その12 自分勝手な議論
─前回のあらすじ─
キメラの襲撃により駐屯地内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化したが、ヨミエルとラナ、そして駐屯地の兵士たちの協力によりそれを撃退、その際、死に損なったキメラが襲いかかるも、筋骨隆々の大男と、赤い頭巾を被った女性がトドメを刺すのだった。
自分たちはキメラの襲撃後、駐屯地内へと戻り、今は会議などに使うための、最も広い天幕の中で会合を開いている。
ラナと、赤い頭巾の女性は生存者の治療の為、医療用の天幕へと向かっている。
ラナは言わずもがな、赤い頭巾の方はどうやら昔、医療従事者だった様で、協力を申し出ていた。
今、この天幕内に居るのは自分とカメトル……そしてキメラを殴り殺した大男の三人だ。
「……さて、今は我々だけで話を始めるとしよう」
「まずは、キメラを退けたその働きには感謝する」
「……自分が欲しいのは感謝の言葉ではないのだが?」
「……そうだろうな、あの魔族の事だろう」
カメトルは依然としてラナを魔族呼ばわりしている、命を助けられ、今もなお生存者の治療に当たっているというのに、カメトルの目の奥底からは、魔族に対する恨みの様なものすら感じられた。
魔族を恨むのは理由があるのだろうし、どう思おうと彼の勝手だが、彼に対して何もしていないラナを恨みの眼差しで見るのは、筋違いというものだろう。
「あの魔族は正規の手続きの元、我々が保護する」
自分は武器に手を掛けた。
「待ちな異形狩り、人の話は最後まで聞くもんだ」
自分を異形狩りと呼ぶ大男が察したのか、止めに入った。
異形狩り……その名は傭兵時代、自分が呼ばれていた二つ名だ。
彼は自分を知っているのだろうが、自分は彼を全く持って知らない……だが、今はそんな事はどうでもいい。
カメトルが咳払いをすると、話しを再開した。
「本来、魔族を帝都オーディエに入れるのは法律で禁止されている」
「だが、君と共に行動している魔族には、今もなお、大いに助けられている」
「そこでだ、我々は魔族のあの力……人を治す力を帝都の医療技術に取り入れ、帝都に住まわせるつもりだ」
「無論、監視の目はつくが、悪い様にはしない……魔族としても破格の待遇だ、このまま当てのない旅を続けるよりも、帝都の為、その力を役立てるのが最善だろう?」
「…………長い独り言は終わりか?」
「なに?」
「話にならない、ラナの力を医療技術に取り入れれば、悪い様にはしないだと?」
「できもしない約束をするんじゃない、死の淵だろうと治す力を、帝都は涎を垂らしながら解明しようとするだろうな」
「監視の目に加え、力の研究、人体実験、果ては解剖までを帝都はやるだろう、法律で禁止してまで魔族を帝都から追い出しているんだ」
「アンタの様に「魔族だから」と、無理やり人との線引きをし、動物でも扱う様に彼女を利用するに決まっている!!」
カメトルは自分の弁論に眉をひそめ、机を強く叩きつけ反論する。
「憶測で勝手なことを抜かすなッ!!帝都が魔族を追い出す為に法律を作った!?魔族というだけで俺が魔族を差別しているだと!?」
「全て違う!!貴様は過去に起こった大虐殺の真相を知らぬからそんな事が言えるのだ!!」
互いの意見が対立しあい、自分とカメトルが睨み合っていると、天幕に誰かが入って来るのが見えた。
「彼女の力、ありゃズルだよ……医療従事者の私が、せいぜい血を止める程度でしか役に立たない」
「しかしまぁ、君たちは当事者抜きで盛り上がるなんて、随分とまぁ勝手な人達だこと」
その人物は、赤い頭巾を被った女性だった。
「シェリー、頭巾被りっぱなしだ」
「あぁ、そうだったね」
シェリーと呼ばれた人物は、頭巾を脱ぐと、頭巾の中から綺麗な金髪と獣の耳……恐らく狐の耳が現れた。
赤い瞳に、身体に現れた獣の特徴……なるほど、彼女は獣人の「アルマ」だろう。
「シェリーだ、元医療従事者の冒険者、よろしく頼むよ」
シェリーは自己紹介をすると、大男があっと声をあげた。
「そういやぁ、俺ら自己紹介してねぇ」
「互いの名前も知らずにあんな熱弁しあってたの?」
「…………馬鹿じゃねぇの?」
シェリーが呆れたように声を漏らすと、自分たちは気まずい空気の中、重い沈黙が流れた。
─アルマ─
アルマとは、母なる海から漁村に座礁した、巨大な根の生えたクジラの肉を食し、獣の力をその身に宿した種族である。
一説には、継ぎ血の儀は、ここから始まったとも言われている。
獣の特徴は大小様々で、ほとんど獣の力が体に現れない者から、二足歩行をする獣の様な姿にさえなる者もいる。
そして、鳥のように翼の生えた者や、魚のようにヒレのある者は存在しない。
そして、アルマの共通した特徴の一つとして、瞳が血のように赤くなるという。
ノフィン統一戦争以前から存在したとされているが、どの時代からアルマが現れたのかはハッキリとしていない、謎多き種族でもある。




