第9話 初めてのクエストと初めてのPvP。
掲示板の前は常に割と人が居るっぽい。
と言っても自分のレベル帯の目当てのクエストを選んでカウンターに持っていくだけだから人の入れ替わりも早く、すぐ掲示板の一番前までやってこれた。
やって来れたんだけど……ちょっと掲示板の位置が高くて見づらいな。
しかし高校生男子として「足置き台ください」と言う訳にはいかない。大丈夫、背伸びすればなんとか……視力良く産んでくれてありがとう、お母さん。
あれ? アバターの視力は関係ないのかな?
まぁともかく掲示板の前に無駄に長居するのは良くない。背伸び状態で足もぷるぷるしてしまう。
といっても探すまでもなく、僕が受ける事が出来る依頼は一件だけだった。
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<クエスト> 「ゼリースライム討伐」 必要レベル:1以上
・受注条件:なし
・達成期限:なし
・依頼内容:王都南門の平原付近に生息するゼリースライムの討伐。
・依頼報酬:一体毎に1Eと経験値1点
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お約束のスライム退治らしい。レベル1の討伐クエストでスライムという事はこの世界のスライムは物理攻撃が有効なんだろう、きっと。
しかし最も低レベルなクエストとはいえ一体1E……僕がマヤにしてる借金って80万E位じゃなかったっけ……80万体倒さないと完済出来ないのか……?
大丈夫か僕? 何か知らないうちに危険な闇金融に足を踏み入れてるんじゃないだろうか?
いやいやマヤは僕の幼馴染み、そんなひどい事をするような奴じゃ……
と、僕の視線に気付いたのかマヤが僕を見てにっこりと笑う。
うん、平気でひどい事をする奴だった。これは早い所何とかしないと身の危険があるかもしれない。
レベルが上がれば受けられるクエストのレベルも上がって報酬も増える、まずはこのスライム討伐を……
と、掲載されているクエストの横にある整理券札を取ろうと手を伸ばす……んだけど微妙に届かない。
見えてるのに届かない絶妙な位置……仕方ない、ここはジャンプして一気に――
「とうっ!! うわぁあっ!?」
華麗なジャンプをした瞬間身体が浮き上がったような錯覚を覚えてバランスを崩す。
けどそのまま落ちるような事はない。
誰かが支えてくれてたっぽい?
「危ないですよお嬢さん、ゲーム内とはいえ貴女の美しい肌が怪我でもしたら大変です」
目の前に金髪碧眼イケメン顔があった。
僕を抱きかかえているようだ。というか僕がジャンプした瞬間こいつが抱きかかえて来たからバランスを崩したんじゃないだろうか?
でも、まぁ一応……
「あ、ありがと、でも僕は――」
「おお、声も麗しい! 美しい鈴のような声、まるで天使の歌声のようだ。それで居て僕っ子というのも又ポイントが高い!! そのアンバランスが奇蹟を生み出している!!」
いや、天使じゃなくてスキル的には『妖精女王の囁き』だよ。そもそも男の僕が男に「声が綺麗」とか言われても嬉しくもなんともない。
そして人の話を聞け!! どうやらこいつは残念イケメンらしい。
「どうでも良いから下ろしてく――」
「おっと、申し遅れた。私は薔薇の騎士、アンクル・ウォルター! アンクルと呼んでくれて構いませんよ。ここで出会えたのも何かの縁、姫は初心者のようだし私と一緒に狩りに行きましょう!!」
歯をキラリと輝かせて残念イケメンが僕の手をとる。
誰が姫だ、誰が! 人の話も聞かない残念イケメンと一緒に行く訳ないだろ!!
「だから、そもそも僕はおと――」
とりあえずまず性別の誤解を解こうと思ったら物凄い横Gに引っ張られて目が回る。
「そこまでよ変態騎士!! ユウは私とパーティを組む事が決まってるんだからアンタなんかの出る幕はないわ!! 大人しくホームに帰る事ね」
マヤにひっぱり出されたらしい。助かったけどもうちょっと優しくして欲しかった。せめて一声欲しかった。
そしてそのまま後ろから抱きしめられる形になってしまった。残念イケメンに抱きかかえられるよりかはマシだけど金属鎧に抱きかかえられるのも有難味がないなぁ……。
「貴公では姫を守るのに役者不足だろう。先程も姫が苦心している様を放置していたではないか」
「あれは手が届かないのに無理して背伸びしてるユウの可愛い所を撮影していただけよ!」
「ふむ、確かにそれは認めるが、確かに可愛かった。背伸びする度に揺れる銀髪と純白のローブが可愛らしさを倍増していた!!」
「そう! 大きめのローブだから殆ど肌が見えないのに背伸びをする事でチラリと見える手首と足首!! それに気付かず必死な表情で手を伸ばすユウの姿! そりゃ撮るでしょ?!」
あれ? なんだか変態が2人に増えてる気がするのは気のせいだろうか?
いや、マヤは昔から僕の変な姿を撮影してはからかうネタにする事が多々あったしコレも嫌がらせの一環か……くそう、スクリーンショット撮影機能なんて僕にはないのに。
いがみ合っている2人の間に居るのは気分が宜しくないので抜け出して他人の振りをする。僕の事はおいてけぼりで白熱しているっぽい。
「――――どうやら姫を守る為には貴公としっかり決着を付けねばならぬようだな!!」
「あら、同意見ね。私もユウに群がる変態は排除しなきゃいけないと思ってたの」
それにしても2人ともなんでこんな殺気立ってるんだ?
にらみ合っていた2人が同時に剣を引き抜く。
ってここは冒険者ギルド内、公共の場だってのに何してるの2人とも!?
「「我が剣に賭けて誓う!! この戦いに信念を賭けると!! その結末を勝敗に委ねると!!」」
「ユウちゃん、危ないから離れてようね?」
いつの間に来ていたのか僕の後ろに来ていたソニアさんに手を引かれた。さっきまで『ユウさん』だったのに……カウンターから出るとランクダウンしちゃうんだろうか……。
と、ちょっと落ち込んでると、お馴染みメッセージ音が流れた。
・『マヤ』と『アンクル・ウォルター』のPvPを開始します。部外者のフィールド内への立ち入りは出来なくなりますのでご注意ください。
あぁPvPだったのか。なら大事になる事もないだろうし安心なのかな?
まわりの観客も楽しそうに見てるし、僕も観戦しよっかな。ちゃんとした戦闘を見るのって初めてだし。
「「いざ参らん!! PvP!!」」
半径10mの円形のフィールドが形成されてその中でマヤと残念イケメンが刃を交えた。
マヤは全身鎧に盾とブロードソードを持った守備型戦士だけど残念イケメンは軽装で片手剣のみを持った剣士スタイルっぽい。
物凄い早さで残念イケメンの剣撃がマヤを襲い、それをマヤが盾で弾く。
僕から見ても残念イケメンの剣速はマヤより圧倒的に速かった。手数で押すタイプなのかな?
「我が愛剣フランベルジュの前には愚鈍な鎧など紙切れ同然だ。己の鈍さを呪うが良い!!」
「そんなナマクラじゃ私の鎧は貫けないわ……よっ! 『強撃』!!」
マヤの攻撃は寸での所で躱されてしまう。
どうやら戦いは残念イケメンの攻撃をマヤが耐え、マヤの一撃必殺を残念イケメンが躱す、という構図になってるらしい。
ゲームとはいえ女の子が傷だらけになっていくのは見てて楽しいものじゃないなぁ……。かといって終わるまでは中に入れないし。
あ、そうだ。
「ねぇ、ソニアさん、いくつか聞きたい事があったんだけど……」
「はい? なんでしょう?」
後ろから抱きかかえるように僕を覗き込んでくるソニアさん。頭に当たってる、当たってるけど良いの!?
「こ、この討伐くえしゅとなんだけど、な、何匹倒したとかどうやって証明しゅるんだろ?」
後頭部に当たる柔らかい感触に動揺してしまったけどソニアさんは気にする素振りもなく答えてくれた。
「それなら冒険者登録した際に自動カウントされるように処理されてますから大丈夫ですよ」
なるほど、便利だ。
「あ、でもゼリースライムはゼラチンゼリーって素材を落とすからそれを集めて売ればクエスト以外にお金にもなるからちゃんと集めておいた方が良いわね。」
「それも聞きたかったんだ。えっと…掲示板に貼られてたクエストには素材収集やアイテム探索みたいな物は無かったっぽいけど、そういうクエストは無い……んでしょうか?」
「ふふ、無理に敬語で話さなくても良いのよ。」
無理してるのバレた。恥ずかしい……後頭部の柔らかい感触も相まって顔が熱くなる。
「はっはっは! 愚鈍な剣が我が身に届く訳があるまい!!」
「アンタの軽い剣も私の身体に届いてないけど…ねっ!!」
お互いの攻撃を止め、躱し、突き、振るう。その度に歓声が上がる。
2人と観戦してる人達は何やら盛り上がってるなぁ……。
「そうね、素材収集は生産者ギルドが、アイテム探索なんかは商人ギルドがクエストを発行してるから管轄が違うのよ」
「へー……他にもギルドがあるんだ」
「そう、クエストの受注自体は全部冒険者登録で賄えるから問題ないけどね。ちなみに通りを隔てて冒険者ギルドの向いの建物が生産者ギルド、はす向かいの建物が商人ギルドの窓口になっているから、
冒険者は1つのクエストが終わったら順番に回ったりする事が多いわね」
そうやってアイテムを換金するのか。ならスライムを80万体倒さなくても良いって事だな。
「と言っても生産者ギルドや商人ギルドのクエストの多くは必要なアイテムが揃った時点で終了、ってタイプが殆どだから前もって受注するんじゃなくて、アイテムを持っていった時点で受注、達成って処理しちゃうのが殆どだけどね」
「普通の買取がクエストという形式をとってるだけなんだね」
「そう、よくできました」
と言ってソニアさんが頭を撫でてくれる。
高校生男子の頭はそんな風に撫でるものじゃないと思うけど、大人のお姉さんに頭を撫でられるのは素直に気持ちいいからアリだ!!
「あ、でももしユウちゃんが鍛冶や練金をしたかったり、正式に露店商をしたかったりする場合は個別にそれぞれのギルドにちゃんと登録や使用料の支払いが必要だから、それは注意してね?
もし黙ってやっちゃうと衛兵に捕まっちゃうわよ?」
「はひ、きをつけます」
どんな世界でもお金の話はシビアで恐ろしい。気をつけよう……。
でも、という事はコテツさんは生産者ギルド、商人ギルド両方に加入してるって事なのかな? 今度話を聞いてみたいな。
キンッッ!!
――おおおおおおおっっっ!!!
と、ソニアさんとの話に夢中になっていたら観衆の声で目の前の戦いに引き戻された。
マヤが苦しげに残念イケメンを睨んでいる。
見るとマヤの持つブロードソードが半ばからポッキリ折れてしまっていた。耐久力を超えてしまったんだろうか? でも残念イケメンって攻撃は全部躱してたような?
「奥義『武器破壊』……勝負ありましたね。降参しますか?」
どうやら残念イケメンの剣術アーツらしい。
しかしマヤでも負けちゃうのかぁ……ゲームの世界は奥が深いなぁ……
「冗談、死んでもお断り!!」
思いっきり舌を出して悪態をつくマヤ。うん、彼女はそういう奴だった。
「では私と姫の明日の為に死になさいっ!! 奥義! 『音速突』っ!!」
「ユウとの明日は私が守る!! 必殺! 『盾強撃』っ!!」
今までで最速の突きを繰り出した残念イケメンに対して、折れた剣を捨て盾で突進するマヤ。
2人の剣術アーツが真正面からぶつかり合いエフェクトの光が重なって一瞬眩むような輝きを放つ。
しかしこの両者の勝敗は火を見るよりも明らかだった。
軽装剣士である残念イケメンが正面からマヤの攻撃を受ければ無事で済む訳がない。突きを盾に弾かれ、そのまま盾に轢き飛ばされる残念イケメン。
吹き飛ばされ壁に激突した時点でアナウンスが流れた。
・『マヤ』WIN。PvPフィールドを解除します。
会心の笑顔でマヤが僕に向かってVサインをしていた。




