第13話 少し早く起きた朝は。
目が覚めたら朝になっていた。ゲーム世界でも僕の寝付きは良いらしい。
昨日マヤやコテツさん、ソニアさんとしたパーティーで散々飲み食いをして、さらに延々歌わさせられ疲れきって高級ホテルに帰ってきた僕は、そのままベッドに倒れ込んで寝てしまった。
あ、でも、自分で思っている以上に疲れてたのかもしれないな。そりゃそうか、色んな事がありすぎる1日だったし。
とりあえず昨日入れなかったお風呂に入る。各部屋にお風呂があって、朝から入れるのはさすが高級ホテルだろうか?
おかげで朝からスッキリ出来て言う事なし。あれ? でも僕以外の人ってリアルでお風呂入ってるだろうしゲーム内でもお風呂に入ってるんだろうか?
後でマヤに聞いてみようか? でも女の子に「お風呂入ってる?」ってちょっと聞きにくいな……ま、いっか。
アイテムウィンドウから選択するだけで服が着れるのもゲームの良い所だと実感しながら僕は純白のローブと自分でもびっくりする程長い銀髪をはためかせてホテルを後にする。
朝食を食べるにはこのホテルのレストランは気後れしてしまう。
一応昨日のパーティー中に歌ったお陰で何故か所持金が2万5千25Eに増えているけど、それでも無駄遣いして良い訳でもないし。
朝の心地よい空気の中大通りを歩いていると結構プレイヤーっぽい人も沢山歩いている。皆早起きだ。夏休みだからかな?
おかげで露店も沢山あって、狙い通り僕は鶏粥を朝食に頂けた。昨日ソニアさんが勧めてくれたメニューだ。
鶏の旨味と塩味が身体に染みこんでいく……本当にこの世界のご飯は美味しいなぁ!
付け合わせの漬け物が良いアクセントになっていた又食欲が倍増する。何杯でもいけちゃいそうになって非常に危険な料理だ。ソニアさんがお勧めするだけの事ある。
そういえば僕も調理スキルがあるんだから今度作ってみようかな? リアルでも料理は別に嫌いじゃなかった。こっちの食材も興味ある。
最近は料理出来る男子がモテるって話もあるし、本気で考えてみようかな。
ゆっくり朝食を食べてから冒険者ギルドに来たつもりだったけど、まだマヤは来てなかった。パーティウィンドウにログイン表示がないんだから当たり前だけど。
ソニアさんも居ないようだし今日もゼリースライムの討伐クエストを受け、飲み物を頼んで席に座って待つ事にする。
勿論頼んだのはアップルティー。程よい甘さが食後に良い。
「ねぇ君、此処良いかな?」
足をプラプラしながらアップルティーを楽しんでいる僕に突然降ってきた声に顔を上げる。
そこには金属鎧や皮鎧を着た三人組の男が居た。軽薄そうな笑顔を浮かべている。
周りを見渡して見ると、やはり席は他にもいっぱい空いている。
「いやいや、君の事だよ」
よくわからないが他にも空いてるのにこの席に座りたいらしい。彼等のお気に入りの席とかなんだろうか? いつも同じ席に座りたいという気持ちはわからないでもない。
でも僕は無意味に男と相席する趣味はない。
「いいですよ。僕は別の席でも良いし。」
席を立とうとしたら止められた。なんなんだ。
後ろの男が「ボクっ娘キター!!」とか叫んでし、意味不明すぎる。
胡散臭い三人組の真意が読めず訝しげに見ていると最初の男が笑いながら口を開いた。
「君、初心者でしょ。昨日南の平原に居るのを見たし。俺等とパーティ組まない? 俺等と一緒ならレベル7クエストまで受けられるよ?」
あぁそうか、これがパーティ勧誘という奴か。
確かに冒険者ギルドのカフェスペースで一人暇そうにしてたら勧誘待ちと思われてもおかしくないのかな?
見た感じ前衛職三人みたいだし、ローブを着た後衛職にしか見えないであろう僕を誘うというのも構成的におかしくない。でも、
「いえ結構です。人を待っているだけなので、他の人を誘ってあげてください。」
そもそも僕は僕の事情を知っている人以外とはパーティを組む気はない。
そう言って席を移ろうと思ったら、不意に手を捕まれてしまった。まだ何か用があるのか?
「君を待たせるような奴は放っておいて、俺等と行こうよ」
「だから、お断りします」
昨日も思ったけど人の話を聞かないプレイヤーばかりなのだろうか?
「初心者の癖に俺等の申し出を断るの? ゲームを続けられなくなるよ?」
「言ってる意味がわからないけど、取り敢えず手を離せ」
「じゃあ一緒に来るか?」
「お断りだ」
捕まれてる手を振り解こうとするけどどうやっても離れない。非力な身体だ……リアルならもうちょっと力あった筈なのに……多分……きっと……じゃないかなという気がする……。
でも僕の抵抗空しく、振り解く所かそのまま持ち上げられ、つま先立ち状態にされてしまった。うぅ…手首が痛い、肩が抜けそう。
「ほらほら、涙目じゃん。我が儘言うから痛い思いするんだよ? お兄さん達と一緒に行こうね」
「ふざ……けるな! お前等……なんかと、一緒に、行くか!!」
手首で吊り上げられた状態で身体は動けないから、精一杯男達を睨み付ける。痛いけど、こんな奴等相手に泣いてたまるか。
「やれやれ、せっかく優しくしてやってんのに、しっかりお仕置きしなプギャっっっ」
睨み付けていた男Aが変な音を出しながら吹っ飛んでいった。ナンダコレ?
いつの間にか僕は新しいスキルかアーツにでも目覚めたんだろうか?
「私のユウに不埒な事をしようとしてるお馬鹿さんは貴方たちかしら?」
男Aの吹き飛んだ反対方向から聞こえた声はマヤの物だった。振り抜いたであろう拳が見える。
うん、わかってた。自分のスキルじゃない事くらい。だってメッセージウィンドウにログがなかったし。
でもマヤも確か格闘系スキルは持ってなかった気がするんだけど…なくても大の男を吹き飛ばす威力なんだろうか……正直怖い、マヤの方が怖い。
「あぁユウ大丈夫だった? こんなに震えて、この馬鹿な男達のせいね」
違うと言ったらもっと怖いから本当の事は言えない。
「なんだ手前ぇ!! こっちは三人だぞ!? 女だからってこっちは容赦しねぇぞ!?」
僕が震えていると男Aも復活したらしい三人が凄味を効かせてきた。おかげでちょっと震えが止まった。助かった。
「アンタ達みたいな三下が三人だろうが十人だろうが関係ない。馬鹿なケンカでHP減らしたくなければさっさと此処から居なくなる事ね。今なら見逃してあげるわよ?」
もう男達に興味がないようにシッシと手で払いならがマヤは言い、僕の方を見て外傷がないか確認している。けどコレって余計煽ってるだけなんじゃ……。
「っ!! ふざけるなっ!! 2人纏めてっ――」
「2対3はフェアじゃないねぇ。あたしも入って3対3でPvPやるかい?」
扉付近からもう一つの声があがった。そしてその声にも聞き覚えがあった。
「「コテツさん!」」
僕とマヤの声がハモる。
「よ! おっはよう!」
昨日あれだけ酔っていたのに元気そうにコテツさんが手を振りながら近づいきて男達の方を眺めた。
「兄ちゃん達もその辺にしてさ、ちょっと熱くなっただけだろ? でもこれ以上あたしのダチに何かするってんなら……」
と、コテツさんの手の中に巨大な斧が出現する。
アイテムウィンドウから出したであろうソレを物凄い速度で振り回し始め、男達の眼前ピタリと止めた。
「兄ちゃん達が言ってたようにPvPで決着つけても良いぜ?」
普通に持つのも難しそうな超重量級の斧を片手で自在に操ってニヤリと笑うコテツさん。
レベル差も状況も理解したのか男達は真っ青になり、何やら捨て台詞を残して去っていった。
一方僕は斧を振り回すコテツさんに見とれてしまっていた。
だって凄かったから。斧を振り回す度にぶるんぶるんと一緒に揺れる2つの山脈が! 見えそうで見えない所が!! なんだか色んな事が吹っ飛んで朝から良い物が見れてしまった。
アレを見て顔を青くするあの男達は一体何を見ているのやら。
「ねぇユウ、変な事考えてない?」
「っ!? か、考えてないよっ!! 普通だよ?!」
「へぇ、あんな状況で変な事をねぇ……ユウは結構大物なのかもねぇ」
「コテツさんっ、ちっちがうよっ!? そのっ、えっと、あの」
慌てて取り繕うとして気付いた。
「えっと、コテツさん、マヤ、助けてくれてありがと」
2人は一瞬きょとんとした顔をして、その後微笑みながら
「当然よ。ユウを守るのは私の役目だもの」
「だな。ダチを守るのは当然だ」
と頭を撫でられた。高校生男子の頭はそんな風に撫でて良いものじゃないけど、助けて貰った手前無下にも出来ない。ぐむむ……。
「でもユウ、もっと気をつけないとダメよ。一々ナンパの相手なんてしてたら無駄にトラブルが増えるだけなんだから」
ナンパ? マヤは何を言ってるんだろう? 男が男をナンパなんかする訳ないだろう。世の中ネットで言われる程BLな人が居る訳がない。
別にあの男達に何の義理もないけど、むしろ迷惑しか受けてないけど、
「あの男達はパーティの勧誘をしてきただけだよ。やたらとしつこかったから迷惑はしてたけど。前衛三人っぽかったしそんなに支援職が欲しかったのかなぁ……」
ちゃんと訂正してあげた。同じ男としてホ○だと勘違いされているというのは可哀想すぎる。
しかし何故か僕の説明を聞いた2人は困ったような顔でため息をつき、又頭を撫でてきた。
2人ともちゃんと僕の話を理解してくれてるんだろうか?




