ラムネ瓶に広がる世界
初めまして。俺は詩人のうーざーだよ。
今どこにいるか分かるかな?
そうラムネ瓶の中さ。
ははは! おかしいだろう? でも現実なんだ。
どうしてこんなところにいるのかもなぜこうなったのかも不明。
おっと格好つけたな。ただ思い出せないだけなのについ格好をつける癖がある。
俺は詩人だからこんな最悪な状況でも笑っていられるんだ。
ふう疲れたな。そろそろ限界。腕が痛くて痛くて堪らない。
その痛みでようやく昨夜のことが朧げに……
「うーざー! またいつもの奴やってよ」
仲間のカームとイザコザットからリクエストが入る。
頼まれては断れない性格の俺はついお酒の勢いもあって適当に作詩。
真夜中のポエマーと呼ばれており皆から慕われている。
「行くぞ! おめえら! 」
「おう! 」
仲間と言うか引き立て役の二人が盛り上げるものだから人が集まる集まる。
店にいた奴が全員俺のポエムと歌声に酔いしれる。
昼間はどこにでもいる詩人で夜は歌手に大変身。
俺の甘い声に女たちがメロメロになって行く。
そうやって町を渡り歩いて来た。
留まることを好まない俺たちは一か月も経たずに別の町に消えていく。
当然二人とだっていつでも別れていい関係。
その日その日を楽しめばいいのさ。
仲間なんか関係ない。だが今のところ連れに違いないが。
そんなんだから俺が消えても誰も探しやしない。
前の町でも寝込めばもう俺の居場所はなくなっていた。
そろそろお開きとしますか。
キャアキャア騒ぐ女たちの一人を捕まえて一緒に消えるのがいつものパターンだ。
今日はどの子にしようかな?
黒髪のエミーに決定!
こうして四人で宿まで歩くことに。
「おいまだかよ? 眠いぜ」
「うーざーは我がままなんだって。歩いて行こうぜって言ったのはお前だろう」
そう言って笑うカーム。
「でもよう漏れちまうよ」
「だったらその辺でしろって! 」
「そうだそうだ。俺たちは先に行ってるぞ」
エミーが心配そうにするので仕方なく手を振る。
たかがおしっこさ。すぐにでも……
真っ暗で一人ぼっちになり急に酔いも醒める。
ふう気持ちいいな。
「ちょっといいですか? 」
どこからともなく声がする。
しかし辺りを見回しても壁。大通りから離れた寂しいところ。
この時間に人などいるのか? 声はするが見当らない。
「誰か知らねえが俺をからかってるのか? 」
凄んでみる。そうすれば勝手に出て来るだろうと。
「済みません…… こっちです」
声のする方には誰もいない。壁とゴミぐらい。
怖くなって大声をあげそうになるがそれでは詩人ではない。
ここは話を聞いてやるのがいいさ。それがポエマーだ。
俺は真夜中のポエマーなのだからな。
「声は聞こえるが姿は見えないお前を信じろと? 」
「はい。そうして頂けると助かります」
随分と礼儀正しい男がいたもんだ。でもガキのような気もする。
そもそも人間か? 人間だとしても宇宙人の可能性もある。
ふふふ…… だからってビビッてどうする? 俺はうーざー様だぞ。
昼は地味な詩人だが夜になれば真夜中のポエマーさ。
怖くない。怖いものか。
「ここです。早く」
言われるまま足元を見る。
あったのは捨てられた瓶。これは先週の祭りで売られていたラムネ瓶。
町で行われた年に一度の祭り。俺たちもこの祭りの噂を聞きつけてここに。
「まさかお前はラムネ瓶の中か? 」
「そうです。救世主様。どうぞお助け下さい! 」
そんな風に言われたら助けない訳には行かない。
新たな相棒にもちょうどいいのかもな。
「それでお前は誰だ? 」
「私はフェスト王子。どうぞお助け下さい」
「フェスト? 王子? 金持ちか? 」
「はい。お助け頂ければお礼は致します」
礼儀正しい男だ。まあ王子らしいからな。信用はできるだろう。
「よし助けてやる。俺はうーざーだ。それでどうしろと? 」
「まずはそのボトルネックとなっている銀の玉を取り除いて下さい」
「はあ? ボトルネック? 銀の玉? 銀魂さん? 」
「いいから早く! 思いっきり引っ張れば取れるはずです」
人使いの荒い王子様だぜ。
仕方ない。銀の玉を引っこ抜く。
こうして指示に従い強引に取り除く。
すると閉じ込められていたフェスト王子が姿を見せる。
「ありがとう。本当にありがとう愚か者よ」
「愚か者? 助けてやったのに何だその言いぐさは! 」
「済まない。では救世主君に後は任せたよ」
そう言うと風が吹き荒れ空のはずのラムネ瓶に吸い込まれていく。
「おい! 嘘だろう? そんな話聞いてない! 」
「ではお元気で救世主君。いつの日かまた会おう」
ついにはラムネ瓶の中へ。
「おい! 俺はどうするんだよ? 」
「悪いね。代わり閉じ込められていてくれ。いつか迎えに行くから。
このフェスト王子が全世界を支配したら直々に救い出してやろう。
それまでは我慢して耐えるんだ」
「だからそんな話聞いてない…… 」
「では頼んだよ! 」
そう言うと何のためらいもなく銀の玉で出入り口を塞ぐ。
こうしてついに閉じ込められてしまった。
ダメだ。もう耐えられない。腕が痛いし肩も感覚がなくなっている。
「落ちる前に一つ教えてあげよう。ここを脱出するには救世主の助けが必要だ。
または五つの銀の玉と金の玉一つを集める以外手はない。
他にあるか実験したければいつでもどうぞ」
笑いながら見捨てる冷酷な男。それがフェスト王子の正体。
くそ! もう我慢の限界だ。手が離れ透明なラムネ瓶の中に悲鳴を上げ落下。
ついにラムネ瓶に広がる世界へ。
続く
それではまた来週。




