第18話 怒りの片鱗
森の静寂を裂くように、金属の打ち鳴らされる音が近づいてきた。
足音は三つ。——検分の三人だ。
槍持ちが姿を現した。
両手に槍を構え、その穂先には俺の父と母の首が突き刺されていた。
血が垂れ、虚ろな目が月光に光る。
喉が焼けるように痛み、視界が赤に染まる。
「……てめぇら……」
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書き付け役は板に墨を走らせながら淡々と告げる。
「親の首を掲げ、子を屈させる。これ以上の正しい物語はない」
見習いが手を叩き、空気が揺れる。
だが俺の心には届かなかった。
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胸の封輪が狂ったように噛み、カチ、カチ、カチ……!
痛みが全身を走り抜け、頭の奥が爆ぜる。
「もう……許さねぇ……!」
黒い鎖が爆ぜた。
胸から迸り、空気を裂き、森を揺らす。
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鎖はまず槍持ちの足を絡め取った。
「ぐああああっ!」
体を締め上げ、左右に引き裂いた。肉と骨が裂け、悲鳴は途中で途絶えた。
血が飛び散り、両親の首を突き刺した槍が地に落ちる。
……その瞬間、鎖は地に転がった首へと伸びた。
ぐるりと巻き付き、ずるずると引き寄せる。
「やめろ……!」自分の声が震える。だが止まらない。
父と母の顔が、鎖に包まれたまま俺の胸に吸い込まれていった。
皮膚が熱くなり、血の匂いが肺を焦がす。
声にならない叫びが喉にこみ上げた。
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見習いが絶叫しながら逃げ出そうとした。
「バケモノだ……!」
だが鎖が一閃し、その両腕を絡め取った。
瞬時に締め上げ、肩から先ごと引き裂く。
血飛沫と悲鳴が夜に散った。見習いは地を転げ回り、呻き声を上げ続けた。
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書き付け役の筆が止まった。
「……記録に……ない……」
淡々とした声に、初めて震えが混じっていた。
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レオンは剣を握りしめ、顔を蒼白にして呟いた。
「トウマ……お前……」
その目には恐怖と驚きが入り混じっていた。
セリナは涙をこぼしながら、無言で俺の手を握った。
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鎖は暴れ続け、木々を裂き、土をえぐり、書き付け役へと迫ろうとする。
だがその力は急速に俺の体に収束していった。
刺された腹の傷口を鎖が覆い、肉を繋げ、血を止めていく。
父と母の顔が一瞬、胸の奥に浮かんだ気がした。
「……まだ……俺は……」
視界が揺れ、意識が崩れ落ちる。
最後に見たのは、恐怖に歪む見習い、筆を止めた書き付け役、そして絶望的な目で俺を見つめるグリムの姿だった。
そのまま、闇に沈んだ




