表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/48

その36 二人の決意

─前回のあらすじ─


アヴァロンにて共闘した異形狩り『コーショ』と再開したヨミエルとラナ。

しかし、彼の身体は魔族へと堕ち、心は耐えきれぬ罪の意識に押しつぶされていた。

穢れに満ちた身体を清める為、苦痛の贖いを続けるコーショに対し、ヨミエルはコーショの穢れを否定する事を、宣言するのだった。

 自分はコーショとの対話の後、村の中心へと向かっていた。


「……今日はやけに、あの世と縁を感じる」

 自分は黄昏に染まった地平線と、冷たくなった潮風に肌を撫でられながら呟いた。


 今日だけで、幾つもの命に触れた気がする。


 ノフィン統一戦争の兵器として、しかしその身勝手な目的すら無かったことにされ、ここに捨てられた魔物との死闘。


 魔物大戦で……文字通り魂の続く限り、赤子を護り抜いた気高き母と、あの地獄で産まれ、ここまで生きてきたアルマの少女。


 その少女の為か、或いは血炭チタンの刃で斬り裂いた人々への贖罪か、その罪を洗い流そうと、苦痛のあがないを続ける異形狩り。


 あの親子の物語は、まだ始まったばかり。


 ナグツメはあの地獄で産まれ、ここまで様々な命にその生の糸を紡がれて生きてきた。

 だから……だからこそ、自分はコーショの穢れを否定し、始まったばかりの物語を、悲劇などで終わらせはしない。


『フ……ふ……』


 いずれ宵闇に染まる黄昏の中、自分の耳に、気高き母親の笑い声が聞こえた気がした。




 村中の悲痛な声が落ち着いた頃、自分は村の中心へと足を踏み入れた。


 村の中心には、雨風を凌ぐ複数の天幕が張られ、その周りには怪我をした村人達と、それを治療するラナとアトメントの団員の姿が見え、そして村長がそれを見守っていた。


「……君は確か、ヨミエルと言ったか」

 村長がこちらに気づくと、自分は村長の側へと行き、口を開く。


「ナグツメはどうした?」

「ナグツメなら、オルフェス殿がコーショの元へと送ってくれた」

「そうか」


「私の名はソルゥト、この村の村長……と言えばいいか」

「やけに自信なさげに名乗るな?」


 ソルゥト村長の不思議な名乗りに、自分は思わず問う。


「ふっ……あの()()()とは、何を話したんだ」

 するとソルゥト村長は、乾いた笑みを浮かべ、答えをはぐらかす様に話題を逸らした。


「戦場の話だ。とだけ言っておこうか」

「……まぁ、何だっていい、明日は君達を『潔白の寺院』に案内しなければならない、今日は身体を休めると良い」


「潔白の寺院?」

「我々フマンツの民が成熟した大人になる際、そこで儀式を行う特別な寺院だ」

「何故そこに──まさか」


 寺院という、荘厳な儀式の場。

 自分は何故その場に案内されるのか一瞬理解ができなかったが、初めて見た『ある魔法使いの根』それが何処に生えていたのかを思い出した。

 村中に生えたある魔法使いの根、その()()()()()()()()()が何処にあるのかを、自分は察した。


「そう、寺院に生えたある魔法使いの根の根幹、それに対処してほしい」

「そこに根が生えていることは、間違いないんだな?」

「あぁ、なにせ、初めてあの根を見つけたのは私だからな」


 成る程……村の長が言うのなら、信用できる。

 だがそうすると、もう一つの疑問が生まれてきた。


「何故村長はその寺院に?成人の儀以外に足を運ぶ理由があるのか?」

 その事を聞くとソルゥトは、乾いた笑みすら浮かべず、ただじっとこちらを見つめ、一言だけ口を開いた。


「……君は、家族が許されぬ穢れに染まったら、どうする」

「……」


 彼の諦めに満ちたその目には、見覚えがあった。


「なんてな、忘れてくれ……私も、君達を案内する為に今日は休む……」

 ソルゥトはそう言うと自分に背を向け、村の中へと歩き出す。


「待った」


 去り行くその背中を、自分は引き留めた。


 ソルゥトはゆっくりと自分の方を振り返り、何も言わずにこちらを見つめる……。


 ……自分は、コーショに誓った。

『アンタに罪はあっても、穢れた人間などではない』

 目の前の家族……彼の唯一の半身すら、その身に穢れがあると言った。

 ならば、彼にも証明してやる。


 自分は確固たる意志を持ち、目の前のソルゥトに言い放った。


「コーショに穢れなどない」

「……知った様な口を」


 コーショはそれだけ言うと、村の中へと消えていった。




「あれ、ヨミエル?来てたなら言ってよー」

「……ラナか、その様子だと治療は終わった様だな」

「うん!もうみんな元気!見てよほら、ヨミエル来る前とかいっぱい怪我した人いたのに、もうすっからかん!」


 ラナが簡易的な救護所を指差すと、そこには怪我一つなく、それぞれ家族や友人と喜び合っている数人の村人が目に映った。


「そうか……魔族だとはバレなかったか?」

「……」

「ラナ?」

「ビスっ!」

「うげっ!」


 何故かいきなり、ラナのビス攻撃が脇腹に突き刺さった。


「ビスっビスっ!」

「うぐっ……何をする!」

「君、また危なっかしい事考えてるでしょ」

「はぁ?」

「あの夜とおんなじ、やっぱナグツメちゃんのパパ、気になってるんでしょ」


「……はっ、何だ嫉妬か?」

「あ〜!今度は君が隠し事してる〜!私の癖、移っちゃったでしょ〜!」

「なっ、くっ……!」


 ラナの核心を突いた言葉に、自分はおどけてはぐらかすが、ラナはニヤニヤしながら自分を揶揄からかってくる。


「ふふ……ま、いいや」

 ラナはそう言うと、ニヤけた表情から、今度は真剣な面持ちで自分を見つめ、口を開く。


「だったらさ、私にもヨミエルのやりたい事、手伝わせてよ」

「ラナには関係な──「あるよ、関係」


「だってさ、私はヨミエルのその()()()()()()()に助けられたんだもん」

「……」

 ラナは優しく微笑み、何も言えない自分に対し、言葉を続ける。


「世界の為に、なんて綺麗なこと言っておきながら、いざ死んじゃうってなったら『助けて!』なんて言って泣きだした女の子を、君は救ったの」

「……あぁ」


「だからさヨミエル、私もヨミエルみたいに誰かを救いたい。ナグツメちゃんのパパを救いたい……!」

 ラナの瞳には、確固たる意志が宿っていた……。


 全く、本当にこの少女は、誰かの為に身体を張りすぎなんだ。


「……わかった。もう、何を言っても無駄な様だからな」

「あ、わかる?実は君がイヤだって言っても勝手に手伝うつもりだったし」

「ったく、頑固だな、本当に」

「そりゃどーも!私の意思を曲げられんのはもうヨミエルくらいのもんだよ!」




 ──日が沈む宵闇の中、自分とラナは決意を胸に抱いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ