夢想の原罪⑤
処理班が到着し、被害を受けた建物から、ありとあらゆるものの洗浄が念入りに行われていた。
なにが元となって、人間をアウスにするかわからないからこその対応だ。
その光景を、ユーリが機体内から見つめていると通信が入った。
『二人とも、ご苦労様でした。おかげで助かりましたよ』
声の主は、ハリスだ。それに対しアイクの声が聴こえてくる。
『ハリス隊長こそ、お疲れ様でした。それで? 今どこでなにをしてらっしゃるんです?』
皮肉を存分に含んだ言い方にも、通信ごしのハリスの声色は変わらない。
『避難誘導ですよ。あとは、ミスタートキトウが狙っていた少女の保護も含めてね?』
「狙っていた? どういう意味だよ……?」
思わず漏れたユーリの声に対し、ハリスが変わらず穏やかな口調で返す。
『潜入しているうちに気づいたことです。なので、詳細は日本での拠点にて話しましょう』
****
トロイメライ戦隊の構成員及び、基地の所在までもがトップシークレットとされている。そのサポートとして下部組織『アルプ機関』が存在する。アルプの役割は様々あるが、その中の一つが、トロイメライ戦隊が使用する各地の拠点の確保だ。
今、ユーリとアイクが各々の機体を格納したのも、アルプが確保した拠点だ。ユーリがエルプズュンデからゆっくりと降りると、ここでの整備担当員である中年の男性に声をかけられた。
「バーレイ准尉殿? ゲベート・ナーゲル、コイツぁかなり傷んでやすぜぇ。パーツ交換しやすんで、ちぃと整備に時間がかかりやす」
独特の話口調の人物、白髪交じりの黒髪にハシバミ色の瞳をした伊崎俊彦の言葉にユーリは少し遅れて返事をする。
「あ、あぁ。頼んだ、ミスター……イザキ?」
「へい、お任せを」
(合ってたようでよかったぜ……日本人は顔の判別がしにくい上に、年齢もわかりづらいからな……)
そんな事を思いながら、伊崎に言われたゲベート・ナーゲル――杭打機をみつめる。
確かに、損傷がひどい。と言っても、先陣を切るエルプズュンデにとっては日常茶飯事ではあるのだが。
「とにかく、頼んだ。俺は隊長達と合流するんで……」
最後にそれだけ言い残すと、ユーリはエルプズュンデから離れていき、格納庫を出た。
廊下に出たユーリは、静かに端末をオンにする。
耳にワイヤレス通信機を装着すると、早速声が聴こえて来た。エッダだ。
『ユリシーズ・バーレイ准尉。アイザック・アーヴァイン准尉とハリストフォル・ハクルート大尉がミーティングルームにて、既に待機されています』
「……了解」
そう答えると、手にしている端末に自身のコールサイン『トロイ3』と機体コード『トロイメライ・エルプズュンデ』を手早く入力し、この拠点でのみ使用可能な無線通信を認証させる。こうすることで、件のミーティングルームへも入りやすいからだ。
搭乗機の正式名称でもある機体コードを見て、心底めんどくさそうにため息を吐いた。
(トロイメライ・エルプズュンデ――夢想の原罪……ねぇ? は、原罪なんて笑えるぜ)
自嘲しながら、ユーリは二人の待つミーティングルームへと向かうのだった。