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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第六章 ボクの居る場所
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第119話 ノワール語り。 前編

 私は人と接するのが苦手だ。

 どう喋って良いのかわからない。がんばって自分の気持ちを伝えると逆に言いすぎて相手が怒ったりする。

 多分私みたいなのがコミュ障と呼ばれる者なんだろう。


 でもどうしていいのかわからない。「人との付き合い方」とか「簡単会話術」とか読んでみたけど、何の役にも立たなかった。

 だから出来るだけ人と接しないように、会話しないように生活するようになった。


 でもそれは少し寂しい。

 だからせめてゲームの中で、と思って人と接する機会の多いMMOを遊んでみた。


 ……ゲームの中でも同じだった。


 上手く自分の言いたい事を伝えられず、結局1人で遊ぶ日々。

 ゲームは面白いけど、面白くなかった。



 そんな時だ、『セカンドアース』で彼女に出逢ったのは。



「こんにちわー! ちょっと時間ええかなー?」


 樹上からモンスターを撃ち殺している時、不意に変わったイントネーションで声をかけられた。

 見下ろすと私が居る樹の根本に1人の女性がこちらを見上げていた。


 私に用があるのだろうか?

 ゲームの中でも話しかけられたのは何時ぶりだろう? そう思いつつどう答えれば良いか考えて眺めていると、彼女は返事を待たずに私の居る樹を登り始めた。


 どうしよう? 別の樹に飛び移って逃げる? でもそれもどうかと思うし……。


 そう思っていると彼女は私の枝までやってきてしまった。


「うっわー! 思ったとーりええ景色やねっ! アンタが此処でモンスター狩ってるん見て、どうしても気になってもーたんよ」


 そう言って笑う彼女。なるほど、景色が見たかっただけなら私は関係なかったのか。

 良かったような、少し残念なような。


「んでっ、いっつもここで戦ってたけど、あんたって1人なん?」


 一頻り景色を眺めた後、彼女は私を見てそう尋ねた。

 1人。そう私は1人だ。

 だから頷いた。


「なら、良かったらウチ等と一緒に狩り行かへん?」


 カリ? 私と? 一緒? そんなの良いんだろうか? 何かの間違いじゃないだろうか?


「…………ぃいの?」


 なんとか絞り出して彼女に尋ねる。

 と、彼女は一瞬私を見つめて大爆笑をし始めた。

 意味がわからずに更に首を傾げる私。


「こっちがお願いしてるんやん。でも、って事はOKなんやね。いやー遠距離火力が欲しかったんよ! ぜひぜひぜひ!」


 そう言って笑いながら彼女は無理矢理私の手を取って握手をし始めた。


「ウチの名前はルルイエ、あんたは?」

「…………ノワール」

「んじゃノワっちやね。今日はよろしくな! ノワっち!」


 変な人に捕まった気がした。

 けど嫌な気分でもなかった。




 その後、ルルイエさんのパーティと合流して一緒に狩りをした。サラサラさんとコテツさんという2人とも大人な女性だった。

 いつも通り上手く喋れず、自己紹介も名前を言うだけの私を2人は優しく迎え入れてくれた。

 これがコミュ力の差かと内心衝撃を覚えた。


 そして私が呼ばれた理由は、なんでもいつも一緒の『魔法師(マジシャン)』がお休みで臨時で遠距離攻撃が出来る人間が欲しかったのだという。


 ならばと固有スキル全開でがんばってみる。




 がんばりすぎた。


 モンスターを一体たりとも近づかせないうちに矢で射殺して全滅させてしまった。

 サラサラさんとコテツさんは呆然と私を見て、ルルイエさんは大爆笑している。


 いつもこうだ……がんばろうと思うとやりすぎてしまって、上手くコントロールできない。

 折角ルルイエさんが誘ってくれたのに、どうして私はこうなんだろう?


 そう思っていると笑いすぎて泣いているルルイエさんがお腹を押さえつつ、サラサラさんにを見る。


「な、面白い子やろ? ええかな?」

「そうねぇ……私は別に構わないけど……」

「あたしも良いぜ。強い奴は歓迎だしね」


 頷き合う3人。何を言ってるんだろう?

 首を傾げているとルルイエさんが私に向き直った。


「なぁノワっち、もし1人なんやったら……ウチ等のクランに入らへん?」


 くらん? パーティに入ったのも初めての私が? あんな酷い戦い方したのに?

 不思議に思ってサラサラさんやコテツさんを見ると頷いてくれた。


 良いんだろうか? でもサラサラさんやコテツさんみたいな人になりたい。側にいればなれるかもしれない。それに……それにもう1人は嫌だった。


「…………よろしく」


 そう言って私は頭を下げた。

 その日私はクラン『銀の翼』に入った。




 それから私が『銀の翼』に入る切欠となった『魔法師(マジシャン)』のホノカとも会わせて貰い、正式なクランメンバーとして活動を始める。


 パーティ狩りは楽しかった。

 相変わらず上手く喋れないし、戦い方のペース配分とかもわからなかったけど、皆が優しく私を迎え入れてくれた。


 そうした楽しい日々が過ぎる内に『セカンドアース』が正式サービス開始となった。

 クランメンバー全員が続けるという事で、私もゲーム継続を選んだ。


 次にクランにやってきたのはマヤだった。

 連れてきたのはリーダー。マヤは人捜しをして『セカンドアース』に来たらしい。


 人の事は言えないけど、変な人を連れてくるものだと思った。

 いくらMMOとはいえ人捜しならリアルでやった方が良いし、そういう間柄でないならゲームの中でもあまり褒められた行動じゃない気がする。

 それに仮に探し人が『セカンドアース』をしてたとして、その人を見つける確率ってかなり低いんじゃないだろうか?

 どんな名前でプレイしてるかも、外見すらもわからないようなのに。




 でも一週間が経った頃、彼女はついに見つけ出したらしい。

 リーダーに迷惑をかけるかもと、クランを抜ける旨をマヤは伝えていた。

 が、リーダーが説得して残留する事となり、マヤが落ち着くまではクランでの狩りはお休みという事になった。

 その事で不満を言ってたのはルルだったけど、結局納得していた。


 私はマヤが探してた人がどんな人か興味があったけど、聞いたり出来る訳もなく黙って見ていた。


 でもすぐに出逢う事になる。

 ルルが狩りに行きたいと言うから2人で冒険者ギルドに行った先で久し振りにマヤと逢い、そこで偶然彼女に出逢った。


 彼女の名前はユウ。


 初対面の時、私は彼女が気になった。

 それは物凄く綺麗だったからとか、良い匂いがしたからとか、胸がキュンとしたからとかではなく、彼女がマヤと話してる時……笑っているのに泣きそうな顔に見えたから。

 その顔が、なんだかクランに入る前の、1人だった頃の自分に見えたから、心配になった。


 でも彼女は1人で飛び出して行ってしまった。コミュ障の私じゃ上手く話しかけられなかった。


 だから私はずっと気になっていたのだけど、再会もすぐだった。

 コテツが誘ってくれたユウ主催の食事会に呼ばれて参加する事にしたのだ。


 ルルイエが謝る場を求め、私もユウの事が気になっていたし丁度良かった。

 再会したユウは今日はちゃんと笑っていて、私は少し胸をなで下ろした。


 ユウは私なんかと違ってとても強い子みたいだ。


 そして何よりユウの料理に驚いた。『セカンドアース』は味覚も再現されるし美味しい物は色々あったけど、その中で一番美味しかった。

 ハンバーグもポテトサラダもオニオンスープも何もかもが美味しすぎた。


 私に似た表情を見せて、でも私より強くて、私みたいなコミュ障にも笑顔で話しかけてくれて、しかもこんな美味しい物を作れる。


 この日私はユウに餌付けされてしまった。



 

 その後マヤの提案でユウを『銀の翼』に招待するも、残念ながら加入する事は出来なかった。

 ユウは、『彼女』は『彼』だったのだ。


 『銀の翼』というか、ホノカが男嫌いだから、クランに男性が入るのを物凄く嫌がる。私も正直男性とは女性以上に上手く喋れないからあまり良くはないけど……。


 でも私はユウは大丈夫だった。

 そもそも見た目女の子みたいだし、声も可愛いし、料理も美味しいし、料理も美味しいし。


 でもホノカはユウとお風呂場で初対面してしまった為に激しく怒ってしまったのだ。

 本来ならこれで終わりだけど、皆が説得して、ユウの作ったクッキーを食べさせて結局『客分(ゲスト)』として仮加入扱いになった。


 それからのユウはクランの皆の為に料理を作ってくれて、お掃除してくれて、皆のハートと胃袋を掴んで行った。


 あれだけ怒っていたホノカもユウにメロメロになっているのがわかる。

 あの料理を食べて逆らえる人なんて居ないのだ。ユウ恐ろしい子。


 そして何より恐ろしいのはユウがソレを自覚してない事だと思う。


 自覚されたとしてもそれはそれで怖いけど。

 もしユウがその料理や、あの笑顔を自覚的に利用したりし始めたら…………考えただけで恐ろしくなる。そうなったら多分私はユウの為すがままかもしれない。


 今ならマヤの気持ちも少しはわかる。


 でもきっとユウはそうならないだろう。だってユウは私と違ってとても良い子で強い子だから。

 そして『銀の翼』に居る限りユウを利用したいという人も私達で守る事が出来る。

 外敵は全て射殺す。私の幸せを誰にも奪わせたりなんてしない。


 だから私は今日も安心して彼の料理に舌鼓を打つのだ。







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