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その39 二人で…….

─前回のあらすじ─


フマンツ村を出立し、ある魔法使いの根を目指し、潔白の寺院へと向かったヨミエル一行。

そして一行は根の浄化の目的を果たすと、ヨミエルはもう一つの目的、ソルゥト村長の兄、コーショの穢れを否定する為、ヨミエルは彼の罪に踏み込むのだった。

 寺院とは名ばかりの、陽光が差し込む洞窟の中。

 砕けた洞窟の天井から陽光が差し込み、地面全体に張った浅い水がそれを反射し、光の網を辺りに張り巡らせる。


「……少し、話をしようか」


 そんな幻想的とも言える光景の中、ソルゥトはゆっくりと口を開いた。


「四年前、魔物大戦が終結し、コーショがこの村に帰ってきた時、一人の赤子を抱いていた」

「赤子……って」

「その子の名は『ナグツメ』魔物大戦の地で産まれた……()()()()だ」


 魔物の胎から産まれた、一人の赤子。

 コーショは無謀にも、その事を包み隠さずに彼に話したのだろう。


「魔物から産まれ、それを殺した人間に育てられる……コーショには、その事実が耐えられなかった」


 確かにコーショはこう言っていた……。

『穢れたこの身では、あの子の側に居てやれる資格は無い』と。


「だから俺は数年前……コーショの穢れを祓う為、彼と共にここへと訪れた」

「穢れを祓う為……」


 ソルゥトの言っている事は、矛盾していた。

 彼は村の中で『コーショは()()()を破り、あまつさえ人の身を穢した。救う事など、最早できない』そう言っていた筈だ。


「潔白の寺院。ここには『潔白の証明』という儀式が行われる」

「俺は……コーショを連れてその儀式を行っていた」


 ソルゥトは、語り始める──




 ──数年前、コーショの潔白を証明する為に……彼はここで()()()()、潔白を証明しようとした。


 潔白の証明。

 その儀式は、『浄化の雫』を飲み、穢れなき体である事を証明する。


 穢れがあれば体内に雫が回り、そのまま死に至る。

 穢れがない、潔白の身であるのならば、雫が身体を拒絶し、罪と共にそれは吐き出され、その者は生き残る。


 単純だが、これ以上無い程の証明であった。


 だが──




『──我が身は潔白、されど証明は未だされず』

『──この雫をもって、今この場に証明しようぞ』


 コーショが雫の入った盃を持ち、それを飲もうとした時だった。


 彼の顔には……無かったのだ。

 恐れも、葛藤も……そして、後悔も。

 そこにあったのは、終わりを受け入れる……


 安らかな顔だけだった。


 ──俺は、コーショの盃を払いのけていた。


『……ソルゥト、何を──『ふざけるよ』

 ……今思い出しても、あの時の判断には、虫唾が走る。


『貴様に穢れがないだと?笑わせるな、穢れた人殺しの掟破り……魔族に堕ちた化物がッ!』


 俺は、責めた。

 思いつく限りの、彼の罪を。

 俺は、罵倒した。

 魔族である彼を。


 そうでもしなければ、浄化の雫がもたらす死を、彼は受け入れていただろう……。




「──もはや……コーショにとって、背負った罪は……死を持って償う事でしか、浄化する事ができないのだ……」


 ソルゥトは懺悔する様に語り終えると、ゆっくりとその場にへたり込み、足元に張られた水に体を浸す。


 波紋に揺れる水辺に、波に反射して張り巡らされている光の網が揺れる。


「……ソルゥトさん」


 ラナがへたり込んだソルゥトの側に行き、背中をさする。

 自分もソルゥトの側に行き、彼を見下ろした。


「……そうか」

 自分は、ソルゥトを見て呟く。


『この罪、この過去を……洗い流し、清らかな人でなければ、私は……私は……!』

『──もはや……コーショにとって、背負った罪は……死を持って償う事でしか、浄化する事ができないのだ……』


 ──やはり彼らは、()()なのだな。

 似た様な事を叫ぶ彼らを見て、自分は口を開いた。


「なら、そのまま罪を背負って死ぬまで生きろ」


「ヨミエル……!?」


 そう言った瞬間、ソルゥトは立ち上がりながら、自分の胸ぐらを掴み掛かる。


「そんな事……そんな事できたらとっくにやってるんだよッ!アイツは今もまだあんな……あんな苦痛でしかないあがないをしているんだッ。あの苦痛を続けろだと……そのまま生きろだと……ッ!」


 ソルゥトの握る拳も、声も、次第に弱くなっていき、とうとう項垂(うなだ)れる様に頭をもたげ、嗚咽を漏らし始めた。


 自分は、そんなソルゥトを睨みながら、言葉を続けた。


「コーショとアンタ……そして自分は、同じだ」

「……は?」

「もう一度、最後に言わせてもらうか」


 自分は似た様な存在の男に、もう一度似た様な言葉を伝えた。


「コーショに穢れなどは無い。自分はそれを証明する。アンタ達兄弟は二人で背負って歩け、一人では抱えきれない罪を」

「──そして死ぬまで、ナグツメの親でいるんだ」

「…………」


 ──沈黙。

 ソルゥトのそれに呼応するかの様に、辺りもしんと静まり返る。


「……クク、ククク」

 ソルゥトが肩を震わせ、乾いた笑みを浮かべ、辺りには小さな笑い声がこだまする。


「クク……二人で……か……そうだ……なぜ俺は……そんな簡単な事に……気づかなかったんだ……」




 ソルゥトは自分から手を離し、噛み締める様に、息をする。


 二人で罪を背負う。ようやくその事に気づいたソルゥトに向かって、自分は()()()()を口にした。


「ソルゥト、その浄化の雫というものは今も持っているのか?」

「あ?あぁ、あるが……何を……」

 言いかけたソルゥトが、ハッとした様に目を開いた。

「さっき言っただろう、証明すると」


 ──潔白の証明。

 自分は、コーショに代わって儀式の続きをするつもりだった。


「自分とコーショは同じ『異形狩り』だ。彼の背負っている罪は、自分も背負っている」

「……何故、そこまでする?」

「何故、か……」


 自分は今、死ぬかもしれない儀式をコーショの為に行おうとしている。

 理由は恐らく……いや、理由など、ハッキリとしたものが、もう自分の胸の内にある筈だ。


「コーショ、彼はあの地獄で善行を働いた。自分にはできなかった事だ」

「自分はそんな気高き男の為に、彼の穢れを否定したいのかもな」




「ちょっとタンマ!!」

 そう言った瞬間、先程までずっと静かだったラナが急に声を上げた。


「あのさ!二人してなんか進めようとしちゃってるけどさ、私もその儀式やるから!コーショさんとおんなじ()()の私も!」


 訳のわからない事を口走るラナに、自分は慌てて否定の言葉を叫ぶ。


「なっ……待て、ラナは確かに同じ魔族だが、コーショと同じ罪は背負っていないだろう!?」

「でもヨミエル魔族じゃないじゃん!だったら私とヨミエルが二人で飲んだら100パーセントコーショさんが儀式した事になるんじゃない!?」


 謎の理論だが、あまりの勢いに自分は反論を躊躇った。


クソッ、そうだった。ラナは誰かの為に自分の命を危険に晒すことができる……そんな危うい思考を持った人物だった……!


「はい決まり!ソルゥトさん!儀式の準備お願い!」

「は……?あ、あぁ、わかった」


 ソルゥトもラナの気迫に気圧されたのか、動揺しながら儀式の準備を始める。


「ラナ……」

「──だいじょーぶだって、潔白なら死なないんでしょ?なら大丈夫じゃん!」


 ……全くこいつは、その自信はどこから来るのやら。


「それに私の乙女具合に穢れなんて──「やめろ」

「ふひひっ、ごめーん」


 ──本当に、大丈夫なのだろうか。

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