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病弱な幼馴染をなんとかする斜め上の方法?〜ニャンチュール・ポポロの事件簿〜

掲載日:2026/05/05

 吾輩は猫である。名前はニャンチュール・ポポロ。自分でつけたった。

 前世はにっぽんこくで社畜をしていた。


 はたらけどーはたらけどー、給料は上がんねーし、AIに仕事取られるし、物価はどんどん上がるし、夏は暑いし、冬は寒いし、年金はもらえるかわかんねーし、世知辛い世の中でした。


「あっ、猫ちゃん、危ない」


 道路の真ん中で震えている白玉団子みたいな猫を、咄嗟に助けに行ったらトラックドーンで異世界です。


 そして、なぜか黒猫になっていた。


「チュールルをください」

「異世界の人たちの悩みを解決したら、ひとつチュールルをあげよう」


 なーんて異世界の神様に言われたから、ニャンチュール・ポポロになって灰色の肉球をピクピクさせておる。


 神様が、異世界人と我をエンカウントさせてくるんですな。我はゴロゴロニャンごろしているだけで、異世界人はベラベラしゃべりおる。


「あら、こんなところに扉が。なにかしら。秘密の花園みたいだわ」


 ほら、早速年若い令嬢が、我が惰眠をむさぼっている花園に迷い込んできた。


 異世界の少女って、映画スターみたいにかわいい。髪と目の色がファンタジーなのもよき。ラブリーなドレスもポイント高し。


 この子はオレンジ色の髪に緑色の瞳。かわええ。


「黒猫さん、触ってもいいですか?」

『ニャーごろ。(触ってよし。ただしゆっくりだぞ。お、いいねいいね。なかなかよい手つき)』


「黒猫さん、聞いてくれる? あたしの婚約者、病弱な幼馴染のことばっかり優先するの」

『んにゃ(あー、それよくあるやつ。あかんやつや。もうやめとけ)』


「あたしとのデートになると、幼馴染が病気になるの。それで、彼はその子のお見舞いに行っちゃうの」

『んなごろがっ(あるあるやがな。それはもう狙われてまっせー)』


「あたしとその子、どっちが大事なのって聞きたいけど、聞けない」

『んにゃうん(それが正解。男に二択の質問したらあっかーん)』


「ねえ、どうしたらいいかな。今度の夜会、すっぽかされたら、あたし、あたし。社交界で笑いものになっちゃう」

『ニャニャニャ(婚約解消したらええやろがい。男は他にもよーけおる)』


「あたし、彼のことが大好きで。他の女の子に優しい顔してるの見ると、胸が張り裂けそうになるの」

『フシャー(かわいそう)』


「黒猫さん、どうしたらいいと思う?」

『ニャッニャッニャッ、チュールル(思いついた。我に任せよ。チュールルまでもうすぐよ)』


 我はオレンジちゃんの膝から降り、扉に向かって歩く。振り返ったらオレンジちゃんがぼけらーっとしてるので、『んにゃぶ(ぼけっとすんな。はよこい)』と催促したら、察したのか小走りでついてくる。


 神の力をちょびっともらっている我は、行きたいところにすぐ行ける。我とオレンジちゃんは、ややさびれた屋敷の庭にある木の枝に着いた。オレンジちゃんは動揺しまくっているが、我が手をペロペロしてあげると少しずつ落ち着く。


 木からよく見える部屋に乾いた咳が絶え間なく響く。ふたりの男女。


 ほほー、おるおる。ほっそりして男の庇護欲をそそる系。典型的な相談女。男って相談女に弱いんだよね。どこの世界も一緒だのー。


 相談女の背中をさすっている男は、優しい目をしている。押しに弱そうな雰囲気。

 ほーかほーか、この男が好きなんか。まあ、好みは人それぞれ。オレンジちゃんがこの男がいいなら、応援してやらねばなるまい。


 オレンジちゃんが我のしっぽをギュッとつかむ。不愉快だけど、仕方ないから我慢。


「いつもごめんね」

「いいんだ。幼馴染じゃないか」

「あの人に怒られない?」


 男は気まずそうに目を伏せる。女の目には勝ち誇ったような表情が浮かんだ。


 やはりなー、狙っておるのー。うむ、ではここで一手。


『ニャー(癒しー)』


 女はピカーっと光った。体の中から毒素が抜けていくのが見える。


「な、今の光は」

「分からない。急に体が楽になって、奇跡かしら」

「誰か、誰か、医者を呼んでくれー」


 大騒ぎの部屋を、我とオレンジちゃんはじっと観察した。


 さて、夜会である。

 我はオレンジちゃんのドレスの中に入っている。オレンジちゃんに踏まれないよう、ひょいひょいと歩く。


 オレンジちゃんが我だけに聞こえる声でつぶやいた。


「彼が来てくれたのはよかったけど」

『んぬ(いやー、ビックリよ)』


「お邪魔しちゃってごめんなさい。元気になって初めての夜会だから、ひとりじゃ心細くって」

「病み上がりだから、気をつけるんだよ」


 男と相談女がイチャイチャしておる。オレンジちゃんの顔はどんどんくもっていく。


『んぐにゃ(ぐぬぬ)』


 儚い系美少女の相談女は、色んな人の視線を集めておる。ぐぬぬ。こんなはずではなかったのに。


 王子が開会の挨拶を始めた。なかなかキラキラした青年だ。うむ、よきかな。


「皆、春の訪れを寿ぐ夜会によく来てくれた。我が国にこうして穏やかな春が訪れるようになったのは、かつて勇者が凍てつく氷の魔王を倒してくれたからだ」


 王子の合図で、従者たちが台車を運んできた。台車の上には、古びた剣が刺さった大きな岩。


 あらー、アーサー王の聖剣エクスカリバーみたい。


 王子が剣を全力で引っ張る。剣はびくともしない。


 王子は爽やかな笑顔を向けた。


「氷の魔王が復活するとき、聖剣は勇者を呼ぶ。勇者だけが聖剣を抜けると聞く」


『ニャッニャッニャッ、チュールル(思いついた。我に任せよ。チュールルまでもうすぐよ)』


 ピカーと聖剣を光らせる。聖剣から放たれた光はまっすぐに相談女へ。


 会場中がざわめき、周囲の人がさっと三人から離れた。


「なんと、もしやこれは。ご令嬢、この聖剣を試しに引っ張ってくれぬか」


 王子に命じられ、相談女は真っ青になった。王子に言われて断れる人はいない。相談女はフルフル震えながら岩に近づき、そっと聖剣を持った。


 ペカーと光った聖剣はすんなりと抜け、相談女は腰を抜かす。


「勇者だ。このご令嬢は、勇者である。皆の者、跪け」


 全員が跪く。オレンジちゃんと婚約者も崩れるように床に膝をついた。


「勇者殿、王国のために出立していただけるか」


 王子は丁寧だけど、断るのが難しい言い方をする。


 相談女はオレンジちゃんの婚約者にすがるような目を向けた。


「ね、ねえ。一緒に、来てくれる?」


 婚約者ははじかれたように頭を上げ、相談女と目を合わせる。


「い、いや。僕には勇者のお供なんて、そんな大それたことは、そんなことは」


 オレンジちゃんの手がきつく握られた。


「あら、行かなきゃダメよ。今までも、勇者さんが大変なときはあなたがいつも一緒にいたじゃない。こんなときこそ、支えてあげなくちゃ。幼馴染なんですもの、ね」


 オレンジちゃんがきっぱり言う。


「な、そんな」

「ほら、行って」


 オレンジちゃんは立ち上がると、婚約者を引っ張り起こし、そのままグイグイと相談女のところに連れて行く。


「お幸せに。わたくしたちの婚約は、解消しましょう、ね」


 オレンジちゃんは晴れやかな笑顔で言うと、さっさとふたりから遠ざかる。


 おお、ついに見切りをつけたか。よくやった、あっぱれオレンジちゃん。


『んにゃごろにゃー(がんばったねー)』

「ありがとう。おかげで目が覚めた。あんなしょうもない男、あの女にくれてやるわ」

『うにゃっ(えらいっ)』


 相談女改め勇者と男は、王都中の民から称えられながら、魔王討伐の旅に立った。悲壮な顔をしているふたりを、オレンジちゃんはさっぱりとした笑顔で見送った。


 魔王、いるかねえ。そこまでは我も知らん。せいぜいふたりで探し回るといいよ。


 我は神からチュールルをもらった。チュールルは極上のお寿司のような風味がある。


『んにゃんにゃんにゃ(うんまーい)』


 チュールルを楽しみながら、そっと若いふたりを見守る。


「婚約者を旅に送り出した君の強さに惹かれた」

「まあ、そんな。当たり前のことですわ」


「そうやって今まで、自分を犠牲にして生きてきたのであろう」

「そう、かもしれませんわ」


「君の我がままを聞いてみたい。そう願うのは無粋であろうか」

「そんなことありません。わたくしの我がままは、殿下ともう少し一緒にいたい。それだけです」


「そのようなことは我がままの内に入らぬが。そうか。それでは明日は丘に行ってみないか。聖剣が刺さった岩があった聖地だ。ふたりで花でも手向けよう」

「はい」


 くっ、あまずっぱーい。

 よきかな。オレンジちゃんはいい子だから、キラキラ王子がお似合いだよ。

 

『んにゃうがにゃー(お幸せに)』


 我の声が聞こえたのか、オレンジちゃんが振り向いた。

  オレンジちゃんに向かって尻尾をパタリと振った。



お読みいただきありがとうございます。

ポイントいいねブクマをよろしくお願いします。

絶賛爆死中の「処刑台のワンオペ聖女〜神ペンで推しとブラック職場を改善します〜」も読んでいただけると嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n3980md/

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― 新着の感想 ―
えっ!? そっち!?? の連続で流石〜〜!! 流石ですわ〜〜!! と感嘆の嵐!! まさかそっち行くとは思いませんでした。 相談女の片付け方としてなかなか…上手いやり方ですよなぁ。 ちゅーるるは猫の合法…
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