第1話 卒業制作チーム結成
梅田ゲームクリエーター専門学校。
十月だというのに秋とは言い難い残暑が、教室に居座っていた。
プログラマーコースの新名楓は、傷んだ髪先を見つめる。
(結構伸びたなぁ。カットの予約入れなきゃ……)
そんな平穏を破るように、目の前に知らない女子が立った。
「新名楓さん、やんなぁ?」
「……そうやけど」
「卒業制作、もうチーム決めた?
よかったら一緒にやらへん?」
距離が近い。
初対面とは思えないほど、遠慮がない。
「あ、ごめんごめん。
うち、プランナーコースの三条燿。
“ひかり”でええよ。そっちは“かえで”でええよな」
「……うん」
名前を呼ばれただけで、主導権を握られた気がした。
「それでな、楓。これが企画や」
差し出された企画書には、大きくタイトルが書かれている。
――『信玄の野望』
楓は内心で顔をしかめた。
卒業制作の企画発表会で聞いた覚えはあるが、正直、歴史ゲームには興味がない。
断ろうと口を開きかけた、そのとき。
「文月刀磨くんも入る予定やで」
その一言で、思考が止まった。
刀磨。
工科高校時代からの同級生で、気心の知れた相手。
三年のとき、いきなりCGコンテストで大賞を取った。
それ以来、学外からも「天才」と呼ばれるようになった。
卒業後は、本場アメリカへ留学する噂があった。
でも、なぜか刀磨は、楓と同じ学校のCGコースに進学した。
ここでも、刀磨はずば抜けた存在だった。
高校では、‟一緒に頑張ろう”って言っていたのに、
いつの間にか、ずいぶん差をつけられたような気がしていた。
――でも、また一緒にやれるなら。
そんな気持ちが、胸の奥で小さく芽生える。
楓が返事をする前に、燿は勝手に話をまとめた。
「よし、決まりな」
楓が無意識に口元を緩めていると、燿はさらっと続けた。
「じゃあ、楓。
さっそく文月にも声かけてきて」
「……え?」
「せやから、文月を誘ってくるんや」
「なんでうちが?
ていうか、入る予定って……」
「まだ、予定や。
あんたがおったほうが、あの子も入りやすいやろ。
ああいう天才肌には、先に“状況”を作ったるんや」
(……状況?)
燿のことが、急にうさんくさく見えてくる。
「それに、あんたら付き合ってるやろ?
うちが誘うより来てくれるんとちゃう?」
「別に……付き合ってないし」
「あれ、付き合ってなかったんか」
燿は腕を組んで、小さく唸った。
「ま、ええか。とにかく誘ってよ」
「そんな……」
「早くしないと刀磨が他のチームに入ってしまうかもしれへんで。
……いや、もう誘われてるかもな」
「じゃあ、まかせたで」
燿はそう言って足早に去って行った。
結局、うちは刀磨を誘い出すための――『エサ』ってことか。
自嘲気味に思いながらも、楓は否定できなかった。
***
翌日。
恐る恐るパソコンに向かう刀磨に声をかける。
「……あのな、卒業制作、三条さんと組むねんけど」
刀磨が振り向く。
視線が重なり、一瞬、ドキリとする。
「その……刀磨もどうかなって、
また高校のときみたいに一緒やれたら……」
「いいよ」
拍子抜けするほど、あっさりした返事。
それでも、楓には十分だった。
***
数日後、打ち合わせスペースに集まると、
燿の隣に見知らぬ女子が座っていた。
日本人離れした整った顔立ち。
視線は、迷いなく刀磨に向いている。
「城之内シエラです」
流暢な日本語で名乗ったあと、彼女は続けた。
「刀磨がこのチームに入ると聞いたので、私も参加します」
(……まさか、この子も刀磨目当てなん!? しかも呼び捨てって)
「刀磨、ヨロシク」
シエラが、刀磨に向かって右手を差し出す。
刀磨が、少しぎこちなくその手を握る。
すかさず燿が続いた。
三人が一斉に楓を見る。
楓は慌てて、そこに手を重ねた。
こうして、卒業制作チームは動き出した。




