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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
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第134話 奴隷。

 自分の首を触るとカチャリと金属部分の音が鳴る。

 その音と、指に触れる感触が首に付いた首輪の存在を僕に強く主張していた。


「えいっ!」


 思い切って首輪の装備を外そうとしてみた。


「いひゃひぃっ」


 けど、その瞬間全身に又、あの電撃が走って僕はその場でのたうち回った。

 自分で外す事は出来ないようだ。……それもそうか、ペットモンスターが自力で『隷属の首輪』を外せたら大変だし。


 でも、自力がダメなら装備欄から外せないだろうか? ……とアイテムウィンドウを開くと『隷属の首輪』の後ろに『装備解除不可』の6文字が表記されていた。


 システム面のサポートもばっちりだ! ちくしょう!


 ならマヤに怒られるだろうけど背に腹は変えられない。メッセージやクランチャットで助けを……と思ったけど、こちらは開く事すら出来ず電撃に襲われた。

 ペットモンスターが仲間を喚んだりしたら結局大変な事になるしこれも当然の対策なんだろうか?


 モンスターがメッセージやチャットをしてるかは知らないけど。


「ユウちゃん、無理しちゃダメ。皆も試したけど……この首輪は外れないわ」

 地面で悶える僕をソフィアさんは優しく抱き起こしてくれた。


 結局何一つ成功してなくて1人相撲な僕にこんな状況で優しくしてくれるなんて本当にいい人だ。


「何よさっきから五月蠅いね! そろそろ始まるっていうのに……」


 と、何度も悲鳴を上げてのたうっていた僕の目の前で突然扉が開き、灯りを持った女性が1人声を荒げながら中に入って来た。

 声に釣られてそちらに目を向けると、扇情的な衣装を着たブロンドの髪の女性が僕達の事を見下ろしている。


 この人は確か……。


「ジェルミナさんっ!?」

「おや、やっと起きたの、ユウは特大の寝坊助だったわねぇ」


 僕が起きているのを見て安心したように息をつくジェルミナさん。


 そう、彼女はジェルミナさんだ。路地裏で誘拐犯に追われていた女性。助けようと頑張ったのに……そうだ、僕が此処に捕まってるって事は彼女も……。


「ごめん、僕が力が足りないばっかりにジェルミナさんを助けられなくて……でも、よかった。酷い事はされてないみたいで……」


 捕まっている事には変わりないけど、それでもソフィアさん達と違って元気そうに見えるジェルミナさんに少し安心した。


「は? ……あ、あひゃははははははははっっ!」


 と、僕をじっと見つめていたジェルミナさんが突然大爆笑を始めた。最後の方は苦しそうにひぃひぃ言う程に。


 えっと……どこか面白い所あったんだろうか?


 意味が分からず自分の姿を顧みるが特におかしい所は見あたらない。

 ……首輪が付いてるのが面白いのかな? でもそんな面白いものじゃ……。


 と思ってジェルミナさんを見て気付く。


 ジェルミナさんには首輪が嵌められては居なかった。


「ひっ……ひぃ……おや、やっと気付いた? アンタみたいな察しの悪い子は初めてだが、それでもわかったでしょう?」


 僕の視線がジェルミナさんの首に注がれている事に気付いたようで、ジェルミナさんは楽しそうに僕を見下ろす。


「ジェルミナさんはこの首輪を解除出来たんですねっ! よかった! この首輪って危険なアイテムだから何とかしようと頑張ってたんだ!」


 僕の言葉に目を見開いて驚くジェルミナさん。


「……ここまで節穴だと逆にすごいね。どれだけ箱入りで育てられてきたんだか」


 何かを小さく呟くジェルミナさん。小声過ぎてよく聞こえなかったけど、その瞬間、明らかにジェルミナさんは僕に憎悪の視線を向けていた。


「えっと……ジェルミナさん?」


 わけがわからず首を傾げる僕。


「ゆ、ユウちゃん……」

 と、後ろからソフィアさんが遠慮がちに僕のローブの袖を引っ張る。

 振り向くと今まで以上に明らかに怯えた表情のソフィアさんが震えていた。


「どうしたの、ソフィアさん?」

「あの……ユウちゃん、この人を、知ってる……の?」


 声まで震えたまま尋ねるソフィアさんに僕は頷いた。


「路地裏でこの人が誘拐団に襲われてる所を助けたんだ。……と言っても結局その時一緒に捕まっちゃったんだけど……」


 どんどん自分の声が小さくなっていく。

 結局助けてなんてなくて、一緒に捕まりましたって説明は情けないにも程がある。

 彼女だけが連れ攫われなかったのがせめてもの救いだろうか?


 でも『冒険者ギルド』で捜索クエストが出ていた誘拐されたのは女性ばかりなのに僕まで攫われたのはやはり情報を残す事を嫌ったのかな?

 あれ? じゃあなんで殺されなかったんだろう? その方が手っ取り早そうなのに。


 いや、情報が出てなかっただけで男性の誘拐もあったのかもしれない。

 この部屋には女性しか居ないからわからないけど。


「ち、ちがうわ」


 自分の幸運か悪運と、誘拐犯が僕までわざわざ連れてきた理由を考えていると、ソフィアさんが震えながらもハッキリと首を振った。


「えっと……違うって?」

「こ、このひと……が、ゆ……誘拐した……犯人、よ」


 震えながらもソフィアさんはジェルミナさんを指差してハッキリと言い、その言葉を受けてジェルミナさんは綺麗な顔をニィっと笑顔で歪ませた。




「え? 犯人?」

 意味が分からず、ソフィアさんとジェルミナさんを交互に見る。

 ジェルミナさんはそんな僕を楽しそうにニヤニヤを見下ろしている。


「自分で気付く前に教えちゃうなんて、残念」


 ジェルミナさんのその表情と言葉が、ジェルミナさんが犯人であるという事を肯定していた。

 でも、でも……


「うそ……だよね?」

「その娘……ソフィアだったかしら、その娘が嘘をつく理由も、あたしが嘘をつく理由もないでしょ」


 当たり前のように言うジェルミナさん。


「で、でも! 追われてたじゃないかっ!」

「追ってたのはこの国の衛兵よ。あんたは追われてる誘拐犯をわざわざ助けてくれたのよ。ありがとう、勇敢なユウ様。お陰で助かったわ」

 楽しそうに説明するジェルミナさん。


「本当に……」

「まだ信じてくれないの? じゃあ、コレでどう?」


 と、ジェルミナさんが軽く指を鳴らすと、その瞬間あの電撃が再び僕を襲い、地面に倒れてのたうつ。

 しかも『転移門(ポータル)』を開こうとした時のように長時間苦痛が全身を苛んだ。

 意識が失われる事もHPが減る事もなく、ただただ痛みが身体を駆け抜ける。


「……と、まぁ今の仮飼い主は私って訳よ。これでわかってでしょ?」

 もう一度指を鳴らして電撃を止めてから、地面に横たわる僕を見下ろしてジェルミナさんが言う。


「飼い主って……ぼ、僕達は、ペットじゃない」

「そうね、貴女達が愛玩用(ペット)かどうかは私が決める事じゃないわね。今の貴女達はただの奴隷なんだから」

「奴隷……?」


 なんとかソフィアさんに手を借りて状態を起こした僕にジェルミナさんが優しく口を開く。


「そう、もうすぐ開かれる裏オークション。そこで売り出される目玉商品」

「ど、奴隷なんて、この国で許されている訳ないっ!」

 少なくとも僕がこれまで一ヶ月以上暮らしていて、そんな話も存在も聞いた事がない。

「だからわざわざ見つからないようにこっそり誘拐して、裏オークションで捌くんでしょ? ユウはやっぱり馬鹿なの?」

「そんなのっ……だ、ダメだよ!」

「ユウの許可なんて要らないわ。私は商人で、アンタは商品なんだから。商品に一々お伺い立てる商人なんて居るかい?」


 その言葉に何か返そうと思った瞬間、又一瞬だけ僕の身体に電撃が走る。

「でも大事な商品なんだからあんまり傷つけたりしないでよね、売値が下がるでしょ」

 当たり前のように言うジェルミナさん。その口調は本当にお店の商品を雑に扱わないように注意する店員のようだった。


「うぐぅ……」

 痛みで言葉が出ない僕。せめてもと、ジェルミナさんを睨み付ける。


「そんな怖い顔したら、可愛い顔が台無しよ?」


 しかしジェルミナさんは全然気にするようでもなく、僕の顔についた埃をハンカチが拭ってくれた。


「それに悪い事ばかりじゃないわ。非合法な裏オークションとはいえ、売られる奴隷は皆美人揃い。わざわざ高値で買いに来るのは豪商や貴族達よ?

 愛玩奴隷になるか性奴隷になるかはわからないけど、ただの街娘で居るよりずっと裕福な生活だって出来るわ。それはそれで幸せでしょう?」


 そう言って僕だけでなく部屋全体を見渡して、室内に居る全員にジェルミナさんは声をかけた。

 息をのむ音が聞こえる。


 それがこれから待ち受ける未来への恐怖なのか期待なのか、男の僕にはわからないけど。

 でも、それが幸せだなんて思いたくない。


 勝手に誘拐されて、勝手に売られて、それで幸せだなんてある訳無い。

 ソフィアさんを心配していたご両親の顔を僕は覚えている!


「そんなの間違ってる!」

 だから僕はハッキリとそう答えた。


「間違ってないわ。その為にも、少しでも高く売れるように会場じゃお客様に出来るだけ媚を売ると良いわよ。噛みつく犬よりすり寄ってくる犬の方が皆も好きでしょ?」


「違う! お金で人を買うとか、それが幸せとか、そんな訳ないよっ!」

 反論する僕にジェルミナさんの表情は一瞬だけ鬼のような顔になり、でもすぐ元の表情に戻っていた。


「いいえ、この世はお金よ。お金があれば、なんでも、人も、幸せも、買えるのよ。ユウはソレをまだ知らないだけ」


 そう言ってジェルミナさんはにっこりと笑った。






 

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