第116話 火山の王。
・レベル66爆炎の精霊とエンカウントしました。
・レベル44火炎蜥蜴3体とエンカウントしました。
メッセージウィンドウに流れていくログ。
そのログの通り、身長4メートル程の炎を纏った真っ赤な巨人が立っている。筋骨隆々な身体は下半身が炎のままのような不定形な形をしていて正に炎の化身といって姿だ。
その足下に『爆炎の精霊』と劣らぬ巨体のワニのようなは虫類が3体此方を睨んでいた。こちらも炎を纏った真っ赤な鱗を纏い、巨大な顎を持っている。多分こっちが『火炎蜥蜴』だろうか。
やっぱり見間違いじゃなくて『爆炎の精霊』と『火炎蜥蜴』が同時に出てきちゃったみたい……しかも『火炎蜥蜴』は3体も……。
ボスモンスター4体同時とかゲームバランスがおかしい気がする。しかもレベルも44と66とか……66って神獣のヴァイスより高いよね!?
『ふむ……愛しくも懐かしい……芳しい香りに誘われてきてみれば、まさか人間だったとは驚きだな』
辺りを見回した『爆炎の精霊』は警戒する僕達を見つめてそう呟いた。いや、これは言葉じゃなくて心に声が聞こえて来てる?
それに僕達……というより何だか僕を見てるようにも見える。
……もしかして……芳しい香りって僕?
暑いからではない汗が頬を垂れる。
そう言えば『爆炎の精霊』って名前からして『精霊』だし、『精霊后の芳香』が本当に『精霊后』って人の匂いなのだとしたら嗅いだ事もあるのかもしれないけど……それってつまり……。
僕のせいでこの状況になってる?
「ユウちゃんっ! 理由はわからねーがボスモンスター4体と同時バトルだっ! 気をつけろよっ!」
『爆炎の精霊』から視線を外さずにクロノさんが僕に声をかけてくれる。
ごめんなさい、理由は多分もしかしたら僕のせいな気がします。
「あ、あのっ、原因ってもしかして……」
「今は原因よりアレをどうにかするのが先決だろぉっ! さすがにボスモンスター4体、しかも66レベルと44レベルじゃ、下手な事すりゃ秒殺されんぞっ!?」
流石にテルさんも余裕がない声で叫ぶ。
そ、そっか。確かに原因より結果が大事だよね。喋ってて治癒が間に合わないとかギャグにもならないし。謝るのは後にしよう、うん。
そう思って改めて『爆炎の精霊』と3体の『火炎蜥蜴』を睨む。
と、僕の視線に気付いたのか爆炎の精霊がにんまりと笑った。
『折角珍しいモノを見つけたのだ。魂を連れ帰って皆に見せるとするか』
い、今聞き捨てならない事を言った気がする!?
そう思った瞬間、爆炎の精霊の炎が一際大きく膨れあがる。
「くるぞっ!!」
『ポチ、タロ、ジロ、行け』
クロノさんの叫びと共に爆炎の精霊足下に居た3体の火炎蜥蜴が飛びかかってきた。
巨大な顎を開いて僕達を一飲みにしようとするように飛びかかってくる火炎蜥蜴。
それに対してテルさんが矢を連射し、グラスさんが幾つかの氷球を撃ち込む。それ等は炎の鱗に何本か突き刺さり、体表で爆発するが、動きを止める程だがダメージを与えているようには見えない。
結果、勢いの衰えない火炎蜥蜴の突進をクロノさんが受け止め、アンクルさんが受け流す。
「ちっ、この矢じゃダメかっ」
「こっちも初歩呪文じゃ効果が薄いようですね」
テルさんが吐き捨てるように言い、その隣のグラスさんも状況を分析する。
扉を開ける前に皆にかけた高位祝福と高位加速、高位霊護印と高位魔力活性は効果を維持してる。
それでもテルさんの矢も氷球も有効打にはなっていない。当たり前だけど『火喰い鳥』とは違うようだ。
「ならぶった斬ればいいだろぉっ!!」
2体の火炎蜥蜴を受け止めていたクロノさんが全身からあの真っ黒なオーラを吹き出しながら大剣を振るった。
流石に圧力に押されて火炎蜥蜴が吹き飛ばされる。
が、空中でくるりと体勢を整えた火炎蜥蜴は爆炎の精霊の手前で着地し、うなり声を上げて再び此方に突っ込んでくる。
今度は火炎蜥蜴の突撃に合わせてクロノさんもオーラを吹き出しながら突撃した。
「どっりゃぁぁっ!」
「グルゥゥルァァッ!!」
2体の火炎蜥蜴の炎とクロノさんのオーラが火花を散らしてぶつかり合う。
流石に2体相手は厳しいようだけど、要所でテルさんとグラスさんが牽制を撃ってサポートしている。
うぅ、僕も何かサポートしたいけど……でもまだ目に見えたダメージを受けている訳じゃない。
『防護印』位かけたいけど、どうやら『防護印』と『霊護印』って同時にかけられないみたいで上書きされちゃう。
物理攻撃を受けてるんだから『防護印』に切り替えるというのもアリかもしれないけど、『火口ダンジョン』自体の暑さで動きが鈍るし何時火炎攻撃に切り替えてくるかもわからない状態じゃおいそれと変更できない。
アンクルさんも1体の火炎蜥蜴を抑えてくれているけど、鱗が硬く、こっちも普通の生物じゃないっぽいからか関節部への攻撃が通らずに苦労してる。
うぅ……さっきは褒められて少しは役に立ったと思ったけど……やっぱり何もできないのが歯がゆい。今の僕にできる事って祝福とかの維持と、ダメージを受けた時に治癒する事位だ。
そして治癒しなくて良いならそれに越した事はない。
『ふむ、人間にしては少々やるようだな。タマ達だけでは時間がかかるか……どれ、儂が相手をしてやろう』
僕達を眺めて全く動かなかった爆炎の精霊が突然そう呟き、手に巨大な火の球を発生させる。
見た感じはホノカちゃんの『大爆火球』に匹敵する大きさだ。
そして無造作に、本当にゴミを捨てるように僕達の方へ投げ捨てた。
火炎蜥蜴を抑えてくれているクロノさんとアンクルさんは動けない。魔法アーツを唱えていたグラスさんが慌てて中途半端に魔法アーツを発動させる。
「大氷球っ!!」
ぶつかり合う巨大な火球と氷球。当然撃ち負けると同時に爆発が室内を覆う。
霊護印のお陰もあるのかある程度は相殺してくれたのか実ダメージを受けずに済んだ……けど、それでもグラスさんは苦い表情をしていた。
爆発は敵味方問わず全員を巻き込んで居たけど、同じ火属性だからか火炎蜥蜴達も元気に襲いかかってくる。
『ほう……何やら守りも固めているか……面白い』
そう言った爆炎の精霊の姿が火が消えるようにかき消えた。
と、次の瞬間クロノさんの目の前に炎を纏った大剣を振り上げる爆炎の精霊の姿が現れる。
「っちいっ」
振り下ろされる炎の大剣を迎え撃つクロノさんの大剣。
火炎蜥蜴とやっていた時以上の火花……火柱?が上がる。
『我が一撃を止めるか。面白い、ポチ、タロ、お前等は他を潰しておけ』
爆炎の精霊の言葉に即座に2体の火炎蜥蜴がクロノさんから離れ、僕達に向かって走り出して来た。
「っざっけんなっ! 俺は『狩人』っ! 後衛だっつーのっ!!」
悪態をつきながら矢を射るテルさん。確実に何本もの矢が突き刺さっているが、しかし2体の火炎蜥蜴を止める事ができない。
「ユウ様っ!」
「ユウちゃんっ!!」
クロノさんとアンクルさんが爆炎の精霊と火炎蜥蜴と戦いながらこちらを見て叫ぶ。
射程に捉えたのか火炎蜥蜴が飛び上がり、僕に向かって大きな口を開いた。
「氷壁っ!!」
突然僕の目の前に生み出される氷の壁。
止まる事ができずに思いっきりぶつかる火炎蜥蜴がうなり声を上げて吹き飛ばされた。
氷の壁の方はヒビすら入っていない。
「はぁ……間に合った。壁系魔法はAP消費の割にダメージは与えられないから不向きなんですけどねぇ」
そう言いつつもいつもの笑顔を浮かべるグラスさん。
「グラスよくやったっ!」
爆炎の精霊と切り結びながらクロノさんが喝采の声をあげる。
「そんなのは良いですからクロノ君はさっさと爆炎の精霊を退治してください」
「わーってるよっ!」
クロノさんの返事に頷いたグラスさんは、幾つかの氷球をアンクルさんの方に撃ち込んで火炎蜥蜴の足止めをし、アンクルさんを此方へ呼び戻した。
「爆炎の精霊をクロノ君が抑えてくれているとはいえ、火炎蜥蜴3体とバラバラに戦うのは得策ではありません」
合流したアンクルさんが前に立って3体の火炎蜥蜴を牽制する。
「ですからここは3対4で確実に火炎蜥蜴から倒してしまいましょう。前衛をアンクルさんお願いします。そのサポートをテルさんが、『治癒』等必要な回復をユウさんがお願いします。
その稼いでいただいた時間で、大魔法を発動します」
グラスさんがそう言って再びアーツ発動の詠唱を始めた。
「承ったっ!」
「やってやるぜっ!」
「はいっ!」
僕達の返事と共に火炎蜥蜴との第二ラウンドが始まった。




