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その4 救済

─前回のあらすじ─


フローシフ教団の依頼により、魔族の少女を連れて冒険者は旅立つ。

その際、ノフィン統一戦争跡地を踏み入れ、いつの間にか、過去のノフィン統一戦争に立っていたのだった。

「ど、どういうこと?」

 少女は呆然としたまま、そう呟く。

 自分だって知りたい…もしや、これが…神隠しなのか?


「グッ…クソがァッ!」

 兵士が叫び声を上げ、槍を振り回し続け、満身創痍の中それでも戦い続けている。


 その身に(まと)う鎧は、見るも無惨なまでにボロボロで、手にした槍はもはや武器ではなく、ただの重りに過ぎない。


「助けないと…!」

 先程まで動揺していた少女がそう呟くと、自分の手をすり抜け、兵士の元へと駆け出す。


「待て!」

 そう叫んだが、少女は止まる事なく駆け、落ちていた剣を拾い上げる。

 ──考える暇もない…ッ!自分も少女に続き、兵士の元へと走り出す。


「──ぐあっ!」

 先程まで暴れ回っていた兵士は、やはり体格差故か、鉄の大蛇が尻尾を振り払い、その兵士を吹き飛ばす。


「──はッ……やれよ…」

 倒れ伏した兵士は、諦めたのか力無く笑い、そしてその身に降りかかる刃を受け入れるかの様に、身体を大の字に放り出す。

 そして、鉄の大蛇が剣で形作ったその牙を、兵士に向かって振り下ろす──


 ──しかし、その刃が兵士の命を断つことはなく、金属が激しくぶつかる音が響く。

 そして兵士の目の前には、一人の少女が鉄の大蛇の牙を受け止めていた。


「……あッ?」

「はぁっ!」

 少女は大蛇の牙を押し返し、鉄の大蛇の口を一閃すると、大蛇の一部がバラバラに砕け、身を震わせる。


「大丈夫!?」

 兵士は少女に助けられ呆然としていたが、少女が振り返り、そう問うとハッとして立ち上がる。


「危ねぇ!!」

 兵士の叫びと共に、もう一度、鉄の大蛇が少女に向かって牙を振り下ろす。


 その瞬間、乾いた破裂音が響き、一筋の閃光が鉄の大蛇の頭を貫く。

 不意の衝撃に大蛇が体勢を崩した瞬間、その身体に剣が振り下ろされ、大蛇の顎はバラバラに崩れ去る。


 ──初めて撃ったが存外、当たるものだ。

 そう思いながら、自分は安堵した。


「……コイツは普通の魔物じゃない、自分の後ろに隠れろ」

「やだ、私も戦う!」

「……言っても無駄な様だな」

 そう呟きながら自分は銃に弾を込め、鉄の大蛇から守る様に兵士の前へと立ちはだかる。


「なんだ今のは……いや、なんだお前らは……?」

「自分たちが何者か、目の前の状況よりも重要なのか?」

「……!あぁ、そうだな……そう、こんなとこで終われるかよッ!」

 兵士は損壊した槍を捨て、鉄の大蛇から落ちた剣を手に取る。


 少女は剣を構え、自分は剣と銃をそれぞれ構える。

 敵は周りの天幕よりも大きい、武器や防具の鱗を持った巨大な鉄の大蛇……こちらは自分と少女、そして死にかけの兵士の三人か……。


「俺はまだ戦える……!」

 兵士は剣の握り、確かめる様に何度か振るうと、こちらに向き直り、言葉を続ける。

「お前らが何者かはわからねぇが……感謝するぜ!」

「──この命尽きるまで戦おう!!」


 その言葉を皮切りに、兵士と自分と少女による戦いが始まった。


「うおおおッ!」

 兵士が鉄の大蛇に向かって剣を振り払う、しかし、その剣は無情にも、武具が織りなす鱗に弾かれ、また鉄の大蛇が尻尾を振り払い、兵士を吹き飛ばす。


「ガハッ!」

 天幕に吹き飛ばされ、バキバキと骨組みが崩れる音と共に兵士は天幕と共に倒れ伏し、気を失った。


「兵士さん!」

 少女がそう叫ぶが、鉄の大蛇はお構いなしにこちらへと標的を変え、襲いかかってくる。


 ガシャガシャと音を立てながら地を這い、こちらに迫る姿は全身を鉄で覆った巨大な戦車。

 それが少女の眼前に迫ると、崩れた顎を開き少女に喰らいつくその瞬間──


 ──自分は少女の前に飛び出し、剣を大きく振りかぶった。


『叩き切れ』

 そう念じると、自分の持つ剣の鉄芯が飛び出し、剣の()となると、両刃の刃が折り畳まれ、剣は両刃の斧へと姿を変えた。

「ハァッ!」


 先重心(さきじゅうしん)となった斧を大きく振りかぶり、遠心力を活かし叩きつける。


 刃が鉄の大蛇の鱗を引き裂くと、刃の勢いは止まらず、鱗の内にある肉すらも引き裂いた。


 引き裂いた肉から黒い液体が飛び散ると、大蛇がのたうち回り、大蛇に斧を引っかけぶら下がったまま、自分は少女に向かって叫んだ。


「兵士の元へ向かえ!アンタなら助けられるだろう!」

「わ、わかった!」

 自分の言葉に一瞬少女は戸惑うが、すぐさま少女は兵士の元へと走っていく。


 それを確認した自分は、のたうち回る蛇の背中によじ登り、()()を探す。


『……戦場を、舐めていたのかもしれない』

 自分の浴びた黒い血から、鉄の大蛇……()()()()()()()の思念が流れ込む。


『会いたい……お母さん……お父さん……死にたくない!』

 頭に響くその声と共に、自分は一瞬だけ見えた蛇の弱点を目指す。


 そうしてのたうち回り、急いで這い回る蛇の背を伝い、一箇所だけ、小さなペンダントで守られている蛇の額に辿り着き、無理矢理そのペンダントを引っこ抜く。


 そのペンダントを引っこ抜くと、蛇の額から男の顔が浮かび上がり、自分に向かって懇願(こんがん)する。

『あぁ……嫌だ!奪わないで……もっとやりたい事が!あったんだ!』

「黙れ」


 魔物の戯言など、聞いてられるか。

 自分にそう言い聞かせ、斧を男の顔に向かって振り下ろす。


 グチャリと、柔らかい肉を潰す音と共に黒い血が吹き出し、自分の体がどんどん黒い血に染まっていく。

『あ"っがあ"あ"あ"!!?』

「……黙っててくれ」


 そう言って自分は斧に『突き刺せ』と念じる。

 するとの刃が鉄心にくっつく様に変形し、完全に変形を終えると、斧は剣へと変化を遂げる。



 自分はそれを──


 ──悲痛な叫びを上げる男に向かって突き刺した。



 それがトドメの一撃となり、鉄の大蛇はとうとうその巨体を地に伏し、動かなくなった。


「……これからだ」

 自分はそう言うと、剣を引き抜き、鉄の大蛇から大地へと降り立った。


「ハァ、ハァ、え?うそ?もう倒しちゃったの?」

 息を切らす少女と、少女の力で傷を治したのだろうか、傷ひとつない兵士が、自分の元へと駆け寄ってくる。


「……なぁ、お前──」

 自分は何かを言いかけた兵士に向かって手を(かざ)すと、兵士は黙り込んだ。


 ジュクリ、ジュクリ──


 大蛇の死体から、何かが(うごめ)く……。

 やがてその音が収まると、大蛇の死体からパタパタと、黒い蝶が飛び出す。

 それと共に自分にかかった黒い血も、塵の様に消えていく。


 大蛇の身体は、無数の蝶へと変わり、やがて塵の様に大蛇の身体が散ると、大蛇のいた場所からは、倒れ伏した一人の()()が現れた。


「……殺さ……ないで……!」


 鎧を身に付けた、若く、怯えた表情をした青年が、自分達に救いの手を懇願する。


「……待ってろ、今()()()やる」

 自分は剣を斧へと変形させ、青年へと近づく。

「……何度もやってきた事だ、今回も、救える筈だ」

 自分自身にそう言い聞かせ、刃を振り上げる。


「やめろ!!」

 すると、兵士が自分に掴みかかり、取っ組み合いとなる。


「コイツは俺の仲間なんだ!!()()だろうとな!!」

「……だから、何だと言うんだ?」

「何だと!?」

 自分は兵士を殴り飛ばし、倒れ伏した兵士に向かって静かに、しかし確固たる意志を持って口を開いた。


「お前にとってコイツが仲間なら、尚更殺してやれ、魔族に堕ちた人間がこの先どうなるかなど、火を見るよりも明らかだろう」

 救いの手を懇願する青年を一瞥(いちべつ)すると、自分はその、火を見るよりも明らかな答えを口にした。


「また、こうして魔物に堕ち、暴れ回るのがオチだ」

「お前は、コイツを人殺しとして生かすつもりか」


「ふざけんなッ!んな事わかってんだよッ!それでも俺はッ!俺はよォッ──」

「待って」

 突如少女が、兵士の言葉を遮り、青年の方へと歩み寄る。


「……人殺しの方はどうにもならないけど」

 少女は一言断ると、青年の前に跪き、ゆっくりと、そして優しく包み込む様に、青年を抱きしめた。


 青年の身体から淡い光が漏れ出し、やがてその光が収束すると……青年に、ある変化が訪れていた。

「……あれ……僕……」


「魔族から……人に戻ったのか?」

 青年の瞳を見ると、その瞳は魔族独特の重瞳(ちょうどう)の瞳ではなく、一つの、人間の瞳へと変貌していた。


「……っ!おい!嘘だろ!!」

 兵士は自分の言葉を聞くと、這いながら青年の側へと向かう。


「ッ!あ、ああ!ほんとだ!瞳が!」

「……本当?」

「ああ!マジだよ!お前!人に戻ったんだよ!」


 兵士と青年が抱き合うと、少女は、抱き合う二人に向かって口を開いた。


「……これからは、殺してしまった人の為に、生きて」

 少女は目を伏せながら、静かに言葉を続けた。

「……それが亡くなった人達の為になると、思うから」


「……ああ!」

「うん!」


 兵士と青年がそう言ったその時だった。


 辺りが青い霧に包まれ、視界の全てが青一色となった。

「ッ!?なんだ!?」


 突然の出来事に驚愕するが、やがて霧が晴れ、辺りを見回すと、先程まで見慣れていた光景が、そこにはあった。


 曇り空が覆っていた空は青く晴れ、血と死骸に塗れた大地は時が経った様に乾いていた。

 そこはまさに、戦場跡地だった。


 そして辺りを見回すと、赤い蝶がぐるぐると自分達の周りを飛び回っていた。

──戻ってきたのか?


「あれって……過去の出来事なのかな」

 少女の声が聞こえ、振り返るとそこには、悲しげな表情をする少女が、視界に入った。


「あの人達……救われたのかな」

 少女は、あの魔物に堕ちた魔族を救った。

 ……自分とは違うやり方で。


「……行くぞ、ここに留まる理由はない」


──少女の言葉に、自分は答えることができなかった。

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