病弱な幼馴染をなんとかする斜め上の方法?〜ニャンチュール・ポポロの事件簿〜
吾輩は猫である。名前はニャンチュール・ポポロ。自分でつけたった。
前世はにっぽんこくで社畜をしていた。
はたらけどーはたらけどー、給料は上がんねーし、AIに仕事取られるし、物価はどんどん上がるし、夏は暑いし、冬は寒いし、年金はもらえるかわかんねーし、世知辛い世の中でした。
「あっ、猫ちゃん、危ない」
道路の真ん中で震えている白玉団子みたいな猫を、咄嗟に助けに行ったらトラックドーンで異世界です。
そして、なぜか黒猫になっていた。
「チュールルをください」
「異世界の人たちの悩みを解決したら、ひとつチュールルをあげよう」
なーんて異世界の神様に言われたから、ニャンチュール・ポポロになって灰色の肉球をピクピクさせておる。
神様が、異世界人と我をエンカウントさせてくるんですな。我はゴロゴロニャンごろしているだけで、異世界人はベラベラしゃべりおる。
「あら、こんなところに扉が。なにかしら。秘密の花園みたいだわ」
ほら、早速年若い令嬢が、我が惰眠をむさぼっている花園に迷い込んできた。
異世界の少女って、映画スターみたいにかわいい。髪と目の色がファンタジーなのもよき。ラブリーなドレスもポイント高し。
この子はオレンジ色の髪に緑色の瞳。かわええ。
「黒猫さん、触ってもいいですか?」
『ニャーごろ。(触ってよし。ただしゆっくりだぞ。お、いいねいいね。なかなかよい手つき)』
「黒猫さん、聞いてくれる? あたしの婚約者、病弱な幼馴染のことばっかり優先するの」
『んにゃ(あー、それよくあるやつ。あかんやつや。もうやめとけ)』
「あたしとのデートになると、幼馴染が病気になるの。それで、彼はその子のお見舞いに行っちゃうの」
『んなごろがっ(あるあるやがな。それはもう狙われてまっせー)』
「あたしとその子、どっちが大事なのって聞きたいけど、聞けない」
『んにゃうん(それが正解。男に二択の質問したらあっかーん)』
「ねえ、どうしたらいいかな。今度の夜会、すっぽかされたら、あたし、あたし。社交界で笑いものになっちゃう」
『ニャニャニャ(婚約解消したらええやろがい。男は他にもよーけおる)』
「あたし、彼のことが大好きで。他の女の子に優しい顔してるの見ると、胸が張り裂けそうになるの」
『フシャー(かわいそう)』
「黒猫さん、どうしたらいいと思う?」
『ニャッニャッニャッ、チュールル(思いついた。我に任せよ。チュールルまでもうすぐよ)』
我はオレンジちゃんの膝から降り、扉に向かって歩く。振り返ったらオレンジちゃんがぼけらーっとしてるので、『んにゃぶ(ぼけっとすんな。はよこい)』と催促したら、察したのか小走りでついてくる。
神の力をちょびっともらっている我は、行きたいところにすぐ行ける。我とオレンジちゃんは、ややさびれた屋敷の庭にある木の枝に着いた。オレンジちゃんは動揺しまくっているが、我が手をペロペロしてあげると少しずつ落ち着く。
木からよく見える部屋に乾いた咳が絶え間なく響く。ふたりの男女。
ほほー、おるおる。ほっそりして男の庇護欲をそそる系。典型的な相談女。男って相談女に弱いんだよね。どこの世界も一緒だのー。
相談女の背中をさすっている男は、優しい目をしている。押しに弱そうな雰囲気。
ほーかほーか、この男が好きなんか。まあ、好みは人それぞれ。オレンジちゃんがこの男がいいなら、応援してやらねばなるまい。
オレンジちゃんが我のしっぽをギュッとつかむ。不愉快だけど、仕方ないから我慢。
「いつもごめんね」
「いいんだ。幼馴染じゃないか」
「あの人に怒られない?」
男は気まずそうに目を伏せる。女の目には勝ち誇ったような表情が浮かんだ。
やはりなー、狙っておるのー。うむ、ではここで一手。
『ニャー(癒しー)』
女はピカーっと光った。体の中から毒素が抜けていくのが見える。
「な、今の光は」
「分からない。急に体が楽になって、奇跡かしら」
「誰か、誰か、医者を呼んでくれー」
大騒ぎの部屋を、我とオレンジちゃんはじっと観察した。
さて、夜会である。
我はオレンジちゃんのドレスの中に入っている。オレンジちゃんに踏まれないよう、ひょいひょいと歩く。
オレンジちゃんが我だけに聞こえる声でつぶやいた。
「彼が来てくれたのはよかったけど」
『んぬ(いやー、ビックリよ)』
「お邪魔しちゃってごめんなさい。元気になって初めての夜会だから、ひとりじゃ心細くって」
「病み上がりだから、気をつけるんだよ」
男と相談女がイチャイチャしておる。オレンジちゃんの顔はどんどんくもっていく。
『んぐにゃ(ぐぬぬ)』
儚い系美少女の相談女は、色んな人の視線を集めておる。ぐぬぬ。こんなはずではなかったのに。
王子が開会の挨拶を始めた。なかなかキラキラした青年だ。うむ、よきかな。
「皆、春の訪れを寿ぐ夜会によく来てくれた。我が国にこうして穏やかな春が訪れるようになったのは、かつて勇者が凍てつく氷の魔王を倒してくれたからだ」
王子の合図で、従者たちが台車を運んできた。台車の上には、古びた剣が刺さった大きな岩。
あらー、アーサー王の聖剣エクスカリバーみたい。
王子が剣を全力で引っ張る。剣はびくともしない。
王子は爽やかな笑顔を向けた。
「氷の魔王が復活するとき、聖剣は勇者を呼ぶ。勇者だけが聖剣を抜けると聞く」
『ニャッニャッニャッ、チュールル(思いついた。我に任せよ。チュールルまでもうすぐよ)』
ピカーと聖剣を光らせる。聖剣から放たれた光はまっすぐに相談女へ。
会場中がざわめき、周囲の人がさっと三人から離れた。
「なんと、もしやこれは。ご令嬢、この聖剣を試しに引っ張ってくれぬか」
王子に命じられ、相談女は真っ青になった。王子に言われて断れる人はいない。相談女はフルフル震えながら岩に近づき、そっと聖剣を持った。
ペカーと光った聖剣はすんなりと抜け、相談女は腰を抜かす。
「勇者だ。このご令嬢は、勇者である。皆の者、跪け」
全員が跪く。オレンジちゃんと婚約者も崩れるように床に膝をついた。
「勇者殿、王国のために出立していただけるか」
王子は丁寧だけど、断るのが難しい言い方をする。
相談女はオレンジちゃんの婚約者にすがるような目を向けた。
「ね、ねえ。一緒に、来てくれる?」
婚約者ははじかれたように頭を上げ、相談女と目を合わせる。
「い、いや。僕には勇者のお供なんて、そんな大それたことは、そんなことは」
オレンジちゃんの手がきつく握られた。
「あら、行かなきゃダメよ。今までも、勇者さんが大変なときはあなたがいつも一緒にいたじゃない。こんなときこそ、支えてあげなくちゃ。幼馴染なんですもの、ね」
オレンジちゃんがきっぱり言う。
「な、そんな」
「ほら、行って」
オレンジちゃんは立ち上がると、婚約者を引っ張り起こし、そのままグイグイと相談女のところに連れて行く。
「お幸せに。わたくしたちの婚約は、解消しましょう、ね」
オレンジちゃんは晴れやかな笑顔で言うと、さっさとふたりから遠ざかる。
おお、ついに見切りをつけたか。よくやった、あっぱれオレンジちゃん。
『んにゃごろにゃー(がんばったねー)』
「ありがとう。おかげで目が覚めた。あんなしょうもない男、あの女にくれてやるわ」
『うにゃっ(えらいっ)』
相談女改め勇者と男は、王都中の民から称えられながら、魔王討伐の旅に立った。悲壮な顔をしているふたりを、オレンジちゃんはさっぱりとした笑顔で見送った。
魔王、いるかねえ。そこまでは我も知らん。せいぜいふたりで探し回るといいよ。
我は神からチュールルをもらった。チュールルは極上のお寿司のような風味がある。
『んにゃんにゃんにゃ(うんまーい)』
チュールルを楽しみながら、そっと若いふたりを見守る。
「婚約者を旅に送り出した君の強さに惹かれた」
「まあ、そんな。当たり前のことですわ」
「そうやって今まで、自分を犠牲にして生きてきたのであろう」
「そう、かもしれませんわ」
「君の我がままを聞いてみたい。そう願うのは無粋であろうか」
「そんなことありません。わたくしの我がままは、殿下ともう少し一緒にいたい。それだけです」
「そのようなことは我がままの内に入らぬが。そうか。それでは明日は丘に行ってみないか。聖剣が刺さった岩があった聖地だ。ふたりで花でも手向けよう」
「はい」
くっ、あまずっぱーい。
よきかな。オレンジちゃんはいい子だから、キラキラ王子がお似合いだよ。
『んにゃうがにゃー(お幸せに)』
我の声が聞こえたのか、オレンジちゃんが振り向いた。
オレンジちゃんに向かって尻尾をパタリと振った。
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