第102話 閉会。
「ふぉっふぉっふぉ、我がクラン『トレーダーズ』は露店業を主とした活動をしている『露店組』ですからね。商人は法や倫理に反しない事で利益が出るのでしたら参加しますし、そうでないのなら手を引かせて頂きます」
最初に声を上げたのはゼニスさんだった。
ねばつくようなゼニスさんの視線が僕にまとわりつく。でもそれを振り払う事も出来ず、僕は震えた。
「ワシは反対じゃな。そんな必要なかろう」
それに対して声を上げたのはアイバさんだった。
「ほう! アイバ様は幼気な少女が危険に晒されるのを放置なさると」
驚いたような声を上げてジョニーさんがアイバさんを見つめる。
「そもそも誰かが扇動でもしない限りそんな事にならないのでは? いざとなればGMコールもありますし」
「ララ様。世の中明確な悪意だけではありません。そして見えない物から身を守るのは非常に難しい。それにご存じでしょう? 『セカンドアース』のGMコールは明確な証拠やログが無ければ動かないか、非常に対応が遅くなる。『疑わしきは罰せず』がまかり通っている。
だからこそ自分達で見えない悪意から身を守る為に『クラン会議』を開催させて頂いているのですから」
ララさんに語りかけるジョニーさん。
そういえば僕の事もマヤが何度かGMコールしてくれたっぽいけど何の連絡もないっぽいよなぁ……GMさんは助けてくれないのかな……。
「よくわからにゃいけど、あたしはもっとユウのご飯が食べたいにゃぁ」
マオちゃんがテーブルに手を投げ出して叫んだ。
「んな事ぁどうでもいい。俺ぁどっちでも良いしな。あいつにゃ少々恨みはあるがそりゃ別の話だ、守ってやるっつーのも旨味があるなら構わねぇ。が、最初にあいつがどうしたいか聞くべきだろ」
テルさんが僕を指さして言った。
皆の視線が僕に集まる。
僕がどうしたいか……どうしたら良いんだろう?
僕のせいで『銀の翼』や『白薔薇騎士団』の皆がいじめられたり、無視されたり、酷い目に遭うなんて絶対嫌だ。
でもアイバさんやララさんの言う通り考えすぎなのかもしれない。今までも大丈夫だったんだし、そんな事ないのかも……。でもジョニーさんの言う通りだったら、どうしよう……。
「ぼ、僕は……ボクは……ぁ」
「そんな誘いに乗る必要なんざないぜっ!!」
僕が口を開いたその時、突然物凄い勢いで扉が蹴破られて会議室内に大きな声が響いた。
「ぇ……ぁ?」
蹴破られた扉の前に立っていたのは黒色の全身鎧を着込んだ男性。いつもは被っているフルフェイス型の兜を今は外していて顔が見える。
彼は……
「クロノさんっ!」
「おうっ! ユウちゃんひさしぶりっ!」
笑顔で手を挙げるクロノさんはそのままずかずかと中に入ってきた。
「全く、此処は冒険者ギルドの施設ですよ。入るにしてももう少し静かに入りましょうよ」
クロノさんの影に居たもう1人の男性、グラスさんも嘆息しながらそれに続く。
「えっと……2人とも……どうして……?」
「そりゃユウちゃんのピンチと聞いたら当然駆けつけるでしょ?」
僕の隣まで歩いてきたクロノさんがニカっと笑った。
僕なんかの為に? 露店でホットドッグを買ってくれただけのクロノさんが? なんでそこまでしてくれるんだろう……??
でも……正直すごく嬉しかった。
「これはこれは、クランランキング第一位『悠久』リーダー『黒騎士』のクロノ様、そしてグラス様ではありませんか。本日は初の『クラン会議』出席、真にありがとうございます。……ですが、この会議は代表者一名のみという決まりなのですが……」
突然のクロノさんの登場に時間が止まっていた会議室内で、最初に再起動したのはジョニーさんだった。頭を下げながらもクロノさん達が2人である事に難色を示す。
って、クロノさん達がクランランキング一位だったの!?
そ、そりゃ『PVPトーナメント』でも優勝してたし、物凄く強かったけど、強かったし……納得……なのかな?
「本当は私が来ようと思ったんですが……クロノ君ではまともな会話は期待出来ませんし。でもクロノ君が止まらなくて、仕方なく付き添いという形で。初参加な事ですし大目に見てください」
「グラスてめぇ、なんか俺の事バカにしてないか!?」
「いいえ? 全然?」
笑顔で2人である理由を述べるグラスさんをクロノさんが睨んだ。けど、グラスさんの笑顔は一向に崩れない。
「まぁいい。……んで、外にも少し声が聞こえて来てたが、なんだ『クラン会議』ってのはよってたかってか弱い1人を虐める団体だったのか?」
会議室内を見渡してクロノさんが問う。
「いやぁ、誤解ですよ。今日ユウ様をお呼びしたのも、むしろユウ様をお守りする為ですから」
立ち上がり弁明をするジョニーさん。
「意味がわからん。ユウちゃんは『銀の翼』だろ。それにそこの『白薔薇騎士団』もユウちゃんの為のクランだって聞いてる。そんなの必要ないだろ」
サラサラさんとアンクルさんを見てクロノさんが首を傾げて言った。
「あ、あの、むしろ、僕のせいでその……クランの皆に迷惑がかかっちゃうからって」
「ユウちゃんのせいで迷惑? なんだそれ?」
僕を見つめるクロノさん。
「えっと……ぼ、僕が作った料理って僕の『固有スキル』のせいでAP回復効果が付いちゃうみたいで、それを妬む人が僕や、クランに迷惑をかけるかもって……だから、ジョニーさんが僕を守る為に、って……」
僕の説明を聞いて腕を組み、目を閉じてしばし考えるクロノさん。
「やっぱりわからないな。『固有スキル』なんて此処にいる大抵の奴が持ってるだろ。んで、皆ソレは自分の為やクランの為に使ってる。んなの当たり前の事だ。それを妬む方がおかしい」
そう言ってクロノさんは僕の頭に手を乗せて、ぐしゃぐしゃっと物凄い勢いでかき回した。
「って、わっ、え!? ひゃっ、やっ、ぱっ、ひぃんっ!?」
目、目がまわるよっ!? 何? なんで!? 何されてるのっ!?
頭がくわんくわんした辺りでやっとクロノさんが手を止めてくれた。
「それにユウちゃん?」
「は、はひぃ……」
まだ少しふらふらする。
「ユウちゃんはもう少し仲間を、『銀の翼』や『白薔薇騎士団』を信じるべきだ。例え何があろうとも誰もユウちゃんのせいだなんて思わない。力を合わせてどんな脅威だろうがはね除ける。
でも、その為にはユウちゃん自身が自分のせいなんて思わず、皆を信じなきゃダメなんだ」
僕の頭に乗せられたままの手で乱れた髪を直すように撫でてながら、クロノさんは優しく微笑んだ。
その言葉を聞いて、サラサラさんとアンクルさんに視線を移す。
「勿論よ」
「我等白薔薇騎士団はユウ様を哀しませる事などありえません」
頷きながらそう言うサラサラさんとアンクルさんを見ていて、僕はもう我慢が出来ず涙が溢れてしまった。
「あ、ありがとう……ご、ごめんなさぃ……」
「あらあら、謝らなくても良いのよ」
泣き出した僕をあやすようにハンカチを取り出して拭いてくれるサラサラさん。
でも、すぐに止められそうになかった。
「まぁ、信じて欲しいのは『銀の翼』と『白薔薇騎士団』だけじゃないけどな」
「ふぇ……?」
クロノさんの声に僕は涙目のまま、彼を見上げた。
「今日、この時を以てクランランキング第一位『悠久』も『白き薔薇の巫女姫』のユウの守護を宣言しよう! 勿論対価は必要ない。巫女姫が望む時、可能な限りその力を貸す事を誓う! 良いな、グラス!!」
「ダメって言ってもそうするんでしょう? 構いませんよ」
やれやれ、と肩を竦めるグラスさん。でも顔は笑顔のままだった。
「ぷっはっはっは! 成る程、突然現れて黒騎士の小僧が言いよるわい。仲間の為と来ていた『クラン会議』じゃったが最後に面白い物が見れたのう。良かろう、クランランキング第三位『露天会』も『鉄火の剣』のアイバの名の下、同じ条件で守護を宣言しよう」
「ならクランランキング第四位『白金の匙』も『三つ星』のララの名の下に守護を宣言しましょう。」
「何にゃ!? カッコイイにゃ!? よくわからにゃいけどクランランキング第五位『まおまお』も『魔王』まお様のにゃのもとに宣言するにゃ!」
爆笑してるアイバさんと微笑んでるララさん、ぶんぶん手を上げてるマオちゃんがクロノさんに続く。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!? そ、そんな事を言っても、AP回復アイテムの独占なんてどうやっても皆の嫉妬は免れませんよっ!? た、確かにそれだけのクランが集まれば大きな力かもしれませんが、多くのプレイヤーの悪意に……」
慌てたように声を上げるジョニーさんにグラスさんが手を挙げて押し留める。
「その件についてですが……ユウさん、1つ提案があるんですが良いでしょうか?」
「え? あ、うん」
「確かにAP回復アイテムは私達『攻略組』にとっても垂涎のアイテムです。独占という悪い噂が出る可能性も確かにあります。ですから、無理のない可能な範囲で構いません。ユウさんの料理を、『冒険者ギルド』で販売しませんか?」
「え……?」
「正直ユウさんが直接露店販売をする事は賛成出来ません。『転職祭』の時のような事になると思います。かといって何処かのクランに委託するというのも、それを何処にするか、どのようにするかで必ず軋轢が生まれます。しかしNPCなら問題ありませんし、『冒険者ギルド』に逆らうプレイヤーも居ないでしょう」
「えっと……」
良いのかな? でも、冒険者ギルドってそんな事までしてくれるの?
「あぁ、勿論さっき1階に居た受付嬢のソニアさんに確認しましたが快諾頂けましたよ。勿論手数料は必要だそうですが。むしろ冒険者ギルドからお願いしたい位だという話です」
「ソニアさんが……えっと……じゃあ……その、お願いし……ます?」
「ありがとうございます。細かい事に付いては後日改めて相談という事で。……さて、これでジョニー氏の不安はほぼ解消されたと言って良いのではないかと?」
笑顔でジョニーさんに問いかけるグラスさん。ジョニーさんの顔面が白くなっていた。
「あ、いや、あ……ぜ、ゼニス様、テル様、あなた方でしたらご理解頂けるでしょうっ! そ、そうです、テル様はユウ様に何やら恨みがあると仰ってらしたではないですかっ!」
「ふぉっふぉっふぉ、そういう事でしたら我等クランランキング第六位『トレーダーズ』は明確にジョニー氏と袂を分かち、『冒険者ギルド』とユウ様と懇意にしたいですなぁ。私『大富豪』ゼニスの名の下に我等も商人としてユウ様を守護致しましょう」
「俺はそいつに個人的な恨みもあるが、そりゃ別問題だ。クランリーダーとして旨味も面白味もねぇ事をするつもりなんざねぇよ」
ゼニスさんがお腹を揺らし、テルさんが面白くなさげに呟いた。
「なっ、なっ、なんなんですかっ! 突然来て、こんなっ、こんなっ!?」
顔面蒼白で頭をかきむしり爪を噛みながらガタガタ震えていたジョニーさんが悲鳴のような声を上げた。
「知らねーよ。『クラン会議』なんつーもんに興味も無い。ただユウちゃんを助けに来ただけだ」
「貴方は権力に溺れすぎましたね。ジョニー氏自身が今までやっていた事でしょう? 地位と権力と数の暴力、確かにそれはリアルでもセカンドアースでも大きな力です。でも力はより大きな力でねじ伏せられる。それだけの事ですよ。
今日で『クラン会議』も、そして恐らく『新羅万将』もおしまいです」
クロノさんとグラスさんの言葉にジョニーさんがよろめき、足を滑らして地面に座り込んでしまった。
「いひっ、一位のっ、夢がっ、あひっひっ……」
「んじゃ、もう終わりだろうし、帰ろうぜ、ユウちゃん」
「あ、う、うん……」
僕の手をとるクロノさんに引かれて会議室を出る。
サラサラさんやアンクルさん、他の皆さんもそれに続く。
ジョニーさん……大丈夫かな? 転けた時怪我とかしてないと良いけど……
その時、後ろで人の声とも思えない悲鳴のような高笑いが聞こえた気がした。
ウィリーの名前をジョニー・ジョーカーに変更。




