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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第六章 ボクの居る場所
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第122話 デートアライブ。

 ホームから送り出された僕達はそのまま朝の大通りを歩いていた。


 僕の少し前をピリピリした空気を纏ってホノカちゃんが歩いている。

 顔を真っ赤にして全身を緊張させているような、近寄りがたいオーラをまき散らしてるように見える。


 原因は多分さっきのサラサラさんの一言だ。


 僕達を玄関まで送り扉を閉める直前、サラサラさんは確かにこう言った。


「デートなんだからちゃんとユウ君がエスコートしてあげるのよ~」


 楽しそうに小声で囁くサラサラさん。

 でもその瞬間、隣にいたホノカちゃんの身体がびくんと震え、その後ずっとホノカちゃんはあんな感じになってしまった。


 でもそれも当然かもしれない。ホノカちゃんは男嫌いなのに、男である僕を今日一日チェックする為に一緒に居なければならないのだ。

 それを『デート』と言われたら、怒っても仕方がない。


 僕としては確かに『デート』には憧れるし、女の子と一緒に街をウィンドウショッピングとか良いなぁ……とは思うけど……相手はホノカちゃんだ。

 どっちかというと妹と一緒におつかいという気分になってしまう。


 しかも反抗期の妹みたいな感じで、正直気が重い。

 実際今も『近寄るな』オーラをばんばん出しながら少し前を歩くホノカちゃんを見つめて小さくため息をついた。


 かと言って今日この難関をくぐり抜けて、ホノカちゃんの合格を貰えない限り『銀の翼』に残る事は出来ない。今日一日が生死を分かつのだからがんばらなきゃいけないのだっ!


 ……でもどうしよう? と考えているとホノカちゃんが足を止め、僕を睨んでいる事に気付いた。


「な、何かなホノカちゃん」

「ゆ、ユウは……あの……その……今日は……」

「うん……?」


 顔を赤くしたまま、何か口の中で要領の得ない事を小さく口ずさむホノカちゃん。いつもハキハキ喋る彼女にしてはこういうのは珍しい。


「……っ……き、今日はっ、で、デートなんかじゃないんだからっ! かかか、勘違いしないでよねっ!?」

「あ、うん」


 暫ししてそう言い放って再びホノカちゃんは歩き出した。

 どうやら僕が『デート』だと勘違いして変な事しないか警戒してたのかな?

 早速汚名挽回だっ!


「大丈夫だよっ! デートだなんて全く思ってないからっ!」

「っ!?……それってどういう意味よっ!? まさか私じゃデートの相手に不足だって言うのっ!?」

「あ、いや、そういう意味じゃ……」

「じゃあどういう意味よっ!?」


 何故か物凄く怒られた。

 な、なんで……?




「それで、今日はどうするの?」

 それでも中央広場まで歩いてくる間に少しは落ち着いたのか、まだ少し顔が赤いもののホノカちゃんが僕に尋ねて来る。


「えっと……ホノカちゃんはどこか行きたい所とかある?」

「今日はユウの監視観察なんだから、あんたがしたい事じゃなきゃダメでしょ」

「そう言うモノなのかな?」


 言われてみれば確かにそうなのかもしれない。

 ホノカちゃんの接待をしてそれがどうだったかより、日常的な僕を見て貰った方が良いのかな?

 でも、面白味ないだろうし、それでホノカちゃんの合格が貰えるんだろうか……。


 いや、日常的な僕を見て貰いながら更に加点を狙うっ! これだっ! がんばれ僕っ!!


「じゃあ……最初は『冒険者ギルド』へ」

「ま、そうよね。私達は冒険者なんだし」


 僕の提案にホノカちゃんは大きく頷き、2人で『冒険者ギルド』へと足を踏み入れた。


 朝食後のこの時間は新しいクエストが多く張り出される為、ギルド内の人の数も多く、活気に溢れている。

 大抵のクエストは人数制限とかはないとはいえ、新しいクエストをより早くクリアする事で恩恵に預かろうという人が多いのだそうだ。

 夏休みが終わったら平日朝とかは少しは空くのだろうか?


「うぇ…………」


 掲示板に群がるプレイヤーを見たホノカちゃんはげっそりした顔をしていた。

 まぁ冒険者……というかプレイヤーの過半数は男性だからホノカちゃんがそういう顔をするのも仕方ない。


「アレの中に行くの……?」

 物凄く嫌そうに僕に尋ねるホノカちゃん。


 僕自身は別にバーゲンセールみたいな状態に突入する事自体は構わないけど……気分の良い物じゃないし、まして男嫌いのホノカちゃんを連れてする事でもない。

 ホノカちゃんが癇癪でも起こしたりすればギルド内が火の海になってもおかしくないし。

 むしろならない訳がない気がする。


「大丈夫。今日は別にクエストを受けに来た訳じゃないから」


 そう言って僕は一直線に受付へと向かった。

 勿論ソニアさんのブースだ。

 こっちはこっちでそれなりに行列が出来ているからホノカちゃんは同じように少し嫌な顔をしたが、それでも大人しく並んでくれた。

 掲示板前と違って押しくらまんじゅう状態じゃない分マシだと思ったのかもしれない。


 そうして暫し待つとすぐに僕達の番が来て、目の前にソニアさんの笑顔が現れる。


「ユウさん、ホノカさん、おはようございます。本日は2人でクエストを?」

「ソニアさん、おはようございます。今日はクエストじゃなくて、納品に来ましたっ」


 僕もソニアさんに笑顔で応えて、アイテムウィンドウから携帯用保存庫を取り出す。

 これは『冒険者ギルド』の備品で、この前の話し合いの後納品に使うようにとギルドマスターのリラさんから預かっていた。


「あら、もう出来たの? 急がなくて良かったのに」

「オーブンが完成したら居ても立っていられなくて」


 新しいオモチャが出来たみたいで嬉しくてついつい頑張ってしまった。

 しかもそのオモチャが最新式の超高性能で現実じゃ無理なような焼き上がりをしてくれるんだから、ついついいっぱい作ってしまったのだ。


「そう、無理してないなら良いけど……オーブンって事は商品はパンとかかしら?」

「はいっ、保存庫にはパンが500個入ってます。えっと、これと同じ物なんで、審査用にこれを使って下さい」


 と、僕はアイテムウィンドウから一辺5センチ程の四角いタバコの箱のような形のパンが10個程入った袋を取り出す。

 この形にしたのは携帯しやすく、戦闘中でもすぐに食べられるサイズ、形状だった事と……作るのが簡単だったからだ。

 練った生地を切って焼いただけだから他のパンに比べて手間も必要な道具もぐっと少ない。


「わかったわ。じゃあこれを『冒険者ギルド』の管理部に渡してしっかり審査して貰うわね。絶対にユウさんに損はさせないからっ!」

 耳をピンと立てて燃えるような瞳で宣言するソニアさん。……正直少し怖い。


「えっと、あと、折角だからコレは皆さんで休憩中にでも食べてくださいね」

 ちょっとソニアさんの圧に圧されながらも、同じパンを10個程……こっちは可愛い紙袋に入れてラッピングした物をソニアさんに渡した。

「あらあらっ! そんな悪いわ……いいの?」

 困ったような、でも物凄く嬉しそうな顔をして聞き返すソニアさん。

「一応『試食』だから、味の感想とか貰えたら嬉しいです」

「そう、わかったわ。ありがとう、皆で頂くわねっ」


 そう言って笑顔で紙袋を受け取ってくれたソニアさん。

 その時の笑顔が営業スマイルが崩れて、柔らかい笑顔になってしまっていて、きっちりしたスーツ姿でその笑顔というのが反則的な可愛さだった。


 正直ずっと見ていたい。


 と、今度は横から何やら物凄い圧が来ている事に気付く。

 恐る恐る横を見ると、その元凶……ホノカちゃんが物凄く怒った表情で僕を睨んでいた。


「もうユウの仕事は終わったって事よねっ!? じゃあさっさと次に行くわよっ!!」

 目があったホノカちゃんがそう捲し立てて1人先に入り口へと歩いていく。

「あ、うん。じゃ、じゃあソニアさん、後の事よろしくお願いします」

「はーい。ちゃんと処理しておくから安心してね」

「ありがとうございますっ」

「ユウっ! 遅いわよっ!!」


 ハリーハリーと入り口で足踏みするホノカちゃんに僕は慌てて走り出した。




「大体ユウは美人に弱いのよっ! さっきも何? ソニアさんに鼻の下伸ばしてデレデレしちゃってっ」

「デレデレはしてないと思うけど……」


 し、してないよね……?

 反射的に自分の鼻の下を指でなぞるけどやっぱりよくわからない。


「してたわよっ! それにプレゼントとかちゃっかり用意してたりして……何? ユウはソニアさんを狙ってるのっ!?」

「た、単にいつもお世話になってるお礼だよ」


 『冒険者ギルド』を出てからずっとこの調子でホノカちゃんはずっと僕に文句を言い続けている。

 これはやはりアレだろうか?


 男嫌いのホノカちゃんをわざわざ男だらけの『冒険者ギルド』に連れて行った事が限界値に達してしまったんだろうか?

 列に並んでいる間も大人しかったのはギリギリで我慢してくれていたのかもしれない。

 だとしたら失敗だったかなぁ……でもせっかく焼き上がったパンだし出来るだけ早く納品したかったたし……でもなぁ……。


 と、思っているとホノカちゃんが足を止めた。

「……ね、狙ってないって言うなら、ゆゆゆ、ユウはどんな女の子が良いのよっ!?」

 真っ赤な顔で僕を睨んでそう言った。


 ど、どんな女の子!? こ、これも試験の一環なんだろうか? 間違った答えとか言うとアウトだったりするかもしれない?!


 とは言っても……嘘や適当な事を言っても意味がない気がするし、試験であるならむしろ誠実であるべきだよね、うん。


「んー…………可愛い子とか?」

 しばし考えて、最初に思い浮かんだ事を答える。さっきのソニアさんの笑顔とか可愛かったし、やっぱり男として可愛い子には弱い。


「可愛い…………そ、そう。そそそそ、それは、私とかはどうなのっ?!」

「? ホノカちゃんは誰が見ても可愛いと思うよ?」


 身体も顔も小さいし、くりくりした大きくて勝ち気な瞳は表情豊かだし、動く度に揺れる赤いツインテールも似合っている。

 ちょっと口が悪いけど、そういう所も子供っぽくて許されると思う。


 反抗期の妹ランキングとかあったら上位に入るんじゃないだろうか?

 そんなランキング無いだろうけど。


 そんな下らない事を考えていると、ホノカちゃんが今日一番顔を真っ赤にして呆然としている事に気付いた。……も、もしかして熱とかある?

 が、僕と視線が合った瞬間、びくんと大きく動いて、再び歩き出した。


「そそそ、そうっ! な、なら、いいわっ!!」


 そう言って僕の少し前を歩くホノカちゃん。

 ……何が良かったんだろう?


 やはり『反抗期の妹』というのは訳がわからないし、僕は素直な妹の方が良いなぁと思った。







注釈/

今回の『汚名挽回』はわざとです。

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