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第5話 うちらの戦い方

卒業制作の統合テスト当日。

評価用PCの前に、チーム全員が集まっていた。


「じゃあ……再生するで」


かえでが実装した合戦シーン。

刀磨とうまが魂を込めて作り込んだ、チームの目玉。


読み込みバーが進み、画面が切り替わった瞬間――


カクッ、カクッ……。


「……あれ?」


次の瞬間、画面が完全に固まった。


沈黙。


楓はログを開き、目を細める。


「ポリゴン数過多、メモリ使用量オーバーって、これ、完全に……」


刀磨の作業環境を確認すると、

そこには学校の標準を明らかに超えた高性能マシンが置かれていた。


(……これ、前にシエラが言ってたマシンや)


胸がざわつく。




***




「……このマシン、シエラの?」


「な、何よ、刀磨の表現力は、ここのチープなマシンじゃ引き出せないわ」


シエラは開き直って言った。


「刀磨の表現は、この精度があってこそよ」


一理ある。

しかし、このままでは動かない。


ひかりが腕を組んで言い返す。


「そんなハイスペックなマシン、みんな持ってへん。

うちは、誰でも遊べるゲームを目指してるねん」


空気が張りつめる。


シエラは一歩も引かない。


「最高の環境で作るからこそ、才能が伸びるのよ」


その言葉は、どこか刀磨に向けられているように聞こえた。




***




しばらく黙っていた刀磨が、力なく笑う。


「……ほな、CG、少し落とすわ。

動かへんよりは、ええやろ」


その言い方に、楓は胸が痛んだ。


(またや……)


刀磨はいつも、自分のこだわりを“問題”として処理する。

本当は誰よりも悔しいはずなのに。


「それは、あかん」


気づけば、楓は声を出していた。


全員が楓を見る。


「刀磨のCGは、削る前提で作られてへん。

このシーンだけ落としたら、全体のバランスも崩れる」


制作の話をしているはずなのに、

どこか刀磨本人に向けて言っているような声だった。


刀磨が驚いたように楓を見る。


「CGは削らなくていい。そのままのクオリティでいくで」


刀磨は戸惑う。


「でも、これじゃ動かないぞ」


「『兵は、十なれば囲み、五なれば攻め、倍なれば分かつ』

――孫子は、兵の数に応じた戦い方をしろと言っている」


燿に感化されたのか、いつの間にか楓自身が孫子を語る。


「それってどういうことや?」


「うちらには、うちらのやり方がある、ちゅうことや」


楓はパソコンの前に腰をおろすと、流れるコードをじっと見た。




***




「動かすのがうちの仕事や。

コードを極限まで最適化して、メモリ管理をやり直す。

……刀磨のこだわり、うちが絶対守ってみせるから」


刀磨が、すがるような眼で楓を見る。


「……できるん?」


「できるん……やなくて、やるんや!

削るんは、CGやなくて、負荷の方や」


いつになく力強く言った。


刀磨の目に、光が戻る。


「……わかった。

俺も、見た目を変えずに負荷を下げるように

“ポリゴンの再定義”と“オブジェクトの統合”をやり直す」


「楓だけに苦労させない」


二人は並んで座り、画面に向かった。


描画順の調整。

不要処理の分離。

ブーストコンパイルの適用。

……


やれることは全てやる。


泥臭く、しかし熱く。

ただひたすらに、作品を守るために。


その様子をシエラは、しばらく黙って見つめていたが、

やがて、ため息をつきながら、椅子を引いた。


「……ふん。見てられないわ。

動作チェックと、負荷がピークになる箇所の特定は私がやる」


その声は、少しだけ悔しそうで、

でも確かに“仲間”のものだった。




***




東の空が紫色に明ける頃。

再び統合テスト。


画面は――止まらなかった。


合戦シーンが、滑らかに動く。


派手さも、精密さも、全部残っている。


燿が小さく息を吐く。


「いけるな」


刀磨が、楓を見る。


「また、助けられたな」


楓は照れ隠しに肩をすくめる。


「そんなん……うちもあのシーン、見たかっただけや」


そう言いながら、胸の奥が少しだけ温かくなるのを、楓ははっきりと感じていた。


刀磨と一緒に見つけた“答え”なら――

うちは、どこまでも行ける。


楓と刀磨は、互いに顔を見合わせて頷いた。

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