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その7 ままならぬ旅立ち

─前回のあらすじ─


その命を賭し、世界を救う勇者としての使命を背負った魔族の少女ラナ。

その少女の護衛を依頼された冒険者、ヨミエルは、ラナとの旅を通し、ラナを代償に世界を救おうとするフローシフ教団と、心の奥底で生を願うラナの心に板挟みにされてしまう。

依頼としてではなく、一人の人間としてのラナを思うヨミエルは、最終的にフローシフ教団に刃を向けるのだった。

 自分とラナは、倒れ伏したフローシフの集団から離れ、近場の森へと姿を隠した。


 他にフローシフの刺客がいないとも限らない…が、それならばあの時、自分が起こした戦闘の音を嗅ぎつけ加勢に来そうなものだが。


 茂みに混じる虫の声、そして木の樹冠(じゅかん)から聞こえる小鳥の囀りが辺りを包み、今この森は人を隠すのに適した森となっていた。

「……あっ」


 ラナの声に反応し、自分は咄嗟に武器を構え、ラナの見据える視線の先へと銃口を向ける。

「うわっ!?なに!?どうしたの!?」

 ラナが驚愕の声をあげると、木の影から狐の親子が慌てて飛び出し、口からポロリと、捕らえた小鳥を落として走り出した。


「あっ、あーあ…落としちゃった…ひどいよヨミエルー!狩りをしている狐の親子に銃を向けるなんて!」

「す、すまない……いや、よく考えたら自分とラナは逃げてる最中なんだ、突然『あっ』なんて声をあげられたらこんな反応もしてしまうだろう」


「……そういえばそうだったね、ごめんごめん、忘れちゃってた!」

 ラナは何かを考える様に少し沈黙すると、緊張感の感じられない笑みを浮かべ、これまた緊張の欠片もない謝罪の言葉を述べる。


「でも…なんかこう、新鮮な気持ちがしてつい、ね」

 新鮮な気持ち…命を賭す使命から解放され、今はただ自分の生を全うする…自分の命を、自分のために使う、当たり前の生き方が、ラナにとっては新鮮なものであり、今映る景色もまた、新鮮なものとして映るのだろう。


 このまま、ラナにはその感傷に浸っていてほしい思いもあるが、今は遠くに逃げることが先決だ…自分は武器を仕舞い、ラナに先を急ぐように促す。


 ……すると、木の陰から、何者かの人影がこちらに向かってくるのが見えた。

「あの…先ほど、ここら辺で銃声を聞いたのですが…」


 人影の正体は、竹製の背負かごを背負った、小柄で人柄の良さそうな青年だった。


 フローシフの追手か…?いや、目の前の青年からは、敵意のようなもは感じられない…判断を誤り、関係ない者を傷つけてしまえば、フローシフどころかお尋ね者として他の奴らから追われてしまうだろう……。

 仕方ない、ここは適当に話を合わせ、追い払うしかない。


 ラナに視線を送り、後ろに隠れるよう促す。

 ラナは自分の思惑を察し、自分の後ろへと下がる。

 さて……誤魔化そうにも、どう言ったものか。


「…あの、その娘は?あなたその娘とどういう関係で?」

 青年は怪訝(けげん)な表情を浮かべながら、こちらに近づいてくる。


 その青年の瞳からは、まるで人攫いでも見るかの様な侮蔑(ぶべつ)の眼差しが感じられた。

「…妹だ、自分も妹と、ここで山菜採りとしていた…アンタと同じように」

『えーっ!?』


 ラナは、無理があるだろ。と言いたげに、小さく驚愕の声をあげる。

「山菜採り…それにしては、かごも背負ってないし…何よりこの森には()()()()()()しか生えていませんよ」


 ダンガンの実…確かにアレは銃弾の弾頭として使えるが、食用には適さない…しまった、判断を誤ったか!?


 青年の言葉に動揺し、自分は言葉に詰まっていると、いつの間にか青年はあと数歩という所まで、自分たちの前へと到達する。


 マズい…彼がフローシフの一員か確証はないが、いつでも自分に襲い掛かれるよう、籠の紐を手首に持っていき、軽く身を屈めている。

 見るに、自分に敵意を持っていることは確かだろう……クソ…やむを得ない!


 自分は懐から銃を取り出し、青年に突きつける。

「動くなッ!!」

「ヨミエル!?」


 それだけ青年に言うと、青年はその場で足を止める。

 しかし青年の顔は、まるで自分が銃を持っているのを知っていたのかと思うほどに冷静だった。


「……やっぱり、あなただったんですね」

「先ほど、近くにその娘と同じ様な格好をした二人が倒れていました…あなたが彼らを襲い、その娘を攫ったんですね!!」

 青年は声を荒げ、自分を(まく)し立てる。


 一触即発のその瞬間、ラナが身を乗り出し青年に対し弁解を図った。

「待って!違うの!この人は──!」

「下がっていろラナ!」

「──ッ!!」


 ──迂闊だった、背後から飛び出したラナに一瞬気を取られると、青年は籠を脱ぎ捨てながら身を屈め、瞬時に自分の目の前に到達すると、銃を持った手首を掴みあげた!


 手首を掴まれ、握り拳に力が入り銃弾が空に発射される!

「逃げて!!」

 銃声と共に青年は両手で自分の手首を掴み上げ、ラナに逃げるよう叫ぶ!

「えっ!?待って!話を聞いてって!」


 ラナは青年に向かって叫ぶが、銃を持った自分との掴み合いのに酷く興奮しているのだろう、息を荒げ、強張らせた表情から察するに、ラナの声は届いていない様だった。


 しょうがない、少し身体と尊厳を傷つけてしまうが、許してくれ。


 そう思いながら自分は肩を青年の胸に当て、半身をくっつける。

 そして肘を折り曲げ、青年の股…急所に遠心力を乗せた裏拳を放つ!

「ぷギッ!?!?」


 痛みに耐えかねた青年が手首から手を離し、股を押さえ身体をくの字にした瞬間、自分は青年の背中を掴み、後ろへと引き倒す。


「ぐっ、あぁ…ッ!!」

 青年は倒れ伏し、片手で股を押さえながらも、腰に携えた短剣を引き抜き自分に向ける。


「逃げて……早くっ!!」

 青年はまだラナに逃げる様促し、自分に刃を向けている。


 …この青年は、フローシフの一員でもなければ、悪い奴でもない、自分は両手を挙げ、降参の意を示した。

「……っ?」

「降参だ…話を聞いてくれ、思うに自分たちは、互いに何か勘違いをしている」

「えぇ…っ?」

 青年は自分の言葉に、痛みで引きつった顔で困惑の表情を見せる。


 それを見兼(みか)ねたラナが、罪悪感から引きつった顔で、青年に手を差し伸べる。

「その……ごめんなさい……大丈夫、じゃー…無さそうだけど、立てる?」

「…はい」


 青年は恥ずかしさからか痛みからか、震える手でラナの手を取り、立ち上がった──。



 ──青年と一通り状況の整理を済ませ、互いに誤解しあっていたことがわかった。

 青年の名は『カワズ』帝都オーディエの兵士であり、ここでダンガンの実を集めていた所、銃声を聞きつけ怪我をした二人を見つけたらしい。


 自分は、ラナが魔族である事、彼らがフローシフという宗教団体である事を隠し、話を合わせる事にした。


「…なるほど、つまりあなたは人攫いからこの娘を助ける為、彼らと戦いになり、逃げてる最中に僕が現れたと」

「まぁ、あらかたそんな所だ」

「……君、この人の言っている事は本当だね?」


 カワズは自分の言い分を信用していないのか、ラナに確認をとる。

 …隠し事をしている身からすれば、自分が信用に値しない人物なのは納得するが、そこまで露骨な態度を取られると、コイツの(タマ)をもう少し強く殴っておくべきだったと、少し怒りの感情が湧いてくる。


「はい!ヨミエルは私の事を助けてくれたんです!確かに…やり方は乱暴だったかもしれないけど、とにかく!ヨミエルは危険を(かえり)みずに私の事を助けてくれたんです!!」


 ラナは自分の身の潔白を証明する為、懸命に弁論をする。

「わ、わかった、なるほど、どうやら本当の事を言っている様ですね」

 カワズはラナの気迫に押されたのか、ようやく自分の身の潔白を認めたようだ。


「しかし、この娘を助けるために誰かを傷つけたのは事実です、しかもその一人は危険な状況です」

「このままその人が亡くなれば、たとえ正当防衛であっても、あなたにも罪が及びます」

「そんなぁ!」


 驚いた…街中で喧嘩を起こし、しょっ引かれる事は幾らかあったが、人助けをしてしょっ引かれる事は初めてだな……世の中、生きづらくなったものだ。


 そんな自分の考えを見透かしたのか、カワズは咳払いをして言葉を続ける。

「…ですがご安心ください、彼らには僕の姉『イノ』が救護に当たっています」


 ──自分は、その言葉を聞いて背筋に悪寒が走った。


「イノは医療従事者でもあるので医療の心得があります、だから──「もしかして二人の側にいるのはその人だけ!?」

 焦燥したラナがカワズに詰め寄る。


「えぇ、イノがここは私に任せてと……あっ!!」

 カワズは事の重大さに気づいたのか、声を上げ来た道を振り返る。


「走るぞ、イノが危ない」

 自分たちはイノを助けるため、来た道を走って引き返した──

─魔法の歴史─


この世界には、魔法と呼ばれるエルフから生まれた、「人の感情を具現化する」という超常現象が存在する。

その超常現象が魔法と呼ばれる様になったのは、ノフィン統一戦争が始まってからだった。


エルフに対して攻め込んだノフィンの民は、エルフの超常現象を目の当たりにし、恐れおののいた。

人は、理解不能なものを恐怖する。

そして、次に取る行動も概ね決まっている。

理解不能な物に、自分たちの解釈を無理やり当てはめ、安心を得ようとする。

彼らはエルフを「魔の法則を聞き出した者」と決めつけ、烙印を押した。

しかしその烙印も、時が経つに忘れ去られ、戦争が終わり魔法がノフィンの民にも浸透すると、皮肉な事に魔法を異端視する者こそが、異端視される様になっていた。

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