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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第五章 クランの争乱
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第101話 悪魔の囁き。

「俄に信じられねぇが……現物が目の前にあった訳だし、AP使い放題なんつーのを独占してるってのはとんでもねぇ話だな」

「ふぉっふぉ。確かにプレイヤーにとってAPはゲーム攻略の生命線であり、その回復は常に頭を痛める問題点。それを解消するアイテムを独占出来れば信じられない富を手に入れられますなぁ」


 テルさんとゼニスさんの品定めするような無遠慮な視線が僕に注がれる。その視線に悪寒が走り、僕は無意識に身を縮こませて俯いた。

 正直すごく怖い。今すぐここから逃げ出したい。でも、逃げちゃダメなのもわかってる。


 と、突然隣に座るサラサラさんが僕の肩に手を置いてさすってくれた。

 手の置かれた場所からサラサラさんの温もりが僕に伝わる。

 僕は大きく息を吐いて整えて、前を見た。


「ぼっ、僕は、そんな事してないですっ!」


「もし仮に『独占』と言っても特定のフィールドを占拠した訳でも、皆が入手出来るアイテムを囲って他のプレイヤーが入手出来なくした訳でもないのでは? そんな事をしていて今まで知られなかった方が不自然です」

 ララさんが手を挙げて声を上げた。

「そうじゃの。『クラン会議』とやらで決めた『独占の禁止』とは少々意味合いが異なるんじゃないか?」

 アイバさんも又それに続いてくれる。


 驚いて2人を見つめると、それに気付いたララさんは僕に微笑みかけてくれて、アイバさんはそっぽを向かれてしまった。

 けど、2人とも助けてくれたようで嬉しかった。


「さて、しかし『司祭(プリースト)』の……いや『転職祭』前は『侍祭(アコライト)』でしたか、のユウ様が果たしてそのような『だれも到達しえない場所』に行けたというのは自然でしょうか? むしろ『誰でも行ける場所を何かしらの手段で封鎖し独占していた』と考える方が可能性は高いでしょう」


 しかしジョニーさんは何事もなかったように話を続ける。

「悪魔の証明ですな。ユウ様は独占等という下らぬ事も、そのような下らぬ嘘を言う事もありえません。ユウ様の仰る事は事実です」

 そして普段のアンクルさんを知ってる僕としては信じられない程冷たい声で、アンクルさんはジョニーさんを睨みながら言い放った。


 ……その、擁護してくれるのは嬉しいけど、アンクルさん少し怖いよ!?

 それに、勿論そんな事してないけど、僕は結構くだらない事を言うような人だと思うんだけどなぁ……今の空気的にそれは言えないけども。


「ではこのパンケーキ……『魔皇女の雫(まこうじょのしずく)』にゃったか? はどうにゃって手に入れたのにゃ?」

 まだ物欲しげに皿を見つめているマオちゃんが僕を見て尋ねた。

 その目はテルさんやゼニスさんのような品定めというより、見慣れたタニアちゃんやノワールさんがする「もっとない? もっと食べたい!」の視線で、少しほっこりする。


「あ、えっと……それは、その……固有スキルで……」

「ほうっ! 『固有スキル』! アイテムを生み出す固有スキルがあるとっ!」

 パンと手を叩いて大きな声をあげるジョニーさん。


「ふぉっふぉっふぉ、スキルですか。成る程成る程……ちょっと失礼……ほほぅ……これは面白い……コレですか……『身体から分泌される全ての液体は至福の美味となる』。つまり『魔皇女の雫(まこうじょのしずく)』の正体はユウ嬢の体液という訳ですなぁ」


 嫌らしい笑みを浮かべて僕を見つめるゼニスさんの表情に今まで感じた事のない嫌悪感と恐怖が突き抜けた。それはさっきの視線の比じゃなく、生理的に無理な感じで泣きそうになる。


「ゼニス、相手の了承なく他者、特にプレイヤーに『鑑定』スキルを使うのはマナー違反であろう」

「更にそれを公言するのもノーマナーですよ」

 目に見えて嫌悪感を露わにするアイバさんとララさん。


「これは失礼。ふぉっふぉ、ユウ嬢、申し訳ありません」

「い……いえ……」

 お腹を揺らしながら頭を下げるゼニスさん。でも表情が変わってないし僕としてはそう応えるのが精一杯だ。


「って待てよっ! つー事は何か? 俺等はこいつの唾とか食わせられたのかよ!?」

「ち、違うよっ! そんな事してないよっ!? ただ、普通に料理したら、どうしても入っちゃうから仕方ないみたいで……」


 テルさんの上げた声に慌てて弁明する僕。

 言いながら、でも恐らくだけど汗が混入してしまっているのは間違いないし、ただでさえ『男が作った料理』なのに『その中に確実に男の汗が入ってる』なんて結局同じような物だろうか……?

 ただの罰ゲームメニューにしか聞こえない。


「なら問題ないわね。私のクラン『白金の匙』に所属する『料理人(シェフ)』達も普通に素手で料理してるし」

「美味しいなら問題にゃーね」

「ユウ様の手料理は最高ですよ」

「マジかよお前ら」


 信じられねぇ、と言った表情で頭を振るテルさん。

「おや、テル様は潔癖症か何かで?」

 首を傾げて問うジョニーさん。


「んなんじゃねーけどよ。気分の問題だろ」

「あんな可愛いユウ様の手作りでしたら唾液が入っていても良いのでは?」

「そりゃ……いや、やっぱねーだろっ!?」


 慌てて手を振って否定したテルさんが僕を睨み付けてきた。何で!?

 僕だって男の唾液の入った料理なんて作るのも食べるのもお断りだよっ!?




「さて、マナー違反とはいえ、ゼニス様のお陰でユウ様が特定の狩り場やドロップアイテムを独占していないという事は確認されたようですね。私の要らぬ誤解の為、皆様をお騒がせして申し訳ありませんでした」


 大袈裟に頭を下げるジョニーさん。


「しかしっ! その結果別の問題が発生しますね。……ああ、そう言ってもこれはユウ様に何か非がある、と言った類ではありませんのでご安心ください」

 笑顔で僕に手を振るジョニーさん。これまでの流れ的に全然安心出来ないんだけど……。

 でも問題って何だろう?


「問題とは?」

 全く警戒を解いていないアンクルさんがジョニーさんに問う。

「ええ。それは『今後ユウ様がどうされるか』についてです」


 ジョニーさんがそう言った瞬間、何故か会議室内に緊張が走ったように感じた。

 今後の僕って何の事だろう?


「確かユウ様は現在クラン『銀の翼』に『仮加入状態』でございますね?」

「う、うん」

「クランの『仮加入状態』とはお試し期間、いつでも加入も脱退も可能な状態です。つまりその状態であれば他のクランからの勧誘、引き抜きも許される期間とされております」

「うん……」

「そしてユウ様、貴女は自覚が薄いかもしれませんが、その固有スキル群は私含め、此処にいる8つのクランは勿論、恐らく全てのクランが喉から手が出る程欲しい力でしょう。『APが無限に使える事』は『最強』にすらなれるでしょう」

「……」

「そしてその力は今日、私の勘違い(・・・)で会議にお呼びした事より周知の元に晒されてしまいました。申し訳ありません。結果、今日この時から、貴女は多くの……全てのクランから加入の勧誘を、それは様々な手段でされる可能性があるのです。」


 大袈裟肩を落とし、芝居がかった動きでジョニーさんは天を仰いだ。


「ならば黙っていて頂けば良いのでは?」

 ジョニーさんのお芝居を冷めた目で見ていたアンクルさんが口を開く。


「残念ながら、この夜会に守秘義務はございません。隠し事をする場ではないからです。……それに全てのクランがユウ様を求める、と言いましたがそれは此処にいる皆様も同じでございます。この中の誰かがユウ様を得られれば、そのアドバンテージは大きいでしょう。そうした間柄で『黙っている』と信じられますかな?」


 誰ともなしにお互いがお互いを見回し、疑惑、疑念、疑心、疑問、そうした視線が交錯する。


「むしろ、今此処にいる上位クランこそ、ユウ様獲得の最大のライバルと言っても過言ではないでしょうか?」

「そのような事にはなりませんわ」


 声を上げたのは僕の隣の女性、サラサラさんだった。

「ほう、理由を伺っても?」

「今日、今この場でも構いません。ユウ君は私達のクラン『銀の翼』に正式加入致します」


 会議室の全員を見渡してサラサラさんははっきりとそう宣言した。


「おや、『銀の翼』は新規加入について既存メンバー全員の了承が必要、と記憶しておりましたが」

「問題ありません。仮加入として長い時間、ユウ君と苦楽を共にしてきている現メンバーに反対者などおりませんから」

 ジョニーさんの問いに当たり前のように答えるサラサラさん。


 ……ホノカちゃんはダメって言いそうだけど……勝手に決めちゃって良いんだろうか?


「なるほど。確かにそれでしたら正式な形でユウ様を勧誘する事は出来なくなりますね。だが、少々タイミングが悪いとも言えます」

「どういう意味で?」


「情報が公になったタイミングでのクラン加入。それは知らぬ人から見れば『銀の翼はAP回復アイテムを独占する為に動いた』なんて嫉妬をする人は多いでしょう。

 そしてその者達がテラン王国法やゲームシステムに抵触しない範囲で、ユウ様だけでなく『銀の翼』自体にまで誹謗中傷、また嫌がらせを行ってもおかしくないですよねぇ?」


 僕のせいで『銀の翼』まで嫌がらせを受けるっ!?

 な、なんだよそれ……そんなの、ダメに決まってるじゃないかっ!


「関係ありません。ユウ君は私達の仲間ですから」

「ええ、貴女方はそうでしょう。でも、ユウ君は違うようですよ?」


 振り向き僕を見つめるサラサラさんが見える。

 でも僕はそれに反応出来なかった。指先まで冷たくなってるのが分かる。皆がひどい事されるなんて絶対嫌だ。それも、それも僕のせいだなんて、そんな、そんなの……。


「ユウ様、落ち着いてください。貴女の事も、そして『銀の翼』の皆さんも我等白薔薇騎士団が……」

「守れる、と本当に思いますか? どうやって? 嫉妬に満ちた一般大衆を? PVP(プレイヤーバトル)でねじ伏せますか? それこそ思う壷でしょう」


 そんな事をしたらアンクルさんまで……白薔薇騎士団の皆まで酷い事をされる?

 いやだ。そんなの、どうしたら……どうしたら……。


「遅かれ早かれユウ様の力が知られていたとしても、今回のそもそも発端は私ジョニー・ジョーカーの失態でございます。そこで提案がございます。

 『クラン会議』全員でユウ様をお守りする。というのはどうでしょうか?

 嫉妬の抑制の為にユウ様にいくらか料理を供出して頂く必要があるかもしれませんが……勿論ユウ様には相応の謝礼を支払わせて頂きます」


 一端言葉を句切り、ジョニーさんが一同を見渡す。


「僭越ながら『クラン会議』いや、我等クランランキング8位内の発言力を持ってすれば、一般プレイヤーへの抑止力になると自負しております。又、ユウ様に供出して頂いた料理を優先的に回す事で『クラン会議』内での対立も防ぐ事が出来るでしょう。

 そして『銀の翼』はその庇護下において無意味な誹謗中傷を受ける事もなく、ユウ様は謝礼を受け取る事が出来る。

 皆で幸せになれるお手伝いを私にさせて頂きたい」


 ジョニーさんはそう提案して、深く頭を下げた。







ウィリーの名前をジョニー・ジョーカーに変更。

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