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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第七章 囚われの姫君
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第132話 マヤ語り。 その4

 9月1日……あの日、私は高校に自分の休学届けを持って行った。

 なんとかギリギリで両親を説得する事が出来たからだ。


 元々両親も優の事は気に入ってるし、お互い家族ぐるみで優の家とは仲良くしている。

 その優が行方不明になり、ゲームの中とはいえ見つける事が出来、おばさん達は『セカンドアース』の本社のあるアメリカへと旅立った。


「ゲームの中に『ユウ』が居るから、一緒に居る為に高校を休む」


 と言った時の両親は最初は信じてくれなかったし、更に行方不明の優が何故ゲームなんかしてるのかって事になったけど、最終的にはおばさん達が電話で話してくれたようだ。

 おばさん達も自分の子供のせいで私まで学校を休学する事は心配し、止めようとしてくれたようだけど。


 でももし認められなかったとしても、私は無断欠席するだけだから何も変わらなかったと思う。


 そもそも優がいつ戻ってこれるかはまだわかってない。

 もし長かった場合、優は留年する可能性もある。ならその時1人位は顔見知りが居た方が優だって気が楽だろう。それが守ると誓ったのに守れなかった私が今したい事だ。

 休学届けを持って行った私をクラスメイトが普通に祝福してくれたのはちょっと驚いたけど。……そんなに私って学校でわかりやすかったのかな?


 ともあれ、これで大手を振って私は『ユウ』と一緒に居られる。

 面倒な手続きと面談を終え、夕方頃に帰って来た私はそのまま急いで『セカンドアース』へとログインした。




 最初に感じたのは違和感だった。

 ホームの階段を下りながら『匂い』がしなかったのだ。

 ユウはこの時間、大抵は皆の為に夕食の準備をしている。その美味しそうな匂いがリビングにまで漂っている事が多い。

 勿論出かけている事もあるし狩りの時等は少し違うが、今朝『フィールドに行かない』と約束したばかりだ。ユウが意味もなく約束を破る訳ない。


 そして階段を下りてキッチンは勿論、リビングにも灯りが付けられておらず、薄暗いままだった。


 慌ててウィンドウを開き、クランのログインを確認すると、ユウのログイン状態はONになっていた。

 ログアウト、もしくは死亡していない事に少し安心する。


 でも、じゃあ一体何をしているんだろう?

 私が帰ってきたのに遊び歩いているんだろうか? ふつふつと怒りが湧いてくる。


 と、よく見るとソファーの定位置で眠っている人影が見えた。


「ルルイエ、ちょっといいかしら?」

 自分より早くログインしていたであろう人物を発見して、肩を揺らして声をかける。


「んにゃぁ……な、なんなん……って、マヤっちおはよーさん」

 夕方だというのに物凄く眠そうに瞼を開くルルイエ。

「もう夕方よ。昼寝にしても遅いでしょ」

「ウチはブラジル在住やから今早朝なんよ」

「嘘おっしゃい。『セカンドアース』はブラジルではサービス提供してない筈よ」

「マヤっち詳しいなぁ……で、なんなん? 夕食はまだやよね」


 眠そうにゆらゆらしながらも起こされた理由を問うルルイエ。


「その夕食を作ってる筈のユウがまだ帰ってないんだけど、何か知らない?」

「ふぇ? そうなん? ……ホンマやね、もう日が沈む言うのに珍しい」


 私の言葉にルルイエはきょろきょろと辺りを見渡して首を傾げた。

 どうやら彼女も知らないらしい。

 一体何処で何をしているのか……クランチャットとメッセージで連絡を取ろうとするも、返事は帰って来なかった。

 場所がわからないのであれば闇雲に探しても見つからないだろうし……どうしたものか。


 そう思っている間に他のノワールとサラサラさん、コテツさんがログインしてきた。

 が、それでもまだユウは帰って来なかった。


 夜遊びならちゃんと叱らないと……でも、もし夜遊びじゃなかったら?

 不安がじわじわと胸に広がる。


 そう思っている時、突然ホームの呼び鈴が激しく鳴り響いた。


 ユウが帰ってきた!?


 私は即座に玄関へと飛び出していた。

 が、そこに立っていたのはアンクル・ウォルターだった。


 冷静に考えればクランメンバーであるユウが呼び鈴を鳴らす筈無いのだが、やはり焦っていたのだろうか?

 そして冷静に見てみれば目の前のアンクルも又、焦っているのか険しい表情をしている事に気付いた。


「……失礼。ユウ様はもうお戻りになっているだろうか?」


 アンクルが最初に口を開いた言葉がソレだった。

 その言葉の意味を飲み込み、自分でも分かる程自分が殺気立つのを感じる。


「それはどういう意味?」


 アンクルは『ユウが帰ってきてない事』を知っている。つまり、何があったか知っている。


「つまり……いらっしゃらないという事か?」

「ええ、まだ帰ってきてないわ。私も今ログインした所よ。それで、そっちも説明してくれるんでしょう?」

「……ああ。少し、中に入れて貰っても良いだろうか?」




 アンクルも又、今日は遅い時間にログインしたらしい。

 そこで最初に受けた報告は『白薔薇騎士団のリリンを含む数名が衛兵の詰め所に捕らえられている』という内容だった。


 意味がわからないままに詰め所に出頭し、事情を確認する。

 なんでも犯罪者を追っていた王国騎士の邪魔をし、交戦し、暴れた為一時的に留置所に入れられているらしい。


 そしてクランリーダーとして手続きを終えてリリン達の話を聞いて全てが繋がる。


 曰く、


・ユウ様の監視護衛任務中、女性の悲鳴を聞いてユウ様が駆け出し、女性を保護。

・女性が悪漢に追われているとの事で、ユウ様が冒険者ギルドに女性を送り届ける間、自分達が悪漢を倒すべく奮闘。

・後からやってきた衛兵が何故か悪漢達に味方する。

・そこで誤解が解けて、悪漢がこの国の騎士だと判明。目的は『犯罪者の逮捕』

・つまり逃げていた女性こそが犯罪者だと気付き、慌ててユウの元へと向かおうとする。

・しかし、勘違いとはいえ(本当に勘違いかも確認出来ない為)王国騎士に剣を向けた以上、手続き上詰め所に来て貰わないと困るという衛兵。

・そんな暇はないと暴れたリリン達は仕方なく留置所入り。

・留置所内ではクランチャットやメッセージは使えない為、責任者であるクランリーダーが戻ってくるまで連絡取れず。


「――とりあえず白薔薇騎士団の全団員で王都中を捜索している。しかしもしユウ様がお戻りになっているのであればと、私は『銀の翼』ホームへと確認に来た」


「ユウ君は残念ながら帰ってきてないわね~」


 話を聞いて答えたのはサラサラさんだった。


「私達が知っている情報は以上だ。この後は私もユウ様の捜索に加わる。もし有益情報、もしくはユウ様を発見したら、連絡頂けないだろうか? こちらも何かあったら連絡するつもりだ」

「ええ、勿論。ユウ君は『銀の翼(ウチ)』の大事な仲間だから、助かるわ~」

「……ありがとう。今回は『白薔薇騎士団』の失態だ。申し訳ない」


 そう言って深く頭を下げてアンクルは帰って行った。

 私は何も言えなかった。声を出すと暴れ出しそうで、必死に我慢していた。


 この怒りは誰に向けた物なんだろうか。

 騙されたユウ? 騙した女? 守れなかった白薔薇騎士団? 杓子定規な衛兵? アンクル・ウォルター?


 違う、自分自身にだ。

 『守る』って言ったのに、全然守れていない自分自身にだ。


 たった1日だから大丈夫だと油断していた自分自身にだ。

 こんな事なら休学届けなんて持って行かず、自主休学していれば……。


 あの日、ユウが行方不明になった日を思い出す。

 私は同じ事を繰り返してしまったのだろうか?


「ほらほら、マヤちゃん。そんな怖い顔してちゃダメよ~」


 いつの間にか私の後ろに回り込んでいたサラサラさんが私に抱きついてきた。

「さ、サラサラさんっ!?」

「せっかくの可愛い顔がダイナシよ~? そんな怖い顔してるとユウ君に嫌われちゃうでしょ~?」

「ちょっ、か、可愛いって、や、やめてくださいっ! ユウが居ないこんな時にっ」


 慌ててサラサラさんを引きはがそうとするが、抱きついて離れてくれない。


「ユウ君も大丈夫よ。ログインは消えてないって事はゲーム内の何処かには必ず居るんでしょうし……大丈夫よね、ルルイエ?」


 私に抱きついたまま、ルルイエに尋ねるサラサラさん。


「な、なんでウチに聞くん?!」

「ルルイエはゲームに詳しいし……なんとなく?」


 尋ねたサラサラさん本人が首を傾げている。


「だ、大丈夫なんちゃう? ログアウトしてへんのやろ?」

「ほら、大丈夫って言ってるんだから、マヤちゃんも元気だして。ユウ君も強い子だから絶対大丈夫よ~」


 そう言ってにっこり微笑むサラサラさん。

 何の根拠もない話だけど、それでも、勇気づけられる。


「さっきのマヤの顔、『銀の翼』に来た頃と同じだったぜ。ユウは必ず見つけるし、必ず助ける。けど、その時まで心の余裕がねーと、マヤまで倒れちまう。そうなったら、いざユウを助ける時に動けねーだろ。マヤはもっと笑うべきだなっ」


 そう言ってコテツさんが私の頭を力一杯撫でてくれた。


「ユウ、助ける」

 いつも無表情のノワールまでやる気一杯だ。


「もも、勿論ウチも手伝うよ!?」

 慌てたようにルルイエも手を挙げた。


 それを見て思う。

 もうあの時とは違う。『銀の翼』が、『白薔薇騎士団』が、そして声をかければもっと沢山のクランが多分手伝ってくれる筈。

 ユウが何処かに居る事もわかっている。


 なら、落ち込んでいる暇はない。


「ありがとう。じゃあ急いでユウを探し出して、しっかりお説教しましょう」


 私は立ち上がり、そう宣言した。

 あとユウを騙して連れ去ったという女に百億万倍返しをしよう。

 そう心の中で付け加えた。







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