その14 正体
─前回のあらすじ─
ラナを帝都で保護し、その力を帝都に役立てる様、提案するカメトルと、ラナの安全の為その提案を拒むヨミエル。
二人の意見は真っ向から衝突するが、シェリーにこれを諭される。
しかし、ラナの処遇を話し合っている間にラナは遺跡に取り残された兵士の救助を申し出る。
ラナの提案に、一行はくだらぬ議論を終え、遺跡へと向かうのだった。
遺跡の調査に向かった兵士たちの捜索のため。自分たちはカメトルの案内のもと、遺跡のある地点へと向かった。
「遺跡は駐屯地からそれ程離れていない、歩いて行くぞ」
カメトルは複数人の団員を連れ、先導している。
その中には、ラナに傷を治して貰った者もいるのだろう、何か言いたげにこちらの様子を伺う者が何人か見える、しかし、上官でもある上に、魔族嫌いのカメトルの前だ。
立場上、魔族に礼を言うのも憚れるというのも、あるのだろうが……素直に礼を言えないというのは、どちらも、もどかしいものなのだろう。
ラナもそれを察しているのか、様子を伺う兵士に対して、笑顔で軽く手を振って応えている。
「……そういえば、ミライさんとシェリーさんはどうしてここに?」
ラナがミライとシェリーに問いかける。
確かに、二人は何故あんな何もない森の中にいたのだろうか。
「あー……仕事帰り?」
ミライがなぜか疑問形で答え、何か言いたげにシェリーが咳払いをすると、ミライは焦りながら口を噤む。
どうやら「詮索するな」という事だろう。
「私も、仕事としか言えないね、冒険者には守秘義務というものがあるからさ」
冒険者には守秘義務がある、という事をいま初めて知ったが、口には出さなかった。
「それよりも……だ、私からすれば君たちの方が、奇怪な組み合わせで気になるがね」
「異形殺しと魔族の少女、相入れない二人が、どうして行動を共にしているんだい?」
「異形殺し?何それ?」
シェリーの発言にラナが食いつく、シェリーは自分にチラリと視線をよこし、「言っても構わないな?」という様な視線を送る。
承諾を得る前に仄めかすな、と自分は心の中で悪態をつくが、シェリーの視線に頷き、承諾した。
「異形狩り……冒険者の間じゃ、ちょっとした称号さ」
「説明するなら、そうだね…………ノフィン戦争終結のきっかけともなった大事件『魔物大戦』」
「ある人物の魔法により、蝕まれた大地から生まれた魔物が、ノフィン全土に向けて侵攻しだす……まぁ簡単に言えばそんな事件があったんだ」
「その戦場で戦い、そして生き残った者たちの称号、それが異形狩り」
「ラナちゃんにとっては、魔物大戦の事はあまり思い出したくないだろうがね」
「…………そっかぁ」
魔物大戦で戦った者、異形狩り。
国の為に魔物と戦ったと言えば、聞こえはいいが、魔物大戦で生まれた魔物の正体は、殆どがラナの様な元人間である。
そんな異形狩りの自分が、今は魔族のラナと共に行動している。
相入れないというシェリーの言葉も、確かにそうだろう。
「………………」
シェリーの言葉に、ラナは俯き、黙ってしまった。
自分を助けてくれた人物が、自分と似た様な境遇の人間を、幾つも殺した人物だった。
その事実は否定できないし、自分の口からは、気の利いた励ましの言葉も出なかった。
「…………おい、どうすんだよこの空気」
場の空気に耐えかねたのか、ミライがシェリーに対し口を開く。
「え?……あっ」
「すまない、私の悪い癖が出た…………そ、そうだ、君の銃に興味があるんだ、見るに、なかなか良い銃に見える、どういう経緯で手に入れたんだい?」
「いきなりこめかみにコレを突きつけられ、その上崖から突き落としてきた人物から貰った」
「…………えぇ?」
「ブハッ!マジかよ……!」
「……アンタのその銃、異邦の代物だな」
「え?あぁ、よくわかったね」
シェリーは負い紐で背中に背負っていた銃を見せ、自分はこの空気をどうにかする為、それを解説する事にした。
「長い銃身に、肩につけて安定させることができる木製の銃床、そして特徴的なのは、引き金を覆う様に突き出している取っ手だ。
底碪式……発射後に薬室から薬莢を取り出し、次弾を装填し、 撃鉄を起こす。
これら三つ操作を、銃の下部に突き出した取っ手を前後することで同時に行うことができる、アキレマ国の『レバーアクション』と呼ばれる新型銃の機構だ。
後装式の十六連発……手動での装填には慣れが必要だが、一発ずつ装填が必要な銃と比べ、威力と継戦能力は一線を画す」
「それだけじゃない──「もういい!わかった!ヨミエルが銃に詳しい事はめっちゃわかったから!」
自分が銃の解説をしていると、ラナが止めに入る。
見ると、シェリーは苦笑し、ミライは面白いものでも見るかの様にニヤニヤしながら、こちらを見つめている。
「君、随分熱心に解説するんだね……私よりこの銃に詳しいんじゃないかい?」
「……すまない、場を和ませようとしたが、つい熱が入った」
自分は気恥ずかしさから、先ほどのラナの様に俯いた。
「おお、今度はヨミエルがしょぼくれたぞー?」
「あれれー?どしたんヨミエル〜?話し聞こか〜?」
ミライと、いつの間に元気を取り戻したラナが、自分を嘲笑う様に、ニヤニヤとこちらを見る。
「うるさい、誰の為に場を和ませようとしたと思ってる」
「え〜?誰の為〜?教えて〜?」
「──そろそろ着くぞ、緊張は……大分ほぐれた様だな」
カメトルが呼びかけると、自分は取り繕う様に、皆に呼びかけた。
「そろそろ着くようだ、みんな、準備はいいな」
「あっ!ひどい!無視した!」




