのかもよく分からないようなハズレばっかだけど。


「2つ目のほぼ確定な理由は、そんなユウさんが今まで知られてなかった事ですね。

 その固有スキル勿論王国民でも複数の固有スキルを持つ者が生まれる可能性は0ではないけれど、そういう人が、特にユウさんのように一目でわかるような固有スキル持ちが今まで誰にも知られずに暮らせてこれる訳がありません。

 兄様に限らず誰か貴族の目に留まり、もっと早い段階で知れ渡ってないとおかしいんです」


 なるほど、確かに僕のはハズレだったけど固有スキル自体はすごい物が多いし、その力を使って暮らしてたら名前が知られたりするものなのかもしれない。


「ならばユウさんは突然この世界にやってきた人……この世界の人が流民と呼ぶ『プレイヤー』達である可能性が一番高い。

 と、言っても最後の決定打はさっきのユウさんの表情ですけど」


 楽しげに踊るソイル君はそう言って少し舌を出した。

「あれ? でも、それが僕を『プレイヤー』と呼ぶ理由には……」

「僕は『NPCノンプレイヤーキャラクター』だけど、色々(・・)知ってますから。……ここからが本題です。ユウさんは『何をしに』王城に来たんですか?」


 一転真剣な表情で僕を見つめるソイル君に言葉が詰まった。


 何をしに、って……うっかり誘拐団に捕まって、流れでシルフィードさんに助けられて、気付いたら王城に居ただけ。

 ……なんて説明できないし……。

 ってそうか、突然王子の隣に『プレイヤー』の1人が立ってたりしたら気になるのも当然なのか。


 要約すると『状況に流されてこうなっちゃった』という僕が聞いても相手を馬鹿にしてるような答えしかない事に、ソイル君に納得して貰うには何と言っていいのかわからず頭を悩ませる。

 かと言って『プレイヤー』だとまで言われてしまってるのに嘘で誤魔化すのも難しそうだし……本当にどうしたら。


 しかし考えてると踊りが疎かになり、踊りに気をつけると考えが纏まらず、困った状況になった。


「って、そんな悩まなくても良いですよ。『プレイヤー』ってそんなもんだと思うし。……じゃあ質問を変えますね」

 見かねたソイル君が気軽な口調で転びそうな僕に声をかけてくれた。

「ユウさんは……此処に来て楽しんでますか(・・・・・・・)?」


 此処……王城の事だろうか? それとも『セカンドアース』の事?

 誘拐されて売られたり、ログアウト出来なかったり、色々あったし大変だったけど……


「勿論、楽しいよ」


 そこは悩む事なく笑顔で答える事が出来た。

 『セカンドアース』に来れて出逢った『プレイヤー』も『NPCノンプレイヤーキャラクター』も、いい人達がいっぱいで、その1つ1つが大切な思い出であり、楽しかったと断言出来た。


「そっか、良かった」

 とソイル君も笑顔になった時そこで音楽が止まり、ソイル君との時間が終わる。

「せっかくのゲームですし、もっと楽しんで貰えるようにこれからもがんばります。一曲踊ってくれて、ありがとう」


 そう言ってソイル君は僕の手を離し、次の相手の方へと歩いて行った。




 何とかホールを抜け出して休憩室で1人グレープジュースを飲みながら、僕はさっきの事が頭から離れなかった。

 ソイル君は確かに僕を『プレイヤー』だと言った。

 でもそれ以上に、自分を『NPCノンプレイヤーキャラクター』と言い、『ゲーム』と言った。


 という事はソイル君は『セカンドアース』がゲームだと知っているという事……だよね。


 ……そんな事ってあるんだろうか?


 今まで出逢ってきたプレイヤー以外の人は『ゲーム』である事なんて知ってるような人は居なかったと思うんだけど……もしかして、何かしらの関係者だったりするのかな?

 だとしたら、もしかして僕の現状も相談したら何かわかるのかもしれない?


 ふとその事に気付いて僕は立ち上がった。

 ソイル君なら僕がログアウト出来ない原因や、ログアウトする方法を知ってるかもしれない。ならもう一度ソイル君と話をしなきゃ。

 流石に『銀の翼』に戻った後じゃ、次いつ逢えるかわからないし。


 そう思って立ち上がろうとした僕の前に誰の影が差した。


「貴女、なんだか随分といい気になっていらっしゃるようね」

 見上げると、3人の女性が僕を取り囲むようにして立っている。

 3人とも僕と同じ位の年齢だろうか? 皆物凄く派手なドレスを着ていて、中央の人なんて縦ロールまでしている。

 シェンカさん以外で縦ロールの人を初めてみた。それぞれに眉をつり上げて僕を睨むように見下ろしている。

 正直すこし怖い。


「えっと……僕に何か?」

「何か、ではありませんわ! 伯爵家である私を差し置いてシルフィード殿下と、それにソイル様とまで踊られるなんて恥知らずに一言言いたくて参りましたの」


 中央の縦ロールさんに合わせてそうだそうだと残りの2人も囃し立てる。

 何故か怒り心頭なようだ。


「えっと、ごめんなさい?」


 何に怒っているのかわからないけど取りあえず謝る。

 怒っている女の子には謝る以外の解決法なんて無いらしいし。実際怒ってるマヤなんて僕の弁明の聞く耳をもってくれないし。


「あら、自覚があるのでしたらこのような場に来ずに最初から辞退すればよいですのに。これだから平民は困りますわ」

「全くです。あんな下手な踊りの相手をした殿下も可哀想でしたわ」

「ですわですわ」


 返す言葉もない。

 自分ではがんばったつもりだけど、ちゃんと踊れる人達から見たら素人すぎて酷い有様だったろう。

 ソイル君の時に至っては会話の方に意識が行きすぎて自分でも酷い有様だと自覚がある。


「ちょっと貴女っ、聞いてますのっ!?」


 縦ロールさん達の言う通りなので黙って聞いていると、無視されたと思ったのか、縦ロールさんは僕の持っていたグラスを奪い取りそのまま僕にぶちまけた。

 まだよく冷えている液体が僕にかかって身体を冷やしていく。


「あ……」

 突然の事で避ける事も出来ず、染みが広がっていくドレスを見て漸く僕は青ざめる。


「そんな古くさいドレスで来るからそういう事になるんですわ」

「ホント今時そんなドレスで来るなんて今日の舞踏会を馬鹿にしてるようなものですわ」

「ですわですわ」

 濡れたドレスに呆然としている僕を見て、縦ロールさん達は楽しそうに見下ろしていた。


 でも今は縦ロールさん達よりドレスだ。

 シルフィードさんのお母さんの形見のドレスなのに、汚しちゃった。ど、どうしよう……これシミ抜き出来るだろうか?

 さすがにドレスの染み抜きなんてした事ないし、クリーニングとかこの世界あるのかな?

 どちらにしろ急いだ方が良い。早めに脱いで汚れを取らないと……。


「えっと、僕、ちょっと……」

「まだ話の途中ですわっ!」

 すぐに後宮に戻って汚れを取ろうと立ち上がる僕の前に3人は立ちふさがって通してくれない。

 もしこんな所で時間を無駄にしたせいでシミが取れないなんて事になったらシルフィードさんに謝っても謝りきれない。


「ごめんなさい、急がないとシルフィードさんの……」

「さん、って! で、殿下の事をなんて失礼なっ!」

 サッと頬を紅潮させて今まで以上の怒りの表情になって縦ロールさんは僕のドレスの胸元の薔薇を装飾の辺りに掴み掛かってきた。


 その力強さに胸元にビリッと嫌な音が聞こえる。

「っ! ちょっ、やめてくださいっ!」

「きゃっ」


 反射的に縦ロールさんを押しのけると、そんな強い力のつもりじゃなかったけど、縦ロールさんはそのまま後ろに尻餅をついた。

 しっかり僕のドレスを掴んだままだった為に、胸元の薔薇の装飾が引き裂かれる。


「あ、貴女っ! なんて事をっ!!」

「この方をどなたと思ってらっしゃるのっ!?」


 尻餅をついた縦ロールさんを見て他の2人が僕に怒りの声をあげる。

 突き飛ばすつもりはなかったのだけど、申し訳ない事をしてしまった。でも今の僕はその事より破れた自分の胸元の取り返しの付かない状況に頭が真っ白になる。


「一体何の騒ぎだっ!」


 その時、騒ぎを聞きつけたのか誰かが呼んだのか、扉を開いてシルフィードさん達が声を上げて休憩室へと入ってきた。






 

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