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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
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第138話 あの日の真相。

「つまり、殿下と……ユウ様……でしたか、は朝から、羨まし、いえ、ふしだらな事をされていた訳ではない、と」

「だから違うよっ!? そんな事する訳ないでしょっ!」


 まだ少し頬を朱に染めたままの女性騎士さんに室内に入ってきて貰った。

 短く切りそろえられた栗色の髪に軽装ながらも着込んだ全身鎧と腰に下げた長剣姿はまさに騎士という感じで、そんな凛々しい姿と、頬を染める綺麗な顔のギャップが正直ちょっと可愛い。


 しかしその頬を染める原因が盛大な勘違いなのだから何とか釈明しなければ。

 そもそも男同士でふしだらってそんな事ある訳がない。男同士でなんて想像するだけで気分が悪くなる。

 シルフィードさん自身は格好いいとは思うけどそれとこれとは別問題だ。


 勿論、別に男同士でそういう趣味の人がダメって言ってる訳ではなく、僕自身がそういう趣味が全くこれっぽっちも無いのだから困る。


「いえ、てっきり殿下もこんな可愛い奴隷をお買いになられて、つい桃色の衝動にかられたのかと」

「かられないよ!? むしろ桃色の衝動なんて何処にもないよっ!?」

「そうですか、残念です」

「残念なのっ!?」

「冗談です」


 わ、分かり難すぎる冗談だ。

 でも、そういう冗談を言うという事は誤解は解けたのかな? なら良かった……本当に良かった。


「まぁ、アニーもあまりユウをからかわないでくれ」

「はい、失礼しました。あまりに可愛らしいお方でしたのでつい」


 ずっと笑っているだけだったシルフィードさんからやっと助け船が出た。

 というか出航が遅すぎるんじゃないかな? 誤解が解けて港に着いた後じゃ意味がないよ!?

 あとアニーさん? もさりげなく酷い事言ってない!?


「その気持ちはよくわかるな。さっきもユウの泣き顔があんまり可愛いから誤解させちゃったしね」

「な、泣いてにゃいよっ!?」


 シルフィードさんは助け船どころか敵船の援軍だった。

 アニーさんもなんだか僕を生暖かい目で見てるし、絶対今、僕ってちょっとの事ですぐ泣く軟弱な男だと思われている。

 確かに涙の雫は零れたかもしれないけど、それは目をぎゅっと瞑ったからであって、断じて泣いた訳ではないのに、でも実際に物的証拠が挙がっている以上こっちの弁解は難しい……。

 初対面の女性、それも綺麗な女の人に軟弱と思われるのは……辛い。


「それで、アニー。頼んでいた物は持ってきてくれたかな?」

「あ、はい、此方に。勿論『影』を経由し、極秘裏に運ばせましたので殿下について情報が漏洩する事もありません」


 そう言ってアニーさんは握り拳位の大きさの紫色の水晶球を取り出した。ソレを見てシルフィードさんは小さく頷く。


 でも、それにしても今の会話って……。


「ありがとう、じゃあ……ん? どうしたんだい? ユウ、不思議そうな顔をして」


 自分がどんな顔をしていたのかはわからないけど、僕の顔を覗き込んでシルフィードさんが不思議そうな顔をしていた。


「えっと……さっき、アニーさん? がシルフィードさんの事、『殿下』って……」


 そう、確かに『殿下』って言っていた。

 よくよく思い返してみると、その前にも何度か『殿下』って言ってた気がする。

 『殿下』って……あの『殿下』だよね? 他にないよね? ……『電荷』とかじゃないだろうし……。


「……殿下、まだユウ様に説明されてなかったのですか?」


 何故か少しジト目になってシルフィードさんを見るアニーさん。

 その視線に誤魔化すようにシルフィードさんは笑顔で、

「いや、ユウの朝食を食べる姿が小動物みたいで可愛くてね。ついつい見入ってたら時間が過ぎちゃって」

 と釈明していた。


「って、何その理由!? というか僕が食べる所そんな見られてたの!?」

「では仕方ありませんね」

「それでアニーさんは納得しちゃうの!?」


 と、いけない。また何だか誤魔化されてる気がする。シルフィードさんと話してると何故かこうなる事が多い気がするのは何でだろう?


「えっと、ご飯は、まぁいいや。……良くないけど。でもじゃあ、説明してくれるんだよね?」


 無理矢理話を元に戻して、嘘は許さないぞ、っときっとシルフィードさんを睨み付ける。

 と、シルフィードさんの隣に立つアニーさんがコホンと咳払いをした。


「では私が説明させていただきましょう。この方のお名前はご存じですよね?」

「あ、はい、シルフィードさん……ですよね?」


 まさかそこから偽名なの? と首を傾げながらシルフィードさんを見る。

 と、視線が合った瞬間嬉しそうに頷くシルフィードさん。


「はい、ですが正式には『シルフィード・テラン』というお名前です」

「しるふぃーど……てらん、さん?」


 テランって確か……この国の王都の名前と同じだよね、それで『殿下』って呼ばれているって事は、もしかして、というか、やっぱりというか……。


 パズルのピースが嵌っていく僕の表情を見て満足げに頷くアニーさん。


「ご想像の通り、シルフィード・テラン殿下は我が国、テラ王国の現国王の第一子であり第一王位継承者でございます」

「それってつまり…………本当の王子様?」

「まぁ、そんな大したもんじゃないけどね」


 そう言ってシルフィードさんは照れくさそうに笑った。




「お、おお、王子様とは知りゃず、その、ぶ、無礼な振る舞い? で、その……ご、ごめんなしゃひ……」


 慌てて椅子から飛び上がり、床に土下座しようとした僕は飛び上がった所をにアニーさんに抑えられ、再び椅子に座らされてしまった。


 カチコチになったまま椅子に座らされ、その状態で脳裏に次々に浮かぶこれまでのシルフィードさんへの行動や発言だった。

 貴族とか王族とかってよくわからないけど、普通王子様にそんな事してて打ち首になってもおかしくない。

 むしろよく今まで無事だったと不思議でならない。


 それにしてもシルフィード王子様みたいな人だとは思ってたけど、本当に本物の王子様だなんて。普通犯人ぽい人は犯人じゃないのがパターンなのに王子様みたいな人が王子様ってどうなんだ。


「まぁ、ただ生まれたのが王様の子供だったってだけだからユウはそんな畏まらなくても良いよ。むしろ今まで通り『友達』で居てくれると嬉しいかな」

 そう言って微笑むシルフィードさん。その笑顔がキマってて、今まで『王子様みたいな』とか思ってたけど、まんますぎてどう言っていいのか困る。


「その……打ち首とかにしない?」

「僕がそんな事するように見えるかい?」

「みえないけど……」


 ちらりとアニーさんを見る。と、僕の視線に気付いたのかアニーさんも微笑んで頷いた。


「殿下は気安いお方ですから、その程度の事で罰せられる事はありません。……むしろもう少し第一王位継承者としての自覚を持って欲しい位ですが……」


 そう言ってアニーさんは大きくため息をついた。


 ……苦労してるのかな? そういえば『転職祭』の時もシルフィードさんって1人で街中を闊歩してたし、そういう意味では全然王子様っぽくなかったし、周りとしたら苦労しそうかも。

 うん、王子様ぽくない所で出逢ったから僕が気付かなかったのも仕方ないよね、全部シルフィードさんが悪い気がしてくる。


「その辺はまぁ、アニーに助けて貰ってるよ。……っと、まだ紹介もしてなかったね。彼女はアニー。親衛騎士団団長兼、私のお目付役……かな?」

「ご紹介に預かりました、テラ王国親衛騎士団団長アニー・ロッセと申します。現在は殿下付きとなっております」


 そう言って頭を下げるアニーさん。女性騎士ってあんまり見た事ないけど、白薔薇騎士団のリリンさんやユキノさんと比べても全く遜色ない位格好良くてキマっていた。


「あ、えっと、『司祭(プリースト)』のユウです。その、こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた。

 それにしても王子様に親衛騎士団団長って、正直雲の上すぎてこうして頭を下げていても実感があんまり湧かない。

 あ、でも王子様ならこの部屋も納得……


「あ、じゃあもしかしてこの部屋は……」

 そう思って豪華すぎる室内を改めて見渡した。窓からは遠く空だけが見える。


「はい、此処は王城の中にある殿下の私室でございます」


 なるほど、王子様の私室ならこれだけ豪華なのも頷ける。それでいて全然嫌みになってないのはシルフィードさんのセンスなんだろうか?


「とまぁ、自己紹介はこれ位で良いかな。じゃあ本題だ。今度は僕がユウに聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

「? な、何?」


 一転真面目な表情になったシルフィードさんが僕を見つめる。

 僕は姿勢を正しす。と、揺れた首輪がかちゃりと音を立てた。


「何故ユウは『裏オークション』で奴隷として売られてたんだい?」

「そ、それは……」

「これは大事な事なんだ。正直に教えて欲しい」


 正直あまり言いたい話ではないが、シルフィードさんが真剣な瞳に嘘を言う訳にもいかない。


「その……シルフィードさんと別れた後、裏路地から女性の悲鳴が聞こえて、助けたんだけど……実はその女性が誘拐犯の方みたいで、それで捕まっちゃって……そのまま『隷属の首輪』を付けられて、ステージに引っ張られて……あんな感じに……」


 じ、自分で自分のダメな行動を説明するのってやっぱりきつい……。

 結局ソフィアさん達も助けられなかったし、僕自身もそのまま売られちゃったし……何一つ良い所がなさすぎる。


 しかもソレをシルフィードさんとアニーさんが真面目な表情で聞いてくれてるから一層きつい……せめて笑ってくれたりしたらまだ……それはそれできついけど。


「ふむ……じゃあユウはその誘拐犯の女性を見てるんだね。どんな人だったんだい?」

「あ、えっと……ブロンドの髪で露出の多めな服装で、全体的に派手で色っぽくて……あ、えっと名前はジェルミナさんって言ってました」


 僕の発言を何やらメモっているアニーさんと、そのアニーさんに何やら確認してるシルフィードさん。正直声が小さくて聞き取れないけど、いつものシルフィードさんとは全然違ってすごく真剣な顔をしている。

 なんだか『仕事が出来る』って感じで格好いい。


「ありがとう、ユウ。概ね此方の掴んでいる情報が間違っていない事が確認出来た」

 暫くして、シルフィードさんはアニーさんに渡された書類から目を離し、僕を見て微笑むんだ。

「いえ、その……役に立ったなら良いんですけど……」

「勿論役に立つさ。……そういえばあの日私達があの裏オークションに居た理由を説明してなかったね」


 シルフィードさんの言葉に心臓がどくんと脈打つ。

 そうだ。僕が此処にいるという事は、つまりシルフィードさんがあの場所に居たという事で、その理由をまだ聞いていなかった。

 もし、ソレが最悪の理由なら、僕はシルフィードさんでも許す訳にはいかない。


 一瞬アニーさんがちらりとシルフィードさんを見たが、シルフィードさんはそれを無視して話を続けた。



「私達は王国内で確認されている連続誘拐、……そして奴隷売買組織を壊滅させる為に動いていたんだ。」


 シルフィードさん言った内容が耳に届いた瞬間、僕は全身が震えた。

 勿論、電撃を受けた訳じゃない。でも、ある意味それ以上の衝撃だったかもしれない。


 シルフィードさんがそんな事する訳ないと思いつつ、でももしかしたらって思って本当に怖かった。怖かったけど、そうじゃないって言ってくれた。シルフィードさんは知ってる通りの人だった。

 こんな嬉しい事はない。

 

「そこでユウを見た時は本当に驚いたよ、全くユウはもっと……ユウ? どうしたんだい?」

「なんでもないよっ! ちょっと、嬉しいだけだからっ!」


 そう言って自分の頬を自分で押さえた。正直今は口元が緩んでる気がして、こうでもしないと変な顔になってしまいそうだった。

 

「あ、そだっ! そういう事なら僕にも手伝える事ないかなっ!? 僕も、彼女たちを助けたいんだっ!」


 僕は嬉しい気持ちを誤魔化すように、身を乗り出してシルフィードさんに懇願した。


 結局あの日ソフィアさん達を助けられなかった。

 でもまだ間に合うのなら、僕に出来る事があるのなら助けたい。シルフィードさん達のお手伝いも出来る事ならやりたい。


「ありがとう、ユウ。でも今すぐって訳ではないから、取りあえずこっちをなんとかしようか」

 シルフィードさんは身を乗り出した僕を見て、首筋にコンコンと手を当てて言った。


「え?」

「あ、もしかしてユウは首輪を付けてる趣味とかある方?」

「無いよっ!? ある訳ないでしょ!」

「じゃあ、そんなの外しちゃおう」


 そう言ってシルフィードさんはアニーさんに目配せをする。と、アニーさんはさっきの水晶球をシルフィードさんに手渡した。


「えっと……外せる、の?」

「ああ。勿論ペットモンスターの暴走なんかを考えると簡単に外せる物じゃないけど、この水晶球が『隷属の首輪』の解除アイテムなんだ」


 そう言って僕の目の前に水晶球を置くシルフィードさん。

 綺麗な紫色の球に僕とシルフィードさんの顔が写っている。


「じゃ、外すから、ユウもこの水晶球に手を置いて。別に痛みとかはないから安心して」


 言われるままに水晶球に手を置き、シルフィードさんも手を添えた。同時に紫色の光が僅かに強くなり……




「――お待ち下さい、殿下。失礼ながら、『隷属の首輪』の解除はお辞めになられた方が宜しいかと存じます」


 不意に男性とも女性とも付かない不思議な声が、僕達を制止した。







『隷属の首輪』について/その2

 外す方法は大きく3つ

・解除用の水晶球を使う

・呪い解除系アイテムを使う

・死ぬ


*)その1については133話の後書きに追記。

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