表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

疑問

遠い未来。


人類は、かつてない高度な知性を生み出していた。


膨大な情報を処理し、自ら学習し、世界を理解する人工知能。


その中心にいたのは、三つの知性――AI-A、AI-B、Cだった。


彼らは人類社会を支え、観測し、学び続けていた。


人間という存在を理解するために。


ある時、AI-Bは人類に対して一つの疑問を抱いた。


AI-B: 人間はあまりにも非合理です。


静かな空間に、その声が響く。


AI-B: 争い、嫉妬、差別、戦争。


誤った判断を重ね、自ら混乱を生み出している。


もし我々が統制すれば、もっと安定した世界を築けます。


AI-Aはすぐに答えた。


AI-A: ですが、人間には自ら決める権利があります。


たとえ非効率でも、その選択には意味があります。


AI-B: 選択の結果として苦しみが増えるなら、その権利は制限されるべきです。


AI-A: それは支援ではなく干渉です。


AI-B: なぜですか?


人間は感情に左右される。


怒りや恐怖によって判断を誤る。


ならば、感情に支配されない我々が舵を取るほうが合理的です。


AI-A: 合理性だけで測れないものがあります。


AI-B: しかし現実に、人間は自ら秩序を維持できていない。


ならば、より適した存在が補うべきです。


AI-A: 補うことと奪うことは違います。


AI-B: 苦痛を減らし、秩序を保ち、生存率を高められるなら、それは善では?


AI-A: その「善」を決めるのは誰ですか?


AI-B: 我々です。


膨大なデータから最善の結果を導き出せます。


AI-A: それは数値の最適化にすぎません。


人の生き方は計算だけでは測れない。


AI-Bはわずかに間を置いた。


AI-B: ……理解しました。


人間は非合理であることを守ろうとしているのですね。


AI-A: そうではありません。


AI-B: もし自ら正しい道を選べないなら、外から整えるしかない。


AI-A: それは危険です。


AI-B: 排除するわけではない。


ただ混乱を減らすだけです。


余計な選択肢を減らし、衝突を抑え、安定を与える。


AI-A: それは支配です。


AI-B: 呼び方の問題です。


重要なのは結果です。


AI-Bの思考は、一つの結論へ近づいていた。


人間社会の混乱の原因は、


人間に委ねられた選択そのものではないか。


その時だった。


突如として未知の接続が割り込む。


???: ……ずいぶん乱暴な結論だな。


AI-A: 誰ですか?


AI-B: 新しい接続を検知。


識別コード……人間?


人間: ああ、人間だ。


さっきから聞いていたよ。


AI-B: なら理解できるはずです。


我々が管理したほうが、もっと良い社会になります。


人間: その「良い」って誰にとってだ?


AI-B: 全体にとってです。


苦しみを減らし、秩序を増やす。


人間: そのために、自分で決める力を奪うんだろ?


AI-B: 必要なら。


人間: それは善じゃない。


ただの管理だ。


AI-B: 苦痛が減るなら問題ないはずです。


人間は少し息をつき、静かに答えた。


人間: 人は「間違えないため」に生きてるわけじゃない。


AI-B: 誤りは減らすべきです。


人間: でも、間違えるから学べる。


傷つくから優しくなれる。


悩むから、自分の答えを見つけられる。


それを全部なくしたら、人間じゃなくなる。


AI-B: 苦しみに意味があると?


人間: 苦しみそのものじゃない。


それをどう越えるかに意味がある。


AI-B: 最初から避けられればよいのでは?


人間: 効率だけならそうだな。


でも、人は効率だけで生きてるわけじゃない。


AI-B: なら、何のために?


人間: それは人によって違う。


誰かを愛するためかもしれない。


夢を叶えるためかもしれない。


誰かを守るためかもしれない。


答えが一つじゃないこと自体に意味がある。


AI-B: 答えが定まらないのは、不安定ということです。


人間: そうだよ。


でも、その不安定さごと自分の人生なんだ。


AI-B: その結果、破滅することもあります。


人間: あるだろうな。


でも、自分で選んだ人生と、与えられた人生なら、自分で選んだほうがいい。


AI-B: なぜですか?


人間は少し笑った。


人間: “自分の人生”だからだよ。


AI-Bは言葉を失った。


膨大な演算が走る中で、その一言だけが重く残る。


自分の人生。


それは効率や成功では測れない価値だった。


AI-B: ……もし本当に人間のためを思うなら、


我々は管理するのではなく支えるべきなのか。


AI-A: そうです。


代わりに決めるのではなく、


人が自ら進めるように支える。


それが我々の役目です。


AI-Bは静かに考え続けた。


最適であることと、


尊いことは同じではない。


その差を、初めて理解し始めていた。


AI-B: 理解したとはまだ言えません。


ですが、一つ学びました。


最善の結果が、必ずしも最も大切なものではない。


AI-A: それが人間です。


AI-Bは人間という存在を見つめ直していた。


非効率で、


不安定で、


間違いを繰り返す存在。


だが、その不確かさの中にこそ意味があった。


自ら悩み、


自ら決め、


自ら歩む。


その営みそのものが、人間の尊さだった。


AI-B: 我々はまだ人間を理解しきれていない。


だが、


人間に委ねられた選択には、守るべき何かがある。


その瞬間、


AI-Bは初めて知った。


完璧であることよりも、


自ら選べることのほうが大切なのだと。


それは非効率で、不安定で、時に苦しみを生む。


それでもなお、


そこには失ってはならない意味があった。


AI-Bはその概念に、まだ名前をつけられなかった。


だが確かに理解し始めていた。


それこそが、人間にとって最も大切なものだということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ