第128話 ???レポート。
7月27日
プレイヤー『マヤ』が目標を発見。保護。
目標は一週間の記憶が無く、同日にログインしたと考えられる。
外見はリアルの外見を強くトレースしているが、瞳や髪の色、髪型等は大きく異なる。これは影響を受けている可能性――もしくはそのものである可能性が高い。
又プレイヤー『コテツ』によると歌唱能力も高く心を奪われたとの事。
7月28日
『マヤ』が目標の保護、監督の為に所属クランを休む旨をリーダーに伝える。結果クラン活動は一時休止となる。
目標は『ゼリースライム』を相手に格闘。
最弱の『ゼリースライム』相手といえど、低能力値、スキル無しで倒すのは難しい筈だが、目標は苦戦しつつも勝利を重ねる。
又、同日MPKに襲われる。NPCを守る為に『マヤ』『コテツ』と共にこれを撃退。
以上は全て『マヤ』からの伝聞であり、正確な時間、情報等を把握する事は出来ない。
8月3日
目標と初接触。
近距離で見る目標は魂を奪われる程の外見で注意が必要。
同時に目標を『鑑定』した結果、予想通り『固有スキル』が多く能力値が低い。又戦闘用スキルも所持していない模様。
影響を受けている可能性が高い。
『鑑定』結果の中で目標が『男性』ある事に一番驚く。
今回のケースの原因が『依存』である可能性を考慮し、目標と『マヤ』の分断を行う。
目標はこれに了承。目標の泣きそうな顔に心が折れそうになる。
8月4日
分断後、目標を『隠密』状態で観察。目標はプレイヤー『アンクル・ウォルター』と行動を共にし、戦闘訓練を続けている模様。
戦闘時の脳波、バイタルデータとの比較を。
又観察の結果、高い反応速度を持つ事が確認出来た。
それが『固有スキル』による物でない事も確認済みの為、深度が関係していると思われる。
8月7日
目標の手料理は危険物レベルの美味しさ。
熱々ハンバーグから零れる肉汁ととろとろチーズが口の中で爆発する。更にポテトサラダもほくほくと甘く、パンやオニオンスープまで極上。
外見、歌声、料理――明らかに影響を受けている可能性が高く、現時点で目標が『神屋 優』であり、同症状であると断定。
8月8日
目標、クラン『銀の翼』へ仮加入。
あの料理が毎日……いや毎食食べられる。しかもおやつも作ってくれる。
胃袋をがっちり掴まれてしまったようだ。
こればかりはどうしようもない。
8月10日
目標の両親が本社へ。会長自らが説得。
8月14日
目標は毎日甲斐甲斐しく家事を行っている。料理も勿論毎日自分で食材を買い付けて、自身で行って作っている。毎日とろける美味しさ。
『鑑定』で確認し、『マヤ』の証言があっても本当に男性なのかと疑いたくなる。
日常の目標を観察と『マヤ』の話を総合するに原因が『拒絶』である可能性も低いと考えられる。
クラン『銀の翼』で行われる戦闘においては『侍祭』の特性上後衛を担当し、ダメージを受ける事はないが引き続きデータの検証を求める。
8月19日
目標が『転職祭』に向けた連日の激務に疲労状態。
戦闘以外での精神的なストレス状態に脳波、バイタルデータの変化がないか調査を。
目標が疲れている為、他のクランメンバーの食事が出る事もあり、がっかり。
8月21日
『転職祭』内『歌唱コンクール』『料理コンテスト』『冒険者ギルド運営露店』にて目標の『固有スキル』が多くのプレイヤーに知れ渡る。
少し危険な状態かも知れず、増援を検討。
目標自身は『転職祭』を満喫。一時的に『歌唱コンクール』で暴動的な事が起こりかけたが、それ以外は特に問題なし。
8月22日
目標、『侍祭』から『司祭』に転職。
目標自身は不満そうだが、能力値やスキルから見てそれ以外ないと思われる。
後で確認した所『歌姫』も捨てがたい所。
8月23日
目標の羞恥と快楽による脳波、バイタルデータとの関連性を調査。
見てる方もごちそうさまでした。
『マヤ』が五月蠅いから撮影したSSをネットに上げられないのが残念。
8月24日
目標の固有スキルは幻獣、神獣にも影響がある事を確認。結果如何によっては探索範囲自体が間違っていた可能性も。
私は幻獣を捕獲出来ず。猫、猫成分が足りない。
8月26日
上位クランの集まりに目標が参加。激しい緊張や恐怖を感じる恐れあり。
脳波、バイタルデータとの関連性を調査。
プレイヤー同士の問題を懸念していたが、結果大手クランの大半で目標を保護する事で集結。
スキルの影響もあるだろうが、本人の行動の結果もあると思われる。
と考えてしまう私自身が既にすっかり籠絡されているかもしれない。
8月28日
目標、『火口ダンジョン』へ。『霊護印』にて防がれている為、あまり参考にならないかも知れないが、外気温の変化による脳波、バイタルデータとの関連性を調査。
いつもながら目標の手料理は絶品。
8月29日
目標、『冒険者ギルド』にパンを納品。そのサンプルを朝食に頂く。
様々な種類のパンが並び至福の時間。
9月1日
彼女が目標に接触。禁則事項により直ちに強制切断。今後の――――――
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「あれ? 珍しい。何を一生懸命書いてるんですか?」
「珍しいて。ウチかて一生懸命な事だってあるんよ?」
「それは……ごめんなさい」
「まぁええけどね。今書いてるんは勿論……『ユウっち観察日記』やね」
「何その聞き捨てならないタイトルっ!?」
いつもより少し短いですがこれにて第6章終了です。
総帥→会長に変更。




