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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
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第137話 これが僕のご主人様?

 目が覚めると天蓋付きのふわふわベッドに寝ていた。

 上体を起こして辺りを見回すとベッドだけでなく室内のどの調度品も高そうで、高級ホテルで泊まった部屋と遜色ない……もしかしたらそれ以上の豪華な部屋に見える。


 勿論僕の記憶にこんな部屋はない。


 ……落ち着けユウ。訳が分からないと嘆くより、こういう時は情報の整理だ。

 なんだか最近こんな事ばかりやってる気がするけど。


 確か僕は誘拐犯に捕まって、オークションにかけられて、売られて、その後……どうしたっけ?

 なんだか意識が遠くなって……今此処?


 眠っている間に何処かに運ばれたという事がわかった。

 それ以外何もわかんないけど……。

 という事は此処は僕の買った――


「あ、良かった。目が覚めたんだね」


 扉が開く音と共に聞き覚えのある声が耳に届いた。


「シルフィードさんっ!?」

「やあ、おはよう。よく眠れたかい?」


 扉の前に立っていたのはシルフィードさんだった。

 いつもの柔らかい笑顔が朝の日差しの中佇んでいる。この豪華なお部屋の中でも浮いてないのは流石としか言えない。僕だったらもっとワタワタしている気がする。


「あ、えっと、はい、おはようございます。その、よく眠れました?」

「良かった。簡単な物で悪いけど……朝食を用意したんだ。一緒に食べないか?」


 ホッとしたように微笑むシルフィードさんの持つトレイにはサンドイッチらしき物とポットが載っていた。

 それを見た瞬間、僕のお腹がくぅ……と鳴る。

 その音にお互い顔を見合わせ、シルフィードさんがくすりと笑った。


 し、仕方ないじゃないか、結局昨日から何も食べて無いし、人はお腹が空く生き物なんだ。


「お腹も空いてるようだね。すぐ食事にしよう」

 そう言ってシルフィードさんは楽しそうにベッドの脇のテーブルにサンドイッチを置いて、ポッドから2人分の紅茶を注いでくれた。


 僕はその間にベッドから降りて席に着く。


「さぁ、召し上がれ」

「ありがとうございます。いただきます」


 サンドイッチを1つ両手で持ってぱくりと一口囓る。と、口の中にハムの旨味と卵の甘味が広がり、そこにレタスのシャキシャキがアクセントになって口いっぱいに広がった。具を挟むパンも小麦の味がしっかりしてて全然負けていない。

マスタードの辛みとマヨネーズの酸味もアクセントとして効いている。

 つまり、


「美味しいっ!」

「良かった。好きなだけ食べて良いよ」


 そう言ってシルフィードさんもサンドイッチを1つ手にとって食べ始めた。

 それにしてもこのサンドイッチ、本当に美味しい。サンドイッチ選手権とかあったらかなり上位じゃないだろうか?

 そう思いつつ、1つ、また1つと手を伸ばしていると、気付くと大半を僕1人で食べてしまっていた。


 その事に気付いたのが最後の1つに手を伸ばした瞬間であり、恐らくは僕が7割程食べてしまっている状態でこの最後の1つまで取っていいのかと我に返る。

 いくら男同士とはいえ、さすがにご馳走になっている身であんまりがつがつするのもアレだし。


 でも、既に伸ばした手を引っ込めるというのもソレはソレで変な感じだ。こ、こういう場合どうしたら良いんだろう?

 この宙ぶらりんの手の活用法が何かあれば良いんだけど……


 あ、そ、そうだ、ポットだ! 机の上にはサンドイッチだけじゃなく、ポットもあるじゃないかっ! アレを使おう! お茶のおかわりという事にすればさりげなくこの手を横にズラしていけるんじゃ……。


 と、思ってタイミングを計ろうとちらりとシルフィードさんを伺うと、ばっちり目があってしまった。


「私はもうお腹いっぱいだから食べていいよ」


 笑顔で先に言われてしまった。

「あ、ありがとうございまう……」


 赤面しながら僕は最後のサンドイッチを手に取り、囓った。

 やっぱり美味しかった。


 そして最後の1個は……僕も食べ過ぎだった。お腹がいっぱいでちょっと苦しい。

 さすがに食べ過ぎだった……でも美味しかった。美味しかったから仕方ない。それに成長期の朝食は大事だって話だから、少し位食べ過ぎな方が良い筈だよね。


 でも苦しいのは辛いから、蜂蜜をたっぷり入れた暖かい紅茶で喉を潤し、一息つく事にする。

 優しい甘さの紅茶が身体に染み渡る。


 と、紅茶を飲む動きに合わせて喉の辺りがカチャリと鳴った。


「あ……」


 その音で僕は我に返った。


 僕の首で鳴った物が何なのかを思い出した。


 そしてソレを付けた僕が、この豪華な部屋に寝かされていた事、そこにシルフィードさんが来た事、一緒に食事をしていた事、その全てが……信じたくない1つの結論を僕に伝える。


「ん? どうしたんだい? ユウ?」


 見るからに挙動不審だったようでシルフィードさんが心配げに声をかけてくれる。

 自分でも自分の身体の全身の血が引いたように感じて震えているのがわかる。


 そんな事ある訳ない、でも、それ以外考えられない……。


「あ、あの……し、シルフィードさん。1つ、聞きたい事が、ありまぅ……」

「何かな?」


 笑顔のまま質問を待つシルフィードさん。

 聞いてしまえば、答えが出てしまう。でも聞かない訳にはいかない。違って欲しい。そうであって欲しくない。


「シルフィードさんは……き、昨日、何かオークションに行きました?」

「……ああ、行ったよ」

 頷くシルフィードさん。


「そこで……何か買いました?」

「ああ」


 そんな……


「それじゃ……もしかして、シルフィードさんが……『13番』さん……ですか?」

「ああ、僕が『13番』だ」


 淀みなく答えるシルフィードさん。

 でも、そんなの信じたくなかった。シルフィードさんが、僕を買った『飼い主』だなんて。


「その、な、何か……理由、あるんですよね?」

 一縷の望みを託してシルフィードさんに尋ねる。


「私が……奴隷が競りに出されていると聞いて、オークションに行って、そこで見かけたユウを買った。……としたら、どうする?」


 真面目な表情で逆に問いかけてくるシルフィードさんに射竦められる。

 今の話が全部本当なら、僕の今の飼い主はシルフィードさんという事になる。誰とも知らない人に買われる位ならよっぽど幸運だったと思うし、シルフィードさんなら優しくしてくれるかもしれない。


「け……軽蔑、します」


 だから、僕は泣きそうになりながらも、シルフィードさんを見つめてはっきりと答えた。


 ジェルミナさんに抵抗して受けた電撃の痛みを思い出して身体が震える。

 でも、相手が誰でも、それが大切な友達でも、許しちゃダメな事はあると思うから。ちゃんと言わなきゃいけない。


「奴隷なんて……間違ってると思う、から」


 そう言い切った時、シルフィードさんが近づいてくるのが見えて、お仕置きに備えてぎゅっと目をつぶって全身に力を込め、椅子から落ちないように構える。

 こうしていないと痛みで身体が跳ねて大変なのは勉強済みなのだ。

 ……あんまり学びたくない経験だったけど。


 でも、いつまで経っても電撃は来ず、変わりにぽんと何かが頭の上に乗る感触がした。

 不思議に思って恐る恐る目を開けと、すぐ目の前に困った顔の、でも嬉しそうな顔のシルフィードさんが片膝を付いて居て、僕の頭を撫でていた。


「えっと……シルフィード……さん……?」

 訳が分からずされるままにシルフィードさんを見上げる。

 もしかしてコレが新手のお仕置きという奴なんだろうか? 正直高校生にもなって頭を撫でられるのは少々恥ずかしい。


「怖がらせてごめんね。でも、ユウがそういう子で良かった」


 と、微笑んで僕の頬を伝う涙を拭ってくれた。

 あ、いや、泣きそうになっただけで泣いてないけど。ちょっと目をぎゅっとつぶったから零れただけで泣いた訳じゃなかったけど。


「朝食中失礼しますっ! ご用命のありましたマジックアイテム。お急ぎとの事で至急お持ち致しましたっ!」


 突然の女性の声と扉を開ける音に視線を向けると、鎧姿の女性……騎士さん? が何やら持って立っていた。

 目があった瞬間、何故か顔を真っ赤にする女性騎士さん。


「お、お楽しみ中、ししし失礼しましたっ!」


 と、開けた時以上のスピードで女性騎士さんが扉を閉めて出て行く。


 一体何が……と、辺りを見回す。


 椅子に座って顔を赤らめてる僕、触れる位近い距離で片膝を付いて、僕の頭を撫でているシルフィードさん。

 それを見て赤面して慌てて出て行った女性騎士さん。



 これってもしかして……男同士のラブとかって勘違いされてない?

 さっき以上に血の気が引くのを感じた。


 そんな恐ろしい勘違いをされたまま、それが噂に尾鰭背ビレ胸ビレにエラまで付いて何処までも泳いでいってしまう恐ろしさは中学の時に嫌って程体験している。

 何事も初動が大事っ! 慌てて僕は扉の向こうに向かって叫んだ。


「ご、誤解ですっ!」

「あっはっは」

「シルフィードさんっ! 笑ってないでちゃんと説明してっ!?」

「あっはっはっはっは」

「せめて撫でるのを辞めて席に戻ってくださいっ!!」


 こうして孤立無援の僕はなんとか扉に向かって誤解を解くべく弁明を続ける事となった。

 






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