終止符は死をもって
景気づけの宴から一夜明け、真樹啓介は軽い二日酔いで目を覚ました。止めるタイミングを逸したまま作り続けている麦茶で喉を湿らせ、裏口のポストへ差し込まれた新聞を取ると、真樹はいつものように、一面からゆっくりと記事を消化していった。
と、四コマ漫画のあたりまで差し掛かったところで、真樹は物騒な文言の見出しに気付き、両の目をぐいと紙面へ近づけた。
市役所職員襲わる 傘岡
昨夜十一時ごろ、市内南中学区を走行していたタクシー運転手から「人が血まみれで倒れている」という通報が最寄りの交番へもたらされた。傘岡署の発表によると、被害者は市役所職員・芦田光彦さん(二五)で、最寄りの――会病院へ運ばれたものの、意識不明の重体。傘岡署は目下、通り魔による被害とみて捜査を続けている。
――間違いない、これは室長だ。
真樹啓介は途端に、背筋へ氷柱が押し当てられたような感覚に陥った。それにしても、昨日入れ違いになった室長がどうしてこのような目に遭ったのか、真樹にはわからなかった。
自分の方から問い合わせるのもなんとなく気が引け、真樹は昼頃まで誰にも連絡をせず、余分な情報も入れようとしなかった。だが、それも往診帰りだという坂東医師と、早々退庁してきた宮坂ら二人の来訪によってすっかり破られてしまったのだが――。
「真樹さん、偉いことになりましたね。まさか今度は、芦田室長が被害者になるだなんて……」
「まったく、こればかりは計算外でしたね。――宮坂、いったい何が起きたか、そっちは把握してるのか」
「本日閉店」の札を掲げて戸締りをすると、真樹は二人を二階へ招き、カーテンを閉めたまま話し合いを始めた。すると、真樹の問いかけに宮坂から、思いがけない爆弾が投下された。
「一体全体、何があったのかこちらも全然わからないんだ。確実なのは、なぜか発見時の服装が違ったこと、なんだよ」
「服装が……?」
「ほら、啓ちゃん何度か見てるだろ? 仕立てのいい紺の上下。あれじゃあなくってマオカラー……昔の中国の人民服みたいなのを着こんで、その上からバッサリやられてた、っていうんだよ」
「人民服……?」
不思議な取り合わせだと首をひねっていた真樹は、あることに気付いて思わず膝を打った。
マオカラーと言えば、たしか学ランのような詰襟の服ではないか――。妙な一致に驚く真樹へ、宮坂はさらにもう一発持ち込んでくる。
「それと、服のポケットから手紙が出てきたんだよ。すっかりズタズタになってて全部はわからなかったんだけど、例の南中学区の奇妙な裏校則について、どっかの誰かが早急な問題解決を望む、とわざわざ室長宛に出したくさいんだよ。ひょっとして、昨日そそくさと出て行ったの、これが関係あったりしないかなあ」
「……室長のマオカラーの裏から、麻雀牌みたいな模様の裏ボタンが出てこない限りは何とも言えないなぁ」
ぼそりとした真樹の返答に、宮坂の顔が遅れて青ざめだす。
「まさか……投書の内容を確かめようとして、わざと、ってかい?」
「そうでもなきゃあ、今時若いのがそんな格好するか? にわかには信じがたいが、そういう風にしか着地させようがないんだよ。――にしてもまあ、いったいこれから、どうなるんだろうなぁ」
なるようにしかならないだろうが、と付け加えると、真樹はそのまま壁へ背を預け、腕組みしたまま黙り込んでしまった。
傷が思ったより深く、失血多量によって芦田室長がその若い命を散らしたのは、その晩遅くのことであったという――。




