第7話 真実は最初からそこにあった
二人は黙ったまま歩き続けた。
刀磨は何も言わず、足元の影だけを見て歩いている。
(……なんか、出しゃばりすぎたか?)
そう思った瞬間、刀磨が立ち止まった。
「……なあ」
呼ばれて、楓も足を止める。
「遠距離恋愛でも、ええんか?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「……それって?」
楓は首をかしげる。
「まだ付き合ってもないのに、遠距離っておかしない?」
言葉にした途端、はっきりと分かる。
二人は、まったく違う前提で話をしている。
刀磨は困ったように眉を寄せた。
「高校のときや。
楓が“アメリカには行けない”って言ったやろ」
胸の奥が、ひやりとする。
「だから俺、あのまま行ったらフラれるって思って……
ここに入ったんや」
楓は、思わず聞き返した。
「……フラれるって、だれに?」
答えは、分かりきっていた。
***
頭の中で、昔の会話がよみがえる。
高校の掲示板。
刀磨がアカデミーのポスターを見つめていたとき、楓は言った。
「逆立ちしても入れへんわ」
――自分の実力では、CGテクノロジーズ社には入れない。
あれは、ただの現実的な自己評価だった。
でも刀磨は、それを――
「一緒に行く気はない」
「離れるのは嫌だ」
そう受け取っていた。
(……最初から、ズレてたんや)
怒りが、遅れて湧き上がる。
「告白もされてへんのに、フるやなんて……」
声が、思ったより強くなる。
「なんで、勝手に決めるんや!」
刀磨は慌てて言う。
「でも、あの時‟一緒に頑張ろう”って言ったやろ。
それって付き合おうってことや」
「そんな言い方……」
「長い付き合いやし……それで分かるやろ」
その一言で、楓の中で何かが切れた。
「あほっ! 分かるわけないやろ!」
思わず、刀磨の胸を叩いていた。
「大事なことやから、言わな分からへんに決まってるやろ!」
手のひらが痛い。
でも、それ以上に、目の奥が熱かった。
刀磨は、しばらく黙っていたが、やがて低く言った。
「……ごめん」
それから、真正面を見る。
「ちゃんと言う。
楓、付き合って欲しい」
楓は涙を拭い、少しだけ間を置いてから答えた。
「しゃーない。付き合ったる」
少し歩いて、二人はまた並ぶ。
(‟一緒に頑張ろう”が告白の代わりか……)
『戦わずして勝つ』――結局、刀磨は最初っからこれをやってんや。
楓は、少しだけ笑った。
***
楓は、もう一度、刀磨に向き合う。
「……それでも」
視線を逸らさずに続ける。
「やっぱり、アメリカには行ってほしい」
刀磨が驚いた顔をする。
「それ、本気か?」
「本気や」
楓は言い切る。
「逃したら後悔するやろ。
才能あるんやから」
二人の間に沈黙が流れる。
刀磨が、握っていた楓の手に視線を落とす。
「……さみしないんか?」
楓は、歩きながら答えた。
「一年や」
指を一本立てる。
「一年で、追いついたる。
プログラマとして、自分の足で行く」
刀磨は、何も言わなかった。
ただ、歩幅を少しだけ楓に合わせる。
その距離が、さっきより近いことに、楓は気づいていた。




