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第1話 灯と影のはじまり

 朝の村はまだ冷たい。

 釜戸の煙が低く這い、パン生地を叩く音と井戸の滑車の軋みが、白い息と一緒に通りに滲んでいた。屋根の藁は露で重く、雲は薄く裂けて東へ流れていく。


 今日は才能鑑定の儀の日――十二歳になった子は皆、集会小屋の蒼い円盤に掌を置き、「どこまで伸びる者か」を告げられる。

 札一枚で、家のこれからが決まる。逃げ道のない岐路。


 父さんは戸口から外をのぞき、眉間に皺を寄せてぶつぶつ言う。

「……人が多い。早めに行くか。いや、混む。遅らせても……いや、やっぱり早く」

 村は笑う――「疑心暗鬼だ」と。**《悪魔召喚》を授かりながら、役立たずで臆病だ、と。

 母さんは指先に小さな《灯火術》**をともして俺の袖口を整え、柔らかな声で言った。

「大丈夫。灯は小さくても、消えなければ夜を越えられるのよ」



 集会小屋の前には人が溢れていた。

 中央の鑑定台は蒼光を湛え、導師と村長が立つ。

 順に呼ばれる子ども達――


「――《治癒術》、第四階位上限!」

「――《狩猟術》、第四階位上限!」

「――《鍛冶術》、第五階位上限!」

 歓声があがり、抱き合う家族。


 そして、場の空気が変わった。

「――《剣技》、第六階位上限!」

 名前を呼ばれたのはレオン。俺の幼馴染で、剣を握れば大人でも退けぬと噂される少年だ。

 歓声は一段と高くなり、誰もが口々に「剣聖候補だ」と囁いた。

 レオンは肩をすくめ、ちらとこちらを見て――真剣な目で小さく頷いた。


 続いて、導師の口からもう一つの名が告げられる。

「――《大魔導術》、第六階位上限!」

 光の輪に立ったのはセリナ。いつも強気で皮肉を忘れない少女だが、蒼光を浴びた姿は堂々としていた。

 「大魔導師候補だ!」村人たちがどよめき、セリナは涼しい顔で杖を軽く回す。

 そして横目で俺を見やり、ほんの一瞬だけ、口の端を上げた。


 歓声と祝福が広がる。

 二人の幼馴染が第六階位。

 村は誇らしげに沸き立ち、俺の胸は逆に重く沈んだ。



 やがて俺の名前が呼ばれる。

 父さんの指が肩で揺れ、母さんの灯が袖を撫でる。

 蒼光の円盤に掌を置く。


 冷たい光の底で、墨が落ちるように黒い輪が広がった。輪は浅く、滲んで消えかける。

 導師の声が響く。

「……《悪魔召喚》――第三階位上限」


 歓声は起きない。

 かわりにざわ、と乾いた笑い声。

「やっぱりな」「親と同じか」「灯火術の方がマシだ」


 父さんは笑おうとして笑えず、母さんは火をともして無理に明るい声を出した。

「見て、きれいでしょう。小さくても消えなければ夜を越えられる」


 背にまとわりつくひそひそ声。

 「第三」「残念」「悪魔なんて」

 喉が渇き、膝が震えた。


 それでも、視線の先には二人がいた。

 剣聖候補のレオンは、眉を寄せて真剣に俺を見ていた。

 大魔導師候補のセリナは、皮肉っぽく口元を吊り上げながらも、目の奥は笑っていなかった。


 ――その二つの視線だけが、俺を笑わなかった。



 外へ出ると、昼の陽は藁屋根を白く照らしていた。

 世界は俺が第三だろうと何も変わらない。

 なら――俺が変えるしかない。


 灯が消えない限り、夜は越えられる。

 俺は、絶やさない。

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