表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
146/211

第141話 後宮へ。

「では朝食にしては随分時間も経ってしまいましたし、そろそろ移動しましょう」

 話がまとまった所でアニーさんが僕達を促した。

「そうだね。ユウ、行こうか」

 アニーさんに頷いてシルフィードさんが僕の手を取る。


「えっと……行くって何処に?」

 確かに此処は寝室みたいだしずっと此処でって訳はないだろうとは思うけど、お城の中を移動するならそれなりの心構えが欲しい。

「ユウにはこれから後宮に行って貰いたいんだ」

「そういえばさっきも言ってたっけ」

「ああ、勿論此処の警備も万全だが、後宮の方が守りやすいからね」


 なるほど、確かに後宮といえばハーレムのイメージが強いけど、王妃様や幼少期の王子様が暮らす場所なんだからある意味この国で一番防備が硬い場所でもおかしくない。

 江戸城の大奥とかもすごかったって言うし。


「でも……本当に僕が行っていいの?」


 どうしても気になる事を確認する。

 後宮は次期国王を産み育む場所なんだから、そこに王様以外の、それこそ僕みたいな一冒険者の男が侵入してしまっては大問題なのではないだろうか?

 『なにもなかった』と口で言っても色んな禍根が残りそうなんだけど……。


「勿論構わないよ。…………ああ、王妃や姫との関係も気にする心配はないよ。この国の王妃……僕の母は随分昔に亡くなったし、父は側室を取っていない。姫もこの国には居ないしね」


 シルフィードさんの説明に一瞬アニーさんが強張ったように感じた。

 当たり前か。自分のお母さんで王妃様が亡くなった話をシルフィードさんにさせてしまったのだから。


「その……ごめんなさい」

 申し訳なくて、僕はシルフィードさんに頭をさげる。

「いいよ。もう随分昔の事だからね。」

「でも……」

「んー……どうしてもって言うなら、又あのホットドッグを作って欲しいな。あのホットドッグ、アレは母が作ってくれたのと同じ味がしたんだ」


 そう言ってシルフィードさんが微笑む。

 その言葉に僕は、『転職祭』の時、僕のホットドッグを食べて涙を流していたシルフィードさんを思い出した。


「う、うん! 作るねっ! 今晩にでもっ!」

「それは嬉しいな。楽しみが1つ増えた」


 その笑顔にがんばってホットドッグを作ろう、そう心に決めた。

 あ、でもソーセージはアイテムウィンドウに残ってるけど、パンって焼けるのかな? 後宮って言う位だしオーブン位あると思うけど……貸して貰えるのかなぁ。


「あの……お二人とも、そろそろ急ぎませんと……」


 ついパン作りを考えていると、見かねたのかアニーさんが僕達に声をかけてきた。

「ご、ごめんなさいっ!」

「あっはっは、ついホットドッグの事を考えてトリップしちゃったね」

 慌てて謝った僕は、謝る気が全くないように見えるシルフィードさんと一緒に寝室を後にした。




「おや、シルフィード殿下ではありませんか。おはようございます。今日は遅い御出陣ですな」


 寝室を出て、室内と変わらず豪華な廊下の赤絨毯の上を歩いていると、低く響くような男性の声がシルフィードさんを呼び止めた。

 声の方を向くと身長2メートル以上ある巨大な金属鎧がそこに立っていた。

 一瞬オーガ? と思ったが鎧の上に載っている顔は人間だった。厳めしい顔が載っていた。短く切りそろえられた白髪まじりの栗色の髪と髭も精悍さを際立たせている。右目の下に切り傷が付いているが、それが更に歴戦っぽく見えて格好いい。


 長身と分厚い鎧は、その下に鍛え抜かれた筋肉を想像させるに十分で、恐ろしい顔も……いや、恐ろしい顔だからこそ一目でわかる『重戦車』って感じで僕の憧れが形になって立っているような人だった。

 この人ならドラゴンの攻撃からだって仲間を守ってくれそうな安心感に溢れている。


「ああ、ガラム将軍。貴方こそ、珍しいですね。この時間は兵達の訓練に行かれている事が多いのに」

「これから行く所ですよ。……と、そちらの方は?」


 憧れを隠そうともせず見上げていた僕に気付いた男性――ガラム将軍? が僕を見てシルフィードさんに尋ねた。


「ああ、今日から私付きになるユウです。ユウ、こちらは我が国の全軍司令官のガラム将軍だ」

「は、はじめまみて! ゆゆ、ユウです! よろしくお願いしましゅっ!」


 紹介して貰って慌てて自己紹介をした。……が、噛んでしまった。うぅ……憧れの人の前でこの体たらく……。


「お付き……私は聞いておりませんが、どういう事ですかな?」

 一瞬僕を睨んだ後、シルフィードさんに問い詰めるガラムさん。  

「昨日突然決まってね。今日伝えようと思っていたんだ」

「困りますな。貴方はこの国の王子なのですよ? どこの馬の骨とも分からぬ者を何の連絡もなく突然城の、それも王族の居住区画に入れる等――」

 険しい視線を僕に送ったまま、シルフィードさんに小言を言うガラムさん。


「一応アニーには伝えて了承は取っていたから警備上は問題なかったから許してくれ。アニーから昨日のうちに連絡しなかったのも僕の指示だ」


 シルフィードさんの弁解にガラムさんは僕から視線を外し、少し後ろに控えていたアニーさんをさっき以上の眼光で睨み付けた。

 かっこいいけど……正直すごく怖い。


「アニー殿ですか。いくら殿下付きの親衛隊長といえど、殿下の間違った指示に従うのではなく、殿下の為に忠言する事こそ努めではありませんかな」

「おっ、お言葉ですが、ガラム将軍。ゆ、ユウには危険はなく、又今回の事は殿下の判断も間違っていなかったと私も思います!」


 触れたら切れそうな程の殺気を漲らせているガラムさんに真っ向から反対意見を述べるアニーさん。さすが親衛隊長だ。アニーさんもすごい。

 ガラムさんのあの殺気って低レベルなモンスターなら殺気だけで殺せそうな勢いなのに。


「……まぁいいでしょう。詳しくは後ほどよろしくお願いします。兵士の訓練がありますのでこれで」


 そう言ってシルフィードさんに頭を下げて去っていくガラムさん。身に纏った殺気がその足取りと共に遠ざかって行った。

 去り際も格好いいなぁ……。


「……ユウ、すまなかったね」

 小さくなっていくガラムさんを見ていると何故かシルフィードさんが僕に頭を下げた。

「えっと……何が?」

「ガラム将軍も悪い人ではないのだが、この国を第一に考えている人でね。普段からああいう対応をしがちなんだ。許してほしい」

「?……ガラム将軍の言ってた事って当たり前の事だし、むしろ居る事を許してくれたいい人じゃないのかな?」


 そう言うとシルフィードさんが驚いたように僕を見る。

 むしろ僕としては何故シルフィードさんが驚くのかがわからなかった。警備をしているガラム将軍からしたら不審者以外の何者でもない僕が突然現れたら警戒するのは当然だし、むしろお仕事を増やしてしまってごめんなさいと謝るのは僕の方だ。


「その……馬の骨とか言われてたろ?」

「あー……でも、その通りだし」

「ユウは実は大物なんだなぁ」


 何かに納得するシルフィードさん。

 なんだか『大物』と言われたのに『実は』が付いてる辺り「身長は小さいのに」と言われてるようでちょっと気になってしまった。

 けど、そんな事をわざわざ聞く事自体が小物っぽくて聞けないっ。


「へー、大物には見えないけどなぁ」

「小さいから!? 身長は関係ないだろっ!?」


 反射的に答える。が、その声がシルフィードさんでもアニーさんでも無かった事に声を出してから気付いた。


 振り向くとそこには僕より小さい少年らしき人物が立っていた。年の頃は10歳位だろうか?

 金色の癖っ毛に猫のような好奇心旺盛な2つの目が僕を見つめていた。


「おはようソイル」

「おはようございます、兄様!」


 シルフィードさんが口を開いた瞬間、ぱぁっと笑顔になった少年――ソイル君がシルフィードさんに頭を下げる。

 兄様、っていう事は……。


「シルフィードさんの弟さん?」

 確かに髪の色とかは同じだけど……似てるといえば似てるけど……ちょっと雰囲気違うかも?

「ああ、ユウ。この子は私の従兄弟なんだ。父の弟の子でね。名前はソイル・テラン。王位継承権は第3位だったかな?」

「王位は兄様が継ぐのですし、僕の継承権なんてあってないようなものですよ。……はじめまして、ソイル・テランです! えっと……ユウさん? で良いですか?」


 シルフィードさんの紹介に少しだけ訂正を入れたソイル君は改めて僕に自己紹介をして頭を下げた。

「あ、えっと、うん。ユウです。シルフィードさんには良くして貰ってます」

 僕も取りあえず頭を下げる。

 と、ソイル君は面白い物を見るようにニマニマと僕を見つめていた。

「???」


 よくわからず首を傾げる僕。

「さすが兄様だ。こんなすごい人を見つけてくるなんて!」

「あ、えっと……ありがとう?」


 嬉しそうに声を上げて、どうやら褒めてくれたような気がするけど……ソイル君が何を褒めてくれたのかもよくわからず、御礼も疑問系になってしまった。


「まぁ色々な。……それよりソイル? 今の時間は授業中じゃないのか? 家庭教師を待たせては駄目だぞ?」

 満更でもない表情をしていたシルフィードさんだったが、一転厳しい視線をソイル君に送った。

 その瞬間『やばい』という表情をして、後ずさるソイル君。


「あ、えーと……そ、そう、今から行く所だったんですよ。で、では失礼します!」


 そう言ってそのまま後ろに駆け出していくソイル君。

「……仕方ない子だ」

 そう言ってため息をつくシルフィードさん。

「でも、可愛い弟みたいだね」

 と、見たままの感想を言うと、シルフィードさんは苦笑したような、でも嬉しそうに微笑んだ。

「本当に手のかかる可愛い弟だね」




 その後も後宮に到着するまで、何人かに声をかけられ、二言三言挨拶をしてやっとの事で目的地へと到着した。


 正直遠かった……お城広すぎじゃないか? 廊下がこんなに長いとミニ四駆のコースとか作れるよ!?

 と思ったし後から『加速(アジリティアップ)』をかければ良かったと気付いたが、城内で緊急時以外に『加速(アジリティアップ)』で駆け抜けるとかは駄目とアニーさんに怒られた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ