真実の魔眼で人生狂いました
俺は――神様に転生させてもらった。
そう言うと、いかにも凄そうに聞こえるかもしれないが、正直なところ実感はあまりない。
気付いた時には柔らかい布に包まれ、視界いっぱいに知らない天井が広がっていたのだから。
最初に見えたのは、覗き込んでくる一人の女性だった。
長い髪、整った顔立ち、そして少し泣きそうな笑顔。
後になって知ったことだが、この人が俺の母親らしい。
――ラッキーじゃん。
前世の記憶を持ったまま赤ん坊として生まれた俺は、早い段階でこの世界が「当たり」だと理解した。
母は美人だし、近所には同年代の可愛い幼馴染もいる。
少し年上の優しいお姉さん、教会の綺麗なシスター。
転んだ拍子に抱きとめられたり、風呂場を間違えたり、意味の分からない密着事故も日常茶飯事だった。
――これ、天国では?
そう思わずにはいられない日々を送りながら、俺はすくすくと成長していった。
もっとも、俺には一つだけ不満があった。
それは、自分が「チート能力持ち」だと分かっているのに、それを一切使えないことだ。
転生する際、神様相手にごねたお陰か俺には特別な力が与えられているらしい。
だがそれは、身体がある程度成長するまで封印されているとのことだった。
理由はよく分からないが、使えないものは仕方ない。
俺はその力のことを半ば忘れかけながら、平穏で幸せな日々を過ごしていた。
――あの夜までは。
その日は、いつもと変わらない夜だった。
眠りについた俺が、ふと気配を感じて目を覚ますと、枕元に一人の人物が立っていた。
白くぼんやりと輝く輪郭。
どこか胡散臭い笑み。
間違いない。
こいつが俺を転生させた張本人――神様だ。
「久しぶりだね」
勝手に懐かしそうな声で、神様は言った。
「君も、もう十分成長した。約束通り、チート能力の使用を解禁しよう」
心臓が跳ねた。
ついに来た。
俺の無双タイムが。
だが、神様はそこで一拍置き、妙に真面目な顔になる。
「ただし、一つだけ忠告しておこう」
嫌な予感がした。
「その力を使ったところで、君は決して幸せにはなれない。ズルはするべきではないのだ」
……は?
意味が分からない。
チート能力って、使って幸せになるためのものじゃないのか?
俺が聞き返す前に、神様はもう興味を失ったように踵を返していた。
「では、良き人生を」
そう言い残し、神様の姿は闇に溶けるように消えた。
部屋に残されたのは、俺一人。
そして――
頭の奥に、何かが“開く”感覚。
知識が流れ込む、というより、
最初から答えを知っていたことを思い出す、そんな感覚だった。
物や人に視線を向けるだけで、
その正体、性質、役割が自然と理解できる。
さらに驚くべきことに、
一度視界に入れたものは、二度と忘れないと直感した。
そして――
この力は、過去に見たものにすら及ぶ。
(……これが、チート能力)
俺は思わず笑った。
まずは目の前の机に視線を向ける。
――【木製の机】
材質:オーク
製作者:不明
効果:なし
「おお……」
本当に、ゲームみたいだ。
椅子。カップ。床。壁。
見るだけで、情報が“理解”として頭に刻み込まれていく。
しかも、それを忘れることはない。
知識が増える感覚が、正直言って気持ちよかった。
(「ズルはするべきではないのだ」)
神様の忠告が一瞬よぎったが、すぐに消えた。
幸せになれない?
ズルをするな?
――使ってみないと分からないだろ。
俺は次の鑑定対象を探し、ふと扉の向こうを意識する。
その先にいるのは、母だ。
(……人も、例外じゃないよな)
その瞬間、
知りたくないことまで見える、
そんな予感が胸をよぎった。
だが、好奇心は止まらない。
俺は、これまで何度も見てきた存在に、意識を向けた。
母さん。
視界に文字が浮かぶ。
――【個体情報】
種族:人間
状態:健康
付加情報:転生者
「……転生者?」
言葉の意味を理解する前に、
俺はさらに情報を掘り下げようとした。
――次の瞬間。
視界が、裏返った。
知っているはずの記憶が、
別の映像に差し替わる。
……ザッ…
幼い俺を抱き上げ、微笑む母の顔。
…ザッ……ザザッ…
それが、知らない中年の男に変わる。
髪は薄く、無精ひげ。
笑顔だけが、妙に優しい。
「……あえ?」
映像は止まらない。
転んで泣いた俺を、抱きしめる母。
その腕も、胸も、温もりも――
すべてが、その男のものだった。
次の記憶。
泉のほとり。
夕暮れ。
幼馴染との、初めてのキス。
だが、そこにいたのは、
俺を見つめウットリとした顔の別のおっさんだった。
「……あっ…あぁ」
声が震える。
転んだ拍子に、胸に顔を埋めたシスター。
赤くなる頬。
その感触が、
筋肉と体毛に置き換わる。
「…ひぅッ!?」
最後の映像。
視界いっぱいに迫る、産道。
産声を上げる、赤ん坊の俺。
その先にいるのは――
理解した瞬間、思考が止まった。
「――っ」
(…TS……転…生…sy)
視界が白く弾け、
俺はその場に崩れ落ちた。
ここは天界の一角。
地上の様子を覗き込んでいた神は、深くため息をついた。
「はぁ……だから忠告したのだが」
肩をすくめた、その時。
どこからともなく、ふわりと人魂が漂ってくる。
迷子のように、頼りなく。
神はそれに気づき、表情を切り替えた。
「……では気を取り直して」
穏やかな声で、告げる。
「ようこそ。君を歓迎しよう」
ちゃんちゃん
初投稿じゃよ




