集う天使三人は
「遅かったですね、先輩~? 悠長で、羨ましいですよ本当に」
ミーティングルームに着くなり、アイクからの皮肉に早くもめんどくさくなりかけたユーリだったが、隊長であるハリスが視界に入ったことでなんとか堪えることができた。
薄紫色のウェーブかかった髪と紫色の瞳に、穏和な雰囲気が印象的な青年。隊服と階級を表す認証バッチを着けていなければ、彼がトロイメライ戦隊の隊長であるとは誰も思わないだろう。
そんな彼、ハリスがゆっくりと口を開いた。
「ユーリ、よく来てくれました。アイクももちろん戦力として期待してますからね?」
「ついでと言って下さってもいいんですよ? 隊長殿?」
アイクの皮肉にも、態度を変えることなくハリスが続ける。
「そういうところも含めて、期待していますよアイク。……コホン、では。話をミスタートキトウへ戻しましょうか」
「……それで、隊長? 狙われていたっていうのはどういうことなんだ?」
ユーリに訊かれ、ハリスの声色が穏和なものから真剣なものに変わる。その変化に、思わずユーリは自分の背筋が伸びたのを感じた。
「えぇ。まずは時系列で説明をしましょう。始まりは、ミスタートキトウがあのハイスクールへ赴任したところからです」
「ちょっと待ってくださいよ、ハリス隊長? 赴任した時から? その時点ですでにアウスの判定があったということですか?」
アイクが思わず尋ねれば、ハリスは首を横に振った。
「いえ、その時点ではアウスの判定はまだありませんでした。ただ……赴任してすぐに、彼の婚約者が亡くなったのです」
「……それは不憫だが……。その事とアウス化がどう繋がるんだ?」
「いい質問です、ユーリ。ミスタートキトウが赴任する前から……件の少女、ミスアンジョウは病気のため保健室登校になっていました。勿論、気にかけている教師はいましたが……婚約者を亡くしてからというもの、ミスタートキトウの世話焼き具合がかなりものになったそうです」
そこで一旦言葉を区切ると、ハリスが続ける。
「まぁ婚約者の死因が病であったことから、周囲から彼女を気に掛けるのはそれが要因ではないかと判断されていたようです……でも今重要なのはそこではありません。彼はミスアンジョウに対し、頻繁に言っていたようなのです。『神は裏切る。だが、裏切らない存在も確かにいる』と。まぁ普通に解釈をすれば、ただの励ましです。ですが……」
「その言葉の真意が、『カタストロイなら裏切らない』という意味だったとかですか? いくらなんでも飛躍しすぎじゃありません?」
アイクが横から口を挟めば、ハリスが再び首を横に振った。その表情から何かを読み取ることは難しかったが……何か掴んでいるからこその話なのだと、ユーリは悟った。
なぜならハリスの話したことが、偽情報であったことが今までなかったからだ――。