夢想の原罪④
「うっわぁ……見事にハイ化しましたね。それも割と大物じゃないですかー。で? どうするんです? 先輩?」
ハイ化。人間であったはずの存在が、その姿も性質すら変異させ人外へとなり果てる現象――。条件など諸々すべてが不明な事実に思わず舌打ちをしながら、ユーリはアイクに答えた。
「当然……穿つ」
それだけ告げると、ユーリはエルプズュンデを地面に着地させたと同時にビルの合間を通り抜けながら、徐々に速度を上げて行く。ブースターを吹かせ、より速く――速く。
猛スピードで標的をロックすると、右腕の杭打機を構え一気に敵の腹部へと打ち込んだ。
ハイ化し、疑似的な怪獣となったソレは、悲鳴ともつかない声をあげる。
黒い身体から青い液体が漏れ出る。四本の禍々しい足が暴れ、鋭いドリルのような形状をした尻尾が勢いよく回転しながら、エルプズュンデに迫る。ブースターを逆噴射させ、後退しながら左へ避けた。だが、なおも執拗に迫って来る尻尾を見て、ユーリが声を発した。
「ちっ! アイク!」
「はいはい、わかってますよ!」
アイクの乗るトーデス・エンゲルが、十字架型の兵装……フライハイト・クロイツを回転させ長い部分を展開させ、ビーム砲を放つ。命中し尻尾が吹き飛び、またしても青い液体が漏れ出した。
「うっわー、何度見てもキモイ色ですねぇー」
率直すぎるアイクの言葉に返答することなく、ユーリは一度後退させたエルプズュンデを再度前進させる。次の攻撃を仕掛けるためだ。
だがソレは、咆哮をあげながら身体を震わせ始めた。その震動は大きくなり――衝撃波として周囲に溢れた。その勢いに、付近のビルの窓ガラスが粉々に割れたのがわかる。中には崩れた建物もあった。
(この機体の中でよかったな……)
そう思いながら、ユーリは次の一手を繰り出すことにした。コンソールに素早くコマンドを音声入力する。
「座標指定……完了。認証コード、トロイメライ。コール、クロイツ・クリンゲ!」
呼び出したモノが来るのを待ちながら、ユーリは腰に着けているホルダーから拳銃を取り出し、特製の弾丸を放ちつつ牽制する。アイクがトーデス・エンゲルを前に出して、フライハイト・クロイツで直に殴り、物理的に攻撃し注意を引く。
疑似怪獣は、攻撃を受けつつも身体を再生し始めていた。穿ったはずの腹部、そして尻尾が再生していく。
攻防を繰り広げる中、突如として上空からちょうどエルプズュンデの背丈と同じくらいの、全長約二十メートルほどの十字架型の兵装が降って来て敵の頭部に直撃した。
またしても悲鳴にすら聴こえない声をあげ、よろける敵に向かってユーリは十字架型兵装――クロイツ・クリンゲを手に取る。
「取り回しが難しいんだがな……コイツで終わりだ」
器用に両手で構えると、長い方を展開してエネルギーを充填させる。疑似怪獣は、青い液体を失った頭部からこれでもかと溢れさせながらまたしても身体を震わせる。
「ちょっと、早くしてくださいよ! 先輩!」
「わかってるっての! あとファイブ……フォー……スリー……ツー……いけ!!」
勢いよくエネルギーの塊が放たれ、疑似怪獣の胴体に当たり身体がはじけ飛んでいく。
大量の青い液体が、辺りに充満する。太陽の光に照らされながら、二機の天使は静かに佇む。
(あー……終わったか……だりぃ)